#62 夢と現の決戦
「素敵な夢の中であってよ、ナイトメアの騎士さん。」
「光栄に存じます、魔法塔華院のお嬢さん。」
真っ暗なVR世界で。
カーミラに乗ったマリアナと、敵戦闘飛行艦―― 曰く、幻獣機飛行艦夢魔之騎馬に座乗するフォールは、静かに対峙していた。
次期生徒会のメンバーを、VR艦隊シミュレーションゲーム・WFOによる海戦の結果で決める総選挙・生徒会総海選。
その緒戦が、ギリギリまでマリアナたち現職艦隊に有利だったものの、劣勢の対立候補艦隊提督レイテ自ら最前線に出て一発逆転勝利を決めるという結果に終わった日の夜。
夢魔之騎馬が突如現れたが、何故か自衛隊機の攻撃を受けてもこの戦闘飛行艦は無傷という不可解な事態となっていた。
そこへ凸凹飛行隊が駆けつけ、彼女らとの交戦となったが。
こちらも戦うどころか、機体が何やら言うことを聞かないという不具合に見舞われ。
結局は取り逃してしまい、その数日後。
聖マリアナ学園では第二海選の日となっていた。
まずこの第二海選は、現職艦隊に数の不利がある。
しかしそれを予測済みだった彼女たちは、作戦を展開していた。
そうしてその作戦通り、現職と対立候補両艦隊の旗艦同士の一騎討ちとなっていた。
その結果は現職艦隊の勝利に終わり、両軍共に一勝一敗という状態で。
この日――最終海選の日を迎えた。
最初こそ、現職艦隊が優勢ではあったのだが。
そこに突如現れたのが、それぞれ多数の駆逐艦大の巨大馬型幻獣機及び、巡洋艦大の巨大海馬型幻獣機――魔弾駆逐父艦と魔弾巡洋父艦であった。
しかしその姿は、青夢ら凸凹飛行隊にしか見えないのだと言う。
それらはどんな手を使ってでも勝とうというレイテの策略だった。
レイテは外からは分からないようにこれらの艦隊を自陣営に引き込み。
その上でWFOのシステムそのものを掌握し、凸凹飛行隊以外にはシステム障害によって最終海選がリセットされてしまったと思わせていたのだった。
その上でレイテは、凸凹飛行隊の面々に自機のデータをWFOにコンバートするよう求めるが。
当然この状況においても違反をする訳にはいかないマリアナたちはこれを拒否し。
今駆逐父艦・巡洋父艦を動かさんとするレイテ率いる魔男・対立候補連合艦隊との戦いとなったが。
―― あんたじゃなきゃダメなのよ、魔法塔華院マリアナ! あんたのカーミラじゃなきゃ――VR世界と現実世界両方から攻撃できるあんたじゃなきゃ!
フォールの力の正体を見抜いた青夢のその訴えにより、マリアナはこの最終海選と現実世界での戦いを両天秤に掛けた後。
「光栄ついでに……あわよくばその首、もらい受けます!」
「謹んでお断り申し上げてよ、レディーには失礼な態度ね!」
「ええ……よく言われますよ!」
マリアナは今こうして、フォールと対峙するに至っている。
フォールは座乗する夢魔之騎馬を突撃させる。
「ふん、艦など所詮法機の前には大きな的でしかなくってよ、思い知りなさい!」
マリアナもまた、自機たるカーミラを突撃させる。
「ふふ……果たして、本当にそうですかな?」
が、フォールは微笑む。
そして、次の瞬間。
「!? な、幻獣機の群れが!?」
「ええ……こちらにも、きちんと艦載機があるんですよ!」
マリアナが驚いたことに。
夢魔之騎馬から剥がれ落ちるかのごとく幻獣機スパルトイ群が発進し迫って来る。
「……hccps://camilla.wac/、セレクト サッキング ブラッド、エグゼキュート!」
「おうや……私の艦載機群からエネルギーを奪いましたか!」
しかしマリアナの対応もまた素早く。
カーミラへ詠唱を伝え、それによりフォールの艦載機群を無力化する。
「ええ、今更ではあるけれど……機体が言うことを聞くということがここまで素晴らしいとは思わなくってよ!」
マリアナはかつて、自機が言うことを聞かなかった時のことを思い微笑む。
―― !? な……何をしているのカーミラ! あなたまでわたくしを愚弄するの!
「そうであってよカーミラ……こここそ、まさにわたくしとあなたの主演舞台! 魔男などに、呪法院さんなどには目に物見せて差し上げなくてはいけなくってよ!」
そう、先頃青夢が言っていたように。
このVR世界と現実世界、両面から敵を攻撃できるのは自機だけなのだから。
マリアナの心には再び、誇りの火が灯る。
「ははは! なるほど、勢い付きましたか……しかし! 所詮、私には敵う訳もございません…… hccps://baptism.tarantism/、セレクト 夢魔の子守唄 エグゼキュート。」
「! この感覚……なるほど、そういうことであってなのね?」
フォールはそこで、新たに式句を詠唱し直すが。
マリアナはそれにより身体に湧く感覚に既視感を覚えたために慌てず、むしろ落ち着いて対処する。
「おお、これは! さあて……どないするんやカーミラの姉ちゃん?」
この戦場後方にいる赤音も、この戦況を冷静に見つめる。
◆◇
「……hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン! エグゼキュート!」
「hccps://crowley.wac/……セレクト、アトランダムデッキ! 女帝――女帝の支配 エグゼキュート!」
一方、WFOの中では。
マリアナと同じく、自機たるジャンヌダルク・クロウリーをこの世界にコンバートした青夢と剣人は。
フォールの策により、もはや対立候補も現職もなく無差別攻撃を加えている駆逐父艦・巡洋父艦に対し。
コンバートしたジャンヌダルクによる熱線と、クロウリーによる地形操作により撃沈していった。
「くっ、あれが……強力な空飛ぶ法機の力だと言うの?」
レイテはこの有様を自艦たる対立候補旗艦・ウィガール艦から眺めてホゾを噛む。
何としても、現職艦隊を――マリアナを倒したいという気持ちは今尚燻っている。
しかし、その前に。
今目の前で暴れている駆逐父艦・巡洋父艦をどうにかしなければ。
「れ、レイテ様! 僕たちも何とかしなければ」
「……分かっているわよ! でも、どうすれば……ん?」
「れ、レイテ様??」
ジニーの言葉に、レイテは施策が思い浮かばず悩むが。
ふとウィガール艦の主砲が目に入り、動きが止まる。
そうだ。
「ジニー、武錬さん、雷破さん……まだ、私に付いて来てくれる?」
「!? そんなこと……無論、僕たちには聞かれるまでもなく!」
「ええ……私たちだって!!」
レイテの言葉にジニーたちは、即答する。
「……全艦隊、我がウィガール艦を先頭に縦列を組みなさい! 総員…… 駆逐父艦・巡洋父艦に向けて突撃!」
「了解!」
「駆逐父艦・巡洋父艦を突破し、現職艦隊に向けて突撃します!」
「了解!!」
「さあウィガール艦…… 火炎誘爆砲発射用意!」
レイテの呼びかけにより対立候補艦隊はウィガール艦を先頭に、ジニーの法機母艦・武錬と雷破の補給艦・生き残りの対立候補艦隊側の駆逐艦・巡洋艦は縦列を組んで前進し始める。
「……発射!」
レイテはウィガール艦より。
火炎誘爆砲を発射する。
それは対立候補艦隊を取り囲んでいた駆逐父艦・巡洋父艦の一つに当たり。
緒戦の現職艦隊側駆逐艦・巡洋艦の時と同じく、大爆発を起こし。
直撃しなかった駆逐父艦・巡洋父艦をも巻き込み、瞬く間に壊滅させた。
「あれは!?」
「まったく……現職の駆逐艦・巡洋艦も巻き込みかねないじゃない! いや……呪法院さんはどうやら、まだ現職を倒す気はあるようね……」
この有様を見ていた現職艦隊側も衝撃を受け、法使夏はレイテの意図を察する。
「……日占さん、ちょっといいかしら?」
「! 雷魔さん?」
法使夏は星術那に、声をかける。
「まさか……まだ対立候補艦隊は、現職艦隊を潰すつもりか!?」
「もう、魔法塔華院マリアナに似てお子ちゃまなんだから……もしもし、呪法院さん聞いているかしら!?」
この有様を自機から見ていた青夢も剣人も驚き。
青夢は対立候補旗艦に、対話を試みる。
「! レイテ様、現職艦隊側より入電が!」
「……繋いで。」
ジニーが受けた青夢からの通信を、レイテは取り継がせる。
「もしもし、あなたは?」
「ほとんど初めましてかしら? 私は現職艦隊側の一般生徒、魔女木青夢よ!」
「おや、確か凸凹飛行隊で……ジャンヌダルクとかいう機体をお持ちだったかしら?」
「へえ、話が早くて助かるわ!」
レイテは魔男側から、事前に情報を仕入れていたらしい。
情報が筒抜けなのはあまり喜ばしいことではないと青夢は思いつつ、今はそれを気にするどころでもないと考え直し。
「……さっきあの魔法塔華院マリアナも言ってたけど、あなたの不正は暴かれた訳だし。もうこんな海選無効なんだから、早くログアウトして!」
「ふふふ……ほほほほ!」
「! 何が、おかしいの?」
青夢は単刀直入に言うが。
レイテは、笑い出す。
「魔女木さん、まず……あなた、凸凹飛行隊の一員とはいえ現職艦隊の候補でもなんでもないんでしょ? これはあなたの独断かしら? それとも、あのマリアナさんから指示されてのご連絡?」
「……現職の候補の意図を汲み取った上での、代弁よ。」
「……ほほほほ!」
青夢のその言葉を聞いて、レイテは更に笑う。
「まず、さっき不正とおっしゃったけど……あなたたちも今提督であるマリアナさんは不在な上に、コンバートしてはいけない強力な空飛ぶ法機をコンバートしてしまっているのだから、それはお互い様じゃないのかしら?」
「! それは……ううん、それは!」
レイテの言葉に青夢は、少し言葉に詰まるが。
すぐに思い至る。
こちらも不正を犯しているのは事実であれ、互いの勢力が不正を犯し合うこの状況はむしろ海選中止の理由になるだろうと。
青夢はそれを、レイテに伝えようとするが。
「まあいいわ! あなたのその言葉はやはり独断みたいね……見なさい、現職艦隊も戦う気満々みたいよ?」
「!? な、何ですって?」
レイテのこの言葉に、青夢が機外に目を向けると。
「ま、魔女木! 現職艦隊が潜水法母を出して来たぞ!」
「!? な……くっ、やっぱり現職艦隊も馬鹿だったかー!」
剣人の言葉に青夢は、歯軋りする。
果たして、剣人の言葉通り。
「さあ雷魔さん……行くのね?」
「ええ日占さん……ちょっと付き合ってもらうわ!」
現職艦隊は星術那の駆る潜水法母を、繰り出していた。
◆◇
「やはりこうなってなのねナイトメアの騎士さん……でも、無駄な足掻きであってよ!」
再び、現実世界では。
マリアナの予想通りフォールは現実へと空間切り替えを行なっていた。
「ええ、では魔法塔華院のお嬢さん……また、お相手願いますよ!」
フォールの言葉と共に。
先ほどのVR世界と同じく夢魔之騎馬から、剥がれ落ちるかのごとく幻獣機スパルトイ群が発進し迫って来る。
「……hccps://camilla.wac/、セレクト サッキング ブラッド、エグゼキュート!」
しかしマリアナも、これまたVR世界の時と同じく艦載機群からエネルギーを奪い行動不能にする。
「おやおや、これはこれは。」
「……さあ、これでもはやあなたにはその戦闘飛行艦しか残されていなくってよナイトメアの騎士さん! もはや艦載機なき艦など機の前には、ただの巨大標的でしかないことを思い知りなさい!」
マリアナはそう言うや、夢魔之騎馬に突撃を仕掛ける。
これで、終わりだ――
「待った、カーミラの姉ちゃん! そらあかん!」
「! 何ですって?」
「ええ……またも、悪夢を見ることになりますよ!」
が、またも戦場後方に現れた赤音がマリアナを止めようとするが。
フォールも時同じくして、不穏な言葉を吐く。
そして、次の瞬間だった。
「!? な、何故まだ艦載機群が!?」
マリアナが驚いたことに。
何と夢魔之騎馬から、既に尽きたはずの幻獣機スパルトイの大群が押し寄せた。
しかも今回は、夢魔之騎馬から発進したのではない。
何と夢魔之騎馬がパーツ毎にバラバラに分かれ。
そのパーツ一つ一つが、幻獣機スパルトイとなって押し寄せてくるのである。
「申し訳ございませんお嬢さん……これも、形こそ戦闘飛行艦なのですが。実態はあなた方が母艦型幻獣機と呼ぶもの、そのものなのですよ!」
フォールはそう言い、笑う。




