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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第三翔 龍魔力財団対空システム
44/193

#43 龍魔力四姉妹の反撃

「お姉さん、お姉さん! 応答して!」

「……ん? あ、あら?」


 ゴルゴン旗艦から聞こえる通信により。

 夢零は、ふと気がつく。


 空賊との戦いが終わり一か月ほど後。

 空戦訓練のため、再び法機母艦(ウィッチーズマザー)に乗艦していた青夢たち凸凹飛行隊だが。


 幻獣機リバイヤサンの出現の報により、出撃を余儀なくされていた。


 が、幻獣機と凸凹飛行隊の交戦中。

 これを離れた場所から見ていた、龍魔力(たちまな)四姉妹の編隊より誘導銀弾が放たれ。


 彼女らとも交戦となる。


 しかし、その最中ミリアとメアリーによる魔男の部隊も攻めて来ており。


 中々に決着のつかぬ膠着状態となっていたのだが。


 突如として龍魔力(たちまな)四姉妹の長姉・夢零(むれい)が発動させた彼女らの専用機・蛇女殺し(ハルペー)に備わる"システム"の真髄。


 彼女ら曰く、"目"。


 それがどれほどのものかは底知れないが。

 果たしてその"目"によって、夢零以外その戦場にいる者は皆動きを封じられ窮地に落ち入る。


 しかし、凸凹飛行隊も魔男も自機の能力により窮地を掻い潜り。


 さらに夢零も勝手な判断により"目"を起動させてしまったことを、実は彼女の"目"付け役だった末妹愛三に咎められ撤退し戦いはひとまず終息した。


 そうして今回、魔法塔華院コンツェルンと龍魔力財団の新システム搭載艦コンペティションに参加した凸凹飛行隊だが。


 そのさなか襲来した超巨大な竜型幻獣機・幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートを前に一同は、動揺する。


 しかし、逆にこれを自社の新システム搭載艦・ゴルゴン艦のいい咬ませ犬になると睨んだ龍魔力四姉妹は。


 そのまま艦搭載のゴルゴンシステムを使い、幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートと交戦するが。


 予想外に幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートの力は強大であり、

 それに対し龍魔力姉妹はついに、"目"――ゴルゴニックアイズを使用。


 幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートを照準と同時に足止めし、これにより止めを刺せると龍魔力姉妹は確信。


 全艦隊より誘導銀弾を放つが。

 幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートは、何と不可能なはずの変形を行なって誘導銀弾を全て回避。


 英乃の座乗するゴルゴン二番艦を自滅に近いやり方で葬ったことを皮切りに、二手乃のゴルゴン三番艦をも敗る。


 そのまま事態を重く見た自衛艦隊も出撃するが、これもあっさりと返り討ちにしてしまった。


 が、その直後に青夢ら凸凹飛行隊擁する法機戦艦の主砲からの攻撃を受ける。


 これを脅威と見た幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)は、再び必殺技形態に移行し。


 そのまま青夢らが自機を接続した法機戦艦と、必殺技撃ち合いとなり。


 かろうじて痛み分けに終わったその戦いだったが、そこへ幻獣機を従える能力を持つ法機使い・魔女辺赤音が攻めて来たために幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)は撤退する。


 そうしてそのひと月ほど後。

 再び現れた幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)を迎え撃つべく、改修された法機戦艦(アームドマギ)一隻とゴルゴン旗艦・四番艦による魔法塔華院・龍魔力連合艦隊が出陣したのであった。


 しかし幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)は同乗させている騎士・ブラックマンによる新兵器・直撃炸(エクスプロージョン)裂魔弾(マジックブレット)により、法機戦艦・ゴルゴン艦らによる攻撃を相殺し。


 さらにゴルゴン艦に搭載されているものと同じ"ゴルゴニックアイズ"を起動し。


 魔法塔華院・龍魔力連合艦隊を照準し、動きを止める。


 が、そこへ。

 海中を法使夏の乗機ルサールカの能力により飛び回る凸凹飛行隊のうち、青夢の乗機ジャンヌダルクより放たれた光線により幻獣機父艦は妨害を受ける。


 かくして幻獣機父艦は、目標を海中に定め。

 さらにはアルカナの予知により、青夢は予知を妨害され。


 更に、それにより幻獣機父艦はアルカナの予知の恩恵も受けて凸凹飛行隊を再照準し出す。


 が、青夢の策により法使夏のルサールカに仕込まれていた不確定要素満載の暴走プログラムが起動し。


 それにより暴れ出し、予知された凸凹飛行隊の行動パターン数が膨大になり処理できなくなったアルカナは、逆に無力化されてしまった。


 それにより幻獣機父艦と凸凹飛行隊は、純粋な力によるぶつかり合いをしていたのだが。


 自分たち自身では戦えないことを、もどかしく思った夢零の呼びかけにより。


 入院中の英乃・二手乃も巻き込む形で、アラクネに導かれていた。


 そうして導かれ、新たな空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)グライアイを得た。


 いや、得たはずだったのだが。


「ゆ、夢……?」


 気がついた夢零が、いる場所。


 そこは、ゴルゴン四番艦内である。

 あれは、夢だったのか――


 が、その時だった。


「さあ、寝ぼけていないで夢零さん! 艦載機のゴルゴニックヘアーは残っているでしょ? それを妹さん方二人の分、計三機カタパルトから発進させて!」

「! あ、アラクネさん?」


 どこからか、アラクネの声が聞こえる。

 その声に後押しされ。


 夢零は艦後部の飛行甲板下、格納庫へと走り出す。


「か、艦長?」

「あなたたち! 至急艦載機ゴルゴニックヘアー三機用意! 私が直々に乗るわ!」

「な、艦長!?」


 司令室の乗組員たちからかけられた声に、夢零は指令を返す。


 そうして再び、格納庫へと急ぐ。


「……hccps://graiae.wac/、サーチ コントローリング 空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)グライアイ! セレクト、グライアイ リブート エグゼキュート!」


 そうして、格納庫に入るなり。

 用意された三機のゴルゴニックヘアーのうち一機に飛び乗り。


 そのまま再起動術句を唱え、グライアイの力を三機にダウンロードする。


 たちまち三機は、光り出し。

 更にそこに、アラクネの幻影が浮かび上がる。


「あ、アラクネさん!」

「ふふふ……さあ、英乃さんも二手乃さんも乗ったわね! ゴルゴン四番艦より発艦よ!」

「え? 英乃と二手乃が?」


 アラクネのこの言葉に、夢零は首を傾げるが。


 ――ああ、準備万端!

 ――え、ええ……怖いですが、頑張ります!


「な……え、英乃! 二手乃!」


 他二機からは、いるはずのない妹たちの声が。


「ふふふ……二人は、意識だけ繋げてのリモート操縦よ! さあ、夢零さんたち!」

「は、はい! ……hccps://graiae.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)グライアイ!!! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)、エグゼキュート!!!」


 アラクネの促しに、夢零とリモートの英乃・二手乃は発進術式を詠唱する。


 それにより艦載機ゴルゴニックヘアー――今やその能力をインストールされて空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)グライアイとなった三機は。


 エレベーターにより順次、飛行甲板に上り。

 そのカタパルトより続々と、発進していく。


 ――姉貴、敵艦……いや、敵艦パーツ群発見!

 ――こ、これからどうしたらいいの夢零お姉様?


 グライアイの英乃機・二手乃機は先行し。

 ちょうど艦体を構成する幻獣機一機毎に分かれた幻獣機父艦に遭遇するが。


 事情が分からない彼女たちは、混乱する。


「落ち着きなさい、英乃、二手乃! すでに読めているわ、敵の手の内は!」


 が、夢零は落ち着き払って妹たちを宥める。


「お、お姉さん! な、何? そこに英乃お姉さんと二手乃お姉さんがいるの? あと、そこに浮かんでいる綺麗なお姉さんは誰?」

「! 愛三……」


 しかし、そこへ。

 愛三からの通信である。


「愛三……今こそ、私たちの反撃の時よ! "ゴルゴニックアイズ"、起動しなさい!」

「え、ええ!?」

「あ、姉貴!?」

「む、夢零お姉様!」


 が、夢零は末妹からの質問には答えず。

 その末妹に、命じる。


 しかし妹たちは、懸念しているようだ。

 一度は破られた、"ゴルゴニックアイズ"。


 それを――


「大丈夫よ! "ゴルゴニックアイズ"とこの空飛ぶ法機グライアイがあれば……ねえ、アラクネさん?」


 が、夢零はそれもよそに。

 アラクネに、尋ねる。


「ええ、その通り! ……さあ、照準するのよ!」


 アラクネは、夢零に嬉々として返す。


「り、りょーかーい! な、何か分からないけど……楽しそー♡ 01CDG/、セレクト、ブーティング "(ゴルゴニックアイズ)"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート!」


 愛三は、今ひとつ呑み込めない様子だが。

 黙って、"ゴルゴニックアイズ"を起動する。


 そうして幻獣機父艦の構成幻獣機群が照準されて足止めされ。


 今に至る。


 ◆◇


「バーン騎士団長!」

「狼狽えるな、ブラックマン! 既に奴らの"ゴルゴニックアイズ"は見切っている!」


 再び、輸送幻獣機バハムーティックスパルトイ内部・司令室。


 ブラックマンの怯えを聞きつつもバーンは、動じていない。


 そう、既に一度回避した攻撃。

 二度使って来るとは、愚かな。


 バーンの心には、嘲笑が湧き起こる。


「全艦、回避に備えよ!」

「はっ!」


 バーンの指令に、操艦を担当する全騎士の返事が返る。


「ブラックマン、回避後こちらも"ゴルゴニックアイズ"を発動する! 奴らの紛い物などに、目に物見せてやれ!」

「了解!」


 バーンはさらに、ブラックマンに指令を下し。

 彼も構えを取る。


 さあ、来るがいい――


 ◆◇


「……hccps://graiae.wac/pemphredo、セレクト グライアイズアイ! ……さあ、来なさい魔男! 英乃、グライアイズファング用意!」


 ――了解、姉貴! hccps://graiae.wac/enyo、セレクト グライアイズファング!


 その間、龍魔力四姉妹は。


 夢零も新たに戦闘準備に入る中、英乃機に命じる。

 英乃も、戦闘態勢に入る。


 ――む、夢零お姉さん! 私は


「二手乃、あなたは控え役よ! 今は力を温存しておきなさい。」


 ――は、はい!


 夢零は更に、次妹にも命じる。


「そう、それでいいの。後は……頑張ってね!」

「は、はい! ありがとうアラクネさん……」


 アラクネは最後に微笑みを残して。

 姿を消す。


 そして。


「今よ愛三! やっておしまいなさい!」

「はいはーい! ……セレクト、デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット) エグゼキュート! やっちゃえ!」


 末妹に命じ。

 これにより、ゴルゴン旗艦とゴルゴン四番艦から放たれた誘導銀弾(シルバーブレット)群は、まっすぐ幻獣機父艦構成幻獣機群へと向かって行き――


「ははは、再び引っかかったな! ……hccps://baptism.tarantism/、セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 各個(フォーメーショ)形態(ンロンリネス) エグゼキュート!」


 が、バーンは嬉々として。

 再び各個(フォーメーショ)形態(ンロンリネス)――幻獣機父艦の構成幻獣機毎に分離し、再び龍魔力の"ゴルゴニックアイズ"を破る形で散開する。


 そうしてそのまま、やって来た誘導銀弾群を回避する。


「さあ、ブラックマン!」

「は、はい!」


 そのまま勝利を確信したバーンが促し。

 それを受けたブラックマンが、"ゴルゴニックアイズ"の術式を唱えようとする。


 しかし、その時だった。


 ――ひ、ひいっ! 敵法母が、幻獣機毎に分かれた?


「……やはり来たわね、エグゼキュート! ……セレクト、ロッキング オン アワ エネミーズ エグゼキュート! 英乃!」


 ――応、姉貴! ……エグゼキュート!


「うわあ! えっ? か、勝手に誘導銀弾が発射された!?」


 二手乃は驚くが。

 夢零と英乃は、すかさず用意していた各術式を発動する。


 たちまち、夢零機のグライアイズアイにより新たに照準された幻獣機父艦の構成幻獣機群に。


 二手乃機のグライアイズファングにより、新たな誘導性を付加された誘導銀弾第二陣がゴルゴン旗艦・ゴルゴン四番艦から発射される。


「な!?」

「何!? ば、バーン騎士団長!」

「くっ、か、回避い!」


 これはさすがに想定していなかったバーンは。

 急ぎ回避を命じるが、既にゴルゴン旗艦・四番艦に自ら突っ込む形になっていた構成幻獣機群は時すでに遅し。


 そのまま回避は間に合わず、誘導銀弾第二陣を食らった幻獣機より餌食になっていく。


「だ、第三居住区構成機群壊滅!」

「第二居住区構成機群も壊滅!」

「第四戦闘区画構成機群壊滅!」

「ば、バーン騎士団長!」

「くっ……ははは、ははは!」


 次々と齎されていく、構成機群壊滅の報に。

 バーンはもはや笑うしかないとばかり笑う。


 が、かと思えば。

 次にはまた、ふと笑いを止める。


「……案じるな、ブラックマン! これは私たちに与えられた最後の機会! 死んでも離しはしない…… サーチ・デパーチャー・オブ・幻獣機(エイドローン)アンフィスバエナ、エグゼキュート!」

「ば、バーン騎士団長……」


 バーンの強がりか、それとも真にまだある手を使っての足掻きかは定かではない術式の詠唱が響くが。


 そんな中幻獣機父艦バハムートの構成幻獣機群は、爆発に呑まれていく。


 ◆◇


「悔しいけれど……どうやら、一矢報いることはできてってことね!」

「ええ、すごいです……」

「バーン騎士団長、ありがとうございました……」


 一方、凸凹飛行隊は。

 戦場から離れた所に待機させていた法機戦艦(アームドマギ)に帰艦し、この戦いを見守っていた。


「くっ、結局私は何もできなかったか……でもせめて! …… hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート!」


 他の面々をよそに、青夢は。

 せめて助けられそうな魔男の騎士を捜そうと、妨害のなくなった予知を使う。


 が、その時だった。


「! ま、まさか! ……もしもし、夢零さん? こちら凸凹飛行隊・魔女木! 大変なの夢零さん!」

「? な、何を言ってらして魔女木さん?」

「何やってんの魔女木?」

「何事だ?」


 青夢は予知で得た情報を、夢零に伝えようとして。

 事情が分からない凸凹飛行隊他のメンバーは困惑しているが。


「もしもし、こちら夢零! ……了解、魔女木さん。……hccps://graiae.wac/pemphredo、セレクト グライアイズアイ エグゼキュート! ……こ、これは!?」


 夢零は情報を得て、再び敵の爆発を分析する。

 しかし、それにより彼女も困惑する。


 何と、爆発の中から。

 突如として、光り輝く巨大な龍を象ったエネルギー体が飛び出し。


 中には、恐らく中核を成す幻獣機が三機並んでいる。


「ふふふ……魔女共よ! よくも私をここまで追い詰めてくれたな、だが。これからは我が機アンフィスバエナと! ブラックマンに新たに与えられた幻獣機ステノー・エウリュアレーの力でもって! 今度こそ、引導を渡させてもらおう……」

「はい、バーン騎士団長!」


 エネルギー体内の、各機体に騎乗するバーンとブラックマンは。


 怒りを胸に、魔法塔華院・龍魔力連合艦隊を見下ろす。

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