#44 隙なき双竜
「な、何あれー!」
――あ、姉貴あれは……
――お、お姉様!
「魔男……まだ、やるのね!」
上空に浮かぶ、巨竜型のエネルギー体。
それを座乗する艦、または機より見つめて龍魔力四姉妹は慄く。
空賊との戦いが終わり一か月ほど後。
空戦訓練のため、再び法機母艦に乗艦していた青夢たち凸凹飛行隊だが。
幻獣機リバイヤサンの出現の報により、出撃を余儀なくされていた。
が、幻獣機と凸凹飛行隊の交戦中。
これを離れた場所から見ていた、龍魔力四姉妹の編隊より誘導銀弾が放たれ。
彼女らとも交戦となる。
しかし、その最中ミリアとメアリーによる魔男の部隊も攻めて来ており。
中々に決着のつかぬ膠着状態となっていたのだが。
突如として龍魔力四姉妹の長姉・夢零が発動させた彼女らの専用機・蛇女殺しに備わる"システム"の真髄。
彼女ら曰く、"目"。
それがどれほどのものかは底知れないが。
果たしてその"目"によって、夢零以外その戦場にいる者は皆動きを封じられ窮地に落ち入る。
しかし、凸凹飛行隊も魔男も自機の能力により窮地を掻い潜り。
さらに夢零も勝手な判断により"目"を起動させてしまったことを、実は彼女の"目"付け役だった末妹愛三に咎められ撤退し戦いはひとまず終息した。
そうして今回、魔法塔華院コンツェルンと龍魔力財団の新システム搭載艦コンペティションに参加した凸凹飛行隊だが。
そのさなか襲来した超巨大な竜型幻獣機・幻 獣 機 父艦バハムートを前に一同は、動揺する。
しかし、逆にこれを自社の新システム搭載艦・ゴルゴン艦のいい咬ませ犬になると睨んだ龍魔力四姉妹は。
そのまま艦搭載のゴルゴンシステムを使い、幻 獣 機 父艦バハムートと交戦するが。
予想外に幻 獣 機 父艦バハムートの力は強大であり、
それに対し龍魔力姉妹はついに、"目"――ゴルゴニックアイズを使用。
幻 獣 機 父艦バハムートを照準と同時に足止めし、これにより止めを刺せると龍魔力姉妹は確信。
全艦隊より誘導銀弾を放つが。
幻 獣 機 父艦バハムートは、何と不可能なはずの変形を行なって誘導銀弾を全て回避。
英乃の座乗するゴルゴン二番艦を自滅に近いやり方で葬ったことを皮切りに、二手乃のゴルゴン三番艦をも敗る。
そのまま事態を重く見た自衛艦隊も出撃するが、これもあっさりと返り討ちにしてしまった。
が、その直後に青夢ら凸凹飛行隊擁する法機戦艦の主砲からの攻撃を受ける。
これを脅威と見た幻 獣 機 父艦は、再び必殺技形態に移行し。
そのまま青夢らが自機を接続した法機戦艦と、必殺技撃ち合いとなり。
かろうじて痛み分けに終わったその戦いだったが、そこへ幻獣機を従える能力を持つ法機使い・魔女辺赤音が攻めて来たために幻 獣 機 父艦は撤退する。
そうしてそのひと月ほど後。
再び現れた幻 獣 機 父艦を迎え撃つべく、改修された法機戦艦一隻とゴルゴン旗艦・四番艦による魔法塔華院・龍魔力連合艦隊が出陣したのであった。
しかし幻 獣 機 父艦は同乗させている騎士・ブラックマンによる新兵器・直撃炸裂魔弾により、法機戦艦・ゴルゴン艦らによる攻撃を相殺し。
さらにゴルゴン艦に搭載されているものと同じ"目"を起動し。
魔法塔華院・龍魔力連合艦隊を照準し、動きを止める。
が、そこへ。
海中を法使夏の乗機ルサールカの能力により飛び回る凸凹飛行隊のうち、青夢の乗機ジャンヌダルクより放たれた光線により幻獣機父艦は妨害を受ける。
かくして幻獣機父艦は、目標を海中に定め。
さらにはアルカナの予知により、青夢は予知を妨害され。
更に、それにより幻獣機父艦はアルカナの予知の恩恵も受けて凸凹飛行隊を再照準し出す。
が、青夢の策により法使夏のルサールカに仕込まれていた不確定要素満載の暴走プログラムが起動し。
それにより暴れ出し、予知された凸凹飛行隊の行動パターン数が膨大になり処理できなくなったアルカナは、逆に無力化されてしまった。
それにより幻獣機父艦と凸凹飛行隊は、純粋な力によるぶつかり合いをしていたのだが。
実は単一の巨大兵器ではなく、幻獣機の群体であった幻獣機父艦がその艦体を最小単位である幻獣機群に分解し。
再度雷雲形態に移行した状態で放たれた雷の罠により凸凹飛行隊は捕われてしまい、窮地に陥っていた。
が、なんと龍魔力四姉妹は。
ファイティング ウィズ アワエネミー バイ アワセルフ――自分たちの敵と、自分たちで戦う。
その望みを胸に、アラクネによって齎された新たな空飛ぶ法機グライアイ。
その能力により、一度は破られた"目"
それを強化し、再び避けられた誘導銀弾第一陣の後に誘導銀弾第二陣を見舞うことにより。
見事に幻獣機父艦バハムートを、撃破したのである。
が、その直後だった。
突如として現れた、巨竜型エネルギー体。
それは龍男の騎士団旗機・幻獣機アンフィスバエナと騎士ブラックマンの新たな幻獣機ステノーとエウリュアレーである。
「さあて……これより、真の"目"を見せてやろう。ブラックマン!」
「はっ、バーン騎士団長!」
バーンの呼びかけに、ブラックマンも応じる。
「……hccps://baptism.tarantism/、セレクト "目"!」
ブラックマンは、術句を唱えるが。
「英乃、二手乃! 総員散開、あの目に捉えられちゃダメよ!」
――了解だぜ、姉貴! でもまあ、言われなくたって!
――お、お姉様分かったわ!
それを予てより警戒していた夢零は、妹たちに命じてグライアイ三機を散開させる。
「愛三、あなたもできる限り動き回りなさい! 奴らの"目"に捉えられちゃダメよ!」
「わ、分かってるよお姉さん!」
愛三も座乗するゴルゴン旗艦を高速推進させ始める。
「法機戦艦、全速回頭! 魔男めの"目"に捉えられるなど、末代までの恥ですわ!」
凸凹飛行隊が座乗する法機戦艦も動く。
「バーン騎士団長、奴らはコソコソ動き回り始めました!」
「ふん、無駄な足掻きといった所だが……もはや奴らも手詰まりという所だろう! ならば"目"を使うまでもない、そのまま直撃炸裂魔弾を見舞ってやれ!」
「はっ! …… hccps://baptism.tarantism/、セレクト デパーチャー オブ 直撃炸裂魔弾!」
魔法塔華院・龍魔力連合艦隊の動きを見たバーンは、予定を変え。
ブラックマンには"目"を使わずに魔弾攻撃を指示する。
たちまち巨竜エネルギー体尾部に、無数の直撃炸裂魔弾が生成され始める。
と、その時。
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
「……hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「……hccps://crowley.wac/…… セレクト アトランダムデッキ! 星――流星弾!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト 儚き泡!」
「エグゼキュート!!!!」
「ん!? くっ!」
凸凹飛行隊の法機戦艦の第一三連装主砲塔、そして第二砲塔から彼女らの術句詠唱に合わせて技が放たれる。
第一主砲塔からは泡、光線、光線が巨竜エネルギー体へと、また第二砲塔からは何故か熱線が海中へと、それぞれ放たれる。
たちまち光線の一本により、尾部の直撃炸裂魔弾は破壊され。
残りの光線と泡は、巨竜エネルギー体の胴部を直撃する。
「私の魔弾をよくも!」
「心配するなブラックマン。奴らももはや、自棄っぱちという所か。 …… hccps://baptism.tarantism/、セレクト ツインストリーム!」
バーンは、自機たるアンフィスバエナを操り。
たちまち巨竜型エネルギー体の頭部と尾部から、合わせて二つのエネルギー流が放たれる。
それにより頭部から放たれたエネルギー流は、今動き回るゴルゴン旗艦とゴルゴン四番艦の海域を襲う。
「きゃあ! お、お姉さん!」
「め、愛三!」
グライアイ三機もまた、エネルギー流を避けつつ。
夢零はその乗機から、ゴルゴン旗艦に乗る末妹の身を案じる。
――姉貴!
「英乃、グライアイズファングよ! 弾幕を展開しなさい!」
――わ、分かった! …… hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング エグゼキュート!
グライアイの英乃機により、新たな誘導性を与えられた誘導銀弾群が、ゴルゴン旗艦・四番艦より発射され。
それによる弾幕が、アンフィスバエナのエネルギー流の前に展開される。
「ははは! 私の攻撃が……そんなもので防げるかあ!」
「くっ、弾幕が!」
「ひいっ、きゃあ! お姉さん!」
が、エネルギー流は誘導銀弾群の弾幕を瞬く間に爆煙に変え。
再び、ゴルゴン旗艦・四番艦周囲の海域へと到達する。
「ははは! さあ、これで」
「くっ、バーン騎士団長!」
「どうしたブラックマン……ぐっ!」
が、バーンが悦に入っている所へ。
ブラックマンが叫び、それに気づいたバーンも歯軋りする。
なんと巨竜型エネルギー体を直撃していた法機戦艦からの艦砲射撃が、エネルギー幕を突き破り侵食して来たのである。
「おお! やっぱりあんたの儚き泡は効くみたいね雷魔法使夏!」
「……そ、そうでしょ魔女木!」
「ふん、わたくしのサッキングブラッドも効いてましてよ!」
「ああ! そ、そうですマリアナ様!」
青夢らは、この有様を見て喜ぶ。
例によって法使夏の儚き泡が泡の爆発に綻びを生み。
さらに、マリアナのサッキングブラッドによりエネルギーが吸われたことでこれまた綻びが生まれ。
そこを青夢のビクトリー イン オルレアンが突き破ったのである。
いや、それだけではない。
「今よ、ソード・クランプトン!」
「さあて……バーン騎士団長、俺の流星弾もどうぞ!」
青夢の言葉を受けたソードが、叫ぶや。
たちまちクロウリーに接続され何故か第二砲塔よりエネルギーを放たれていた海中から。
エネルギーを内包した岩石弾が湧き出すように飛び出し、今まさにビクトリー イン オルレアンが貫いているエネルギー幕へと全て撃ちつけられる。
「ぐうう!! バーン騎士団長、これではエネルギー幕が保ちません!」
「止むを得まいか……hccps://baptism.tarantism/、セレクト キャンセリング ディフェンス エグゼキュート!」
これでは敵わないと、バーンはエネルギー幕を解除する。
と、その時。
「がああ!」
「ぐああ!」
「!? こいつらはリバイヤサンにボナコン……まさか!」
バーンは突如現れた二機の幻獣機たちを見て驚く。
「じゃあお待たせしたでえ! ……リバイヤさん! ボナコンさん! 合体や! ……セレクト、コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 空飛ぶ法機マルタ! エグゼキュートやねんで!」
「がう!」
「ぐう!」
二機の幻獣機は、たちまち合体し。
そのまま、空飛ぶ法機マルタを形作る。
「来たわね……マルタの魔女!」
青夢はこの有様に、頬を綻ばせる。
「さあて……ここで終わらしたるさかい! 覚悟しいや!」
マルタの魔女――赤音は、満面の笑みを浮かべる。




