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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第五翔 円卓第十三席争奪聖杯 
71/193

#70 女男の騎士

「きゃあっ! ま、魔女木これは!?」

「雷魔法使夏、渦潮よ! まずいわね、これじゃ……」


 女男の騎士団と凸凹飛行隊、戦場たる海中にて。

 これまでとは違い空中に留まらず海中に突入して来た幻獣機母艦(クリプティッドマザー)カリュブディスの起こした渦潮に自機ごと呑まれた青夢・法使夏は混乱していた。


 生徒会総海選より数日後。

 事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。


 ――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!


 それに伴い市街地には、自衛隊の防空態勢が取られ。

 まさに魔女社会は厳戒態勢に入っていた。


 そんな中。

 なんと青夢と法使夏は自ら専用機を駆り。


 魔男側を誘い出していた。

 そうして現れた第十三の騎士団・女男の騎士団。


 その保有艦たる幻獣機母艦(クリプティッドマザー)スキュラ・幻獣機母艦(クリプティッドマザー)カリュブディスを率いて同騎士団所属のメアリーとミリアは、青夢と法使夏に挑んだ。


 そして。


「どうかしら、法使夏。これが私の、怒りのお味よ!」

「くっ……ええ、十分伝わっているわミリア!」


 当初は幻獣機母艦(クリプティッドマザー)スキュラを率いて法使夏に挑んだミリアだがそれでは分が悪いとばかり。


 メアリーに幻獣機母艦(クリプティッドマザー)カリュブディスとの入れ替えを願い出て、二つ返事でこれが認められ。


 今こうして、そのカリュブディスにより混乱させられていた。


「陽気に返している場合なの雷魔法使夏! 早く、抜け出さないと!」


 そんな法使夏とは別に、青夢は抜け出す方法を考えていた。


 ◆◇


「あ、姉貴!」

「ええまずいわね英乃……早く私たちも!」

「お待ちなさって、龍魔力の姉妹方!」

「! ま、マリアナさん!」


 この様子を見ていた龍魔力四姉妹のうち英乃と夢零は、加勢しようとするが。


 それを制したのは、マリアナだった。


「あの中に行けば、わたくしたちも無事ではすみませんこと。それにもし魔男の狙いが、わたくしたち全員を誘き出して一網打尽にすることだとすれば。ここで出て行くのは、彼らの思うツボではなくって?」

「くっ……」

「うう……」


 マリアナの言葉に、英乃と夢零は言葉に詰まる。

 確かにその通りではあったからだ。


「……なので、人数を絞りましょう。ミスター方幻術。」

「ああ。」

「! マリアナさん……」


 が、マリアナは次には対案を示す。


「ここはわたくしたち、凸凹飛行隊におまかせを。大丈夫でございましてよ、龍魔力四姉妹の方々。あなた方のお力はいずれお借りすることになりますが、それまではそこでご見物なさってくださって。」

「な……あたしたちは要らないってのか!」


 マリアナの言葉に英乃は、突っかかるが。


「お待ちなさい英乃! マリアナさんの言う通りよ、ここで総力を上げれば魔男の思うツボ。ここは……凸凹飛行隊におまかせしましょう。」

「ん……分かったよ。」


 姉の言葉に英乃は、一応は引く。


 ◆◇


「さあ回りなさい回りなさい……これぞあんたたち汚らわしい魔女にはふさわしい姿よ法使夏、トラッシュ!」


 再び、戦場では。

 尚もミリアの率いる幻獣機母艦(クリプティッドマザー)カリュブディスが海に入り起こしている渦潮に囚われている法使夏・青夢の有様を。


 法使夏はあざ笑う。


「くう……なかなか懐かしい渾名で呼んでくれるじゃないの使魔原ミリア!」


 青夢は渦潮の中を尚も回されつつ、ミリアに返す。


「もうそんな忌々しい名前は捨てたわ、トラッシュ! 今や私は女魔男、ミリア・リベラ。あんたたち――トラッシュに法使夏、ソード・クランプトン……そしてあいつよあいつ! 私の献身を無下にし、さながらトラッシュ(ゴミくず)のように捨てたマリアナ……ここでそのうちあんたたち二人だけでも倒し、私の忌まわしい過去を清算して差し上げるわ!」

「ミリア……」


 ミリアは忌々しげに叫ぶ。

 既に分かり切っていることではあるが、もはや凸凹飛行隊は彼女にとって忌々しいものでしかなく。


 それを自らの手で滅ぼすことこそが前に進むことを意味するのだと、彼女は確信を持っていた。


「そうよ……姐様! 私たちは女男の騎士団として第十三の席を得て、第十三の騎士団として新たに歩みだす! そのためにもあんたたちは邪魔なのよ!」


 ミリアはさらに叫ぶ。

 そう、この女男の騎士団。


 ミリアとメアリーらが立ち上げた、第十三の騎士団であり。

 それがこの円卓第十三席争奪聖杯を制することが、ミリアとメアリーらのひとまずの目標である。


 ◇◇


「わ、私たちが騎士団を!?」

「ああ、その通りだ。うまくいけば君たちが、この魔男の円卓でそれなりの立場を得ることにでもつながればと思ったんだが……どうかな?」

「ね、姐様!」

「うーん、まあ面白そうなんだけどねえ……」


 アルカナの自邸にて。

 呼び出されたミリアとメアリーは、二人して首をひねるばかりだ。


 時はアルカナが復権を果たす少し前――ナイトメアの騎士フォールとマリアナの戦いが終わった直後にさかのぼる。


 この時にミリアとメアリーは新たな騎士団の設立及び、円卓第十三席争奪聖杯への参加をアルカナより持ち掛けられていたのだった。


「だけどねえ、アルカナの旦那。それは冗談だろう? あんた失脚して、今謹慎中の身じゃあないのかい? あの円卓に座ることすら困難なあんたさんの言葉を真に受けられるかというと、微妙なところだよ……」


 メアリーは(少なくともこの時点では)当然の言葉を口にする。

 しかし。


「ははは、心配はいらない! まもなく私は復権を果たし、円卓第十三席争奪聖杯について意見具申を行える身になるからだ。」

「へえ、にわかには信じられないけどねえ?」


 アルカナは復権を予告する。

 メアリーはそれに対し、懐疑的な姿勢を崩さなかったが。



「……では諸氏よ、賛成の方はご起立願う! 私ラインフェルト・ウィヨルは魔男の騎士団長の席を前任者マージン・アルカナ氏に返す。これをもって、アルカナ氏は魔男の騎士団長への復権を果たすこととする!」


 ウィヨルは、起立し、それに続く形にてボーンとホスピアー、ヒミル、クラブ、チャット……と、他11騎士団長らも次々と起立する。


 これにより満場一致で、アルカナの復権は認められた。


 更に。


「彼女たちは第十三の騎士団として、女男(じょだん)の騎士団を創設するそうだ! これでいいだろう?」

「な!」


 ミリアやメアリーに話した通り。

 彼女たちの円卓第十三席争奪聖杯参加と第十三の騎士団設立の話も、アルカナは取り付けて見せたのだった。


「いやあ、まさか本当に復権した挙句に第十三席争奪聖杯までやらせちまうとはねえ!」


 この円卓の直後。

 ミリアとメアリーは再びアルカナの自邸にいた。


「だけどねえ、アルカナの旦那。あたしたちは一言も、あんたさんの誘いに乗るとは言ってないんだけど?」

「そ、そうです!」


 しかしメアリーは、アルカナに少し苦言を呈する。


「おやおや、余計なお世話だったかな?」

「いんや、まあ順番がちょっと違うって言いたかっただけさ。これじゃ既成事実作ってからあたしたちに有無を言わさないみたいだからさ。……まあありがとう。一応乗るつもりでいたのは事実だからさ。」

「ね、姐様!」

「ああ、そうか……いや、どういたしまして。」


 苦言は呈しながらもメアリーは、礼を言う形で彼の話を承諾する。


 が、ミリアはまだ少し納得のいかない様子だ。


「では我らの約束が果たされた祝い――そして君たちが無事第十三席を取る前祝いとして。ここに祝杯を上げようじゃないか!」


 しかしアルカナは、そんなミリアをよそに。

 自身とミリア・メアリーを隔てるテーブルに置かれたグラスに、ワインを注ぎ始める。


「待って、アルカナさん。……一つ、聞いてよろしいかしら?」

「……ああ、何かなリベラ?」


 が、そこに。

 やはりミリアは、待ったをかける。


「何故、私たちにここまでしてくれるの?」

「ああ、そうだねえ……あたしにも教えてくれよ。」

「ふふ、なるほど。……当然の疑問か。」


 ミリアの質問にメアリーも便乗し。

 アルカナも微笑みながら、二人を見る。


「まあ一つの礼という奴だ。他のことは疑っても、このことは真実であると信じてほしい。」

「い、いえそんな疑ってなんか……え? 礼?」


 ミリアは首を傾げる。

 アルカナに、礼をされるようなことをしたか?


「あああの時――私が龍魔力と魔法塔華院に敗れた時。君たちが助けてくれたことへの礼だ。」

「……あら。」

「……ほう?」


 が、アルカナのこの言葉に。

 ミリアとメアリーは、合点する。


 そうか、あの時。


 ――まあ待ちな、アルカナの旦那! ……ここは一旦、撤退だよ。

 ――メアリー姐様の言う通り。自衛隊艦隊も、既に迫っているし。

 ――ふっ……ああ、そうだな……


 青夢の策にハマってしまい身動きが取れなくなっていたアルカナを、彼女たちが助けた時だったか。


「でもあの時、恩着せがましいって言ってなかったかい?」

「ああ、それは謝罪しなければなあ。……すまない、言い過ぎたと私は思い直した。そして、だからこそこういった形で私からの礼を受け取ってほしい。」

「ほう……だってさ、ミリア?」

「は、はい姐様……まあ元から疑っていた訳ではありませんし。そういうことならお言葉に甘えて……」

「ははは……では、これにて決まりだな。」


 この会話によりアルカナは満足したようであり。

 そのまま注ぎかけていた先ほどのワインを、三つのグラス中二つに注ぎ。


 余った一つには、ジュースを注ぐ。


「あっ……」

「君はまだ、酒は早いだろうリベラ?」

「あ、ええ……ありがとう。」


 言いながらアルカナの差し出してくれたジュースのグラスを取る際。


 ミリアはさっと、彼の顔を見た。

 見た限りでは、柔らかい笑顔。


 しかし、彼は自身の復権を果たす際にも。

 ミリアは詳しく見ていなかったとはいえ、うるさく騒いでいた他騎士団長らをあっという間に手懐けてしまった人物だ。


 いわば、底の知れない男。

 信じてもいいかどうか――


「……さて、それでは。我らの約束に、そして女男の騎士団の未来に、乾杯!」

「ああ、乾杯。」

「ええ……乾杯。」


 三人はグラスを合わせる。


 ◆◇


「……もう、どちらでもいいわ! 利用できるものは何でも利用する、それで私たちは未来を切り開く! だからまずはあんたたちよ……法使夏、トラッシュ!」

「み、ミリア……」

「くっ、好き勝手言ってくれるじゃないの!」


 時間は現在に戻る。

 これまでの経緯を思いミリアは、未だアルカナの思惑を信じ切れないながらも。


 迷いを振り払うが如く、渦の中の青夢や法使夏に狙いをつける。


 これで止め――


「hccps://baptism.tarantism/、セレクト」

「……hccps://camilla.wac/、セレクト サッキング ブラッド エグゼキュート!」

「魔女木、雷魔、大丈夫か!?」

「!? な!」


 が、その時。

 ミリアの詠唱は遮れ。


 突如マリアナの詠唱により、カリュブディスは勢いが衰える。


「おうや、いつぞやのお嬢様かい!」

「姐様! ここは私が」

「ええ、使魔原さん。先ほどのお話で言えば、あなたの本命はわたくしではなくって?」

「いや、使魔原……お前を突き落としたのは俺だ! 俺の責任だ!」

「マリアナ様……」

「方幻術……」


 マリアナはカーミラを、剣人はクロウリーを駆って青夢たちの救援に駆けつけた。


「本命ね……まあ、あんたたちをまとめてやれるのなら何でもいいわ!」


 ミリアはマリアナや剣人の言葉に、鼻で笑うようにして返す。

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