#5 全てを救うために
「何……? ジャンヌダルクだと……何だそれは!」
ソードは、自分の遠隔操作する幻獣機ドラゴン越しに青夢の機体を見る。
鋭い光を放つ他は、何の変哲もないただの訓練機だ。
しかし、未だ空に浮かぶアラクネ――ソードにとっては正体不明の女の姿もあり。
彼には依然として、予断を許さない状態である。
訓練学校を襲った彼は、早速訓練機のいくらかを撃墜する。
そうした中で、果敢にも――彼からすれば生意気にも、貧弱な装備にも関わらず挑んで来た機体があり。
その機体・マリアナ機も撃墜しようとするが、青夢の機体に阻まれる。
そうしてソードは、青夢機諸共マリアナ機を撃破しようとするのだが。
青夢機は突然、光を出し。
その上に、アラクネの姿が浮かび上がっていた。
そして青夢機からは、その機体名らしきものが聞こえた。
『ジャンヌダルク』と。
「そうよ! 何か分かんないけど……そういうことになっているんだから!」
青夢はまた、高らかに言う。
「ほほう……ならば、見せてもらおう! その空飛ぶ法機の、性能とやらを!」
ソードはにやりと微笑む。
ジャンヌダルクだか何だか知らないが、所詮見た目はただの訓練機。
取るに足らないコケ脅しなど糞食らえとばかりに、コマンドを詠唱する。
「hccp://baptism.tarantism/、サーチ! アサルト オブ 幻獣機! セレクト ヘルファイヤ!」
「hccps://jehannedarc.wac/、サーチ! コントローリング ウィッチエアクラフト・ジャンヌダルク! ……セレクト、オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート!」
ソードに負けじと、青夢もまた唱える。
すると、青夢は。
「! こ、これは……」
何やら自分の脳内に、情報が流れ込んでくるのを感じる。
――さあお行きなさい、魔女木青夢!
「……うん、ありがとうアラクネさん!」
「!? く、女の姿が!」
青夢の中に、アラクネの声が響くと共に。
アラクネの姿は消え、それを見ていたソードも大いに狼狽する。
「まあ、よい……何もしないならこちらから行く! エグゼキュート!」
が。
ソードは、青夢機に動きがないことに痺れを切らし。
幻獣機ドラゴンに、炎を吐かせる。
たちまちドラゴンの発射した火炎弾が、青夢機を襲う。
「ち、ちょっと魔女木さん! こ、攻撃が!」
「分かってるわよ……まったく、うるさいわね魔法塔華院マリアナ!」
「は、はあ!? 何、私に向かってその態度は!」
慌てているマリアナだが、珍しく自分に向かい啖呵を切る青夢にたじろぐ。
「……セレクト、ウインド ディフェンス。エグゼキュート!」
「ちょっと、魔女木さん!?」
が、青夢は。
防御術式を展開し、放たれた火炎弾を防ぐ。
「ほほう? ……ならば、これでどうだ!」
ソードは自身の攻撃を防いで見せた青夢に対し。
ならばと、より強力な術式を唱え始める。
「hccp://baptism.tarantism/、サーチ スーペリア アサルト オブ 幻獣機! セレクト、煉発獄炎! エグゼキュート!」
ソードの術式を受けた幻獣機ドラゴンは、首を巡らせ。
先ほどの火炎弾を、多数生成して周囲に並べる。
そうして、再び青夢機を照準し。
全弾を、同時に放つ。
「な! こ、こんなに沢山!」
「うん、魔法塔華院マリアナ……一回黙ってて。」
「な! ち、ちょっと!」
またも慌てるマリアナだが、青夢から邪険に扱われて憤慨する。
今も青夢は、至極落ち着いた様子である。
「……セレクト、トルネード リボルバー……」
そのまま青夢は、更に防御術式を展開する。
「エグゼキュート……トルネードバレットワン、座標……エネミーバレットワン ディフェンス! 座標……エネミーバレットツー ディフェンス……」
「! ま、魔女木さん?」
マリアナが、戸惑う間にも。
青夢は生成した旋風弾を一つずつ、ランダムに迫る敵火炎弾に当てて行く。
それぞれの旋風弾は、正確無比に。
幻獣機ドラゴンの火炎弾を、尽く掻き消して行く。
「ほう……これは、何故こうも正確に?」
ソードはその有様を見て、疑問を覚える。
この完全なまでの防ぎよう、まるで予めこちらの攻撃を予想していたかのような――
だが、それでもソードは。
「ふふふ……ははは! なるほど、軟弱な魔女にしては中々だが……これはどうだ!」
尚も余裕を湛え、次の手を発動する。
◆◇
「な、なるほど……トラッシュにしては、中々じゃない?」
マリアナも、青夢機による幻獣機攻撃の見事な防ぎようを讃える。
が、青夢は。
「いいえ……まだ。」
「え? ……って!」
浮かない声を出し、それに対してマリアナが訝っていると。
「うわあ! お、大きな火の玉が!」
「……来たわね。」
後ろから、最後の火炎弾が迫っていた。
「ど、どうすれば!?」
「……この手しかないか。」
青夢は、意を決して乗機を動かす。
できればこれは訓練機なので、やりたくなかったのだが――
「ち、ちょっと! 何で私の前からいなくなるのよ!」
「ははは、引っかかったな! …… hccp://baptism.tarantism/、サーチ スーペリア アサルト オブ 幻獣機! セレクト パーガトリーバレット! エグゼキュート!」
青夢機がマリアナ機から離れたことにより、マリアナは狼狽し。
これ幸いとばかり、ソードは幻獣機にコマンドを出す。
たちまち、幻獣機ドラゴンからこれまでにない強大な火炎弾が放たれる。
「ひいい! わ、私が!」
「ははは、これで終わりだ!」
ソードは勝ち誇る。
が、その時だった。
「……サーチ、セイビング エブリワン! セレクト ハリケーン フォートレス、エグゼキュート!」
「! え?」
「!? な、これは!」
ソードとマリアナが、驚いたことに。
マリアナ機と幻獣機ドラゴンより、さらに上に飛び上がった青夢機から竜巻が放たれ。
マリアナ機は風に包まれ、火炎弾が防がれる。
「! 魔女木さん!」
「!? ま、魔女木だと!」
安堵と共にマリアナが出した言葉が耳に入り。
ソードは、驚く。
あの、ジャンヌダルクなる機体の魔女は。
魔女木、というのか。
魔女木。
――事故機体たる幻獣機は、今後使用及び製造を禁止します。
その機体の搭乗者は、魔女木獅堂。
青夢の、父である。
「……そうか、お前が、お前だったのか!」
ソードは、吼える。
あの忌まわしき事故。
あの男の親族が、こんな所にいたとは。
「……もはや、直接赴く!」
ソードは、怒りに任せ。
「hccp://baptism.tarantism/、サーチ コントローリング 幻獣機! セレクト、メイキング 幻獣 リターン エグゼキュート!」
幻獣機ドラゴンに命じ、物陰に隠れていた自分の許へ戻らせる。
そのまま幻獣機ドラゴンに騎乗し、青夢機の許へ向かう。
「おい! そこの魔女お、お前魔女木と言うらしいな! ……ならば、ここで一騎討ちと行こうじゃないか!」
「! な、何ですのあの人は!」
幻獣機ドラゴンの背中に見えるソードを見咎め、マリアナは竜巻の中の、更に乗機の中から叫ぶ。
「やっぱり来たわね……ええ、私は魔女木青夢!」
「魔女木青夢か……冥福を祈るぞ!」
「ち、ちょっと! 私を無視しないでよ!」
自分をよそに睨み合うソードと青夢に、マリアナは叫ぶ。
が、またもマリアナをよそに。
「…… hccp://baptism.tarantism/、サーチ クリティカル アサルト オブ 幻獣機! セレクト フィーンディック ヘル!」
「…… hccps://jehannedarc.wac/、サーチ クリティカル アサルト オブ ジャンヌダルク! セレクト ビクトリー イン オルレアン!」
二人は、互いに呪文を詠唱する。
たちまち、幻獣機ドラゴンは周囲に竜を模った炎を展開する。
青夢機は、尾部の花弁型プロペラから十字のレーザー光を吹き出す。
向かい合う幻獣機と空飛ぶ法機。
それぞれ纏うエネルギーを、収束させる。
渾身の一撃の、前兆である。
「な、こ、これは……!」
またも竜巻の中の、更に乗機の中からこの光景を見たマリアナは戦慄する。
この、渾身の一撃が放たれる戦場の只中に自分はいる。
これは所謂、死亡フラグではないか――
「……安心しなさい、魔法塔華院マリアナ。あんたはその竜巻から出ない限りは、安心だから。」
「! え、ええ……」
が、マリアナのそんな心中を見透かしたように。
青夢は、マリアナに声をかける。
気になってはいたが、青夢はまるで普段とは別人のように落ち着き払っている。
一体、何故――
「(さあて……これで私が勝利する。)」
一方、青夢は。
自身の勝利を、確信していた。
が、そこで気になることは。
「(でも、それじゃ……あの男は救えない。)」
気になることは、ソードをどう救うかであった。
◆◇
「(ふふふ……さあ魔女! これでお前たちは、終わりだ!)」
その、ソードも。
自身の勝利を確信していた。
「(さあ魔女よ……苦しまないよう一瞬で逝かせてやろう!)」
ソードもある意味では、魔女を"救う"方法を考えていた。
そうして。
両者ともエネルギーの収束と、照準が完了し。
ほぼ同じタイミングで、口を開く。
「……エグゼキュート!」
そうして、幻獣機と空飛ぶ法機は。
示し合わせたように、これまた同じタイミングで攻撃を放つ。
幻獣機ドラゴンは、その周囲よりドラゴン型の獄炎を放ち。
空飛ぶ法機・ジャンヌダルクもその周囲より、十字型の光線を放つ。
「はああ!」
幻獣機ドラゴンの背中で、ソードは吼える。
二つの攻撃は、激しくぶつかり合うが。
さして拮抗することもなく、幻獣機ドラゴンの獄炎が競り勝つ。
そのまま獄炎は、青夢機を呑み込み――
「ま、魔女木さん!」
「ははは、口ほどにもなかったな! ……ん!?」
勝ちを誇るソードだが、その刹那だった。
何と、幻獣機の獄炎に被さる形にて。
撃破されたと思われた青夢機から、光線が再び放たれる。
「な、何い!?」
ソードが戸惑う間にも。
光線は幻獣機の獄炎を突き抜け、その頭部に当たり。
たちまち、幻獣機を破壊して行く。
「くっ……おのれ!」
ソードは次の瞬間、空中に投げ出される。
「くっ……まさか、私が負けただと!」
ソードは、自分の上で爆発する幻獣機ドラゴンを見て歯軋りをする。
おの、れ――
◆◇
「マリアナ様!」
「マリアナ様!」
「あら……雷魔さん、使魔原さん。」
竜巻が晴れた後で、着陸した乗機より降りて来たマリアナは。
墜落した自機より脱出して無事だった法使夏・ミリアに駆け寄られる。
「よくぞ、ご無事で!」
「ええ……あなたたちも。」
マリアナは法使夏・ミリアに、淡々と答える。
「まさかあのトラッシュが……」
「ええ……あのトラッシュにマリアナ様が助けられるなんて不覚……」
「ええ……そうね。」
マリアナはまたも、淡々と答える。
確かに、助けられるとは屈辱的だったが。
それにしても青夢が、これで死んでしまうとは――
「バーカ、誰が死んでしまったって? じゃーん、幽霊登場ってね魔法塔華院マリアナ!」
「な……あのトラッシュ!」
「ま、魔女木さん!」
が、またもマリアナの心中を見透かしたように。
空からパラシュートを広げた青夢が、気絶したソードを抱え。
ゆっくりと、降りて来たのであった。