#38 海宙対空 攻防戦
「海宙対空の戦いを挑んで来るとは……だが! 飛んで火に入る夏の虫だな。ブラックマン!」
「はっ! ……hccps://baptism.tarantism/、セレクト、ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミーズ!」
バーンは海面を睨み、ブラックマンに命じる。
命令を受けたブラックマンは、自身の幻獣機に命じる。
目標は無論、今海中――もとい海宙を突き進む凸凹飛行隊である。
空賊との戦いが終わり一か月ほど後。
空戦訓練のため、再び法機母艦に乗艦していた青夢たち凸凹飛行隊だが。
幻獣機リバイヤサンの出現の報により、出撃を余儀なくされていた。
が、幻獣機と凸凹飛行隊の交戦中。
これを離れた場所から見ていた、龍魔力四姉妹の編隊より誘導銀弾が放たれ。
彼女らとも交戦となる。
しかし、その最中ミリアとメアリーによる魔男の部隊も攻めて来ており。
中々に決着のつかぬ膠着状態となっていたのだが。
突如として龍魔力四姉妹の長姉・夢零が発動させた彼女らの専用機・蛇女殺しに備わる"システム"の真髄。
彼女ら曰く、"目"。
それがどれほどのものかは底知れないが。
果たしてその"目"によって、夢零以外その戦場にいる者は皆動きを封じられ窮地に落ち入る。
しかし、凸凹飛行隊も魔男も自機の能力により窮地を掻い潜り。
さらに夢零も勝手な判断により"目"を起動させてしまったことを、実は彼女の"目"付け役だった末妹愛三に咎められ撤退し戦いはひとまず終息した。
そうして今回、魔法塔華院コンツェルンと龍魔力財団の新システム搭載艦コンペティションに参加した凸凹飛行隊だが。
そのさなか襲来した超巨大な竜型幻獣機・幻 獣 機 父艦バハムートを前に一同は、動揺する。
しかし、逆にこれを自社の新システム搭載艦・ゴルゴン艦のいい咬ませ犬になると睨んだ龍魔力四姉妹は。
そのまま艦搭載のゴルゴンシステムを使い、幻 獣 機 父艦バハムートと交戦するが。
予想外に幻 獣 機 父艦バハムートの力は強大であり、
それに対し龍魔力姉妹はついに、"目"――ゴルゴニックアイズを使用。
幻 獣 機 父艦バハムートを照準と同時に足止めし、これにより止めを刺せると龍魔力姉妹は確信。
全艦隊より誘導銀弾を放つが。
幻 獣 機 父艦バハムートは、何と不可能なはずの変形を行なって誘導銀弾を全て回避。
英乃の座乗するゴルゴン二番艦を自滅に近いやり方で葬ったことを皮切りに、二手乃のゴルゴン三番艦をも敗る。
そのまま事態を重く見た自衛艦隊も出撃するが、これもあっさりと返り討ちにしてしまった。
が、その直後に青夢ら凸凹飛行隊擁する法機戦艦の主砲からの攻撃を受ける。
これを脅威と見た幻 獣 機 父艦は、再び必殺技形態に移行し。
そのまま青夢らが自機を接続した法機戦艦と、必殺技撃ち合いとなり。
かろうじて痛み分けに終わったその戦いだったが、そこへ幻獣機を従える能力を持つ法機使い・魔女辺赤音が攻めて来たために幻 獣 機 父艦は撤退する。
そうしてそのひと月ほど後。
再び現れた幻 獣 機 父艦を迎え撃つべく、改修された法機戦艦一隻とゴルゴン旗艦・四番艦による魔法塔華院・龍魔力連合艦隊が出陣したのであった。
しかし幻 獣 機 父艦は同乗させている騎士・ブラックマンによる新兵器・直撃炸裂魔弾により、法機戦艦・ゴルゴン艦らによる攻撃を相殺し。
さらにゴルゴン艦に搭載されているものと同じ"目"を起動し。
魔法塔華院・龍魔力連合艦隊を照準し、動きを止める。
しかし、そこに。
「エグゼ」
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン! エグゼキュート!」
「くっ、海宙より敵攻撃!」
「ぐっ……狙いがつきません!」
先ほどより法使夏操る空飛ぶ法機ルサールカの能力により、水流に包まれて海中を飛ぶ凸凹飛行隊。
青夢のジャンヌダルクより光線技・ビクトリー イン オルレアンがバハムートに向けて立て続けに放たれていたのだった。
「止むを得まい……雷雲形態に移行! 雷の雨をこの全海域に放て! 水上の艦も海中の機も、一息に」
「…… 01CDG/、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!」
「…… 04CDG/、デパーチャー オブ 誘導銀弾エグゼキュート!」
が、バーンが指示を出す間に。
水上のゴルゴン旗艦・四番艦から多数の誘導銀弾が放たれる。
「て、敵誘導銀弾群発射されました!」
「おのれ……セレクト、ファイヤリング 雷の雨! エグゼ」
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン! エグゼキュート!」
「くっ! ま、また海中より光線!」
「ぐぬぬ……おのれえ!」
水上からも海中からも、果ては空中も。
全方位より放たれる攻撃に、バーンは歯軋りする。
「セレクト、ファイヤリング 雷の雨 エグゼキュート! ……防戦しつつ空域より後退せよ! もはやこのままではこちらが不利だ!」
「了解!」
幻 獣 機 父艦バハムートは、雷雲形態のまま後退を始める。
その周囲には雷が纏わりついており、近づく誘導銀弾を破壊する。
しかし海中からの、青夢による光線攻撃は続いており。
それにより分離し飛行しているパーツ群の幾らかは、当然お釈迦となる。
「おのれ、凸凹飛行隊め!」
バーンは苛つき、海中を覗き込まん勢いで海を睨む。
「さあ魔男……勝負よ!」
深淵を覗き込めば、深淵の方もこちらをまた然りというべきか。
青夢もまた海中を突き進む水流の中、そこを飛行する自機ジャンヌダルクの操縦席より幻 獣 機 父艦を睨んでいた。
◆◇
「魔女木さん……あなたがこの方々をどう思われるかは勝手ですわ。でもね……わたくしは、この方々を認める気にはなれなくってよ!」
「く、魔法塔華院マリアナ……」
「マリアナ様……」
時は、この海戦前。
縦浜の魔法塔華院別邸に、夢零と愛三。
更に、"マルタの魔女"が現れて凸凹飛行隊に協力要請を行った時に遡る。
この"マルタの魔女"こそが、魔男の幻 獣 機 父艦を降す切り札だという夢零と愛三だが。
その話に、より詳しく話を聞こうという姿勢になる青夢に対し。
マリアナは先に夢零から聞いていた幻獣機を奪いゴルゴンシステムに利用していたという話も含めて、より不信感を増しただけだった。
「ですからマリアナさん、私たちの話を聞いてください」
「何を聞けとおっしゃるのかしら? これ以上、不信感を増すようなお話を?」
夢零は話を継ごうとするが。
マリアナは態度を硬化させ、聞く耳を持たない。
が、その時。
「ふふふ……ははは! あーあ、まったく。こんな堅物が、アラクネ姐様に選ばれた奴とはな。さすがに姐様も、河童の川流れやいう所かいな!」
「な……"マルタの魔女"! あんた、マリアナ様を」
"マルタの魔女"は、盛大な皮肉を言う。
「よくってよ雷魔さん。……"マルタの魔女"さん、堅物で結構。わたくしが堅物ならあなたは、卑怯者ね!」
「ほう? 何や、喧嘩売っとるんか!」
法使夏を宥めつつ、マリアナは"マルタの魔女"に言い返す。
"マルタの魔女"もこれには、吼え返す。
「ま、マルタの魔女さん」
「待って愛三! ……私たちには、この状況に口出しはできないわ。」
「お、お姉さん……」
止めようとした愛三だが、夢零が止める。
「ええ、図星ではなくって? 今だって顔を隠して逃げ隠れしていらっしゃるその姿は、卑怯者でなければ何だとおっしゃるのかしら?」
「ははあん、言ってくれるなあ? 前にあんたらが、あの魔男の法母に勝てたんやって、あたしのおかげやいうのに!」
「……何ですって?」
言い合うマリアナと、"マルタの魔女"だが。
マリアナは彼女の言葉に引っかかりを覚え、尋ねる。
「ああ、最後はあたしがあの敵法母に奇襲攻撃を掛けててん! それであいつらは、尻尾まいて逃げ出したんや!」
「! ほ、本当なの夢零さん?」
その言葉に、次は青夢が夢零に尋ねる。
夢零は、小さく頷く。
「マルタの魔女さんには……幻獣機を従える能力があるんです。それで魔男たちは、如何な法母といえどコントロールを奪われてしまうことを恐れて撤退したのかと……」
「そ、そういうことだったの……」
「なるほど……つまり、あなた方があのシステムに使われたという幻獣機も。その方法でその魔女さんが捕らえ、あなた方に売り渡されたものということかしら。」
「はいっ、ごめいさーつ!」
夢零への更なるマリアナの質問に、次は愛三が応える。
「……ならば、感謝しなくてはなりませんわね。高見の見物をしていた所にチャンスとばかりのこのこと現れて、敵を驚かしてくださったことに!」
「へえ……そりゃ、まだあたしが卑怯者や言いたいんかいな!」
が、マリアナは更に嫌味ったらしく言い放つ。
"マルタの魔女"もその皮肉を感じ取り、聞き返す。
「ええ、はっきりとは言ってなくってよ!」
「言えばいいやないか、姉ちゃん!」
マリアナと"マルタの魔女"は、睨み合って火花を散らす。
「待って、魔法塔華院マリアナ! 今は、この力を貸してもらうしか、私たちに道はないと思う。」
「! 魔女木、マリアナ様に指図するの?」
口を開いた青夢を、法使夏は牽制する。
「指図じゃないわ、聞くか聞かないかは魔法塔華院マリアナの自由。……だけど、他に方法があるの?」
「ふん……甘くってよ魔女木さん!」
青夢の言葉に、マリアナは返す。
「先ほども言いましてよ、この龍魔力姉妹の方々も魔男側と通じている可能性があると。このマルタの魔女さんは、更に怪しくってよね。……彼女たちにわたくしたちを嵌める意図がないと、何で言い切られることができて?」
「それは……」
「……少なくとも、それはないと思うがな!」
「! ソード・クランプトン……」
が、更に懸念を口にするマリアナに。
今度はソードが、口を開く。
「ミスタークランプトン、その根拠は?」
「それは……魔男にとっては、どんな意図があろうとも魔女に頼った作戦を取るなど屈辱になる! だから、そんな策は使わないだろう。」
「なるほど……まあ、一理はあってよミスタークランプトン。」
マリアナは珍しく、ソードの意見にはやや耳を貸す。
「クランプトンさん……」
「……確かに、その魔女の能力についてはまだ眉唾と思うべきではあるが。ここはもはや、その手に乗る以外策がないという魔女木の話も一理はあると思うぞ。」
「ふうん……それがあなたの意見なのね、分かってよミスタークランプトン。」
ソードの言葉に、マリアナはため息を吐く。
「では、マリアナ様」
「しかし! ……やはりわたくしには、この提案を呑むことはできません。言うなればこれは、止むを得ず従うということでしょう? やや言い回しは違いますが、渇しても盗泉の水を呑まず、と言うでしょう? わたくしはどんなに脱水症状になろうと汚染された水を呑むようなことはいたしません!」
「ま、魔法塔華院マリアナ!」
「マリアナ様!」
が、マリアナはどこまでも頑なであり。
これはさすがに言い過ぎであると青夢も法使夏も、ハラハラする。
「はん、そうかいな! ほなら……あたしも、もう言うことはないわ!」
「ま、マルタの魔女さん!」
当然というべきか"マルタの魔女"も。
そのまま場を後にしようとする。
これでは交渉決裂である。
「……お待ち下さい! 私たちのことを、マルタの魔女さんのことをそんな急に信じてくれというのも確かに無理なお話でしょう……ならば! 私たちはあなたたちに使われる形でいい! 使ってください!」
「! む、夢零お姉さん……」
「……へえ?」
「ほう?」
が、そこへ夢零が声を上げる。
マリアナも"マルタの魔女"も、これにはやや興味を示し。
彼女の方を向く。
「どうしてくださるというの、夢零さん?」
「……私たちは座乗艦たるゴルゴン艦諸共、囮となります! だからその隙に凸凹飛行隊の皆さんとマルタの魔女さん、あなた方で止めを刺して!」
「……ほう、姉ちゃん! あんた意外に、いいタマしとるやないか!」
「……今回ばかりはそこの魔女さんに同意ね、夢零さん。」
「……ありがとう、マリアナさん。」
「や……やったー! 夢零お姉さん!」
たちまち場の空気は穏やかになる。
「ただし! ……何か不穏な動きを見せましたら夢零さん、愛三さん。その時はわたくしがあなた方を艦ごと沈めます。よろしくって?」
「! ……はい!」
「お、お姉さん……」
「はーあ、やっぱり物騒な姉ちゃんやなあ!」
しかしマリアナが出した条件に、夢零は少し逡巡しつつ頷く。
愛三も"マルタの魔女"も、これには少し身震いしている。
「ま、まったくね。……まあいつもこんな奴だから、気にしないで皆!」
「……魔女木さん、こんな奴とはどういう意味かしら?」
「そうよ魔女木!」
青夢の宥めにマリアナと法使夏は、食ってかかる。
「まあいいだろう! さて……では改めて、作戦会議と行こう!」
「応!」
「いやミスタークランプトン、何故あなたが仕切られているの?」
「そうよ、元魔男が!」
「元魔男言うな!」
ソードも言い返す。
かくして、交渉は何とか纏まる。
◆◇
「あの艦の弱点でも分かれば……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート! ……くっ! やっぱり駄目か……」
再び、連合艦隊と魔男の父艦との戦場にて。
青夢は敵を探るべく、とある理由からあまり使っていなかった予知能力を使うが。
やはりその瞬間襲って来たのは、使わなくなった理由の一つであるノイズである。
「!? これは……バーン騎士団長、次こそ狙えます! 今、何故かは知りませんが……奴らの位置が見えました!」
「何!? ……よし、次こそ奴らを照準せよブラックマン!」
「はっ、御意に!」
反対に幻獣機父艦では、何故かブラックマンの脳内に凸凹飛行隊の位置情報が浮かび。
バーンは再度、"目"による照準と殲滅を試みる。
「fcp> get LaplacesDemon.hcml……全知之悪魔! 悪いなあ魔女木君。君たちには混乱を、仲間たちには地の利を。これは、やらねばならないことでねえ……」
このノイズは無論、幻獣機ディアボロスに乗り高見の見物を決め込んでいたアルカナによるものである。
「さあて連合艦隊……勝負はここからやで!」
同じく今は高見の見物を決めこむは"マルタの魔女"――魔女辺赤音である。




