#40 オペレーション後手後手
「おやおや……あの青夢って子中々やりよるやないか!」
赤音は戦場の外よりその有様を見て、感心する。
空賊との戦いが終わり一か月ほど後。
空戦訓練のため、再び法機母艦に乗艦していた青夢たち凸凹飛行隊だが。
幻獣機リバイヤサンの出現の報により、出撃を余儀なくされていた。
が、幻獣機と凸凹飛行隊の交戦中。
これを離れた場所から見ていた、龍魔力四姉妹の編隊より誘導銀弾が放たれ。
彼女らとも交戦となる。
しかし、その最中ミリアとメアリーによる魔男の部隊も攻めて来ており。
中々に決着のつかぬ膠着状態となっていたのだが。
突如として龍魔力四姉妹の長姉・夢零が発動させた彼女らの専用機・蛇女殺しに備わる"システム"の真髄。
彼女ら曰く、"目"。
それがどれほどのものかは底知れないが。
果たしてその"目"によって、夢零以外その戦場にいる者は皆動きを封じられ窮地に落ち入る。
しかし、凸凹飛行隊も魔男も自機の能力により窮地を掻い潜り。
さらに夢零も勝手な判断により"目"を起動させてしまったことを、実は彼女の"目"付け役だった末妹愛三に咎められ撤退し戦いはひとまず終息した。
そうして今回、魔法塔華院コンツェルンと龍魔力財団の新システム搭載艦コンペティションに参加した凸凹飛行隊だが。
そのさなか襲来した超巨大な竜型幻獣機・幻 獣 機 父艦バハムートを前に一同は、動揺する。
しかし、逆にこれを自社の新システム搭載艦・ゴルゴン艦のいい咬ませ犬になると睨んだ龍魔力四姉妹は。
そのまま艦搭載のゴルゴンシステムを使い、幻 獣 機 父艦バハムートと交戦するが。
予想外に幻 獣 機 父艦バハムートの力は強大であり、
それに対し龍魔力姉妹はついに、"目"――ゴルゴニックアイズを使用。
幻 獣 機 父艦バハムートを照準と同時に足止めし、これにより止めを刺せると龍魔力姉妹は確信。
全艦隊より誘導銀弾を放つが。
幻 獣 機 父艦バハムートは、何と不可能なはずの変形を行なって誘導銀弾を全て回避。
英乃の座乗するゴルゴン二番艦を自滅に近いやり方で葬ったことを皮切りに、二手乃のゴルゴン三番艦をも敗る。
そのまま事態を重く見た自衛艦隊も出撃するが、これもあっさりと返り討ちにしてしまった。
が、その直後に青夢ら凸凹飛行隊擁する法機戦艦の主砲からの攻撃を受ける。
これを脅威と見た幻 獣 機 父艦は、再び必殺技形態に移行し。
そのまま青夢らが自機を接続した法機戦艦と、必殺技撃ち合いとなり。
かろうじて痛み分けに終わったその戦いだったが、そこへ幻獣機を従える能力を持つ法機使い・魔女辺赤音が攻めて来たために幻 獣 機 父艦は撤退する。
そうしてそのひと月ほど後。
再び現れた幻 獣 機 父艦を迎え撃つべく、改修された法機戦艦一隻とゴルゴン旗艦・四番艦による魔法塔華院・龍魔力連合艦隊が出陣したのであった。
しかし幻 獣 機 父艦は同乗させている騎士・ブラックマンによる新兵器・直撃炸裂魔弾により、法機戦艦・ゴルゴン艦らによる攻撃を相殺し。
さらにゴルゴン艦に搭載されているものと同じ"目"を起動し。
魔法塔華院・龍魔力連合艦隊を照準し、動きを止める。
が、そこへ。
海中を法使夏の乗機ルサールカの能力により飛び回る凸凹飛行隊のうち、青夢の乗機ジャンヌダルクより放たれた光線により幻獣機父艦は妨害を受ける。
かくして幻獣機父艦は、目標を海中に定め。
さらにはアルカナの予知により、青夢は予知を妨害され。
更に、それにより幻獣機父艦はアルカナの予知の恩恵も受けて凸凹飛行隊を再照準し出す。
が、その時だった。
「ぐ……ぐうう!」
その予知を行うべき、アルカナは。
不確定要素の強いプログラムを組み込まれた空飛ぶ法機ルサールカの動きを先読みしようとするも、不確定要素であるが故に。
何千、何万という動きのパターンが、アルカナの脳内へと大挙して押し寄せていた。
「何……だ、何だこれはああ!」
「があ……がああ!」
「わ、我が機ディアボロス……も、申し訳ございません……うっ!」
アルカナと呼応するかのごとく、その乗機ディアボロスも苦悶の咆哮を上げる。
「おのれ……まさか、あの小娘――魔女木青夢の仕業か!」
アルカナは、恨めしげに声を上げる。
◆◇
「な、何をする気なの魔女木!」
「安心しな、雷魔法使夏! ……この私が、責任持って救うから! …… hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート!」
「くっ……魔女木さんこれは!?」
「何をする、魔女木!」
一方、当の凸凹飛行隊もてんやわんやである。
突如暴れ出した、ルサールカの機体。
しかし青夢は落ち着き払いつつ、自機ジャンヌダルクの予知能力オラクル オブ ザ バージンでもって行動パターンの予知に努めつつルサールカを宥め透かし。
後続のカーミラ、クロウリーと同じく海中を突き進んでいる。
「魔法塔華院マリアナも、プランクトンも遅れるんじゃないわよ!」
「ふ、ふん! 誰が遅れをとるですって?」
「舐めるな!」
マリアナとソードも何のこれしきとばかり、必死に喰らい付く。
「分かったよ、お父さん……そうそう簡単に、"全ての人を救う"なんてことできっこない! やるには……とにかく、足掻き続けるしかないんだって!」
青夢にはもはや、迷いはない。
アルカナに比べ、使いこなせていない予知能力ならばノイズには悩まされないが。
やはり予知できる動きは、ごく限られており。
後は、勘と運が全てだ。
「くっ……魔女木青夢、これは貴様の策か!」
アルカナは聞こえないと分かってか、或いは情報の流入により錯綜したのか定かではないが。
青夢へと問いかける。
「ふっ……私の妨害をしていた奴、聞こえてる? 今、お苦しみのところかしら?」
果たして、偶然か。
青夢もまた、時同じくしてアルカナに問いかけていた。
「策なんて大層なものじゃないけど……言葉を一つ教えて上げる! 『策士策に溺れる』ってね!」
「な、何!?」
混乱する思考の中、青夢の言葉はアルカナに届く。
青夢の予知はまだ未熟であるため、今多大な情報により混線しているアルカナ側の言葉は届かない。
いや、届かないはずだったのだが――
「こんなの策略なんかじゃないわ、小細工で倒せると思ったら大間違いよ……さあ、来なさい! 策を弄してばかりのもやしっ子、この凸凹飛行隊が直接殴り合ってあげる!」
「ふん、その言葉そっくりそのままお返ししよう……バーン殿! もはや"目"は使えぬ、ならば幻獣機父艦を直接あの小娘たちや裏切りの騎士にぶつけてやれ!」
さながら、会話のごとく。
二人はその意地をぶつけ合う。
「ま、魔女木さん?」
「ち、ちょっと魔女木?」
「魔女木青夢、一体何を言っている?」
青夢のアルカナへの台詞に、事情が分からない凸凹飛行隊の面々は困惑している。
しかし青夢は、彼らを話題からは置き去りのまま。
「さあ、行きましょう皆! ……その名も、オペレーション後手後手! 始動よ!」
有無を言わさぬ勢いである。
「もう……後でちゃんと説明してよ魔女木!」
「今は他に策がない、止むを得なくってよ魔女木さん!」
「後手後手……ふん、馬鹿は馬鹿らしくその場その場の勢いか、悪くはない!」
これには口々に文句を言いつつも。
止むなく、青夢について行く。
「!? この声はアルカナ殿? 何、"目"は使えぬ? 何故そんなことをアルカナ殿が?」
一方幻獣機父艦バハムートでは。
急に聞こえて来たアルカナの声に、バーンも困惑する。
アルカナは苦しみのあまり、彼らにも魔男の円卓にも内密に戦場に来て予知した情報をバーンやブラックマンに伝えていたことを失念しているのだ。
「な、アルカナ殿が? ……しかしバーン騎士団長、確かにこのままでは"目"は使えません。これでは埒が」
「ううむ……」
バーンはブラックマンからも言葉を受け、考え込む。
如何に今の言葉が怪しかろうと、現に凸凹飛行隊を捕捉できていないのは事実である。
今は敵の攻撃を防げているとはいえ、このままではこちらがいずれジリ貧だ。
「……幻獣機父艦、回頭! 全艦群生形態へ移行、これより凸凹飛行隊共にこの幻獣機父艦直々に格闘戦と洒落込もう!」
「り、了解! ……hccps://baptism.tarantism/、セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群生形態 エグゼキュート!」
「くっ、またゴルゴン艦二隻より誘導銀弾多数!」
「! いや、まて……回頭止め、目標をあの艦二隻に定めよ!」
「り、了解!」
が、幻獣機父艦は。
形態を変えつつ、目標も龍魔力姉妹へと変える。
「やった、喰いついたお姉さん!」
「ええ……さあ、龍魔力姉妹の誇りにかけて! 私たちは一歩も引かないわ、おいでなさい!」
ゴルゴン旗艦・四番艦は誘導銀弾をあるだけ撃ち。
尽く幻獣機父艦を引き寄せることに成功する。
が、夢零は。
「(私たちの"目"が効かない以上、できることはせいぜい囮だけ……だけど! やはり仇はこの手で撃ちたい……英乃、二手乃! あなたたちもそうでしょう? さあ……私たちで!)」
未だに、囮ではないやり方で幻獣機父艦を撃つことを諦めていなかった。
◆◇
「……くっ、姉貴……」
「お姉、様……」
「!? 英乃、二手乃!」
その頃、病院では。
重傷で伏せりながらも、口を懸命に動かして意思を伝え出した娘たちに。
母の元子は、涙を流す。




