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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第三翔 龍魔力財団対空システム
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#47 闇の恐怖

「では、これより魔男の円卓は会議を始める。……まず、魔男の騎士団長アルカナ殿。」

「……ああ。」


 戦いの数日後。


 魔男の円卓では珍しく、雪男の騎士団長ギガ・クラブが会議を取り仕切っていた。


 そしてアルカナの席が、照らし出される。


「まあまず、アルカナ殿……清々しいまでの、口ほどにもなさザンシたね!」

「ああ、まったくみっともないっしょ!」


 牛男の騎士団長ボーンと、魚男の騎士団長ホスピアーも揃って照らし出される。


 どちらもアルカナにより、半ば挽回の機会を奪われた形になったのだ。


 この場ではまさに、鬼の首を取ったようになっている。


「ああ、そのことについては……返す言葉もない。」

「へえ? ホスピアー殿、妙にアルカナ殿がしおらしいザンス!」

「ああ、ボーン殿! こりゃ、雨でも降るっしょか?」

「だーっ、ははは!!」


 珍しくしおらしい様を見せるアルカナを、ボーンとホスピアーはここぞとばかりに更に罵倒する。


「お、おほん! まあまあジャードにオーブ、そこまで言ってはマージン君が可愛そうじゃあないか。」


 さらに蝙蝠男の騎士団長ヒミルが、見かねてか照らし出されて場を宥めようとする。


「ふんっ! ヒミル殿、そいつに肩入れするザンス?」

「それはつまり、お前も心中する覚悟あるっしょ?」

「あ、いや……」


 が、ヒミルもとばっちりを受けるような形となってしまった。


「おほん! まあさておき……アルカナ殿。今回敗北の上捕縛の身となった龍男の騎士団長バーンと、同騎士団所属の騎士ブラックマンの失態。作戦を強行的に通した卿にも責任があることは認めるな?」

「ああ、そうだな……先ほどから言っている。」


 しかしクラブは場を治め。

 アルカナは彼の言葉を受け入れる。


「では……これより、魔男の円卓は特別権限を発動する!」

「……ほう?」


 クラブの呼びかけにより、残りの騎士団長たちも照らし出される。


「魔男の騎士団長、マージン・アルカナ! 卿の更迭を要求する。賛成の方、ご起立願う!」

「はい、喜んでザンス!」

「いいに決まってるっしょ!」

「すまない、マージン君……」

「……ふん。」


 それによりクラブをはじめとし、ボーン、ホスピアー、ヒミル……と、空席の龍男の騎士団長を除く10の騎士団長たちは起立する。


 採決結果は、満場一致で可決である。


「……これにより、卿を魔男の騎士団長より更迭し、謹慎を命じる。龍男の騎士団長についても、ギリス・バーンは無論更迭。次期龍男の騎士団長は、バーンの次点にいるものが、さらに次期魔男の騎士団長もアルカナ殿の次点にいるものが、その座を引き継ぐこととする!」

「異議なし!」

「異議なし!」


 次には、またもクラブの言葉に続き皆が賛成する。


「うむ。……私も異議はない。この処分、甘んじて受けよう……」


 アルカナは、力なく椅子に座り。

 そのまま彼を照らしていた光は消え、姿が見えなくなる。


「ふん、あんたの異議なんかあっても聞かないザンス!」

「そうっしょ! もう団長どころか騎士ですら危ういのに!」


 そのまま、10騎士団長たちは着席し。

 ボーンとホスピアーはまたもここぞとばかり、鼻を鳴らしながら言う。


「静かに! ……以降の作戦は馬男(ばだん)の騎士団長ゲイリー・チャット殿が引き継ぐこととする。」

「うんうん、そうザンス!」

「そうっしょ! ……え?」

「ええ!?」


 が、次にクラブから出て来た言葉は。

 今度こそ挽回できる機会を得られるものとばかり思い込んでいたボーンとホスピアーを唖然とさせる。


「チャット殿から打診があってな。……チャット殿、よろしく頼む。」

「ああ、クラブ殿。」


 馬男の騎士団長ゲイリー・チャット。


 馬男の騎士団というだけあってか、馬面のこの青年は。

 ゆっくりと立ち上がる。


「ワシは……次には、ナイトメアの騎士による作戦を提案する!」


 チャットは、高らかに宣言する。


「なるほど、あの騎士か……」

「ああ、そうだな……悪くないんじゃないかなあ?」


 クラブ、ヒミルがその提案に納得した様子である。


「今回の一件で、自衛隊には完全に目をつけられてしまった! まったくアルカナ殿もバーンたちも余計なことをしてくれたものだ! だから次は……ワシは、少しでも、時間を稼げる作戦としたくこの策を提案する!」


 チャットは、高らかに宣言する。


「ああ……でもそれは当分大丈夫ザンス! 自衛隊は勘違いしてるザンス。奴らは我らが、大きな本拠地でも持っていると思ってるザンス!」

「ははは、まったく滑稽っしょ魔女共も!」


 そのまま話題は、自衛隊が近々起こるであろうと発表していた"魔男の本拠地掃討作戦"に移っていた。


「ああ、まあ我々の実態がバレる心配のないことがせめてもの救いだな……何はともあれ。ここはワシの、馬男の騎士団にお任せ願いたい!」

「うむ、異議のない騎士団長殿はご起立願う!」


 チャットのこの懇願に。

 10騎士団長たちはまたも一斉に立ち上がり、満場一致での可決となる。


 かくして今回の魔男の円卓は、お開きとなる。



 ◆◇


「まったく……やっと、邪魔なアルカナが消えてくれたと思ったら! このザマザンスか!」

「まあまあボーン殿、我々も根回しが足りなかったっしょ!」


 会議の後で。

 ボーンとホスピアーはホットラインで話している。


「まあでもいいザンス。こうなれば……"第13の席争奪聖杯"を、次には提案してみようザンス!」

「な!? あ、あれをやる気っしょ? ボーン殿!」


 が、ボーンの急な提案に。

 ホスピアーは驚く。


 そう、魔男の円卓には。

 誰も占めていない、"第13の席"があるのである――


 ◆◇


「いやあ、最近不安だよね……魔男が、恐ろしい兵器出して来るなんて!」


 真白は新聞を見ながら言う。

 聖マリアナ学園魔女訓練学校にて。


 カフェテラスで()()を囲みながら、真白・黒日・青夢は談笑していた。


「はーあーあ……」

「ちょ、ちょっと青夢……今日は一段と青いよ?」

「あ、ごめん……」


 いや、青夢はちょっと違ったかもしれない。

 青夢ら凸凹飛行隊や龍魔力四姉妹が魔男の兵器破壊に関与したことは一般には伏せられている。


 なので青夢も、毎度のことながら親友たちに悩みを打ち明けられないことが悩みだ。


 あの後、自衛隊にバーンやブラックマンの身柄を預けた後。


 やはり凸凹飛行隊・龍魔力四姉妹は自衛隊から大目玉を喰らってしまった。


 しかし、悩みの種は更にその後のことだった。

 凸凹飛行隊の元に自衛隊から齎された報告は、バーンとブラックマンが突如頭痛に苦しめられて錯乱状態となり。


 とても取り調べができる状態ではなくなってしまったということだった。


 ならばと、青夢は。


「(そう……私がオラクル オブ ザ バージンを使った時。)」


 そうして予知を始めた、その時だった。

 その時、青夢の目に映った光景は。


 真っ暗な空間に、光の線で繋がれた網のようなものが下に見える光景。


 それはかつて、青夢やマリアナ、法使夏、そしてソードや龍魔力姉妹に力が齎された時の空間。


 魔法検索システムの禁断領域・ダークウェブの更に最深部である。


 だが、そこにはかつてアラクネに導かれた時のような温もりは感じなかった。


 むしろそこにあるのは、何やら得体の知れない恐怖――


 その()()()()は、すぐに判明する。


 ダークウェブのその光景の中に、見えたのである。

 この黒い空間の中でも更に、深い闇が。


 何やら、蜘蛛のような形を取ったものが――


「ククク……コレヨリ、サキ、ヲ……シリタイカ?」

「(!? ひいい!)」


 そこに響いたのは、甲殻を擦り合わせたような非常に耳障りな音。


 そんな耳触りな音にも関わらず、それははっきりと宿された意志を乗せて青夢に伝えて来たのである。


 言葉として――


「!? は、はあ、はあ……」

「青夢! 青夢!」

「!? え……?」


 真白と黒日の必死の呼びかけが聞こえ、気がつけば。

 二人とも椅子から身を乗り出し。


 青夢に顔を寄せて心配していた。


「どうしたの青夢!? 大丈夫?」

「顔、更に青くなってるよ?」

「は、はあはあ……ご、ごめん何でもない……」


 青夢は親友の心配の声に対し。

 そう、答えるしかなかった。


「ねえ真黒……間違った真白。」

「うん、青夢ちゃん……それは、体色で間違えたかなあ?」

「も、もがもが……ご、ごめん! 完全に素で間違えて」


 が、さすがにこれはまずい失敗であった。


 真黒((殴……いや、真白は完全にキレた状態で、青夢の首根っこを掴んで来たのである。


「だーれが、真黒じゃい! 誰が腹の中まで真っ黒だって?」

「いや、青夢はそこまでは言ってないから!」


 すっかり激した様子の真白を、黒日も止めに入る。

 しかし青夢は、真白を体色で間違えた訳ではない。


 あのおぞましい空間。

 ダークウェブの最深部の闇の色を思い浮かべていたために、間違えたのである。


 そう考えながらも青夢の意識は、遠のいていく――


「ち、ちょっと止めて上げなよ真白! 青夢が泡吹いて白目剥いてるよ!」


 黒日は真白を、必死に止める。

 と、その時だった。


「こんな所にいたか魔女木! 探したぞ。」

「……え? あ、あんた!」

「ひでぶー!」

「真白!」


 不意に声をかけて来たのは、ソードだった。

 青夢はそれに驚き、思わず再起動して真白を押し除けてしまう。


 真白は倒れ込み、黒日は慌てて彼女に駆け寄る。


「な、何であんたが学内にいんのよ! 生徒でもないのに!」


 青夢はそれに構わず、ソードに駆け寄る。


「ああ、それは……俺も、ここに新聞奨学生として世話になることになったからだ!」

「へえ〜……ええ〜!?」


 ソードの事も無げに言った言葉に、青夢は驚天動地となる。


 まさか。


「ち、ちょっと……ソード・クランプトン、あんたが生徒!?」


 青夢はソードにより近づき、小声で尋ねる。


「俺はもう、ソード・クランプトンではない! 方幻術剣人(ほうげんじけんと)、それが俺の名だ!」

「え? ……方幻術、剣人お? あ、あんたの本名ですって?」


 が、ソードは自分の本名を明かす。

 ソード・クランプトンとは言ってみれば、魔男となるにあたり与えられた洗礼名のようなものなのである。


「そして……俺はお前が気に入った! あの無茶苦茶な作戦、何と素晴らしかったことか!」

「は、はあどうも……」


 ソード、いや剣人は。

 青夢のオペレーション後手後手を、褒めているのか貶しているのかよく分からない言葉で評する。


 青夢としては、褒められているならば素直に喜ぶべきなのだろうが。


「ええ、何愛の告白〜?」

「て、転入生のイケメンからいきなり告白!? 青夢、あんたすごいじゃん!」

「ええ!?」

「? 何の話だ?」


 今彼女は、カフェテラス中からの視線を集めてしまっており。


 どちらかと言えば、ありがた迷惑な話である。

 剣人にはそんな意図は無論なく、首を傾げている。


 しかし、より衝撃的なことが直後に起こる。

 それは。





「転入生です。」

「初めましてやでえ! ……魔女辺赤音や言います!」

「!? え、あ、あの顔……」


 青夢やマリアナ、法使夏のクラスには。

 あのアラクネと瓜二つの少女にしてマルタの魔女・魔女辺赤音が転入して来たのである。


 ◆◇


「なあ姐さん……あたし、ようやっと分かった気いするでえ! あの青夢って子、姐さんが選んだ訳え。」

「まあ……逆に言えば、他の子はダメということ?」


 この出来事の何日か前。

 赤音はダークウェブにアクセスし、アラクネと話していた。


「うーん、まあ他の連中はよう分からんなあ……」

「そう……では、あなたにミッションを与えます。」

「!? な、何や急やな……」


 アラクネが彼女に与えたミッション。

 それがこの魔女訓練学校への、編入捜査だったのだ。


 ◆◇


「お母様……申し訳ございません!」


 赤音編入の何日か後。

 マリアナは母アリアに、魔法塔華院コンツェルン社長室で頭を下げていた。


 それは自衛隊からお咎めを食らった、あの件についてだ。


「もうそれはいいわ、マリアナさん。……それより、これはゆゆしき事態と分かっているわね?」

「! は、はい……」


 が、アリアは。

 他の件へと、話題を変える。


「龍魔力財団へも、強力な空飛ぶ法機が渡るとは。……おまけに、今回もあなた大した活躍はできませんでしたね?」

「……はい。」


 アリアが言及したいのは。

 むしろその話題のようだ。


 確かにマリアナは、今回もやはり後方支援であった。

 まったく活躍しなかった訳ではないが。


「申し訳ありませんお母様! 次こそは」

「ええ、そうね……次は、あなたの生徒会長としての座を賭けていただきます。」

「は、はいお母様! ……え?」


 が、アリアのこの言葉に。

 マリアナは、驚く。


「……今回、生徒会総選挙を行います! あなたの、生徒会長としての座を賭けて。」

「お、お母様……」


 アリアは最終通告のように、マリアナに告げる。

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