#72 巨男の騎士団
「先日の魔男の襲撃を受け、自衛隊は本拠地掃討作戦の必要性を益々実感した模様です。繰り返しお伝えします……」
「……とのことであってよ。さあて、皆さんどう思われて?」
先日の戦闘を報じるニュースを見て。
マリアナはテレビを消しその場にいる青夢と法使夏、さらには剣人ら凸凹飛行隊に加え。
夢零ら龍魔力四姉妹にも呼びかける。
生徒会総海選より数日後。
事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。
――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!
それに伴い市街地には、自衛隊の防空態勢が取られ。
まさに魔女社会は厳戒態勢に入っていた。
そんな中。
なんと青夢と法使夏は自ら専用機を駆り。
魔男側を誘い出していた。
そうして現れた第十三の騎士団・女男の騎士団。
その保有艦たる幻獣機母艦スキュラ・幻獣機母艦カリュブディスを率いて同騎士団所属のメアリーとミリアは、青夢と法使夏に挑んだ。
そうして一時、彼女らはミリア率いる幻獣機母艦カリュブディスに翻弄されながらも。
加勢して来たマリアナや剣人の力もあり、何とか撃退に成功する。
そうして今。
いつも通りというべきか、縦浜の魔法塔華院別邸にて。
こうして作戦会議が開かれていた。
「そうね……長期戦に持ち込ませる方法を考えるべきじゃない?」
「ああ、あたしも姉貴と同感だ。」
夢零と英乃が、声を上げる。
「ええまあ、あながち的外れでもなくってよ。魔男の方がそもそも反乱軍ならば、人的にも工業的にも資源に余裕がないのはあちらですから。」
「はい、マリアナ様。」
マリアナも声を上げ、法使夏もそれに同調する。
「なあ魔女木。凸凹飛行隊隊長としてのお前の意見はどうだ?」
剣人も、青夢に言葉をかける。
「まあそのお前って呼び方辞めてほしいんだけど……まいいわ。私の意見は……奴らが短期決戦を意図しているとすれば、本当に打つ手があるのかは分からないってことかな。」
「な、何だ! 隊長がそんな弱気でどうするんだ?」
しかし青夢のやや後ろ向きな言葉に、剣人も驚く。
「奴らは火炎誘爆砲やら直撃炸裂魔弾やら、短期決戦型の武器を多く持ってる。正直言って私たちは、今までそいつらを全面展開されなかったから勝てていたようなものなのよ?」
「うっ……」
「そ、それを言ったらお終いでしょクソ隊長!」
青夢は尚も言葉を続け、法使夏はそれに対して言い返す。
「魔女木さん、でもそんなことを言って何か解決する訳であって?」
マリアナも青夢に、少し噛みつくように言う。
「まあ、ここで現状を嘆くのは一旦中断して……方幻術。使魔原たちは確か、第十三の席がどうとか言ってたんだけどそれはどういう意味?」
「! だ、第十三の席だと……まさか、円卓第十三席争奪聖杯か?」
「? な、何それ?」
しかし青夢はさして気にせず。
剣人に話を振るがその話を聞いて、次はその場の皆が混乱する。
「いや、末端の俺には分かることは少ないが……騎士団長による幹部会議たる、魔男の円卓には空席――第十三の席があるとは聞いた。争奪聖杯は、それを騎士団同士で奪い合う戦いだ。」
「! まさか……魔男が魔女社会に戦争を仕掛けたのってそれで!?」
「まるでゲーム感覚であってよね……これだから男性はいつまでも子供と言われてよ!」
「し、しかしマリアナ様。ミリアもそこに……ってか方幻術! そう言えばミリアたちは、女男の騎士団とかも言ってたけど?」
剣人の更なる言葉に、青夢やマリアナは呆れ。
今度は法使夏も彼に尋ねる。
「女男の騎士団、か……俺は聞いたことがないが。だとすれば、この争奪聖杯に際して新たに設立された騎士団の可能性は捨て切れないな。」
「新しい騎士団……そう……」
法使夏はその言葉に、考え込む。
「いずれにしても……やっぱり奴らが短期決戦を狙っている可能性は高いわね。」
「うーん、ねえ夢零お姉さん! やっぱり自衛隊の人たちが言ってたみたいに、本拠地を叩き潰せばいいんじゃないの?」
「こ、こら愛三!」
青夢の呟きに、愛三も声を上げる。
「いや夢零さん。確かに愛三さんの言う通りね……方幻術、魔男の本拠地ってどこなの?」
その愛三の言葉に青夢も、剣人に尋ねる。
しかし尋ねながら、青夢はこの質問は無駄かもしれないと思っていた。
当然この質問は、剣人が魔男として魔法塔華院コンツェルンに拘束された時。
またはそれ以外にも、聞かれたであろうものだからだ。
しかしそれでも、自衛隊が本拠地を掴めていないということは――
「……それは、俺も散々聞かれたことだが。俺は先ほども言った魔男の円卓に呼び出されたことすらない末端中の末端だったんだ。すまないが、それは俺も……」
「うーん、やっぱり?」
やはりか。
青夢は剣人の言葉に、頭をかく。
「くそっ! せめてあたしたちと凸凹飛行隊で捕まえたあの龍男の騎士団長と騎士を吐かせることができてりゃ!」
「そ、そうね……」
英乃の苛立ち紛れの言葉に、青夢も思うところがあった。
自機たるジャンヌダルクの予知能力――オラクル オブ ザ バージンがせめて使えれば。
言っても仕方ないことと思いつつ、考えずにはいられなかった。
如何せん、魔男側の情報は今のところ全くもって分かっていないと言っても過言ではないのに対して。
こちらは今この場にいる(愛三を除く)全員が持っている強力な空飛ぶ法機のことも含め、ほぼ情報が筒抜けということも懸念事項であった。
「まあお待ちなさい、皆さん! ここでたらればの話をしても何も解決しなくってよ。ならば、少しでも策を練らなければならないのではなくって?」
「うっ……まあそれはそうなんだけど……」
しかしそこでマリアナは、青夢が一応は分かりきっていたことを話し場を治める。
「さああなたがそんなことではわたくしたちは大いに困ってよ、一応は、隊長さん?」
「はーい……」
相変わらず隊長への未練と青夢への感情を剥き出しにするマリアナに、青夢は苦々しく答える。
◆◇
「しっかし……こっぴどくやられたものザンスね!」
「まったくっしょ……女男の騎士団とやら! これだから魔女上がりは。」
その頃魔男の円卓では。
先日の戦闘結果を、女男の騎士団所属の騎士たちたるミリアとメアリーは責められていた。
「うっ……まあ、んなことは分かってんだけどさ……」
「分かってんだけど、じゃないっしょ! この落とし前はどうつけるっしょ? いやいっそ……魚男の騎士団が代わりにつけて上げてもいいっしょよ?」
「何言ってるザンスかホスピアー殿! 牛男の騎士団がつけてもいいザンスよ?」
メアリーの言葉に対し、ホスピアーもボーンもこれ見よがしに手柄を取るチャンスを得ようと躍起になっている。
「……君の意見はどうかね女男の騎士団長フレイ殿。」
「……特には。」
「……そうか。」
アルカナはそんな話し合いの中、密かに(今は席がないので)自身の傍らに立つ女男の騎士団長スカーレット・フレイに声をかけ。
そして。
「まあ待ちたまえホスピアー殿、ボーン殿! 実際には女男の騎士団もそこそこかの凸凹飛行隊を苦しめはした。ならば……ここはまだ、伸びしろを考慮するべきではないかと私は思うがねえ。」
しかしそこでアルカナは場を治めようとする。
「! な……あんたには聞いてないっしょ、アルカナ殿!」
「そ、そうザンス! 大体あんた、そう他の騎士団を庇ってばかりザンスけど……それで本当にいいザンスか? 現に前は、龍男の騎士団だってあんたと関わったがためにああなったんじゃないザンスか!?」
「ほほう……まっ、それは中々耳の痛い話ではあるがね。」
が、ホスピアーもボーンも負けじとばかり。
アルカナに言い返す。
「まあ待つんべ! んだば、このオレたちが魔女社会さ蹂躙しちゃるわ!」
「! アロシグ殿か……」
と、そこへ。
円卓を殴るようにそこへ拳を叩きつけたのは巨男の騎士団長ゴーグ・アロシグである。
「そう言えばあんたも、この争奪聖杯に参加してたザンスね……」
「なあ!? オレらはそういやいたべなんちゅう存在感さ薄い奴らべか? んなことはないだ、ここでこそオレらの力見せちゃる時さ思うんじゃが!?」
「お、おお……相変わらずのたまに喋った時のスゴい気迫っしょ……」
その剣幕には先ほどまで我こそはと息巻いていたホスピアーとボーンも、思わず引く。
「さあ! オレらの出撃認めてくれるんべ!?」
「い、いやそれは……」
「……うむ。一つ、試して見てはどうだろうか?」
「! ま、またあんたザンスかアルカナ殿!」
しかしアルカナは。
またもそこで、今度はアロシグを庇う素振りを見せる。
「ううむ、確かに今まで巨男の騎士団にはチャンスがなかったようにも思われるな!」
「ではアロシグ殿、次はワシら馬男の騎士団を推してくれよ?」
「ううんゴーグ君、頑張るといいよ!」
そこへ雪男の騎士団長クラブや馬男の騎士団長チャット、蝙蝠男の騎士団長ヒミルもまた、巨男の騎士団への参戦を後押しする。
「くっ、ボーン殿……」
「ここはまた仕方ないザンス、ホスピアー殿!」
「くっ……」
止むを得ないとばかり、ボーンとホスピアーも同意する。
「……よし、決まったべ! さあ行くさ、我が巨男の騎士団!」
アロシグはその場で立ち上がり、大きく喜ぶ。
◆◇
「緊急発進! 魔男の12騎士団の艦隊出現!」
「よし、皆行くよ! ……ん? あ、あれは!」
魔男の12騎士団――ひいては、その一つ巨男の騎士団出撃の一報を受け。
自衛隊からは空飛ぶ法機アマゾネス、軍事ヘリの部隊を派遣するが。
「だーっははは! やはり驚いてんべ、自衛隊の奴ら!」
アロシグは高笑いをする。
それは彼の率いる幻獣機父艦――さながら空に数多浮かぶ巨人の群れのような自艦隊を誇ってのことである。




