#53 第二海選
「青夢、何でまた現職側に着くの?」
「そーだよ! ……やっぱり内部工作とか? でもほら、レイテ会長の対立候補艦隊の方が数多いんだし。もうそんな必要ないよ!」
「あ、あはは……うーん、そうね……」
第二海選の投票の際。
青夢は親友二人――名前とは裏腹に色白な黒日と、名前と((殴……いや、とにかく親友である真白に引き止められ。
苦笑しながら言い訳を、考えていた。
次期生徒会のメンバーを、VR艦隊シミュレーションゲーム・WFOによる海戦の結果で決める総選挙・生徒会総海選。
その緒戦が、ギリギリまでマリアナたち現職艦隊に有利だったものの、劣勢の対立候補艦隊提督レイテ自ら最前線に出て一発逆転勝利を決めるという結果に終わった日の夜。
敵戦闘飛行艦―― フォール曰く、幻獣機飛行艦夢魔之騎馬が突如現れたが、何故か自衛隊機の攻撃を受けてもこの戦闘飛行艦は無傷という不可解な事態となっていた。
そこへ凸凹飛行隊が駆けつけ、彼女らとの交戦となったが。
こちらも戦うどころか、機体が何やら言うことを聞かないという不具合に見舞われ。
結局は取り逃してしまい、その数日後。
第二海選の、日となっていた。
「やーれやれ、まああの魔法塔華院マリアナが人望ないことは知ってたからいいんだけど……はー、数で劣勢の側に着くとか本当憂鬱!」
青夢はマリアナの現職艦隊に集う一般生徒数の、緒戦に比べての少なさにため息を吐く。
またもあのマリアナの為に戦わなくてはならないのか――
――聖マリアナ学園魔女訓練学校、全校一般生徒40000人のうち……現職艦隊15000票! 対立候補艦隊25000票! すなわち戦力非は……3:5です!
「……やっぱり、か。」
青夢は予想通りの投票結果に、またため息を吐く。
緒戦の失敗は、ここで尾を引いたようである。
「さあ、呪法院さん……始めましょう!」
「ええ、マリアナさん……あくまで勝負は、これからですものね!」
一方で、当のマリアナ・レイテ――両勢力の将には特に気にした素振りもなく。
淡々と、新たな戦いに向けて睨み合っている。
――では、これより……この戦力比による海戦を、始めます!
「マリアナ様!」
「慌てることはなくってよ雷魔さん! ……くれぐれも皆、作戦通りに!」
「は、はい!!!」
「……分かっている。」
「分かってるっつーの!」
現職のメンバー、及び一般生徒枠での剣人・青夢もマリアナの言葉に応じる。
「レイテ様! ここは勝って兜の緒を締めよということですよね?」
「ジニー、甘いわ! 勝ったのはまだ緒戦だけ、この投票だけで第二海選をもう勝ったおつもり?」
「も、申し訳ありません!」
対立候補の副会長候補ジニーを、会長候補レイテは咎める。
緒戦を制したとはいえ他の対立候補とは違い彼女は、マリアナ率いる現職艦隊を侮ってはいない。
――では……始め!
「…… 駆逐艦、巡洋艦同時展開! 現職艦隊の前衛艦隊へ突撃!」
「了解!」
レイテは、やはり前衛たる一般生徒艦隊に命じ。
数での優位をまずは活かさんとばかり、突撃を仕掛ける。
「マリアナ様、敵艦隊多数接近!」
「こちらも前衛艦隊、巡洋艦展開! 防御に徹して!」
「り、了解!」
マリアナも自艦隊に命じる。
たちまち現職艦隊も前衛の一般生徒たちが動き出す。
「誘導銀弾発射!」
「誘導銀弾発射!」
ほぼ同時に両前衛艦隊は誘導銀弾を発射し。
二つの弾幕はぶつかり合い、まだらな爆発を空に描く。
「ふふふん、相変わらずあたしは忘れられがちなんやが! ……まあそれが、潜水法母たるあたしには都合ええんやけどな!」
戦闘海域、海中にて。
赤音操る潜水法母が緒戦と同じく自艦隊たる対立候補艦隊下を潜り現職艦隊の海域へと進入しようとする。
よし、これで――
「……魔法塔華院マリアナ、敵潜水法母捕捉!」
「ええご苦労様、魔女木さん。…… 駆逐艦、最前線の艦は海中めがけて爆雷 発射! 敵潜水法母を一網打尽にして差し上げなさい!」
「……了解。」
「り、了解!」
しかし、ここでの最前線の作戦を担う青夢からの報を受けてマリアナは。
赤音対策に、次々と爆雷を投下して行く。
「ぐおっと! ……まったくえげつないなあ、あのマリアナとかいう姉ちゃんは!」
海中で炸裂する爆雷に赤音は辟易し。
悔しいながらも、少し後退する。
「レイテ様、敵が海中に爆雷を投下しています!」
「きっと、魔女辺さんの居場所が」
「ふうん……まあ、予想通りよ!」
対立候補艦隊旗艦周辺でも。
補給艦を操る二人の会計候補である雷破と武錬は、レイテに憂いを帯びた報告をする。
「とはいえ数の上では圧倒的に……という訳でもないけれど一応は分があるのは私たちよ。窮すればいずれ、現職艦隊の旗艦が自ら出て来るかもしれない――いいえ、炙り出してでも引き摺り出す!」
「は、はいレイテ様!!」
「何というお気迫……はっ、必ずや!」
「そしてその暁には、あなたたちは手出ししてはダメよ? マリアナは私の獲物……誰にも味見だってさせやしないんだから!」
「はっ、レイテ様!!!」
レイテは自艦たるウィガール艦から叫び。
雷破・武錬も補給艦から、更にジニーも自艦たる法機母艦からそれぞれ応じる。
「(目に物見せてくれるわマリアナさん……私がこれまであなたから受けた数々の羞恥へのお礼として! 前はできなかったけれど、本来あなたに向けるこれで)」
レイテがいずれ来るであろうマリアナとの決戦に思いを馳せ目を注いだのは。
緒戦において瞬く間に、対立候補艦隊を逆転勝利させたウィガール艦の主砲だ。
◆◇
「いいこと? デトネーションボルカニクス。わたくしはあの女――呪法院レイテが最後に、そう言ったのを聞いたの。」
「そ、そうなんですか?」
「うーん……」
「俺も聞き覚えがないが……」
(生徒会役員でも対立候補でもないのに)生徒会室に呼ばれた青夢と剣人は、そして(こちらは生徒会役員である)法使夏は。
マリアナの言葉に、ただただ首を捻るばかりである。
時は、緒戦の次の日の朝に遡る。
急遽叩き起こされた青夢は、新聞配達を終えたばかりの剣人と共に生徒会室に呼び出され。
この通り、作戦会議に参加させられているのである。
前の日は緒戦に敗れたのみならず、魔男との戦いでも手も足も出ず。
青夢にしてみれば、さしものマリアナもさぞかし落ち込んでいるだろうと踏んでいたのだが。
「では、雷魔さん。」
「はい、マリアナ様! 敵旗艦たる、呪法院レイテのウィガール艦データはこのようになっています……」
まったくそんな様子は見せないマリアナの言葉に促され、法使夏は。
手元のタブレットを渡し、マリアナにその画面を見せる。
「ううん、まあさすがにどんな名前の技ができるかまでは書いていないけれど……ここに載っているあの主砲の攻撃力を鑑みると、不自然なことがあってよ。」
「不自然?」
「まさか……あんな大爆発は、起こらないということか?」
タブレットを見てのマリアナの言葉に、青夢は首を傾げるが。
剣人ははっとなり、訊ねる。
「ええ、その通りであってよミスター方幻術! ……このスペックを見る限り、あの主砲にあれほどの大爆発を引き起こさせることはできなくってよ。」
「! じ、じゃあ」
青夢はふと、考え込む。
ではなぜ、あんな大爆発が起こったのか。
たまたま駆逐艦に当たった時、弾薬庫にでも当たってしまったというのか?
「弾薬庫に当たって大爆発した、という感覚も無さそうだったわ。わたくしが思うに……呪法院レイテは、何らかの不正行為を行なっている可能性が高くってよ!」
「な、マリアナ様!」
「何!?」
「……へ?」
しかし、マリアナが更に口を開くと。
法使夏と剣人は大いに驚くが、青夢は話が飛躍したように感じられて首をひねる。
「何らかの形で違法データか何かをコンバートしているか。もしくは……WFOの基幹プログラムそのものに、ハッキングをかけて中身を書き換えたか!」
「ま、マリアナ様! それでは……この生徒会総海選のルールどころか、不正なアクセスを禁じる法にすら引っかかります!」
「う、うーん……」
マリアナの言葉に法使夏は、怯えた反応を示すが。
青夢は話があらぬ方向にどんどん向かっているような気がしてならず、やはり首を捻る。
「まあ待て! 確かにそれは前者―― 違法データか何かをコンバートしているというのは考えられなくもないが。後者―― WFOの基幹プログラムそのもの書き換えというのは考えづらいだろう?」
「な……マリアナ様の話を、否定するの元魔男風情が!」
「く……まだ言うか!」
剣人の反論に対する法使夏の言葉に、剣人も納得がいかないが。
「お待ちなさい雷魔さん! ……ミスター方幻術。何故、そう思われて?」
「! ま、マリアナ様……」
「それは無論……このシステムそのものを書き換えているならば、自分だけを強化するよりも。敵となる艦隊そのもののスペックだとて書き換えてしまうと思う。しかし、今のところ無闇やたらとスペックの低い僚艦はあるか?」
「……そうね、なくってよ。」
マリアナは法使夏を制して聞き出した剣人の言葉を。
一応は、受け止める。
「……今回ばかりは、いいこと言うじゃない方幻術剣人!」
「ん!? あ、ああ……やはり、お前も分かってくれて」
「まあ、てことで魔法塔華院マリアナ! 今はそんなこと議論するよりも。どうやって勝つか議論した方がいいんじゃない?」
「お、おい! 俺の話を聞いてくれ!」
「ま、魔女木! あんたまたマリアナ様に!」
青夢はそこで口を開き。
剣人と法使夏から、ブーイングを受けるが。
「まあ待ちなさい雷魔さんもミスター方幻術も! ……そんなことは分かっていてよ魔女木さん。それは後でと思っていたのだけれど、よくってよ。」
マリアナはそこで彼らを制し、指を鳴らす。
すると。
「はい、マリアナ様! 心中一筋、精進いたします!」
「おはようございます、マリアナ様。」
「! ああ、あんたたちもスタンバってたの……」
入って来たのは現職の副会長たる陽師子と。
現職の書記たる、星術那だ。
彼女ら抜きで、凸凹飛行隊のみを集めていたということは。
青夢はそこで、マリアナが言うレイテの『何らかの形で違法データか何かをコンバートしている』かも知れないという話が。
要するに魔男絡みではないかと睨んでいるのではと訝しむが、ここではそれを言うまいと口を噤む。
「ええ、まあ相変わらずの宮陰さんはともかく。……第二海選での作戦で大事なのは、この中の二人です。」
「え? ふ、二人ですか?」
マリアナも気を取り直して、本題を切り出す。
そのまま目は、青夢に注がれる。
「……ん? え?」
「そうよ魔女木さん……まず一人目はあなた!」
「え、ええっ!?」
「な!?」
「ど、どういうことだ?」
それには青夢も、法使夏・剣人も驚く。
◆◇
「はあ、そんな訳で……もうこうなったら、自棄くそね!」
翻って、再び第二海選の最中。
青夢は作戦についてを頭の中で反芻し。
改めて、対立候補艦隊を睨む。
「魔女木!」
「ああ、方幻術……足手纏いになったら、許さないんだから!」
「あ、ああ……わ、分かっている!」
青夢に睨まれた剣人は、佇まいを正しながら答える。
◆◇
「では、中間報告と行こうか。チャット殿。」
「ああ、ワシはいつでもいいぞ!」
その頃、魔男の円卓でも動きが。
雪男の騎士団長クラブの呼びかけにより、会議が開かれていたのである。
照らし出された席の馬男の騎士団長チャットは、鼻息荒く応える。
「……では他騎士団長諸氏も、心して聞いて欲しい。」
「……承知!!」
そうして、更なるクラブの叫びに応じて席を照らし出され姿を現した12騎士団長の中には。
アルカナの後任となった魔男の騎士団長ラインフェルト・ウィヨルの姿もあった。




