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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第五翔 円卓第十三席争奪聖杯 
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#69 かつての半身のために

「さあミリア! あたしたちが第十三の席をいただくんだよ!」

「はい、メアリー姐様!」


 メアリーとミリアは声をかけ合い。

 目の前の敵である、凸凹飛行隊や自衛隊の部隊を睨む。


 生徒会総海選より数日後。

 事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。


 ――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!


 それに伴い市街地には、自衛隊の防空態勢が取られ。

 まさに魔女社会は厳戒態勢に入っていた。


 そんな中。

 なんと青夢と法使夏は自ら専用機を駆り。


 魔男側を誘い出していた。


「ミリア!」

「はい! さあ、行きなさい幻獣機母艦(クリプティッドマザー)スキュラ!」


 メアリーの指示を受けたミリアは、スキュラを動かし。


 目の前の因縁の相手に、今まさに鉄槌を下さんとしていた。


「行くわよ、雷魔法使夏!」

「言われなくても分かるわよ、一応は隊長様!」


 青夢と法使夏は自機を駆り、自衛隊部隊からスキュラを遠ざけようとする。


「ミリア、あんたをそんな風にしてしまったのは私。それは認めるわ。だから……今ここで、あなたとは私が決着を付ける!」

「ふん、それこそ言われるまでもないわ……あんたには私が!」


 法使夏は自機より、ミリアは座乗艦より互いに宣戦布告する。


 互いにこの戦闘は、譲れない戦いである。


 ◆◇


「な、囮を使うと言いたくって? 魔女木さん。」


 この戦闘の日の昼間、縦浜の魔法塔華院別邸にて。


 ―― 一点集中じゃない! そもそも、魔男から攻撃を受けて守ってばかりというのが前提じゃダメだと思う。ここは……私たちから仕掛けるべきだと思う。


 マリアナの戦力を分散して全方向的に備えるべきという意見に対する、青夢のこの言葉に。


 マリアナは、聞き返していた。


「ええ。恐らくあいつらが真っ先に潰したいのは私たち。だったら、私たちが自分から動けば魔男はそこを狙って来るんじゃないの?」


 青夢はそう、マリアナに返す。

 しかし言いながら、青夢はもどかしい思いを抱えていた。


「(はあ、本当はオラクル オブ ザ バージンが万全なら奴らの狙いも攻める場所も分かったのにね……)」


 青夢は内心、ため息を吐く。

 それは、龍魔力四姉妹とのコンペの直後。


 急に錯乱し情報を引き出せなくなった龍男の前騎士団長バーンや同騎士団所属騎士のブラックマンに代わり。


 青夢はオラクル オブ ザ バージンを使い予知により情報を引き出そうとするも。


 ―― ククク……コレヨリ、サキ、ヲ……シリタイカ?


 ダークウェブの王タランチュラにより植えつけられた恐怖。


 それにより青夢は、それ以来この能力を使うことがトラウマになっていたのだった。


「まあでも大丈夫よ! 言い出しっぺが誰かに押しつけるなんてしないわ。……囮には、私がなる!」

「! そう……」


 そのトラウマを振り払うがごとく、青夢は敢えて気丈に振る舞う。


 その青夢の言葉にマリアナは、少し驚く。


「だ、駄目よ魔女木さんそれは!」

「そ、そうだ! あんた、凸凹飛行隊の隊長なんだろ?」


 夢零と英乃は、そんな青夢を止めにかかる。


「ありがとう、夢零さん・二手乃さん。でも……いえ、隊長だからこそ! 作戦をまず、言い出した当人がやらないといけないと思うの。」

「魔女木さん……」

「ご本人がこうおっしゃっているんだもの、それでおよろしくなくって?」

「! ま、マリアナさん!」


 青夢の言葉に対し、マリアナも肯定し。

 夢零と英乃は、何故止めないのかと訝しむ。


「ああ、今回ばかりは魔法塔華院に同感だな。魔女木はきっと事を為す、ならば彼女に任せればいい。」

「! く、クランプトンさんまで……」

「おい、元魔男! 適当なこと言ってんじゃねーぞ!」

「止めなさい英乃! すみません、クランプトンさん……」


 剣人の言葉に。

 夢零が驚く中、英乃は容赦なく物言いをするが。


 夢零はそれを窘め、彼に謝る。


「いや、魔男に恨みを持つ龍魔力の姉妹ならそう思われても当然だ……かつての仲間がしでかしたこと、本当にすまない。それと、ソード・クランプトンの名は魔男の名だから呼ばないでくれ。俺の本名は、方幻術剣人だ!」


 剣人も龍魔力四姉妹に詫びを入れた上で、本名を名乗る。


「いえそんな……こちらこそよろしくお願いするわ方幻術さん。」

「はいはい! ……それで気が済んだかしら方幻術? そんな()()()()()()()がしでかしたことより、あんた自身がしでかしたことの詫びは入れてくれたんだったかしら?」

「! ら、雷魔……」

「ら、雷魔法使夏……」


 しかし剣人の龍魔力四姉妹への謝罪に、法使夏が突っかかる。


「ミリアが魔男側についたのは元はと言えば、あんたがあの娘の乗機を奪ったからでしょ!? その詫びは、いつ入れてくれるのかしら!?」

「そ、それは……」

「ま、まあそれは……ねえ。」


 法使夏の剣幕に、剣人は言葉に詰まり。

 青夢も今回ばかりは、法使夏の言葉をある程度肯定したい気持ちである。


 ついでに言えば、青夢自らも。

 あの聖マリアナ学園で彼が命すら狙って来たことを、まだ謝罪されていないのだ。


「おほん! そこまでであってよ雷魔さん。これ以上お客様の前で身内の恥を晒して、わたくしに恥をかかせるおつもりであって?」

「! ま、マリアナ様。い、いえ、そんなことは……」


 が、そこにマリアナが割って入る。

 その剣幕に押されたのは、今度は法使夏だった。


「……すまなかった、雷魔! その、お前の相棒のことは……」

「……ふん! 相棒なんてものじゃないわ、半身よ! 本当に……あんたさえいなければミリアは!」


 が、剣人が謝罪すると。

 法使夏はやはりと言うべきか許さず、頑なな態度を取る。


「お止めなさいと言っているでしょう!? 今はそれも過去のことであってよ雷魔さん、ミスター方幻術。」

「あ、ああ……ありがたいお言葉ではあるが……」

「は、はいマリアナ様……」


 しかしマリアナは、更に止める。

 それにより今度は法使夏も剣人も、恐縮した様子である。


「……それに、雷魔さん。そもそも使魔原さん――いえ、今はミスリベラとお呼びするべきであって? まあともかく……ミスリベラが魔男についたのは必ずしもミスター方幻術のせいではなくってよ! あれはあの娘の、至らなさもあってのこと。」

「ま、マリアナ様!」

「(うわあ……)」


 マリアナの言葉に法使夏は、目を丸くし。

 青夢も少し引く。


 ここで、それを言うかと。

 あれは確かにマリアナの言う通り、剣人だけの責任ではない。


 青夢自身が悔やむこととして、予知を最大限駆使できずその事態を防ぎ切れなかったこと。


 更に言えば、これはマリアナ自身のこと。

 マリアナ自身がミリアを見捨てたことも、彼女の裏切りの誘因ではないか?


 青夢はそう思った。


「……申し訳ございませんわ、龍魔力の姉妹方。」

「あ、いえそんな……」

「あ、姉貴……なんかピリピリしてたな。」

「お、お姉様!」

「お姉さん、怖いよお!」


 マリアナは言い争いが始まってしまったことについて謝罪するが。


 龍魔力四姉妹も、若干引いていた。


「……お待ちください、マリアナ様。」

「? 何であって、雷魔さん?」


 が、法使夏が声を上げた。


「ミリアにも至らぬ点がありましたことは事実です。しかし……あの娘がああなったのは、私の責任です! あの娘自身の問題ではありません!」

「……あら。」

「ら、雷魔法使夏……」


 マリアナや青夢も、これには驚く。


「あなたがわたくしに逆らうなんて……ミスリベラの救出を懇願なさった時以来ではなくて?」

「……差し出がましく、申し訳ございません。」

「よくってよ、じゃあねえ雷魔さん。……ならば、その責任はどう取られるの?」

「ま、魔法塔華院マリアナ!」

「……はい。」


 マリアナは法使夏に、鋭く尋ねる。

 青夢はまるで誘導尋問ではないかと、内心ハラハラする。


「……この()()()飛行隊長にだけでは任せ切れません。私も囮に加えて下さいマリアナ様!」

「ふふ……」

「まったく……ってか、一応は一応でも飛行隊は私なのに何で魔法塔華院マリアナに許可取るの!?」


 法使夏の返答にマリアナは満足の笑みを浮かべる。

 青夢は自分が蔑ろにされているように感じ、憤慨する。


「……よくってよ。」

「ありがとうございます、マリアナ様!」

「いや、勝手に許可しないでよ!」


 青夢はまた、憤慨する。


 ◆◇


「hccps://rusalka.wac/……セレクト、ゴーイング ハイドロウェイ エグゼキュート!」

「よし、行くわよ雷魔法使夏!」


 法使夏が発動した、ルサールカの水流に。

 青夢は自機ジャンヌダルクを駆って入り込み、そのまま水流は海に飛び込む。


「あら、やはり水の中に逃げるのね! まったく卑怯だけれど、今すぐ燻り出してあげるわ! ……姐様、艦を交代させてください!」

「ああ、勿論いいさミリア! さあ、因縁の相手を蹴散らして来な!」

「はい……ありがとう姐様!」


 ミリアは幻獣機母艦(クリプティッドマザー)スキュラでは分が悪いとばかり。


 メアリーに幻獣機母艦(クリプティッドマザー)カリュブディスとの入れ替えを願い出て、二つ返事でこれが認められ。


 そのまま艦を、自機たるゴグマゴグを駆って素早く乗り換える。


「さあて、行くわよ!  ……hccps://baptism.tarantism/、セレクト 渦の迷宮(ワーリングトラップ) エグゼキュート!」


 そうしてミリアは、幻獣機母艦(クリプティッドマザー)カリュブディスに命じる。


 するとカリュブディスは、何と着水せん勢いで空中より海面へと迫る。


「な、ら、雷魔法使夏あれは!」

「な! ま、まさか母艦型幻獣機が海に!? ……きゃあっ!」

「くうっ! こ、これは!?」


 海中にて水流を生成しながらその中を縦横無尽に駆け回っていた法使夏と青夢だが。


 これまでの、あくまでも空中に留まりながら対潜攻撃を仕掛けて来た艦とは違う動きを見せるカリュブディスに戸惑う内に。


 突如として大きな力に引っ張られ、中を飛んでいる水流諸共かき回される。


 その動きはぐるりぐるりと、まるで弧を――いや、渦を描くかのごとく。


 これは――


「う、渦潮!?」

「ははは、あっさり捕らえられるなんて間抜けね法使夏!」


 着水しつつ、螺旋状の身体を回転させ巨大な渦潮に青夢・法使夏を捕らえたカリュブディスである。


 ミリアはその光景に、勝ち誇った笑みを見せる。


 ◆◇


「騎士団長閣下、やはりこの作戦は功を奏したようです。」

「ああ、見事なまでに予想通りか……さあ魔女木青夢! お前たちに負わされたこの屈辱を晴らすために用意してやった舞台だ。たっぷりと味わえ……」


 戦場より少し離れた上空にて。

 魔男の騎士団本陣となる幻獣機父艦クリプティッドファザーフードベヒモス艦内でアルカナは、戦場の様子を見て微笑む。

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