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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第三翔 龍魔力財団対空システム
43/193

#42 その名はグライアイ

「……今よ凸凹飛行隊! そこから早く出なさい!」

「む、夢零さん!」

「癪だけれど……止むを得なくってよ!」

「は、はいマリアナ様!」

「出るぞ!」


 夢零の言葉に、凸凹飛行隊は。

 止むを得ないとばかり、囚われていた幻獣機スパルトイ群――幻獣機父艦バハムートのパーツとなっていたものの中から出て行く。


 が。


「くっ、ま、マリアナ様!」

「!? くっ、クロウリーが!」

「なっ…… hccps://camilla.wac/、サーチ アサルト オブ ウィッチエアクラフト・カーミラ! セレクト、ザ ファング オブ バンパイア エグゼキュート!」

「くう、無理させすぎたかな?」


 敵機群から出るや否や、法使夏のルサールカとソードのクロウリーは墜落しそうになり。


 マリアナのカーミラによる力で、どうにか持ち堪える。


 この二機は、青夢のジャンヌダルクやマリアナのカーミラとは違いまだ通常機体がベースである。


 耐久性は、そこまで高くない。


 空賊との戦いが終わり一か月ほど後。

 空戦訓練のため、再び法機母艦(ウィッチーズマザー)に乗艦していた青夢たち凸凹飛行隊だが。


 幻獣機リバイヤサンの出現の報により、出撃を余儀なくされていた。


 が、幻獣機と凸凹飛行隊の交戦中。

 これを離れた場所から見ていた、龍魔力(たちまな)四姉妹の編隊より誘導銀弾が放たれ。


 彼女らとも交戦となる。


 しかし、その最中ミリアとメアリーによる魔男の部隊も攻めて来ており。


 中々に決着のつかぬ膠着状態となっていたのだが。


 突如として龍魔力(たちまな)四姉妹の長姉・夢零(むれい)が発動させた彼女らの専用機・蛇女殺し(ハルペー)に備わる"システム"の真髄。


 彼女ら曰く、"目"。


 それがどれほどのものかは底知れないが。

 果たしてその"目"によって、夢零以外その戦場にいる者は皆動きを封じられ窮地に落ち入る。


 しかし、凸凹飛行隊も魔男も自機の能力により窮地を掻い潜り。


 さらに夢零も勝手な判断により"目"を起動させてしまったことを、実は彼女の"目"付け役だった末妹愛三に咎められ撤退し戦いはひとまず終息した。


 そうして今回、魔法塔華院コンツェルンと龍魔力財団の新システム搭載艦コンペティションに参加した凸凹飛行隊だが。


 そのさなか襲来した超巨大な竜型幻獣機・幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートを前に一同は、動揺する。


 しかし、逆にこれを自社の新システム搭載艦・ゴルゴン艦のいい咬ませ犬になると睨んだ龍魔力四姉妹は。


 そのまま艦搭載のゴルゴンシステムを使い、幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートと交戦するが。


 予想外に幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートの力は強大であり、

 それに対し龍魔力姉妹はついに、"目"――ゴルゴニックアイズを使用。


 幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートを照準と同時に足止めし、これにより止めを刺せると龍魔力姉妹は確信。


 全艦隊より誘導銀弾を放つが。

 幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートは、何と不可能なはずの変形を行なって誘導銀弾を全て回避。


 英乃の座乗するゴルゴン二番艦を自滅に近いやり方で葬ったことを皮切りに、二手乃のゴルゴン三番艦をも敗る。


 そのまま事態を重く見た自衛艦隊も出撃するが、これもあっさりと返り討ちにしてしまった。


 が、その直後に青夢ら凸凹飛行隊擁する法機戦艦の主砲からの攻撃を受ける。


 これを脅威と見た幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)は、再び必殺技形態に移行し。


 そのまま青夢らが自機を接続した法機戦艦と、必殺技撃ち合いとなり。


 かろうじて痛み分けに終わったその戦いだったが、そこへ幻獣機を従える能力を持つ法機使い・魔女辺赤音が攻めて来たために幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)は撤退する。


 そうしてそのひと月ほど後。

 再び現れた幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)を迎え撃つべく、改修された法機戦艦(アームドマギ)一隻とゴルゴン旗艦・四番艦による魔法塔華院・龍魔力連合艦隊が出陣したのであった。


 しかし幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)は同乗させている騎士・ブラックマンによる新兵器・直撃炸(エクスプロージョン)裂魔弾(マジックブレット)により、法機戦艦・ゴルゴン艦らによる攻撃を相殺し。


 さらにゴルゴン艦に搭載されているものと同じ"ゴルゴニックアイズ"を起動し。


 魔法塔華院・龍魔力連合艦隊を照準し、動きを止める。


 が、そこへ。

 海中を法使夏の乗機ルサールカの能力により飛び回る凸凹飛行隊のうち、青夢の乗機ジャンヌダルクより放たれた光線により幻獣機父艦は妨害を受ける。


 かくして幻獣機父艦は、目標を海中に定め。

 さらにはアルカナの予知により、青夢は予知を妨害され。


 更に、それにより幻獣機父艦はアルカナの予知の恩恵も受けて凸凹飛行隊を再照準し出す。


 が、青夢の策により法使夏のルサールカに仕込まれていた不確定要素満載の暴走プログラムが起動し。


 それにより暴れ出し、予知された凸凹飛行隊の行動パターン数が膨大になり処理できなくなったアルカナは、逆に無力化されてしまった。


 それにより幻獣機父艦と凸凹飛行隊は、純粋な力によるぶつかり合いをしていたのだが。


 実は単一の巨大兵器ではなく、幻獣機の群体であった幻獣機父艦がその艦体を最小単位である幻獣機群に分解し。


 再度雷雲形態に移行した状態で放たれた雷の罠(ケラウノスネット)により凸凹飛行隊は捕われてしまい、窮地に陥っていた。


 しかし、なんと。


「……hccps://graiae.wac/pemphredo、セレクト グライアイズアイ、エグゼキュート! ……よし、愛三。凸凹飛行隊は敵機群から脱出したわ!」

「りょーかい、お姉さん!」


 突如として龍魔力姉妹のゴルゴン旗艦とゴルゴン四番艦は、"ゴルゴニックアイズ"を起動し。


 分離した幻獣機父艦の、パーツ群を足止めして凸凹飛行隊を救ったのだった。


「ば、バーン騎士団長!」

「くっ、奴らめ……しかし、あの女の姿は。」


 バーンとブラックマンが、司令室を為す輸送幻獣機バハムーティックスパルトイの中から睨む先には。


 ゴルゴン旗艦と四番艦の上空を飛ぶ三機のゴルゴン艦載機・ゴルゴニックヘアー。


 その内一機は、夢零が操る機体だ。


 更には。


 アラクネの幻影も、上空に浮かんでいた。


 ◆◇


「(私たちの"ゴルゴニックアイズ"が効かない以上、できることはせいぜい囮だけ……だけど! やはり仇はこの手で撃ちたい……英乃、二手乃! あなたたちもそうでしょう? さあ……私たちで!)」


 ゴルゴン四番艦では、夢零が。

 未だ囮ではなく、直接妹たちの仇を取るという執念を燃え上がらせていた。


 時は、凸凹飛行隊がオペレーション後手後手を発動させる少し前に遡る。


 当初の予定通り、夢零と愛三は。

 囮となる幻獣機父艦に向け、ゴルゴン旗艦と四番艦から誘導銀弾(シルバーブレット)を撃ちまくっていた。


「ふん、所詮は紛い物のゴルゴンが! ……ブラックマン、直撃炸(エクスプロージョン)裂魔弾(マジックブレット)であの龍魔力財団の艦から先に焼き尽くしてしまえ!」

「はっ! ……hccps://baptism.tarantism/」


 幻獣機父艦では、これにより目標がゴルゴン旗艦・四番艦に変わり。


 バーンの命令を受けたブラックマンが、直撃炸(エクスプロージョン)裂魔弾(マジックブレット)術式の詠唱を開始した、その時だった。


「(神よ……私たちにもお力を!) サーチ! ファイティング ウィズ アワエネミー バイ アワセルフ!」

「姉……貴! ……サーチ! ファイティング ウィズ アワエネミー バイ アワセルフ!」

「お姉、様……サーチ! ファイティング ウィズ アワエネミー バイ アワセルフ!」


 夢零も、そして病院で傷に呻く英乃・二手乃も。

 何かの偶然か、はたまた心が通じ合ったのか。


 同じ望みを、口にする。


 ファイティング ウィズ アワエネミー バイ アワセルフ――自分たちの敵と、自分たちで戦う。


 その望みを。


「セレクト、デパーチャー オブ 直撃炸(エクスプロージョン)裂魔弾(マジックブレット)!」


 そしてブラックマンも、直撃炸(エクスプロージョン)裂魔弾(マジックブレット)術式の詠唱を完了する。


 そして。


「!? な、何これは!」

「ん!?」

「な、ななな何これー!」


 夢零・英乃・二手乃は。

 未だ経験したこともない感覚を、味わう――


 ◆◇


「ん……?」

「な、何だ姉貴ここは!?」

「お、お姉様あ!」


 夢零・英乃・二手乃はふと、目を覚ます。

 ここは、どこか。


 見れば、真っ暗な空間に。

 光の線で繋がれた網のようなものが下に見える。


 ここは――


「ようこそ……ダークウェブへ。」

「!? ……あ、あなたは?」

「な……」

「ま、まあ……」


 もはや毎度お馴染みと言うべきか、ここはダークウェブ。


 そしてふと声をかけられ、夢零たちは面食らう。

 そこにいたのは。


 何やら闇の中に浮かび上がる、女性の上半身。


「……きれい。」

「……ありがとう。私はアラクネ、さああなたたちの望みをもう一度。」

「……え?」


 その女性――アラクネは優しく微笑む。


「と、というかここって……」

「ま、まさか……天国!? て、天国なの英乃お姉様!」


 英乃と二手乃は、大いに取り乱す。

 まあ、二人とも重傷で入院中の身であり死に敏感なのは止むを得ない事態だが。


「落ち着きなさい、我が妹たちよ! 私がいるでしょ!」


 夢零は場を治めるべく、叫ぶ。


「あ、姉貴! 姉貴もお亡くなりになっちまったのか……?」

「む、夢零お姉様ー!」

「いや……結局そこに結びつけるの〜!?」


 が、むしろ場は混乱していく。

 これには夢零も、お手上げ状態である。


「まあまあ、そう慌てないで。」

「はっ! そ、そうか……ここは天国、あなたは天使様あ〜?」

「そ、そうよ英乃お姉様! あなたは天使様〜!」


 新たに宥めに入るは、アラクネだが。

 やはり死の恐怖に取り憑かれた英乃と二手乃は、死後世界観で彼女を見てしまう。


「だ、だからあなたたちねえ! そんな」

「えいっ! 捕まえた。」

「!」

「えっ……て、天使様……?」


 が、かつてのマリアナやソード、法使夏の時と同じく。


 アラクネは、英乃と二手乃を抱きしめる。


「ふふふ、かつてあの凸凹飛行隊の皆がここへ来た時と同じね。すぐには事態を呑み込めない。……でもね、あなたたちはまだ生きている。そしてあなたたちやそこの夢零さんには、強い望みがある。」

「えっ……」

「の、望み……?」


 アラクネの言葉に、英乃と二手乃は首を傾げるが。


「ええ、アラクネさんとやら。……私の、いや私たちの望みはただ一つ。……私たち自身の手で、私たちの敵を倒すこと!」

「あっ……そうか。」

「そ、そうね夢零お姉様!」


 夢零の言葉に英乃も二手乃も、はっとする。


 自分たちの敵と、自分たちで戦う。

 自分たちの敵――すなわち、魔男の擁する巨大兵器・幻獣機父艦。


「そうね、だけど……本当にそれだけかしら?」

「え?」

「何?」

「ど、どういうことです?」


 が、アラクネは。

 それでは足りないとばかり、夢零らに問いかける。


「あなたたちは、皆……お母様の、元子さんの跡を継ぎたいと思っていたんじゃない?」

「! な……私や愛三はともかく、英乃、二手乃。あなたたちも?」


 アラクネの言葉に驚いた夢零は、英乃と二手乃を見る。


 二人は図星とばかり、目を逸らす。


「そ、そうだな……姉貴! あたしも、姉貴や愛三には及ばないかもしれないけどそれでも……母さんの後を継ぎたいって思ってた!」


 が、英乃はすぐに夢零の方を向き。

 自分の気持ちを口にする。


「わ、私も……お母様の跡を継ぎたい! お姉様たちや愛三には及ばなくても!」


 二手乃も負けじとばかり、自分の気持ちを口にする。


「そうね、はいよくできました! ……でも、まだそれだけじゃないでしょう? 例えば……夢零さん! ここにいない娘のことはどうかしら?」

「! そ、それは……」


 アラクネは英乃と二手乃の答えに納得し。

 次には、夢零に水を向ける。


「そうね、私は……」


 夢零は、気持ちが口に出かかる。

 しかし、英乃と二手乃の姿が目に入り。


 その言葉を口に出すことを、躊躇う。


「あ、姉貴?」

「む、夢零お姉様?」


 夢零の視線を感じ、妹たちは首を傾げる。

 が、夢零は意を決して。


「私は……私は! あなたたちに続いて愛三まで、危険な目に遭わせたくない!」

「! あ、姉貴……」

「夢零お姉様……」


 その言葉に英乃と二手乃は、感じ入る。

 姉が、そんなことを考えていたとは。


「あなたたちだって、正直を言えば……もう、危険な目には!」


 夢零は、妹たちに叫ぶ。

 こんなことを、妹たち自身に言ってもいいものかどうか。


 そんな葛藤があってのことだった。

 すると。


「何だよ姉貴……そんなの、あたしだって同じだよ!」

「えっ……?」

「そ、そうよ夢零お姉様! わ、私だって」

「え、英乃……二手乃……」


 夢零は一本取られた思いだった。

 なるほど、この二人も。


 人の姉だったのだ。


「ふふふ……そうね、微笑ましいわ! そう、だから。龍魔力の跡継ぎの座は、今後ここにいない愛三ちゃんも含めた四人で、()()()()実力で争うといいわ!」

「せ、正々堂々ね……」


 感心したアラクネの、その言葉に。

 夢零は、少し自分を恥じ入る所があった。


 ―― 見ていなさい愛三……あなたに手柄は取らせやしない、隙を見て妨害工作を施すまでよ!


 かつて、ここにはいない末妹を陥れようなどと画策した、あの時のことだ。


 アラクネは、それを知っていたのかどうか。


「さあ、お三方! そんな姉妹の気持ちを確認し合った所で……さあ、もう一度あなたたちの願いを!」

「は、はい!!! ……hccps://baptism.tarantism/、サーチ! ファイティング ウィズ アワエネミー バイ アワセルフ!!!」


 その表情からは何も読み取れないが、龍魔力姉妹に再び検索術句を唱えさせる。


 すると。


「え? ……こ、これ!?」

「な、何です?」

「こ、これは……」


 三人の前に、URLが浮かび上がる。


 hccps://graiae.wac/。


「あなたたちに与えられる力・空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)グライアイ。……さあ、お三方!」

「は、はい! ……いくわよ英乃、二手乃!」

「お、おう!」

「は、はい!」


 アラクネの呼びかけに、夢零・英乃・二手乃はURLを見つめ。


 そのまま、唱え始める。


「セレクト、hccps://graiae.wac/! ダウンロード!!!」


 三人による、同時詠唱である。

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