#68 魔男vs魔女 全面戦争
「ええ〜しかるに。この魔報化社会の成り立ちは、元から存在していた人間の脳と直接情報をやりとりする技術をベースとしている! この仕組みがなければ今日の電賛魔法システムは、発展して来なかったであろうことは言うまでもなく……」
聖マリアナ学園魔女訓練学校にて。
教官が教鞭を振るう間にも外では、ローター音が鳴り響いている。
そのローター音は魔女自衛隊の軍事ヘリである。
更には自衛隊は、街中の地上に戦闘車両をも配備し。
地対空用の誘導銀弾を空に向けて構えるなど、厳戒態勢が続いていた。
生徒会総海選より数日後。
事の起こりは無論、少し前に魔男の元騎士団長にして再び返り咲いたアルカナによる魔女社会への宣戦布告だった。
――聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!
「(あんなの聞いちゃ、当然か……)」
「……では、これにて授業は終了する! 各自、早急に帰宅するように!」
「はい!!!」
教官の言葉に生徒たちは、一斉に立ち上がる。
大事を取り、聖マリアナ学園の生徒たちは寮にではなく親元へ帰されることになっていたのだった。
「(ん? ……はいはい。)」
青夢は手元のスマートフォンの通知画面を見て、少し面倒な顔をする。
――この後はどこに集合するか、分かってらしてね皆さん?
「(……分かってるっつーの!)」
青夢は心の中で突っかかりつつも、ふと自分の斜め後ろの机を見る。
そこは赤音の席だが、彼女は欠席中だった。
「青夢、じゃあね!」
「まただべろうね!」
「うん、また!」
青夢は真白と黒日に、別れを告げる。
「さあて……行かないとね!」
◆◇
「……依然、市街地では厳戒態勢が続いています。自衛隊は先日の魔男による全面戦争を受け、各地に迎撃態勢を整備しています。 繰り返しお伝えいたします……」
「……皆ご存じでしょうけれど、これが今の現実であってよ!」
ニュースの流れていたテレビを切り。
マリアナは青夢・法使夏・剣人に声をかける。
ここは魔法塔華院の、縦浜の別邸である。
「はい、マリアナ様心得ております!」
「ああ……ついに、こうなるとはな。」
法使夏と剣人は、それぞれに見解を述べた。
「あなたはどう感じられて? 魔女木さん。」
マリアナは青夢を、見つめる。
「……分からない。」
「はあ……魔女木さん、わたくしにとっては不本意ながらも、あなたはこの凸凹飛行隊隊長であってよ。あなたがしっかりしてくれないで、どうしてと言うのであって?」
「そうよ、魔女木!」
青夢の言葉にマリアナは、きつく返す。
法使夏も、青夢を責める。
「まあ待て! 確かに……今は魔男たちがどんな手に出て来るか分からない、それで魔女木を責めても仕方ないだろう!」
剣人は青夢を庇う。
「ありがた迷惑だけど、ありがとう方幻術……まあでも、私が言いたいのはそう言うこと。」
青夢は剣人に一応は礼を言いつつ、皆に言う。
「ふう、まあそれはそうであってよね……」
マリアナはため息を吐く。
「(ま、相変わらず気に食わないけど魔法塔華院マリアナ。あんたがまだ何も知らなさそうでよかったわ……)」
青夢はマリアナを密かに見つめつつ、安堵していた。
マリアナがこの前に対峙し、自身の力で葬り去ったナイトメアの騎士フォール。
その彼がライカンスロープフェーズになっており、乗艦諸共マリアナに葬り去られたという事実。
それをマリアナがまだ知らないことを、確信したからだ。
これでも青夢は、一応マリアナを心配していたのである。
と、その時。
「マリアナ様。龍魔力の姉妹の方々がお見えになりました。」
「ええ、お通ししてよくってよ。」
メイドの言葉にマリアナは、訪問客を通す。
「! マリアナ様、龍魔力四姉妹を?」
「ええ、確かに不本意だけれど。彼女たちもわたくしたちと同じく、数少ない強力な空飛ぶ法機の持ち主。ならば、手を組まない手はないんではなくって?」
「さ、さすがマリアナ様! ……誰かとは違って!」
マリアナの言葉に法使夏は、青夢を暗に批判しつつマリアナを褒め称える。
「お、おい! 魔女木は」
「いいのよ、方幻術! 今回は魔法塔華院マリアナや雷魔法使夏の言う通りだから。」
「! 魔女木……」
青夢を庇う剣人だが。
青夢は慰めなど必要ないとばかり、剣人に言葉をかける。
間もなく部屋には。
「お久しぶりね、魔法塔華院さん方。」
「邪魔するぜ!」
「お、お邪魔します……」
「おっ邪魔しまーす!」
夢零・英乃・二手乃・愛三の龍魔力四姉妹が。
「ええ、いらっしゃいお四方……さあ、早速始めなくってはよ!」
マリアナは立ち上がり、作戦会議を始める。
「(ま、それもその通りね。……でも、気がかりなのは。)」
青夢はマリアナの言葉に対し、懸念を口にしたい気分だった。
――わたくしたちと同じく、数少ない強力な空飛ぶ法機の持ち主。
それは龍魔力四姉妹だけではないだろうと。
さておき。
◆◇
「戦力を、分散させるの?」
作戦会議が進む中。
夢零はマリアナの提案に、首を傾げる。
「そうであってよ、夢零さん。今回敵の目的は不明、ならばどこを狙うかも分からない。更には魔男の本拠地も未だ特定できていない。よって戦力を一点集中させることはできない……ならば、戦力の分散とは仕方ないことではなくって?」
「ええ、そうね……」
マリアナはそう説明した。
凸凹飛行隊の持つジャンヌダルクやカーミラら四機と、龍魔力の三機――で一機のグライアイに、ゴルゴン艦。
後は凸凹飛行隊も法機戦艦か。
魔男の現れる場所が分からない以上、一点集中するにはその場所が分からない。
ならば戦力は、分散させるべきだと言うのである。
「待って。それは敵も承知していると思う、だったらその作戦だと敵に筒抜けじゃない?」
「な、あんたマリアナ様の作戦にケチつけるの?」
が、青夢は異議を申し立て。
法使夏はそれに噛みつく。
「魔女木さん、ならば聞かせていただきたくってよ。……ならば、戦力を一点集中させるおつもり?」
マリアナは青夢に、口調こそ冷静だが食ってかかる。
「ひいい! お姉さん怖いよお」
「そ、そうね愛三……」
この剣呑な雰囲気には、二手乃と愛三は震える。
「いいえ、一点集中じゃない! そもそも、魔男から攻撃を受けて守ってばかりというのが前提じゃダメだと思う。ここは……私たちから仕掛けるべきだと思う。」
「!? な!」
「な、何ですって?」
「……ほう。」
しかし青夢のこの言葉には、マリアナを始めとするこの場にいる者たちは困惑する。
ただ一人、期待の眼差しをした剣人を除いては。
◆◇
「12時の方向より、未確認飛行物体接近中!」
「魔男の巨大兵器に、間違いありません!」
凸凹飛行隊と龍魔力四姉妹が作戦会議を行なったその日の夜。
軍事ヘリおよび空飛ぶ法機は、現場に急行していた。
と、そこへ。
「よおく現れたねえ、自衛隊!」
低い女性の声と共に。
雲を押しのけつつ高空より、自衛隊部隊を挟む形で幻獣機母艦スキュラと幻獣機母艦カリュブディスが現れた。
「くっ、魔男たち!」
「今度こそ!」
「ええ、でも……無茶苦茶よ、あの娘たち。」
魔女自衛官の一人が、見つめる先には。
「やっぱり現れたわね……さあ、鬼さんこちらよ!」
「ええ、たまたま現れてよかったわね魔女木!」
スキュラとカリュブディスを先導するがごとく、先行して現場上空を旋回しているジャンヌダルクとルサールカの姿が。
そう、幻獣機母艦スキュラと幻獣機母艦カリュブディスは彼女たちを察知して現れたのだ。
いや、現れたのは彼女たちだけではなかった。
「み、ミリア!」
「まあそこまで久しぶりでもないわね……法使夏。」
法使夏は身構える。
そこには自機たるゴグマゴグの肩に乗る、かつての無二の親友ミリアの姿が。
「久しぶりだねえ、魔女たちい!」
グレンデルの騎士メアリーも、現れていた。
「騎士団長閣下、女男の騎士団が凸凹飛行隊と接触しました。」
「ああ、ようやくか……」
戦場より少し離れた上空にて。
魔男の騎士団本陣となる幻獣機父艦ベヒモス艦内では。
右翼近衛騎士ラインフェルト・ウィヨル、左翼近衛騎士サベント・フィダール――合わせて両翼の近衛騎士に囲まれつつ、アルカナは彼らより報告を受ける。
「我らも、動きますか?」
「いや、まだだ……ここは新生の騎士団に、華を持たせてやるとしよう。」
フィダールの言葉に、アルカナは彼を制しつつ返す。
そう、新生の騎士団――
それは既に名前の出ている、女男の騎士団のことだった。
◆◇
「円卓第十三席争奪聖杯……? しかし、それには第十三の騎士団が必要だが」
「ああ、その騎士団もここにいる。……フィダール。」
「はっ、騎士団長閣下。」
時は、アルカナが復権を果たした時に遡る。
魔男の円卓はアルカナの復権で既に騒めいていたが。
「はーい、円卓の騎士団長の旦那たち!」
「失礼します。」
「な!? お、お前たちは!」
「おやおや……ミス、ではなくミズブランデンにミズリベラじゃないか!」
フィダールが連れて来た人物たちに対し、更に騒めくことになる。
その人物たちはメアリーと、ミリアだった。
「彼女たちは第十三の騎士団として、女男の騎士団を創設するそうだ! これでいいだろう?」
「な!」
更に騒めいている円卓をよそに。
アルカナは微笑む。