#60 令嬢の決断
「わ、わたくしのカーミラにしかできない……? 魔女木さん、あなた何を言ってらして?」
「だーかーら、あんたのカーミラにしか倒せないの! 多分今現実で暴れてる魔男の騎士は!」
「!? な、何であんたがそれを知ってんの魔女木?」
尚も戸惑うマリアナに。
青夢は再び、力説する。
次期生徒会のメンバーを、VR艦隊シミュレーションゲーム・WFOによる海戦の結果で決める総選挙・生徒会総海選。
その緒戦が、ギリギリまでマリアナたち現職艦隊に有利だったものの、劣勢の対立候補艦隊提督レイテ自ら最前線に出て一発逆転勝利を決めるという結果に終わった日の夜。
敵戦闘飛行艦―― フォール曰く、幻獣機飛行艦夢魔之騎馬が突如現れたが、何故か自衛隊機の攻撃を受けてもこの戦闘飛行艦は無傷という不可解な事態となっていた。
そこへ凸凹飛行隊が駆けつけ、彼女らとの交戦となったが。
こちらも戦うどころか、機体が何やら言うことを聞かないという不具合に見舞われ。
結局は取り逃してしまい、その数日後。
聖マリアナ学園では第二海選の日となっていた。
まずこの第二海選は、現職艦隊に数の不利がある。
しかしそれを予測済みだった彼女たちは、作戦を展開していた。
そうしてその作戦通り、現職と対立候補両艦隊の旗艦同士の一騎討ちとなっていた。
その結果は現職艦隊の勝利に終わり、両軍共に一勝一敗という状態で。
この日――最終海選の日を迎えた。
最初こそ、現職艦隊が優勢ではあったのだが。
そこに突如現れたのが、それぞれ多数の駆逐艦大の巨大馬型幻獣機及び、巡洋艦大の巨大海馬型幻獣機――魔弾駆逐父艦と魔弾巡洋父艦であった。
しかしその姿は、青夢ら凸凹飛行隊にしか見えないのだと言う。
それらはどんな手を使ってでも勝とうというレイテの策略だった。
レイテは外からは分からないようにこれらの艦隊を自陣営に引き込み。
その上でWFOのシステムそのものを掌握し、凸凹飛行隊以外にはシステム障害によって最終海選がリセットされてしまったと思わせていたのだった。
その上でレイテは、凸凹飛行隊の面々に自機のデータをWFOにコンバートするよう求めるが。
当然この状況においても違反をする訳にはいかないマリアナたちはこれを拒否し。
今駆逐父艦・巡洋父艦を動かさんとするレイテ率いる魔男・対立候補連合艦隊との戦いとなったが。
駆逐父艦・巡洋父艦 から放たれた直撃炸裂魔弾により、苦戦を強いられていた所へ。
マルタの魔女――もとい赤音の遣わした幻獣機リバイヤサンとダークウェブの女王アラクネが現れた。
そして今、このVR世界では幻獣機リバイヤサンとアラクネが対立候補艦隊の駆逐父艦・巡洋父艦 を相手にし。
現実世界では夢魔之騎馬を、赤音のもう一体の幻獣機たるボナコンが相手にしていた。
そうして駆逐父艦・巡洋父艦がアラクネらに恐れを成したレイテにより退がらされた隙を突き、マリアナは現職艦隊を突撃させようとするが。
「だからお願いよ魔法塔華院マリアナ、早く現実世界に行ってカーミラで魔男を倒して!」
青夢は戦列を乱してまで自艦たる駆逐艦でマリアナの旗艦まで懇願しに来ていた。
「いや、まあとにかく! あんたの話、私やマリアナ様には完全に見えないんだけど?」
マリアナと同じく戸惑う法使夏は、青夢に聞き返す。
「あ、ごめん……えっと! あの戦闘飛行艦を使ってる魔男と最初に戦った時。私たち、何故か機体が言うこと聞かなくて手も足も出なかったでしょ? でも、さっき気づいたの……あれはVR世界と現実世界を切り替えてたんだって!」
「!? な!」
が、青夢のこの説明には。
マリアナも法使夏も、驚く。
VR世界と現実世界の切り替え?
――!? な……何をしているのカーミラ! あなたまでわたくしを愚弄するの!
――る、ルサールカ?
――くっ、クロウリー! どうしたのだ?
あの時――あの魔男との緒戦の時か。
あの時は凸凹飛行隊揃いも揃って、それぞれの自機が言うことを聞かないという不調に見舞われたが。
あれはVR世界に一時的に捕われていたが故に、機体に術句の詠唱が届かなかったということか。
確かに考えてみれば、その他にも思い当たる節はいくつかある。
しかし。
「で、でも……だったら! 尚更この最終海選を終えてからじゃなきゃダメよ。現実での戦いはそれまでにマルタの魔女や、龍魔力の夢零さんたちに任せておけばいいわ。」
法使夏はそれでも、最終海選は譲れないとばかり食い下がる。
そう、ここで負ければマリアナは。
が、青夢も。
「なるほど、現実では夢零さんたち姉妹も戦ってくれてるのね……でも! このゲームが――開発したピュクシスが魔男と通じているとしたら? 龍魔力財団もピュクシスを買収しようとしてたんでしょ、だったら私たちと同じ罠にハマってるとしか思えない!」
青夢も食い下がる。
既に目の前に魔男の巨大幻獣機群がコンバートされている時点で、魔男とピュクシスが結託していることは自明の理だ。
ならば、魔法塔華院コンツェルンと同じくピュクシスのゲームの有効利用を模索していたであろう龍魔力財団もその策にハマってしまっているだろう。
「うっ……それでも! これはマリアナ様にとって」
「……雷魔さん、少し黙っていただけなくて?」
「ほ、ほらマリアナ様もこうおっしゃって……な! ま、マリアナ様!」
尚食い下がる法使夏だが、他ならぬマリアナにより止められ驚く。
「……そうね、カーミラなら。電使戦に特化されたカーミラをこのWFOにコンバートして現実世界の戦いに臨めば魔女木さんの言う通り、勝てるかもしれなくってよ。」
「そ、そうよ魔法塔華院マリアナ。」
「し、しかしマリアナ様! これは」
「……でもそうね、雷魔さんの言う通りでもあってよ! この最終海選は、わたくしには」
マリアナは板挟みな現状を嘆く。
カーミラで、あの魔男を倒す。
いや、それが出来るのはカーミラしかいない。
だとすれば、ようやく自分にも最前線で活躍できる機会が回って来たのではないか。
――今回もあなた大した活躍はできませんでしたね?
―― 後方でいつも、あんたや私を的確にサポートしてくださってた!
これまで散々母から言われて来た、後方にいたがために今一つ活躍できなかったという不満。
それを解消し、ようやく活躍できるのではないか。
が、カーミラのコンバートを行えばそれは生徒会総海選の規約違反になる。
――次は、あなたの生徒会長としての座を賭けていただきます。
この生徒会総海選もまた、マリアナに母から与えられたラストチャンスなのだ。
「ぐああ!」
「レイテ様、埒が明きません! このままでは」
「やむを得ないわね……駆逐父艦・巡洋父艦 から直撃炸裂魔弾発射! あの幻獣機をまず始末しなさい!」
が、マリアナが迷う間にも。
レイテも退却ばかりはしていられないとばかり。
再び直撃炸裂魔弾による弾幕を展開し始める。
「ううん! 敵も反撃して来たわ、永くは保たなそう……さあ、どうするのマリアナさん?」
幻獣機リバイヤサンの真上に幻影として浮かぶアラクネは、現職艦隊の方をちらりと見つつ言う。
「ま、マリアナ様! 敵がまた弾幕を」
「そのくらいわたくしは分かっていてよ、雷魔さん! ……さあて、どうするべきであってかしらねわたくしは。」
この有様にはマリアナも、首を捻る。
目の前には二択が、並んでいるのだ。
「……何かよく分かりませんがマリアナ様。ここは、私たちにお任せください!」
「! な、宮陰さん?」
しかしマリアナが驚いたことに。
法機戦艦後方の法母から陽師子の声が響く。
「み、宮陰さん! あなたマリアナ様の現状よく分かってないのに適当なこと言わないでよ!」
「ええ、分からないので分かる範囲で言います! 前にも言ったでしょう? 私はマリアナ様と心中する覚悟でいますと。だからマリアナ様、たとえあなたがどんな決断をしようと私はついて行きます!」
「み、宮陰さん……」
法使夏は陽師子を制しようとするが。
陽師子が構わず続けた言葉に、マリアナは感じ入る。
「ええ、マリアナ様。私も同感です!」
「! 日占さん……」
星術那も海中の潜水法母より、通信でマリアナに呼びかける。
「ですからマリアナ様、どうぞ何でもご決断ください!!」
「だ、だから勝手に! 宮陰さんも日占さんも」
「……ふふ、おほほ!」
「! ま、マリアナ様……」
星術那と陽師子の揃っての言葉に、法使夏は呆れ返るが。
マリアナは不意に、笑い出す。
「ええ、ええそうね……もう、何も迷うことはなくってよ! わたくしにはついて来てくれる下々の人がこんなにいるんですもの!」
「はい、マリアナ様!!!」
「いや、私を勝手に下々の者にしないでよ魔法塔華院マリアナ!」
マリアナの言葉に、今度は法使夏・陽師子・星術那が揃って応じる。
青夢はただ一人不満のようだが、さておき。
「……まあいいけど。さあて、現実の戦いかVRの戦いか、あんたはどっちを選ぶの?」
「……そうね、わたくしは!」
マリアナの、決断は――
「レイテ様! 幻獣機が離れていきます。」
「ええ、このままなら!」
ジニーの報告に、レイテは俄然勢い付く。
と、その時だった。
「!? レイテ様、前方12時の方向より敵艦載機接近!」
「あら……この期に及んで、今度は制空権かしら?」
「い、いえそれが……一機のみです!」
「! な、何ですって?」
武錬・雷破の報告に、レイテは驚く。
その一機は無論、空飛ぶ法機カーミラである。
◆◇
「がああ!」
「なるほど、マルタの魔女……あなたもVR世界に片割れがいることで私の子守唄から逃れている。しかし、あなたに私は倒せません!」
「ああ、そやな!」
翻って、現実世界では。
今尚互いに決め手に欠き。
夢魔之騎馬を率いるフォールと、自らも通常機体ベースの空飛ぶ法機マルタを駆り幻獣機ボナコンを率いる赤音はぶつかり合っていた。
龍魔力四姉妹は相変わらず、動けずにいる。
と、その時である。
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「! おや……結局は来ましたか、魔法塔華院のお嬢さん!」
現実世界にも現れた一機の法機。
それも無論、空飛ぶ法機カーミラである。
「ええ、ナイトメアの騎士さんとおっしゃる方! わたくしを愚弄したこと、許されると思って?」
カーミラを駆るマリアナは、仇敵を睨む。