#67 円卓の支配者
「何で、あんたがいるザンスか!?」
「そ、そうっしょ! 何で!?」
「何で、と? それは……聞くまでもないだろう?」
「な、何だって? おいおいマージン君、僕も意味が分からないよ。」
目の前の光景に、ウィヨルを除く11騎士団長は大いに動転していた。
なぜなら目の前には、既に失脚したはずの魔男の前騎士団長アルカナがいるのだから。
次期生徒会のメンバーを、VR艦隊シミュレーションゲーム・WFOによる海戦の結果で決める総選挙・生徒会総海選。
その緒戦が、ギリギリまでマリアナたち現職艦隊に有利だったものの、劣勢の対立候補艦隊提督レイテ自ら最前線に出て一発逆転勝利を決めるという結果に終わった日の夜。
夢魔之騎馬が突如現れたが、何故か自衛隊機の攻撃を受けてもこの戦闘飛行艦は無傷という不可解な事態となっていた。
そこへ凸凹飛行隊が駆けつけ、彼女らとの交戦となったが。
こちらも戦うどころか、機体が何やら言うことを聞かないという不具合に見舞われ。
結局は取り逃してしまい、その数日後。
聖マリアナ学園では第二海選の日となっていた。
まずこの第二海選は、現職艦隊に数の不利がある。
しかしそれを予測済みだった彼女たちは、作戦を展開していた。
そうしてその作戦通り、現職と対立候補両艦隊の旗艦同士の一騎討ちとなっていた。
その結果は現職艦隊の勝利に終わり、両軍共に一勝一敗という状態で。
この日――最終海選の日を迎えた。
最初こそ、現職艦隊が優勢ではあったのだが。
そこに突如現れたのが、それぞれ多数の駆逐艦大の巨大馬型幻獣機及び、巡洋艦大の巨大海馬型幻獣機――魔弾駆逐父艦と魔弾巡洋父艦であった。
しかしその姿は、青夢ら凸凹飛行隊にしか見えないのだと言う。
それらはどんな手を使ってでも勝とうというレイテの策略だった。
レイテは外からは分からないようにこれらの艦隊を自陣営に引き込み。
その上でWFOのシステムそのものを掌握し、凸凹飛行隊以外にはシステム障害によって最終海選がリセットされてしまったと思わせていたのだった。
その上でレイテは、凸凹飛行隊の面々に自機のデータをWFOにコンバートするよう求めるが。
当然この状況においても違反をする訳にはいかないマリアナたちはこれを拒否し。
今駆逐父艦・巡洋父艦を動かさんとするレイテ率いる魔男・対立候補連合艦隊との戦いとなったが。
―― あんたじゃなきゃダメなのよ、魔法塔華院マリアナ! あんたのカーミラじゃなきゃ――VR世界と現実世界両方から攻撃できるあんたじゃなきゃ!
フォールの力の正体を見抜いた青夢のその訴えにより、マリアナはこの最終海選と現実世界での戦いを両天秤に掛けた後。
フォールと現実世界で対峙することを選ぶも。
自機たる幻獣機ナイトメア――ひいては、それが中核となり無数の幻獣機融合による幻 獣 機 父艦ナイトメアと融合したフォールの意思に、レイテは応え。
そのまま決戦となるが、最後は火炎誘爆砲を放ったレイテを策により自爆させたマリアナの勝利で決した。
しかし魔男もまた、それで作戦が失敗したということもなく。
凸凹飛行隊がWFOにコンバートした機体のデータを始めとするデータ収集が主目的でありそちらは見事に果たされていた。
そうして前回の円卓は締められていたが。
今、こうして開かれた円卓では。
「それは……私の復権を、認めてもらうためだ!」
「!? はあ???」
アルカナのさらなる言葉に、場は更に混乱する。
しかし彼は、構わず続ける。
「ナイトメアの騎士は、我が魔男の騎士団所属の騎士でね! さあ、騎士団長諸氏。約定通り、私の復権ということでいいだろう?」
「は? な、何を言っているんだマージン・アルカナ!」
「ははは、それはこちらのセリフだ。今回、そのナイトメアの騎士が手柄を上げれば私の復権を許してくれるとの約定を魔男の円卓による特別権限で認めてくれていたじゃないか!」
「!? な、何を言ってるザンスかこの男は!」
「ほ、本当っしょ! 頭大丈夫っしょか!?」
他騎士団長たちは、尚も受け入れられずに困惑しているが。
その時だった。
「…… fcp> open ×××1.×××2. ×××3. ×××4
NAME:> gests
PASSWORD:> ********」
「!? な、何だその術句は……う! うわあ!」
が、その時。
ボーンもホスピアーもチャットも、その他アルカナを除く11騎士団長はおかしな感覚に襲われる。
◆◇
「……! ここは、そうか……ダークウェブ」
「ああ、さあ皆……我らがダークウェブの、王がお目見えするぞ!」
「!? は、ははあ!」
そして、ダークウェブへと引き摺り込まれた他騎士団長らは。
やはりこの時だけ、全てを思い出す。
そう、それはかつても見た、いや、見せられた光景。
この闇の中に無数の光の網目が張り巡らされた光景。
さらに、ギチギチという音と共に圧倒的な存在が迫る恐怖を。
「我らがダークウェブの王よ……よくぞ。」
「ははあ!!」
「(ん!? お、王よ!)」
他騎士団長らは平伏したまま、ダークウェブの王を迎える。
王タランチュラは現れるが、その背には。
件のダークウェブの姫君・アリアドネもいた。
アルカナもそれには面食らいつつ、平伏する。
「……フフフ、ムシケラノゴトキ……キシダンチョウドモ、ヨ……」
やはり甲殻を擦り合わせたような耳障りな音の中に、はっきりとした言葉が聞いて取れる。
「ダークウェブの王よ、姫君よ、ご機嫌麗しく……」
「いいのよ、アルカナ。……さあて、何の御用?」
「はっ!」
アルカナはアリアドネに蟠りを持ちつつも、恭しく頭を下げる。
「この度は、我が騎士団のナイトメアの騎士により功績が上げられまして。つきましては約定通り、私の騎士団長への復権を認めていただきたく!」
アルカナは頭を下げる。
「フン、モトヨリ……ミトメヌリユウナドナイ。」
「はっ、ありがたきお言葉! ……しかし、我らが王。他騎士団長らは約束を違え、私を復権させぬ気でいるようでして……」
「……ナニ?」
「ひ、ヒイイ!」
ふと雰囲気が変わった様子のダークウェブの王に。
他の騎士団長は震え上がる。
「あらあら……それはいけませんわねえ、私の王!」
「オオ……アリアタンモ、ソウオモウカ!」
「ええ、我らが王。私のお心は、いつでもあなた様のもの……」
「アリアタン♡」
「お、おほん! 我らが王よ、我らの身も心も王のものですぞ!」
が、アルカナはアリアドネに嫉妬し。
自身の忠誠心を王に示す。
「アア、ソウカ……サテ、ホカノ、キシダンチョウドモ……マダ、ミトメヌ、カ?」
「ひいい! め、滅相もないザンス!」
「み、認めぬ理由なんてないっしょでございます! 王の仰せのままに!」
他騎士団長、特にボーンとホスピアーはひどく慄き。
アルカナの復権を、認める旨を叫ぶ。
「……ククク、ソレデヨイ……」
「よかったわね、アルカナ。」
「はっ、感謝いたします! ダークウェブの王よ、そして……ダークウェブの姫君よ。」
満足げに微笑むダークウェブの王と姫君――タランチュラとアリアドネに。
アルカナはタランチュラに対しては心からの、アリアドネに対しては癪に触る気分ではあるが表向き取り繕っての礼を言う。
「……では王よ、姫君よ。また参ります故。…… fcp> close。」
「!? う、うわああ!」
アルカナは王、そして姫君に別れの挨拶をし。
そのまま彼が唱えた術句により他騎士団長らは、再び奇妙な感覚に襲われる。
これは。
しかし、次にふと気づけば。
「!? こ、ここは魔男の円卓か……」
「わ、我らは何を……?」
他騎士団長らは、魔男の円卓に戻っていた。
ダークウェブでのことは、また忘れている。
しかし、覚えていることはある。
「はあ、はあ……し、心臓が」
「い、息が……」
それは、恐怖である。
ダークウェブの王による、圧倒的恐怖。
それだけは、覚えていた。
「さあて……私の復権を諸氏はまだ認めてはくれないか……」
「な、何を言うザンス、アルカナ殿!」
「み、認めないわけないっしょ!」
「ほう?」
いや、それだけではない。
徐に放たれたアルカナの言葉に。
先ほどまでは鬼の首を取ったようであったボーンとホスピアーも、追及を止め掌を返す。
やはり、恐怖故である。
「……では諸氏よ、賛成の方はご起立願う! 私ラインフェルト・ウィヨルは魔男の騎士団長の席を前任者マージン・アルカナ氏に返す。これをもって、アルカナ氏は魔男の騎士団長への復権を果たすこととする!」
ウィヨルは、起立する。
「い、異議なんてないザンス!」
「あ、ある訳ないっしょ!」
「あ、ああ同感だね!」
ボーンとホスピアー、ヒミル、クラブ、チャット……と、他11騎士団長らも次々と起立する。
これにより満場一致で、アルカナの復権は認められた。
「さあて……では復帰早々ではあるが、作戦の具申がある!」
「……本当に早々だな。」
アルカナの言葉に、クラブはややたじろぐ。
「はん! 何ザンスかアルカナ殿?」
「どうせまた、碌でもないものを」
「この度、円卓第13席争奪聖杯を行わないか?」
「ほうら、やっぱり碌でもないっしょ……えええ!?」
「な、何ザンスと!?」
ボーンとホスピアーはアルカナの言葉に聞く価値なしとばかりの態度を取っていたが。
円卓第13席争奪聖杯――その言葉を聞いた彼らは驚く。
それは他ならぬ、彼らが意見具申しようとしていたものだったからだ。
◆◇
「ご復権おめでとうございます、我らが騎士団長閣下!」
「ああ、ウィヨルか。」
円卓での会議が終わり。
晴れて名実共に再び騎士団長に返り咲いたアルカナは。
アルカナに代わり次期騎士団長となっていた――正確には、もう前騎士団長であるが――ラインフェルト・ウィヨルの祝福を受ける。
まあ祝福とは言っても、あくまで事務的な口調ではあるが。
さておき。
「しかし……つくづく無知集団というのは愚かな者だ。」
「ええ、まあ無知ならば仕方ございません。」
「左様。このサベント・フィダール、左翼近衛騎士だけに。」
ウィヨルに続いてやはり事務的な口調ではあるが、左翼近衛騎士フィダールがさりげなく洒落を言う。
「ふふふ、フィダール! ……相変わらず、つまらんな!」
「は、ありがたきご指摘。」
「ふふふ、ははは!」
アルカナはフィダールの洒落によってではなく、彼らを従えているという優越感、ひいては爽快感から笑い出す。
「ああ、奴らは無知……この私があのフォール以外にも、子飼いの魔男の騎士をスパイとして送りこんでいるとも知らずになあ!」
アルカナは尚も他騎士団長を愚弄する。
そう、フォールをはじめとする騎士は他の騎士団にも潜り込まされており。
彼らが手柄を上げればそれは今回のように魔男の騎士団のものとし。
しくじれば、それは潜入先騎士団に責を押し付け失脚させるという策略のためであった。
「ええ、騎士団長閣下。この円卓はあなたのものでございます。」
「……ウィヨル。」
「はっ。……ぐっ!」
「! 騎士団長閣下。」
ウィヨルの言葉に。
アルカナは彼を睨み、殴り飛ばす。
「そんなことは言うな! 私も所詮は一騎士団長に過ぎない……この円卓の支配者たる、我らがダークウェブの王の前にはな!」
「はっ。……申し訳ございません。」
アルカナの剣幕に、ウィヨルは頭を下げる。
「この円卓の支配者は我らがダークウェブの王唯お一人なのだ! その代理は私ですら務まらぬ……故に! 二度と言うのではないぞ?」
「はっ! 我らが騎士団長閣下のご命とあらば。そして……我らがダークウェブの王のご意志とあらば!」
「ああ、分かればいい……それでこそ私の人形だ! はははは!」
アルカナは再び優越感に浸り、高笑いする。
◆◇
「マージン・アルカナ……」
「あいつ、何のために?」
「あ、アルカナ殿?」
場面は再び、現在に戻る。
突如として、空に浮かんだアルカナのホログラムに。
青夢たち凸凹飛行隊は、窓に張り付き必死にその様子を伺う。
「ああそうだな、ここは早く本題に移らなくては。……聞くがいい、魔女社会の諸君! 我ら魔男の12騎士団は諸君らに対し、全面戦争を布告する!」
「なっ!?」
「何ですって!?」
アルカナのその言葉は。
魔女社会の全ての人を、揺るがせた。




