#51 悪夢への誘い
「くっ……何、このトロトロした感じは!?」
青夢は突如沸き起こった、夢心地のような感覚に。
一時は心乱されるも、すぐに気を確かに持つ。
昼間、次期生徒会のメンバーを、VR艦隊シミュレーションゲーム・WFOによる海戦の結果で決める総選挙・生徒会総海選。
その緒戦が行われた日の夜。
敵戦闘飛行艦―― フォール曰く、幻獣機飛行艦夢魔之騎馬が突如現れたが、何故か自衛隊機の攻撃を受けてもこの戦闘飛行艦は無傷という不可解な事態となっていた。
そこへ凸凹飛行隊が駆けつけ、彼女らとの交戦となった。
「ふふふ……よくぞいらっしゃった。我が、悪夢へと!」
「あ、悪夢?」
夢魔之騎馬――ひいては、それを牽引する幻獣機ナイトメアを従える騎士ダクス・フォールは高らかに叫ぶ。
それを耳にした青夢らは、首を傾げる。
◆◇
「……敵潜水法母は日占さんに任せるわ! さあ巡洋艦部隊、法機編隊! 引き続き敵艦隊へ突撃! 雷魔さんは駆逐艦部隊に補給完了後、敵艦隊へ同じく突撃させなさい!」
「は、はいマリアナ様! 駆逐艦部隊、補給完了艦より戦列に戻る!」
「了解!」
「は、この日占承知しました。」
ここでまたも、海選に戻る。
マリアナは、迷いの末、指示を降す。
彼女は自身の艦隊直下の海中に侵入して来た、赤音に率いられる敵潜水法母の相手について。
目の前にズラリと並ぶ一般生徒の部隊――駆逐艦や巡洋艦か、または引き続き現職書記の星術那率いる潜水法母に当たらせるべきか決断を迫られていたが。
星術那率いる潜水法母に当たらせる形で、ひとまずは決定した。
「さあ魔女木、俺について来い!」
「いや、別について行かないしい! ……ていうか、誤解生むから止めろっつーの!」
剣人が先立つ巡洋艦から叫び。
それに対して青夢は、気恥ずかしそうに返す。
既に剣人がかなり絡んで来ているせいで、変な噂が青夢には立ちつつあるのだ。
「もう、こんな誤解が矢魔道さんの耳に入ったら……もう、怒ったもんね!」
青夢はもはや自棄を起こし。
自艦が補給を終えるや否や、回頭して敵艦隊へと向かう。
「真白、黒日ごめん……でも、ここは度胸だ!」
そのまま敵艦隊に向けて彼女の艦は、誘導銀弾発射管より火を吹く。
「くう!」
「あ、青夢!」
これには真白や黒日の艦も、またダメージを受ける。
◆◇
「そんなわけで……引き続き、私が直々にあなたのお相手を。」
「へえ……そりゃ、光栄やな!」
戦闘海域、海中では。
水上艦らの戦いとは別に、潜水法母同士の戦いが繰り広げられることになった。
「よおし……改めて、魚雷霆を発射――」
「……爆雷 発射!」
「……と、思うたが、やめとくわ!」
が、赤音は。
再びの爆雷攻撃に怯み、後退を始める。
「逃げずに、戦いなさい!」
「うん、まあそやけど……姉ちゃんの方が一枚上手たあ、悔しいわ!」
赤音は星術那を褒めつつ、尻尾を巻き始める。
◆◇
「マリアナ様! 我が艦隊の損害一割、敵艦隊の損害五割に到達しつつあります!」
「ありがとう、雷魔さん。……さあて、早く止めを刺して差し上げるべきかしら?」
マリアナは損害率をも管理する法使夏の報告に、ほくそ笑む。
が、その時である。
「!? あ、あれって」
「へえ……何、呪法院さん、敗北に狂ったかしら?」
青夢やマリアナら、現職艦隊も。
いや、対立候補艦隊も驚いたことに。
なんと対立候補艦隊旗艦――生徒会長候補レイテの座乗艦たるウィガール艦が、前に出て来たのである。
◆◇
「れ、レイテ様!」
「敵艦隊、更に前進してきます!」
「なるほど、そう来たか……」
対立候補艦隊のうち、二人で一隻の補給艦を擁する雷破と武錬は一緒にレイテへ、現状を報告する。
「レイテ様、ご安心ください! 僕の艦載機が、この艦隊もレイテ様も」
「ええ、そうね……ジニー、艦載機をありったけ出して!」
「! は、はいレイテ様!」
が、レイテは少し笑みを湛え。
そのまま法母を操る副会長候補のジニーに、指示を出す。
「れ、レイテ様何を」
「駆逐艦、巡洋艦は退がりなさい! この私の旗艦が直々に、お相手するわ!」
「な!? れ、レイテ様!」
が、何を言い出すかと思えば。
なんとレイテは、自ら最前線に出ると言い出したのである。
「い、行けません! それぐらいなら私たちが」
「いいえ! あなたたちがいなくなれば補給はできないわ艦載機という機動力は奪われるわいいことは何もないわ! ……どちらにせよ長期戦は不利ならば、ここは大勝負に打って出て短期決戦を狙うのが筋よ!」
「れ、レイテ様……くっ!」
「き、旗艦直衛部隊直上にも敵弾が!」
しかしレイテたちが議論する間にも。
他ならぬ戦況が、もはや猶予はないと告げている。
「さあ、迷っている暇はないでしょ!」
「は、はい!」
「僕の艦載機群、レイテ様の艦を死んでもお守りしろ!」
結局、選択肢はなかった。
◆◇
「ふふ、旗艦自ら倒されに来るとは哀れね呪法院さん!」
「ええ……もう、これしかないんですよ!」
レイテは叫びと共に、艦諸共前に出て。
そのまま誘導銀弾を、多数放つ。
「よおし……急速旋回、ここは逃げるが勝ちや!」
「まったく口ほどにもない……ま、いいでしょう。」
赤音も、自軍の大将が前に出て来たのを見るや。
更に自艦たる潜水法母を加速させ、戦域を早々に離脱してしまった。
星術那は深追いする必要もなしと判断し、多少の追い討ちとして魚雷霆を放つだけに留めた。
「マリアナ様!」
「もはや止めを刺すだけね……前衛の駆逐艦、巡洋艦! 敵艦載機に注意しつつ、旗艦を蜂の巣にしてご覧なさい!」
「了解!」
「おお、止めか……腕が鳴る!」
「ごめんなさい呪法院さん、真白、黒日!」
そして現職艦隊では、マリアナの号令により。
命じられた青夢や剣人をはじめとする一般生徒による前衛部隊は、一斉に誘導銀弾を発射する。
「レイテ様、危ない!」
「っ! ありがとう、ジニー……」
「ほほほ、いい景色ね!」
ジニー操る艦載機群やレイテ自らの誘導銀弾群は、今しがた放たれた現職艦隊の誘導銀弾により次々と爆砕されていきバリケードとなるが。
それでもやはり弾数で圧倒的に勝る現職艦隊の誘導銀弾群の残りは、構わず密集してレイテのウィガール艦を狙う。
よし、これで――
マリアナは勝利を確信しつつあった。
が、その時である。
「れ、レイテ様!」
「ありがとうジニー……セレクト、ファイヤリング
火炎誘爆砲! エグゼキュート!」
「!? な、主砲から? ふん、そんなのこのわたくしの旗艦に比べたら」
予想に反して、次にレイテが操作したのは。
なんと一門の、ウィガール艦前半部に装備された主砲であった。
そしてそれはマリアナの、三連装の自身の旗艦主砲に劣るという予想に反し。
まずは直上に迫りつつあった、現職の誘導銀弾群を薙ぎ払い。
そのまま何隻かの、現職艦隊前衛の駆逐艦、巡洋艦に当たる。
「ま、マリアナ様!」
「安心なさい、雷魔さん! あんな一門だけの主砲、当たったのは高々数隻の……!?」
無論、これだけならばまだよかったのだが。
次の瞬間、主砲が命中した高々数隻の艦は。
「ぐああ!」
「ぐうう! そうか、これが、あの母艦型幻獣機にやられた時の夢零さんたちの気持ち……」
巨大な爆発を起こし、中に多数の味方艦を呑みこんでいく。
その中には青夢や剣人の、艦もあった。
「な、何ですって……」
「ま、マリアナ様……」
――そこまで! 勝負あり。勝者、対立候補艦隊! 現職艦隊、八割壊滅!
マリアナや法使夏が、呆ける中。
現職艦隊の前衛、一般生徒部隊がほぼ壊滅し。
軍配は、レイテ率いる対立候補艦隊に上がったのだった。
◆◇
「ふん、皆さん! そんな苔脅しどうってことなくってよ、さあ気を確かになさい!」
「は、はいマリアナ様!」
「言われなくても分かっているわよ、魔法塔華院マリアナ!」
「ああ、俺も分かっている!」
再び、夜の対夢魔之騎馬戦にて。
ナイトメアの騎士ダクス・フォールの言葉に困惑する一同であるが。
マリアナは皆を鼓舞する。
無論その心中には、昼間負けた分ここでは勝ちたいという思いもあるが。
彼女を支えているのは、誇りである。
そう、(青夢や剣人からは正式には認められていないが)凸凹飛行隊長であるという誇り。
そしてもう一つは、聖マリアナ学園生徒会長であるという誇りである。