#55 最終海選へのプロローグ
「艦載機群、 誘導銀弾・魚雷霆発射!」
「で、火炎誘爆砲発射」
マリアナ擁する法機戦艦後部飛行甲板より、何と既にないはずの艦載機が三機発進し。
そのまま、レイテのウィガール艦主砲とマリアナの艦載機三機による雷撃、どちらが先に放たれるかの勝負となる。
次期生徒会のメンバーを、VR艦隊シミュレーションゲーム・WFOによる海戦の結果で決める総選挙・生徒会総海選。
その緒戦が、ギリギリまでマリアナたち現職艦隊に有利だったものの、劣勢の対立候補艦隊提督レイテ自ら最前線に出て一発逆転勝利を決めるという結果に終わった日の夜。
敵戦闘飛行艦―― フォール曰く、幻獣機飛行艦夢魔之騎馬が突如現れたが、何故か自衛隊機の攻撃を受けてもこの戦闘飛行艦は無傷という不可解な事態となっていた。
そこへ凸凹飛行隊が駆けつけ、彼女らとの交戦となったが。
こちらも戦うどころか、機体が何やら言うことを聞かないという不具合に見舞われ。
結局は取り逃してしまい、その数日後。
聖マリアナ学園では第二海選の日となっていた。
まずこの第二海選は、現職艦隊に数の不利がある。
しかしそれを予測済みだった彼女たちは、作戦を展開していた。
そうしてその作戦通り、現職と対立候補両艦隊の旗艦同士の一騎討ちとなっていた。
その、結果は――
「ぐうう!」
「れ、レイテ様!」
レイテのウィガール艦が火炎誘爆砲を放つ前に、マリアナが差し向けた艦載機三機による雷撃がウィガール艦に命中し。
ウィガール艦は大破した。
――そこまで! 対立候補艦隊旗艦大破により、勝負あり。勝者、現職艦隊!
「や、やりましたマリアナ様!」
「ふっ、当然であってよ。むしろ、このわたくしの敗北などという結果の緒戦こそ異常であってよ!」
法使夏の言葉にマリアナは、勝ち誇る。
「な、何故法機戦艦から、もう無くなったはずの艦載機が!?」
「……潜水法母だ。」
「! え!!??」
状況を訝しむ武錬と雷破に、ジニーが告げる。
「現職艦隊会長が、法機戦艦諸共こちらにやって来る時。その後ろで何やら水しぶきが上がったのを見た。あれは恐らく潜水法母だ。潜水法母に搭載されていた艦載機群を、法機戦艦に詰め替えたんだ!」
「なっ……」
「くっ……」
ジニーの分析に武錬と雷破は歯軋りする。
そう、彼女らは忘れていたのだ。
先ほど全ての艦載機群を出し尽くしたのは、法機戦艦と法機母艦だったが。
未だ一種類、法母と呼ばれる艦種があったことを。
――え!? そんな作戦なのに潜水法母を前線に出しちゃうの?
青夢はこの作戦を聞かされた時、腰を抜かしたものだ。
まさかこの作戦の肝を、最前線に晒すとは。
――仕方なくってよ魔女木さん。敵は必ずや潜水法母を使って来る、そんな時にわたくしたちが水上艦だけで応戦するのでは限界があってよ。
しかしマリアナは、目には目歯に歯とばかりに。
作戦で艦載機の詰め替えを行うまでは、潜水法母も温存はせずに使うことを宣言したのだった。
「はあ、うまくいったか……あ〜、きつかったあ!」
青夢はその潜水法母護衛を命じられた時を思い出し、疲労困憊の表情を浮かべる。
かくして第二海選は、幕引きとなった。
◆◇
「二つの海選は、ご苦労でしたわマリアナさん。まあ緒戦は無残という他ありませんでしたが、第二海選での潜水法母を使った作戦はお見事でした。」
「は、はい! ありがたきお言葉ですわお母様……」
第二海選の翌日。
毎度のごとく魔法塔華院コンツェルン本社の社長室でマリアナは、母のアリアから一応は称賛の言葉を受けていた。
「……しかし、マリアナさん。今までどうであっても、次の最終海選でダメではどうしようもありませんよ。」
「は、はいお母様……え? さ、最終海選ですか!?」
「ええ……言ってませんでしたか?」
「あ、は、はい……」
が、母のこの言葉に。
マリアナは耳を疑った。
◆◇
「ああ、もう! マリアナめ!」
「れ、レイテ様!」
「落ち着いて下さい!」
その頃。
レイテは、自邸の部屋で物に八つ当たりしていた。
ジニーや武錬、雷破は止めに入る。
第二海選での敗北が、堪えているのである。
特に、半ば自ら仕向けた一騎討ちに敗れたという事実が彼女を怒らせていた。
「くっ、また私を愚弄して! おのれ、見ていなさい……うっ!」
「! れ、レイテ様!」
が、その時だった。
レイテは直後、激しい頭痛を覚えた。
◆◇
「……ん?」
「やあ、呪法院のお嬢さん。夢でお会いして以来ですね。」
「え……あ、あなた!」
レイテはふと、自身が真っ暗な空間にいることに気づくが。
直後、背後から聞こえた声の主に驚く。
それはいつぞやの、火炎誘爆砲を彼女に授けた男だった。
「あなた……」
「おや、どうしました? 怖いお顔ですね」
「あなたのせいで!」
「おっと、これは。」
が、レイテは。
男に、掴みかかる。
これも冷静に見れば、八つ当たりである。
「私のせい、ですか?」
「そうよ! あなたがくれた火炎誘爆砲が不発だったせいで!」
「ぐほっ! ああ、苦しいですね。」
「あなたまで……私を愚弄するの!?」
レイテは掴みかかっている男が言葉に反し、まったく苦しそうではなく飄々とした様子であるのを見て。
神経を逆撫でされた想いで、憤る。
「ははは……まあ、見させてもらいましたよ。第二海選は散々だったようですね。」
「……! っ!」
男の言葉に、レイテは力が抜け。
そのまま、へたり込む。
「しかし……それを私のせいにするのは、責任転嫁もいいところというもの。お嬢さんが勝ちを確信するのが早かったが故の油断・慢心・傲り……それらが招いたものでは?」
「……ふん、ええ、そうね。確かにそれは正論過ぎて何も言えないけれど……レディーへの話し方としてはなっていないわ。」
レイテは男の更なる言葉に、嫌味を言う。
「ははは、これは失礼。女性とは縁遠くしか生きて来なかったものでね。」
男は特に気にする素振りも見せず、軽く受け流すように言う。
「ふん……でもそうね、八つ当たりしてごめんなさい。私も大人げなかったわ。」
「いえいえ、そんなことは。」
レイテはそんな男の様子に、これ以上嫌味を言う気もなくなり。
素直に、先ほどの自身の言動について詫びを入れる。
「まあそうですね……これはさすがに、やり過ぎになるかと思って言わなかったのですが。実はとっておきのやり方もありまして。」
「……何ですって?」
「ふふふ……」
男のその言葉に。
レイテは、顔を上げる。
◆◇
「レイテ様!」
「!? え……私……」
レイテはそこで、はたと気づく。
見返せば、そこは再び自邸であり。
ジニーや武錬・雷破がいる。
「? どうなさいましたレイテ様?」
「……いえ、何でも。」
レイテはジニーにはぐらかして返し。
先ほどまでの不機嫌が嘘のように、落ち着いた様子である。
「すまなかったわね、皆。……さあ、第二海選での借りは、しっかりと次の最終海選で返さなければ。」
「は、はいレイテ様!!! ……え? さ、最終海選ですか!?」
「……ほほほ!」
レイテの言葉にジニー・武錬・雷破は深々と頭を下げるが。
次が最終海選ということは彼女たちも知らず、戸惑い。
そんな彼女らをよそにレイテは、高らかに笑う。
◆◇
「どう? 凸凹飛行隊の娘たちは。」
「うーん、まあ中々やるんやけど……やっぱりあのマリアナちゅう姉ちゃんが分からんなあ。」
「あらあら。」
同じ頃ダークウェブの一角で。
ダークウェブの女王アラクネと、赤音が語らう。
「それより……どう、あの娘の動きは?」
「ああ、姐さんの言う通りやったわ。これは……近く仕掛けてくるかもな、次の最終海選辺りに。」
「……お願いね、赤音。」
「ああ、任せたれ姐さん!」
アラクネの言葉に赤音は、胸を張る。
◆◇
「hccps://wfo.wic/……セレクト、ログイン! アカウント名……」
そうして、ついに。
最終海選の、日となった。
「はーあ、まったく! 言うのが遅いのよ魔法塔華院マリアナ。これで最終だなんて!」
青夢はログイン早々、この場にはまだいないマリアナに対し毒舌を吐く。
「青夢!」
「あ、黒日、真白……」
と、そこへ。
黒日の巡洋艦・真白の駆逐艦もログインして来た。
「今日は、どっちに付くの?」
「もういいでしょ、青夢! 対立候補艦隊に付いて、あんな現職生徒会長一緒に潰そうよ!」
「え、あ、うーん……」
黒日と真白の言葉に、青夢は大いに揺らぐ。
しかし、その直後。
「あ、来たよ!」
「役者が揃ったって感じだね。」
黒日と真白は、辺りを見回している。
そう、今しがた。
現職生徒会役員と対立候補、どちらも各自艦を率いてログインして来たのだ。
「おーっほほほ! ご機嫌麗しく、呪法院さん。」
「ええ、マリアナさんも。」
マリアナとレイテは、各旗艦の上から睨み合う。
かくして最終海選は、始まろうとしていたが。
◆◇
「ふふ……この悪夢はきっと、誰かにとっては良い夢となるでしょう……」
その裏に忍び寄る影について知る者は、ほんの一握りであった。