#57 レイテの企み
「こ、これは!?」
「ま、マリアナ様これはまさか!」
「ぼ、母艦型幻獣機が多数……何てことであって?」
マリアナと法使夏も、目の前の衝撃にただただ驚くばかりである。
次期生徒会のメンバーを、VR艦隊シミュレーションゲーム・WFOによる海戦の結果で決める総選挙・生徒会総海選。
その緒戦が、ギリギリまでマリアナたち現職艦隊に有利だったものの、劣勢の対立候補艦隊提督レイテ自ら最前線に出て一発逆転勝利を決めるという結果に終わった日の夜。
敵戦闘飛行艦―― フォール曰く、幻獣機飛行艦夢魔之騎馬が突如現れたが、何故か自衛隊機の攻撃を受けてもこの戦闘飛行艦は無傷という不可解な事態となっていた。
そこへ凸凹飛行隊が駆けつけ、彼女らとの交戦となったが。
こちらも戦うどころか、機体が何やら言うことを聞かないという不具合に見舞われ。
結局は取り逃してしまい、その数日後。
聖マリアナ学園では第二海選の日となっていた。
まずこの第二海選は、現職艦隊に数の不利がある。
しかしそれを予測済みだった彼女たちは、作戦を展開していた。
そうしてその作戦通り、現職と対立候補両艦隊の旗艦同士の一騎討ちとなっていた。
その結果は現職艦隊の勝利に終わり、両軍共に一勝一敗という状態で。
この日――最終海選の日を迎えた。
最初こそ、現職艦隊が優勢ではあったのだが。
「駆逐父艦と巡洋艦――巡洋父艦はまだあるのよ。さあまだ……最終海選を続けましょう!」
レイテのその言葉と共に、現れたのは。
それぞれ多数の駆逐艦大の巨大馬型幻獣機及び、巡洋艦大の巨大海馬型幻獣機――魔弾駆逐父艦と魔弾巡洋父艦だった。
「これは……やはり呪法院さん、あなた違反行為をしていたのね!」
マリアナはレイテに食ってかかる。
あのデトネーション何とやら――もとい、火炎誘爆砲が何らかの不正なコンバートなのだろうとは思っていたが。
まさか、魔男の母艦型幻獣機までここに来るとは。
「……こんな海選は無効であってよ、呪法院さん! 反則負けで今すぐ、ログアウトなさい!」
「おや……周りを見ていないんですか?」
「何ですって?」
マリアナはレイテに抗議するが。
何故かレイテは事も無げに、マリアナを笑う。
しかし。
「ま、マリアナ様! 何か変です!」
「……え?」
「な、何故対立候補艦隊が、いきなり新たな駆逐艦や巡洋艦を繰り出して来たの!?」
「ど、どういうこと?」
「……いや、あなた方がどういうことであって?」
法使夏とマリアナは驚く。
はたして、レイテの言う通り周りを見てみれば。
皆が驚いているのは、あくまで新手が来たことのみのようである。
何故か、誰も魔男の巨大幻獣機が加勢して来たことには言及していない。
「ま、マリアナ様! どこからか対立候補艦隊が新手の駆逐艦や巡洋艦を。これは、他校の生徒の力を借りたんでしょうか?」
「み、宮陰さん……あなたもなの?」
そして、現職艦隊の副会長陽師子も同じのようである。
「これはわたくしたちにだけ、そう見えているだけと言うこと……?」
――ええ、あなた方にのみそう見えています。
「!? こ、この声は……呪法院さん!」
マリアナが何とか思考を纏めていると。
何とその脳内に、レイテの声が聞こえて来た。
――この駆逐父艦と巡洋父艦は、他の一般生徒たちには普通の駆逐艦や巡洋艦にしか見えていません。そしてこの私の音声も他の一般生徒たちには聞こえていません。あなた方……凸凹飛行隊とやら以外にはね!
「くっ……」
「わ、私も聞こえますマリアナ様!」
「これは……」
「くっ、呪法院さん……」
それはマリアナのみならず。
法使夏・剣人・青夢にも聞こえていた。
――皆様、申し訳ございません。サーバー側の障害により、最終海選がリセットされました。再度、相互に損耗率0の状態で再開してください。
「! こ、これは」
その時。
レイテの声ではない、システム音声が聞こえる。
一瞬これも、凸凹飛行隊への指向性音声かと思われたが。
「ええ!? 嘘ー」
「まじい?」
「あ、そういえば! こっちにも駆逐艦や巡洋艦が戻って来てる!」
「なるほど……皆には、それで行くのね。」
青夢は前衛の艦隊の一般生徒たちを見て、全員向けの音声だと悟る。
しかし、この音声や先ほどの一般生徒の言葉とは裏腹に。
現職艦隊の方は、青夢たち凸凹飛行隊の目に映る限りでは先ほどの損耗率1割のままであった。
「呪法院さん……何としても、勝つならそれでよいということであってなのね?」
――ええ、その通りですよマリアナさん。……さあて、あなた方はご自慢の空飛ぶ法機でもコンバートなさいますか? それしかなさそうですが。
「くっ……あんた!」
「よくってよ、雷魔さん……さあて、どうしましょうかね。」
レイテの指向性音声に、マリアナは法使夏を宥めつつ努めて冷静に振る舞う。
確かにこの巨大幻獣機群が相手となれば、もはやカーミラやジャンヌダルク、クロウリーやルサールカのコンバートしかないだろう。
だが、それはマリアナの母アリアから禁じられている行為である。
ならば――
「……まあ、リセットとあらば仕方なくってよ! さあ雷魔さん、魔女木さん、ミスター方幻術、行くわよ!」
「は、はい! マリアナ様!」
「分かってるわよ、魔法塔華院マリアナ!」
「もとより、行く以外にはない!」
マリアナの呼びかけに、法使夏・青夢・剣人は応じる。
「いやいや、私もマリアナ様と心中する時は一緒の所存ですよ!」
「私もです!」
事情が分からないながらも陽師子や星術那も後に続く。
「れ、レイテ様! これはきっと天啓です!」
「……ふふふ、ははは! ええ、そうね……」
こちらも事情を詳しく知らないジニーの言葉に。
レイテは、高らかに笑う。
「ほう……こら、どうやら始まったみたいやな……」
赤音もこの状況に、感じ入っていた。
◆◇
「行くわよ、英乃……hccps://graiae.wac/pemphredo、セレクト グライアイズアイ、エグゼキュート!」
「了解だ姉貴……hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング!」
一方、現実世界では。
突如として現れた幻獣機飛行艦夢魔之騎馬を迎撃すべく出撃した空飛ぶ法機グライアイ二機――夢零機・英乃機が発進していた。
ベースとなる機体は未だ、通常機よりは少しばかり性能がいい程度のゴルゴニックヘアーである。
「なるほど、噂に聞く龍魔力四姉妹の機体ですか……いいでしょう、少し余興に付き合っていただきます!」
ナイトメアの騎士フォールは夢魔之騎馬下部の艦橋部より指揮を執る。
「ふん、余興ですって? ……テロリスト風情のお誘いなどお断りよ! hccps://graiae.wac/pemphredo、セレクト デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!」
夢零はグライアイ機体下部より誘導銀弾を二発発射する。
「英乃!」
「言われなくてもやるさ、姉貴! ……エグゼキュート!」
夢零の指示により英乃も。
先ほど発動準備をしていたグライアイズファングを発動する。
たちまちグライアイズアイによる照準に基づきグライアイズファングにより誘導性を持たされた誘導銀弾群は夢魔之騎馬に襲いかかる。
「ふうむ、これは……回避できませんね、ぐああ!」
夢魔之騎馬はその狂いなき照準により。
見事に捉えられて逃げる間もなく、そのまま爆砕されてしまう――
「はっ! まったく口ほどにもねえ魔男だったな姉貴!」
「待って、何か変だわ……って、え!?」
「!? な、何だ!」
しかし、そうはならなかった。
何と撃破されたはずの夢魔之騎馬は、空飛ぶ法機グライアイ二機の背後に現れたのである。
「ははは、まあ少し戯れが過ぎましたが。……これにてあなた方の防衛線は、突破させていただきます!」
「な、あ、姉貴!」
「ま、待ちなさい!」
フォールはそう夢零・英乃に挨拶すると。
そのまま夢魔之騎馬を駆り、前進する。
慌てて夢零機・英乃機も後を追う。
「ねえお姉さん、まーだー?」
「そ、そうね愛三……お姉様たち遅いわね……」
一方、こちらは夢零と英乃の戦線より少し離れた海域にて。
愛三率いるゴルゴン艦と、二手乃の空飛ぶ法機グライアイの一機はこの海域にて待機していた。
「あーもー! WFOで龍魔力財団の後継者争いだったのにい、タイミング悪く駆り出されちゃって!」
「ま、まあお姉様たちも、この戦いを早く終わらせようって言っているし、ね?」
愛三は待ち続ける退屈さに耐えかねる。
二手乃はそんな妹を、なだめるが。
「もしもし、二手乃、愛三! 不覚にも私たちは抜かれてしまったからあなたたちでよろしく!」
「! お姉様……は、はい!」
「りょーかい! ふふふ、腕が鳴るねー!」
姉たちの言葉を受け、二手乃と愛三は戦闘態勢に移る。
「さあ、愛三!」
「オッケー! …… 01CDG/、セレクト、ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート! ……あれ?」
愛三はそのまま、ゴルゴンシステムを起動させようとする。
しかし、そこで全く手応えがないことに気づく。
「ど、どうしたの愛三! 早くそれを照準しなさい!」
「だ、駄目みたい……何これー!」
愛三は軽く、パニック状態である。
◆◇
「ああ、せめてジャンヌダルクがここにあれば…… hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン! エグゼキュート! ……って、出来る訳ないじゃないの私、ここVR空間なんだから! ……って、あれ?」
そして、最終海選では。
青夢は目の前の巨大幻獣機群を見て悔しさを感じるあまりこの場にはない自機の力を使おうとして自分でツッコミを入れるが。
そこでふと気づく。
それぞかつて、現実世界で夢魔之騎馬を相手取った時の違和感そのものであったことを。