#66 凸凹飛行隊隊長
「今回の件は受けましたが……わたくし共魔法塔華院コンツェルンはこの度、ピュクシスコーポレーションを買収する運びとなりました!」
「!? し、社長! それはどういうことですか!」
「はい、今申し上げた通りでございます。」
魔法塔華院コンツェルン社長・アリアは。
当然予想していた記者の反応に、毅然とした態度で応える。
次期生徒会のメンバーを、VR艦隊シミュレーションゲーム・WFOによる海戦の結果で決める総選挙・生徒会総海選。
その緒戦が、ギリギリまでマリアナたち現職艦隊に有利だったものの、劣勢の対立候補艦隊提督レイテ自ら最前線に出て一発逆転勝利を決めるという結果に終わった日の夜。
夢魔之騎馬が突如現れたが、何故か自衛隊機の攻撃を受けてもこの戦闘飛行艦は無傷という不可解な事態となっていた。
そこへ凸凹飛行隊が駆けつけ、彼女らとの交戦となったが。
こちらも戦うどころか、機体が何やら言うことを聞かないという不具合に見舞われ。
結局は取り逃してしまい、その数日後。
聖マリアナ学園では第二海選の日となっていた。
まずこの第二海選は、現職艦隊に数の不利がある。
しかしそれを予測済みだった彼女たちは、作戦を展開していた。
そうしてその作戦通り、現職と対立候補両艦隊の旗艦同士の一騎討ちとなっていた。
その結果は現職艦隊の勝利に終わり、両軍共に一勝一敗という状態で。
この日――最終海選の日を迎えた。
最初こそ、現職艦隊が優勢ではあったのだが。
そこに突如現れたのが、それぞれ多数の駆逐艦大の巨大馬型幻獣機及び、巡洋艦大の巨大海馬型幻獣機――魔弾駆逐父艦と魔弾巡洋父艦であった。
しかしその姿は、青夢ら凸凹飛行隊にしか見えないのだと言う。
それらはどんな手を使ってでも勝とうというレイテの策略だった。
レイテは外からは分からないようにこれらの艦隊を自陣営に引き込み。
その上でWFOのシステムそのものを掌握し、凸凹飛行隊以外にはシステム障害によって最終海選がリセットされてしまったと思わせていたのだった。
その上でレイテは、凸凹飛行隊の面々に自機のデータをWFOにコンバートするよう求めるが。
当然この状況においても違反をする訳にはいかないマリアナたちはこれを拒否し。
今駆逐父艦・巡洋父艦を動かさんとするレイテ率いる魔男・対立候補連合艦隊との戦いとなったが。
―― あんたじゃなきゃダメなのよ、魔法塔華院マリアナ! あんたのカーミラじゃなきゃ――VR世界と現実世界両方から攻撃できるあんたじゃなきゃ!
フォールの力の正体を見抜いた青夢のその訴えにより、マリアナはこの最終海選と現実世界での戦いを両天秤に掛けた後。
フォールと現実世界で対峙することを選ぶも。
自機たる幻獣機ナイトメア――ひいては、それが中核となり無数の幻獣機融合による幻 獣 機 父艦ナイトメアと融合したフォールの意思に、レイテは応え。
そのまま決戦となるが、最後は火炎誘爆砲を放ったレイテを策により自爆させたマリアナの勝利で決した。
そうして今はマリアナの母・アリアが。
今こうして、会見という名の戦いに臨んでいた。
「し、しかし……御社傘下の、お嬢さんも通われている学園の生徒が魔男の一人と通じていらっしゃった疑いが」
「あれにつきましては本人も覚えがなく! さらにはピュクシスコーポレーションの方にもそれに関連しましたデータは残っておりませんでしたので。それは報道の通りでございます。」
アリアはまたも、毅然と応える。
◆◇
「お母様。記者会見、お疲れ様でした。」
「ええ、あなたこそ。……今回のご活躍は素晴らしかったわ、マリアナさん。」
「!? お、お母様……」
魔法塔華院コンツェルン本社社長室にて。
母を出迎えたマリアナだが、その母の口から出てきた言葉は彼女が心から望んでいたことだった。
生徒会総海選は結局レイテの不正により対立候補艦隊の敗北即ち、現職艦隊の勝利に終わっていた。
マリアナは生徒会長の座を保持することと、この母に認められることともう一つを心から望んでいたのだ。
「あ、ありがたいお言葉ですわ。このマリアナ、光栄でございます。」
「ふふ、まあそれはともかく。」
「はい、お母様。ありがたいお言葉ついでに……あの呪法院さんのことですが。」
「ええ、残念だったわ……まさかあの娘が、魔男の騎士と内通していたなんて。」
「はい。ですのでお母様……何卒彼女には、厳罰を。」
「マリアナさん。……私に、同じことを言わせるおつもりかしら?」
「い、いえ! そんなことは」
マリアナはレイテについて話を切り出すが。
アリアは聞き飽きたとばかり、眉をひそめる。
「呪法院さんの件は残念だったけれど……記者会見で申し上げた通り証拠はない上に、彼女自身の記憶もないとなればこの件は不問とするしかありません。」
「……はい、お母様。」
しかし母のこの言葉には、マリアナは内心やや不満を抱く。
レイテはあの戦いの後、他の生徒たちと同様無事にログアウトしていたが。
これまた先述の通り、魔男に関する記憶はすっかり失われておりその責については不問になっていた。
マリアナは先ほど言葉にしたように、できるならばレイテには徹底的に罰を与えて欲しかったのだが。
アリアはこの通りの方針であり、譲歩の兆しも見えない。
結局マリアナは、退がるしかなかった。
「では、マリアナさん。……そろそろ、凸凹飛行隊の隊長を任命しなければなりませんね。」
「! あ、ありがとうございますお母様!」
が、母のこの言葉にマリアナは不満を晴らす。
そう、マリアナが心から望んでいたこと。
それは先述の通り、生徒会長の座を保持することと、この母に認められることともう一つ。
ようやく、凸凹飛行隊の隊長にも――
と、思ったが。
「あら? あなたではないわよマリアナさん。」
「!? ……え?」
次にはマリアナは拍子抜けしてしまう。
自分ではない?
ならば、誰だと言うのか。
さすがにそう、食ってかかることはしなかったが。
「いるではありませんか。あなたのカーミラの能力だけが、あのナイトメアの騎士とやらに有効であると見抜いてあなたを戦場へ送り出した方が!」
「!? な、お、お母様……そ、それは」
アリアの娘の疑問を見透かしたが如き言葉に、マリアナは心底驚く。
まさか――
◆◇
「は、はああ!? わ、私が隊長!?」
「馬鹿! 声がデカいわ魔女木!」
「おお、やったじゃないか魔女木。」
アリアとマリアナのやり取りの翌日。
マリアナは法使夏と剣人を連れ、青夢が行きつけのカフェで真白・黒日と談笑している所に訪れ。
青夢を凸凹飛行隊の隊長に任命する旨を、母からの伝言として告げていた。
「あ、ごめん……ってか、それ本当?」
「マリアナ様が嘘なんておっしゃる訳ないでしょ! 増してや、あんたを凸凹飛行隊の隊長になんて!」
「ああ、まあそりゃそうね……」
青夢は法使夏の言葉を聞きつつ。
マリアナの顔を見る。
見たところ嘘をついているようには見えないが。
元々が嫌がらせを受けていた相手なだけに、そう易々と信じられるものではない。
青夢はやはり、その真意を図りかねていた。
「……まだ、何か疑っていらっしゃるようね魔女木さん?」
「う、うーんそうね……確かに、まだ持ち上げてから落とす作戦の可能性を疑ってはいるわ。」
「あんた、マリアナ様を!」
「まあ魔女木、自信を持て! 俺も言っていたじゃないか、お前が一番隊長に向いているだろうと。」
「あ、あはは……ま、まあそうは言ってくれたわね方幻術……」
マリアナの言葉に青夢は、まだ疑っている旨を告げ。
それに対する法使夏や剣人の言葉に、青夢は更に困惑していた。
「……まあいいわ。とにかく決定事項だからよろしくお願いしてよ、魔女木さん! ……いえ、隊長!」
「まあ言っておくけど、隊長ってのはあくまで作戦指揮に関してだけだからね! べ、別にマリアナ様を籠絡できるとかそういう訳じゃないんだからね!」
「いや雷魔法使夏、誰がこんな女を!」
「雷魔さんも魔女木さんも、勝手な言い方は止めて欲しくってよ!」
「も、申し訳ございませんマリアナ様!」
「ああ、俺には普段から好き勝手命令していいぞ魔女木!」
「い、いやそんなつもりは……はーあ!」
マリアナの強引な話の締め方や法使夏の言葉、剣人の言葉。
青夢にはどれも、ストレスでしかなかった。
「ちょっと、青夢困っているでしょ!」
「魔法塔華院会長、ちょっと青夢に対してだけ厳しすぎません?」
「あらそんなことはなくってよ魔導香さん、井使魔さん?」
「う、うん本当に大丈夫だから真白、黒日!」
離れた席にいた真白と黒日も文句を言いに来た。
青夢はそれをありがたいとは思いつつ、彼女たちは戦いに巻き込みたくないと思っているために二人を遠ざけようとする。
と、その時だ。
「!? きゃっ!」
「! ま、マリアナ様あれは!」
「量産型幻獣機!?」
「伏せろ、皆!」
「そ、そうね……真白、黒日伏せて!」
「きゃあ!」
窓の外に見えた数機の幻獣機スパルトイに、店内は大騒ぎとなる。
「くっ、何なの?」
「ち、ちょっと青夢危ないよ!」
「あんたも早く伏せなよ!」
「あ、ありがとう……でも、ちょっと待って!」
窓際に寄って外を見ようとする青夢だが、真白と黒日に制され。
ごまかしつつ、窓際に張り付く。
すると幻獣機スパルトイは、上空で機尾よりスモークのようなものを発し。
やがてそこに浮かび上がった姿は。
「! あいつ!」
「やあ、魔女社会の諸君……お久しぶりの人も、はじめましての人もいるかな?」
「マージン・アルカナ!」
アルカナだった。
◆◇
「はい? 何ザンショ、ウィヨル殿?」
「すまないが……皆に、お目通ししたい人がいる。」
「ほう、誰っしょ?」
「……お入りください。」
話はこの数日前に遡る。
この日召集された、魔男の円卓であるが。
早速ウィヨルは、自身の座る席の後ろに向かい呼びかける。
すると、そこから入って来たのは。
「おお、これは……中々懐かしい光景だな。」
「な!? あ、あんたは!」
「ええ!? な、何故っしょ?」
「ま、マージン君。」
他ならぬ魔男の騎士団前団長、マージン・アルカナである。




