#61 女吸血鬼の本領
「まさかあれは……カーミラとか言うマリアナさんの機体?」
レイテは対立候補艦隊に向かって来るマリアナのカーミラを前に、驚いていた。
次期生徒会のメンバーを、VR艦隊シミュレーションゲーム・WFOによる海戦の結果で決める総選挙・生徒会総海選。
その緒戦が、ギリギリまでマリアナたち現職艦隊に有利だったものの、劣勢の対立候補艦隊提督レイテ自ら最前線に出て一発逆転勝利を決めるという結果に終わった日の夜。
敵戦闘飛行艦―― フォール曰く、幻獣機飛行艦夢魔之騎馬が突如現れたが、何故か自衛隊機の攻撃を受けてもこの戦闘飛行艦は無傷という不可解な事態となっていた。
そこへ凸凹飛行隊が駆けつけ、彼女らとの交戦となったが。
こちらも戦うどころか、機体が何やら言うことを聞かないという不具合に見舞われ。
結局は取り逃してしまい、その数日後。
聖マリアナ学園では第二海選の日となっていた。
まずこの第二海選は、現職艦隊に数の不利がある。
しかしそれを予測済みだった彼女たちは、作戦を展開していた。
そうしてその作戦通り、現職と対立候補両艦隊の旗艦同士の一騎討ちとなっていた。
その結果は現職艦隊の勝利に終わり、両軍共に一勝一敗という状態で。
この日――最終海選の日を迎えた。
最初こそ、現職艦隊が優勢ではあったのだが。
そこに突如現れたのが、それぞれ多数の駆逐艦大の巨大馬型幻獣機及び、巡洋艦大の巨大海馬型幻獣機――魔弾駆逐父艦と魔弾巡洋父艦であった。
しかしその姿は、青夢ら凸凹飛行隊にしか見えないのだと言う。
それらはどんな手を使ってでも勝とうというレイテの策略だった。
レイテは外からは分からないようにこれらの艦隊を自陣営に引き込み。
その上でWFOのシステムそのものを掌握し、凸凹飛行隊以外にはシステム障害によって最終海選がリセットされてしまったと思わせていたのだった。
その上でレイテは、凸凹飛行隊の面々に自機のデータをWFOにコンバートするよう求めるが。
当然この状況においても違反をする訳にはいかないマリアナたちはこれを拒否し。
今駆逐父艦・巡洋父艦を動かさんとするレイテ率いる魔男・対立候補連合艦隊との戦いとなったが。
駆逐父艦・巡洋父艦 から放たれた直撃炸裂魔弾により、苦戦を強いられていた所へ。
マルタの魔女――もとい赤音の遣わした幻獣機リバイヤサンとダークウェブの女王アラクネが現れた。
そして今、このVR世界では幻獣機リバイヤサンとアラクネが対立候補艦隊の駆逐父艦・巡洋父艦 を相手にし。
現実世界では夢魔之騎馬を、赤音のもう一体の幻獣機たるボナコンが相手にしていた。
そうして駆逐父艦・巡洋父艦がアラクネらに恐れを成したレイテにより退がらされた隙を突き、マリアナは現職艦隊を突撃させようとするが。
―― あんたじゃなきゃダメなのよ、魔法塔華院マリアナ! あんたのカーミラじゃなきゃ――VR世界と現実世界両方から攻撃できるあんたじゃなきゃ!
青夢の訴えによりマリアナは、この最終海選と現実世界での戦いを両天秤に掛けた後。
「ふふふ、見ているかしら呪法院さん? さあ……わたくしのカーミラがその牙にかけて差し上げてよ!」
「くっ……マリアナさん、それが何を意味するかあなた分かっているんでしょうね?」
今こうしてカーミラをWFOにコンバートしたマリアナに、レイテは食ってかかる。
「先ほどあなたが言っていたこと、そっくりそのままお返しするわ……こんな海選は無効よ! あなたの負けだわ!」
「そう、じゃあ呪法院さん。わたくしも先ほどのあなたのお言葉、そっくりそのままお返ししてあげてよ…… 周りを見ていなくって?」
「えっ、なっ、何ですって?」
しかし、マリアナはレイテに返す。
レイテはその言葉に、周りを見れば。
「な、何ですかレイテ様これは!?」
「ま、周りに大きな幻獣機が……な、何故ですか!?」
「な、ジニー、武錬さん雷破さんまさか……あなたたちにも見えているの!?」
対立候補メンバーが大いに戸惑っているのを見てレイテは、事情を察する。
先ほどまで彼女たちに駆逐艦と巡洋艦として見せていたものたちは、既に化けの皮が剥がれ。
その真の姿たる駆逐父艦・巡洋父艦としての形を晒していたことに。
いや、対立候補メンバーだけではない。
「ひいっ! な、何でデカい幻獣機がこんなに?」
「ど、どうなってるの?」
その他一般生徒や現職生徒会役員たちにも、化けの皮が剥がれて見えていた。
「な、何あれは雷魔さん!」
「……見なさい、全校生徒の皆! あれは対立候補艦隊提督たる呪法院さんの不正の結果よ、この生徒会総海選に勝つために魔男と結託していたことのね!」
「!? ええっ!?」
陽師子の質問に対し、法使夏は全校生徒に向けて言い放つ。
「れ、レイテ様本当ですか?」
「ふふ……あーっはははは!」
「れ、レイテ様……」
それを受けて対立候補メンバーもレイテに問い質すが。
レイテはそれにすぐには答えず、笑い出す。
「なるほど。マリアナさん、あなたのそのカーミラとかいう機体の力ですか?」
「ええ、カーミラの力でWFOのシステムに干渉させてもらってよ!」
「なるほど……ふふふ!」
笑い止んだかと思えば次には、マリアナに呼びかける。
そして。
「あーあーあ……ええ、そうよ! でも大丈夫、これは悪い夢……あなたたちには、今すぐそう思わせてあげるわ!」
「れ、レイテ様?」
「……聞こえているでしょう、ナイトメアの騎士! さあ、新たな夢を見せなさい!」
レイテは現実世界にいるフォールに向かい、叫ぶ。
◆◇
「おやおや……ついにバレてしまいましたか呪法院のお嬢さん!」
現実世界では。
夢魔之騎馬を率いるフォールが、赤音とマリアナの二人の魔女を同時に相手取っていた。
「……あなたが、ナイトメアの騎士さんとやらであって? ならば、お仲間の呪法院さんが呼んでいてよ!」
現実のカーミラ機体よりマリアナは、フォールに呼びかける。
今のマリアナの意識は、既に任意でVR世界と現実世界を切り替えられるようになっている。
「ええ、ならば新たな悪夢をお見せいたしましょう……hccps://baptism.tarantism/、セレクト 夢魔の子守唄 エグゼキュート!」
「!? おやおや……こりゃあ来たでえ、カーミラの魔女さんや!」
「分かっていてよマルタの魔女さん! さあ……来るがよくってよ!」
フォールの発動した"子守唄"により、マリアナも赤音も違和感を覚える。
それはあのトロトロした感覚――VR世界と現実世界を切り替える時の、感覚である。
◆◇
「!? くっ、母艦型幻獣機たちが暴れ出した?」
再び、WFOでは。
青夢たちが驚いたことに対立候補艦隊の駆逐父艦・巡洋父艦群が突如として、狂ったように暴れ出したのである。
「はははは! ええ、よくやったわナイトメアの騎士……さあ! あの現職艦隊を一捻りで潰しておしまいなさい!」
レイテは皆が戸惑う中で、ただ一人呵呵大笑し。
暴れ回る駆逐父艦・巡洋父艦に、命じる。
これで、現職艦隊はおしまいだ――
と、その時であった。
「!? れ、レイテ様! 巨大幻獣機より放たれた弾幕がこちらにも!」
「き、きゃああ!」
「!? な……な、ナイトメアの騎士! 何をしているの!?」
何と、駆逐父艦・巡洋父艦は無差別爆撃とばかり。
直撃炸裂魔弾を多数、味方であったはずの対立候補艦隊にも放って来たのである。
たちまちその第一波により、対立候補艦隊・現職艦隊問わず一般生徒の駆逐艦・巡洋艦は無残にも殲滅されていく。
「ぐああ!」
「! 現職艦隊・対立候補艦隊、僚艦多数消失……方幻術の艦も消滅。」
法使夏はそんな中でも、どうにか冷静に状況をモニタリングしていた。
――ご機嫌麗しく、呪法院のお嬢さん。しかし……申し訳ございません。我が目的は、この策略によりVR技術の軍事転用の可能性と戦闘データを得ること。そして……あわよくば、凸凹飛行隊のお嬢さん方や出来損ないの元騎士たちを葬り去ることでして。
「!? ナイトメアの騎士……ええ、そうよ! 私だってその凸凹飛行隊を――魔法塔華院マリアナを殲滅することが目的なの! だったら、私に従いなさい!」
脳内に響いたフォールの言葉に、レイテは半ばパニック状態となりながら食ってかかる。
――ええ、しかし。それはあわよくばのお話。残念ながらこの状況ではそこまでは望み様もございません。ならば……せめて、呪法院のお嬢さんにはデータ集め程度にはお役に立っていただきますよ?
「な……程度、ですって!」
が、フォールのこの言葉には。
レイテは言いようもない屈辱に、苛まれる。
データ集め、程度?
自分も所詮、駒でしかなかったということか。
が、そんな感傷に浸る暇もなく。
「れ、レイテ様! 第二波が来ます!」
「っ! ふふふ……ああまったく、こんなことで全て終わるの……?」
駆逐父艦・巡洋父艦は
直撃炸裂魔弾の第二波を、対立候補の基幹艦隊や現職艦隊へと差し向けて来た。
「あらあら……これはこれは幻獣機ボナコン、私たちだけじゃ無理そうね?」
「ぐるる!」
その膨大な弾数に、未だ現職艦隊の防空を担っていたアラクネや幻獣機ボナコンは迎撃を諦める。
「ら、雷魔さんあれは!」
「くっ……どうすれば!」
現職艦隊にとっても、今度は他人事ではなく。
法使夏たちも、迎撃を諦めかける。
が、その時。
「……hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン! エグゼキュート!」
「hccps://crowley.wac/……セレクト、アトランダムデッキ! 魔術師――転世剣 エグゼキュート!」
「! て、敵弾が!?」
突如として放たれた白色の光の刃と七色の刃により。
直撃炸裂魔弾の第二波は、対立候補・現職艦隊いずれに向けたものも全て空中で爆発して果てる。
その主は、無論。
「お待たせ!」
「! ま、魔女木! あんたも!?」
「俺もいるぞ!」
自機たるジャンヌダルクと、クロウリーをコンバートした、青夢・剣人だった。
「ええ、来てくれたわね……さあ幻獣機ボナコン、私はここで失礼するわ!」
「ぐるっ!」
それを見届けたアラクネは、姿を消す。
◆◇
「ほう、あのお嬢さんや出来損ないの元騎士もコンバートしましたか……」
「さあ、これであなたとの戦いに注力できそうであってよ、ナイトメアの騎士さんとやら!」
「ふふ……ええ、そうですね魔法塔華院のお嬢さん!」
フォールが新たに見せた悪夢――ひいては、WFOとはまた別のVR世界にて。
マリアナとフォールは、対峙していた。
「あたしもいるんやけど、あたしは電使戦はできへん……頼むでえ、魔法塔華院の姉ちゃん!」
赤音もまた同じ世界にいたが。
後方で、マリアナとフォールの戦いを見ているしかなかった。




