#39 不確定な予知
「くっ……見え……ない!」
青夢は一人、苦しむ。
乗機ジャンヌダルクの予知能力、オラクル オブ ザ バージン。
それが激しいノイズのために使えなくなっているためである。
空賊との戦いが終わり一か月ほど後。
空戦訓練のため、再び法機母艦に乗艦していた青夢たち凸凹飛行隊だが。
幻獣機リバイヤサンの出現の報により、出撃を余儀なくされていた。
が、幻獣機と凸凹飛行隊の交戦中。
これを離れた場所から見ていた、龍魔力四姉妹の編隊より誘導銀弾が放たれ。
彼女らとも交戦となる。
しかし、その最中ミリアとメアリーによる魔男の部隊も攻めて来ており。
中々に決着のつかぬ膠着状態となっていたのだが。
突如として龍魔力四姉妹の長姉・夢零が発動させた彼女らの専用機・蛇女殺しに備わる"システム"の真髄。
彼女ら曰く、"目"。
それがどれほどのものかは底知れないが。
果たしてその"目"によって、夢零以外その戦場にいる者は皆動きを封じられ窮地に落ち入る。
しかし、凸凹飛行隊も魔男も自機の能力により窮地を掻い潜り。
さらに夢零も勝手な判断により"目"を起動させてしまったことを、実は彼女の"目"付け役だった末妹愛三に咎められ撤退し戦いはひとまず終息した。
そうして今回、魔法塔華院コンツェルンと龍魔力財団の新システム搭載艦コンペティションに参加した凸凹飛行隊だが。
そのさなか襲来した超巨大な竜型幻獣機・幻 獣 機 父艦バハムートを前に一同は、動揺する。
しかし、逆にこれを自社の新システム搭載艦・ゴルゴン艦のいい咬ませ犬になると睨んだ龍魔力四姉妹は。
そのまま艦搭載のゴルゴンシステムを使い、幻 獣 機 父艦バハムートと交戦するが。
予想外に幻 獣 機 父艦バハムートの力は強大であり、
それに対し龍魔力姉妹はついに、"目"――ゴルゴニックアイズを使用。
幻 獣 機 父艦バハムートを照準と同時に足止めし、これにより止めを刺せると龍魔力姉妹は確信。
全艦隊より誘導銀弾を放つが。
幻 獣 機 父艦バハムートは、何と不可能なはずの変形を行なって誘導銀弾を全て回避。
英乃の座乗するゴルゴン二番艦を自滅に近いやり方で葬ったことを皮切りに、二手乃のゴルゴン三番艦をも敗る。
そのまま事態を重く見た自衛艦隊も出撃するが、これもあっさりと返り討ちにしてしまった。
が、その直後に青夢ら凸凹飛行隊擁する法機戦艦の主砲からの攻撃を受ける。
これを脅威と見た幻 獣 機 父艦は、再び必殺技形態に移行し。
そのまま青夢らが自機を接続した法機戦艦と、必殺技撃ち合いとなり。
かろうじて痛み分けに終わったその戦いだったが、そこへ幻獣機を従える能力を持つ法機使い・魔女辺赤音が攻めて来たために幻 獣 機 父艦は撤退する。
そうしてそのひと月ほど後。
再び現れた幻 獣 機 父艦を迎え撃つべく、改修された法機戦艦一隻とゴルゴン旗艦・四番艦による魔法塔華院・龍魔力連合艦隊が出陣したのであった。
しかし幻 獣 機 父艦は同乗させている騎士・ブラックマンによる新兵器・直撃炸裂魔弾により、法機戦艦・ゴルゴン艦らによる攻撃を相殺し。
さらにゴルゴン艦に搭載されているものと同じ"目"を起動し。
魔法塔華院・龍魔力連合艦隊を照準し、動きを止める。
が、そこへ。
海中を法使夏の乗機ルサールカの能力により飛び回る凸凹飛行隊のうち、青夢の乗機ジャンヌダルクより放たれた光線により幻獣機父艦は妨害を受ける。
かくして幻獣機父艦は、目標を海中に定め。
未だに断続的に続く光線を受けつつも、反撃を狙っていた。
そうして青夢が、更に敵の弱点を探ろうと予知能力を使った際。
やはり前より悩みの種であったノイズが走り、今に至る。
「魔女木さん何をしているの! まだまだビクトリー イン オルレアンとやらを放ち続けなければならなくってよ!」
「わ、分かっているわよ魔法塔華院マリアナ!」
青夢はオラクル オブ ザ バージンによる予知の試みを止め。
「hccps://jehannedarc.wac/、セレクト ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」
再度、海中を移動する水流内より光線を放つ。
「奴らめ、そうそう同じ技ばかり喰らうと思うな! ……セレクト、ファイヤリング 雷の罠! エグゼキュート!」
しかしバーンも、負けじとばかり。
そのまま、幻獣機父艦に命じる。
たちまち命令を受けた、雷雲形態の幻獣機父艦は。
雷霆を周囲に纏い、光線を受け止める。
たちまち光線は、パーツ群に分かれた幻獣機父艦に命中する前に爆発する。
「くっ、ビクトリー イン オルレアンも無効化して来た!?」
青夢は驚く。
既に、敵も学んでいるということか。
「よし……ブラックマン! 奴らを」
「…… 01CDG/、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!」
「…… 04CDG/、デパーチャー オブ 誘導銀弾エグゼキュート!」
「き、騎士団長! ゴルゴン艦隊より誘導銀弾多数飛来!」
「ふん、雷の罠で防げ! さあブラックマン、あの三隻の敵連合艦隊諸共海中の凸凹飛行隊を照準せよ!」
「はっ、仰せのままに!」
が、龍魔力姉妹により目眩しとばかりの攻撃が放たれるも。
バーンはそれをあしらい、改めてブラックマンに命じる。
「……hccps://baptism.tarantism/、セレクト、ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミーズ!」
「おお、同士よ……君たちが必要とあらばそれに応えよう! fcp> get LaplacesDemon.hcml……全知之悪魔!」
「! ほう……どうやら、天は我らに味方してくれているようです。見える、見えます奴らの来るであろう座標が……ロッキング オン 座標……、座標」
ブラックマンの詠唱を受け。
アルカナは今も騎乗する自機ディアボロスの全知之悪魔により、魔法塔華院・龍魔力連合艦隊の艦三隻と海中の凸凹飛行隊が来るであろう位置を把握し照準を始める。
「おお、でかしたぞブラックマン!」
「はい! しかし……焦るな私、引き寄せて……」
ブラックマンは慎重な姿勢を崩さない。
「光線技が防がれるなんて……さあて、どうしたものかしら?」
一方海中の凸凹飛行隊では。
マリアナが空中の幻獣機父艦を見て、首をひねる。
有効打に見えた光線技までも無効とするとあっては、彼女も万策尽きたという考えを抑えられずにいた。
「こうなったら……仕方ない、か……」
青夢も、この状況を重く見て。
次なる手を打つべく、目を移す。
その目の先にあるは自機ジャンヌダルクの前にあり凸凹飛行隊の進む水流を生み出している、空飛ぶ法機ルサールカである。
◆◇
「はーあ……」
青夢は縦浜の港で、海を眺めていた。
時は、ひと月前の幻獣機父艦との海戦直後に遡る。
近くには修理中の法機戦艦が見える。
幻獣機父艦との光線撃ち合いの末、戦闘不能に陥った有様だ。
「こんな精神で、魔法塔華院マリアナの別邸に行かなきゃいけないなんて……」
青夢は腕時計を見つつため息を吐く。
時刻は、別邸集合の一時間前を告げている。
青夢の憂鬱の訳は無論、父の言葉を全く遂行できていないことだった。
―― 全ての人を、お前が救え。
「お父さん……私、そんな運命背負い切れないよ……」
青夢の心は、どんどん落ち込んでいく。
と、その時である。
「!? な、何!」
突然轟音が、鳴り響く。
青夢は慌てて、音の方向へと走り出す。
場所は、港の倉庫の一角だ。
すると、そこには。
「痛た……」
「や、矢魔道さん!」
「おや……魔女木さん!」
矢魔道の、姿があった。
法機戦艦の修理要員として、来ていたのである。
彼の目の前には、何やら煙を上げて焦げた部品のようなものが。
「ど……どどどうしたんですか??」
青夢はドギマギしながら尋ねる。
「いやあ……恥ずかしい所見られちゃったな。前から、君たち凸凹飛行隊の機体にふさわしいものを自前で作れたらと。」
「そ、そんなこと考えててくれたんですか!?」
矢魔道の言葉に、青夢は驚く。
これまでは幻獣機を使って強力な空飛ぶ法機の機体開発に勤しんでくれていた彼は、その裏では幻獣機――いわば、敵の力に頼らない機体開発も進めてくれていたのだ。
「あ、ありがとうございます……♡」
「あ、いやそんな……まあ実際には、メカオタクとしての趣味も兼ねたものだから。」
「え、趣味?」
しかし、青夢はその言葉には首を傾げる。
どういうことか。
「不確定要素の強いシステムを組み込んだりしていろいろと実験してるんだけど……結局は、このザマでね。」
「な、なるほど……」
矢魔道は頭を掻きながら言う。
実際には、少々実験的というべきことばかりしているようである。
「で、でも! 私たちのためにも実験してくださっていたことは変わりない訳で……そ、そのお気持ちだけでも私は嬉しいです!」
「あはは、ありがとう。魔女木さんは優しいね。」
「い、いえそんなあ♡」
矢魔道のこの言葉に青夢は、大いに照れる。
しかし落ち込んでいた気持ちは、これで一気に晴れた。
「(ふふふ、矢魔道さんに褒められちゃった♡ やっぱり矢魔道さん優しいなあ……不確定要素の強いシステムの実験にかこつけて、いい機体を……ん!?)」
そうして一人浸っていた、青夢だが。
ふと、あることを思いつく。
「や、矢魔道さん! そのお話、詳しく聞かせてもらえませんか?」
「え? あ、ああ……」
青夢の言葉に矢魔道は、少々戸惑う。
◆◇
「(矢魔道さん……あなたから受けた助言、無駄にはしません!)」
再び、幻獣機父艦と魔法塔華院・龍魔力連合艦隊の海戦にて。
青夢は想い人に乞うたアドバイスを胸に、一つの結論にたどり着く。
「……魔法塔華院マリアナ! 私があんたに頼んでたプログラムを起動して!」
「え……? こ、こんな所で!? 魔女木さん。」
「ええ……こんな所でよ!」
「え? マリアナ様、何のお話ですか?」
「な、何だ?」
青夢とマリアナの会話に、法使夏とソードはついて行けず戸惑う。
「でも……」
「ああ、もう! 他に方法があるの魔法塔華院マリアナ!」
「……まったく、それは2回目の言葉ね魔女木さん! まあ、どう功を奏するのか、そもそもどんな利点があるのかも知らないけど……これは貸しにしますわ!」
「ふう、相変わらず恩着せがましい言い方……だけど、今回ばかりはありがとう!」
「ふっ……」
青夢の言葉にマリアナは、案外あっさり折れてくれた。
「……hccps://camilla.wac/、セレクト ファング オブ バンパイヤ エグゼキュート! じゃあ雷魔さん、後はお願い!」
「は、はいマリアナ様! ……え、何をですか? ……って! こ、これは!」
マリアナの急なバトンタッチのセリフに法使夏は、ノリツッコミを返すが。
考える間もなく、異変が起こる。
それは。
「な……る、ルサールカが勝手に!」
「よし……ありがとう魔法塔華院マリアナ!」
今や凸凹飛行隊の先導者・法使夏の自機ルサールカが。
彼女の意思とは無関係に、暴れ出したのである。
◆◇
「!? な……凸凹飛行隊とやらが照準できない!?」
「何をしている、ブラックマン!」
いや異変は、それだけではなかった。
幻獣機父艦では。
ブラックマンは焦っていた。
(彼本人の知るところではなかったが)アルカナが脳内へと送り込んでくれた座標に、凸凹飛行隊がやって来ないのである。
いや、それだけではない。
「くっ……頭が、くうう!」
アルカナは、苦しんでいた。
それは、全知之悪魔により予知された未来が頗る多かったためだ。
「…… hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート! ……よし、やっぱりノイズはない……」
「くっ……だ、誰か止めてえ!」
「安心して、雷魔法使夏! 私が責任を持って……コントロールしてあげるから!」
「ま、魔女木?」
青夢は法使夏を宥める。
アルカナの動きを封じたことで、ノイズがなくなり。
さらにアルカナほどには予知を使いこなせていないことにより、青夢自身は動きを封じられずに済んでいるのだ。
そう、これからは不完全にはなるだろうが予知を駆使して。
「その名もオペレーション後手後手! 今度こそ……全てを救う!」
青夢は、高らかに宣言した。




