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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第三翔 龍魔力財団対空システム
38/193

#37 呉越同艦

「さあてさてお姉さん! 弔い合戦なんて腕が鳴るね!」

「まだ英乃も二手乃も死んでいないわ愛三!」

「あ、ごめんなさーい……」


 ゴルゴン旗艦より聞こえた末妹の言葉に、夢零は諫めを返す。


 目の前には機械の巨竜――長妹と次妹を深く傷つけた魔男の巨大兵器たる、幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートが飛来している。


 まさに妹たちの仇そのものである。


「あなただけは絶対に許しません、魔男の法母!」


 夢零は、怒りを隠さない。


 空賊との戦いが終わり一か月ほど後。

 空戦訓練のため、再び法機母艦(ウィッチーズマザー)に乗艦していた青夢たち凸凹飛行隊だが。


 幻獣機リバイヤサンの出現の報により、出撃を余儀なくされていた。


 が、幻獣機と凸凹飛行隊の交戦中。

 これを離れた場所から見ていた、龍魔力(たちまな)四姉妹の編隊より誘導銀弾が放たれ。


 彼女らとも交戦となる。


 しかし、その最中ミリアとメアリーによる魔男の部隊も攻めて来ており。


 中々に決着のつかぬ膠着状態となっていたのだが。


 突如として龍魔力(たちまな)四姉妹の長姉・夢零(むれい)が発動させた彼女らの専用機・蛇女殺し(ハルペー)に備わる"システム"の真髄。


 彼女ら曰く、"目"。


 それがどれほどのものかは底知れないが。

 果たしてその"目"によって、夢零以外その戦場にいる者は皆動きを封じられ窮地に落ち入る。


 しかし、凸凹飛行隊も魔男も自機の能力により窮地を掻い潜り。


 さらに夢零も勝手な判断により"目"を起動させてしまったことを、実は彼女の"目"付け役だった末妹愛三に咎められ撤退し戦いはひとまず終息した。


 そうして今回、魔法塔華院コンツェルンと龍魔力財団の新システム搭載艦コンペティションに参加した凸凹飛行隊だが。


 そのさなか襲来した超巨大な竜型幻獣機・幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートを前に一同は、動揺する。


 しかし、逆にこれを自社の新システム搭載艦・ゴルゴン艦のいい咬ませ犬になると睨んだ龍魔力四姉妹は。


 そのまま艦搭載のゴルゴンシステムを使い、幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートと交戦するが。


 予想外に幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートの力は強大であり、

 それに対し龍魔力姉妹はついに、"目"――ゴルゴニックアイズを使用。


 幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートを照準と同時に足止めし、これにより止めを刺せると龍魔力姉妹は確信。


 全艦隊より誘導銀弾を放つが。

 幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)バハムートは、何と不可能なはずの変形を行なって誘導銀弾を全て回避。


 英乃の座乗するゴルゴン二番艦を自滅に近いやり方で葬ったことを皮切りに、二手乃のゴルゴン三番艦をも敗る。


 そのまま事態を重く見た自衛艦隊も出撃するが、これもあっさりと返り討ちにしてしまった。


 が、その直後に青夢ら凸凹飛行隊擁する法機戦艦の主砲からの攻撃を受ける。


 これを脅威と見た幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)は、再び必殺技形態に移行し。


 そのまま青夢らが自機を接続した法機戦艦と、必殺技撃ち合いとなり。


 かろうじて痛み分けに終わったその戦いだったが、そこへ幻獣機を従える能力を持つ法機使い・魔女辺赤音が攻めて来たために幻 獣 機 (クリプティッド)父艦(ファザーフード)は撤退する。


 そうしてそのひと月ほど後。

 重傷の英乃と二手乃、二人を病室に残し。


 夢零と愛三は、こうして戦場に赴いていた。


「ま、待っていなさい……あの機械仕掛けの竜! あなたなんか、あなたなんか……」

「お、お姉さん大丈夫?」

「! わ、私震えている……?」


 が、夢零は妹の言葉にはたと気づく。

 いつの間にやら、震えていた。


 しかし、今自覚した。

 妹たちの座乗艦が次々と、戦火に呑まれていく様をただただ見ていることしかできなかった時の光景。


 あの光景が、今頭の中でフラッシュバックしていることを――


「まったく、情けなくってよ龍魔力夢零! そんなことでわたくしたちの足手纏いになってくださっては困りますの!」

「! ま、マリアナさん……」


 が。

 見かねた、いや聞きかねたマリアナが通信により檄を飛ばす。


 そう、今やこの艦隊は。

 魔法塔華院コンツェルン――ひいては凸凹飛行隊が擁する法機戦艦(アームドマギ)に。


 龍魔力財団が擁するゴルゴン旗艦、四番艦の計三隻による連合艦隊なのである。


 元はライバル企業同士が手を組んだこれは、呉越同舟ならぬ呉越同艦といった所か。


 尤も、同じ艦には乗っていないのだが。

 さておき。


「こら、魔法塔華院マリアナ! そんなに言ったら夢零さん萎縮しちゃうでしょ?」

「ふん魔女木さん、あなたが口を出すことではなくってよ!」

「そうよ、魔女木!」

「こら、戦闘前だぞお前ら!」

「元魔男が偉そうにしないで!!!」

「あ、はいすみません……ってなるか!」


 いや、むしろ呉越同艦はこの凸凹飛行隊だったか。

 さておき。


「……ふふっ! あなたたち、面白ーい!」

「……え????」


 愛三は通信によりこの会話を聞き、笑う。


「ええ、そうね……あなたたちにも愛三にもできる、リラックス! 私にできない訳がないわ!」

「え、ええ……まあ、分かってくださったならよくってよ!」


 そしてそれは図らずも、夢零の緊張をほぐすことにも繋がっていた。


「何だ、何も仕掛けてこないか……ならば! 魔法塔華院と龍魔力連合艦隊の中央を突破する、全艦群生(フォーメーショ)形態(ンクラスター)へ移行!」

「はっ!」


 しかし幻獣機父艦は、動き出す。

 たちまち艦はパーツ群が分離・合体を繰り返し。


 螺旋を描くようにして艦体をしならせ、連合艦隊に突撃を仕掛ける。


「おっと、来たわよ魔法塔華院マリアナ!」

「言われるまでもなくってよ!」

「行きましょうマリアナ様!」

「バーン騎士団長!」

「行くわよ、夢零!」

「いやお姉さん、私愛三!」


 これには凸凹飛行隊も龍魔力姉妹も反応し。

 幻獣機父艦を待ち受ける。


「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」

「……hccps://crowley.wac/……セレクト アトランダムデッキ! 太陽(ザ サン)――爆炎日光(バーストフレア)!」


 連合艦隊は法機戦艦を前衛、ゴルゴン旗艦・四番艦を後衛とし。


 そのまま法機戦艦の第一、第二砲塔の砲身に雷撃の光が灯る。


「愛三!」

「ええ、お姉さん! …… 01CDG/、デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット)!」

「…… 04CDG/、デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット)!」


 龍魔力姉妹も、迎撃すべく。

 乗艦に命じ、誘導銀弾の発射ハッチが次々と開く。


 そして。


「……エグゼキュート!!!!」


 法機戦艦の主砲から、ゴルゴン旗艦・四番艦から攻撃が放たれる。


「ほう、だが威力は弱い! ……セレクト、ファイヤリング 雷炎の(ライトニング)螺旋(トルネード) エグゼキュート!」


 が、幻獣機父艦の動きもまた素早く。

 その螺旋状にくねっている艦体には雷撃が滾り、それは艦体先端部に収束し放たれる。


 たちまち魔女・魔男両勢力の砲撃は激突する。


「両舷より、誘導銀弾多数接近!」

「回避せよ、……セレクト、アボイディング アサルト オブ エネミーズ エグゼキュート!」


 その間に迫り来る、龍魔力のゴルゴン艦隊より放たれた誘導銀弾も。


 幻獣機父艦は難なく回避する。


「くっ! ……艦後部より誘導銀弾発射! デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット)!」


 マリアナは、法機戦艦に命じる。

 たちまち艦体後部より発射ハッチが開き、立て続けに誘導銀弾が発射される。


 すると誘導銀弾群は、幻獣機父艦の放つ雷炎の(ライトニング)螺旋(トルネード)の先に集まり。


 爆発する。


「くっ! バーン騎士団長、敵戦艦より誘導銀弾群が!」

「ふん、慌てるな! 引き続き雷炎の(ライトニング)螺旋(トルネード)を」

「ぐうっ!」

「っ!! ……何だ、何が起きた!」

「か、艦体直下より、敵戦艦の砲撃が!」

「くっ……」


 誘導銀弾の弾幕で作った一瞬の隙を突き。

 法機戦艦は幻獣機父艦の直下へと移動し、主砲より光線を放ちパーツ群をなぎ払ったのである。


「くっ……雷雲(フォーメーショ)形態(ンクラウド)に移行! 空域より離脱せよ!」


 バーンは急ぎ、幻獣機父艦の形態を変化させ。

 そのまま空域を、離脱する。


「ま、マリアナ様! あいつが逃げ」

「言われるまでもなくってよ、誘導銀弾多数発射!」

「り、了解!」

「愛三、私たちも!」

「はい、お姉さん! 誘導銀弾発射!」


 パーツ群に分離し離脱していく幻獣機父艦に、法機戦艦は主砲からの光線を尚も浴びせかけた他再び誘導銀弾を発射し。


 さらにゴルゴン旗艦・四番艦からも誘導銀弾が発射された。


「ば、バーン騎士団長!」

「くっ……ブラックマン!」

「はっ! ……セレクト、ブーティング "(ゴルゴニックアイズ)"! ロッキング オン アワ エネミーズ、デパーチャー オブ 直撃炸(エクスプロージョン)裂魔弾(マジックブレット)……」


 艦内司令室はてんやわんやであるが。

 バーンの後ろに立つ騎士、ザビ・ブラックマンは彼の命を受け。


 術句を唱える。

 そうして。


「……エグゼキュート!」


 ブラックマンのこの詠唱により。

 幻獣機父艦から、直撃炸裂"魔弾"が生成され放たれる。


 それにより発射されてきた誘導銀弾群は、一瞬の内に殲滅される。


 さらに法機戦艦から放たれ続けている光線砲撃も、相殺されてしまった。


「なっ!」

「くっ……あれは!」

「ま、マリアナ様……あの誘導銀弾群、一瞬止まりませんでしたか!?」

「当たり前といえば当たり前だ……あのゴルゴン艦とやらのシステムは元来、魔男から鹵獲された幻獣機の力をそのまま利用したものだからな。」

「てことは、奴らも……?」

「ゴ、"(ゴルゴニックアイズ)"!」

「お、お姉さん……」


 凸凹飛行隊も龍魔力姉妹も、戦慄する。

 あれぞ魔男の――本家本元ともいえる"(ゴルゴニックアイズ)"なのだ。


「おお……バーン騎士団長、奴ら驚いているようです!」


 ブラックマンは得意げに言う。


「ああ……ならば、一息に直撃炸(エクスプロージョン)裂魔弾(マジックブレット)で奴らの艦隊を焼き尽くしてやろう! ブラックマン!」

「はっ!」


 バーンはこの隙を逃すまいとばかり。

 再びブラックマンに命じる。


「……セレクト、ブーティング "(ゴルゴニックアイズ)"! ロッキング オン アワ エネミーズ、

 エグゼキュート!」

「くっ! め、愛三……」

「お、お姉さん! ご、ゴルゴン艦が動かない……」


 命じられたブラックマンは、更に自身の幻獣機にも命じる。


 たちまち照準されたのは、法機戦艦とゴルゴン旗艦・四番艦だった。


「ふふふ……お前らが奪い、自分の力などとほざいて利用しようとした力の真髄を、骨の髄まで味わせてやろう! ……セレクト デパーチャー オブ 直撃炸(エクスプロージョン)裂魔弾(マジックブレット)!」


 ブラックマンは憎々しげに、魔法塔華院・龍魔力連合艦隊を睨み。


 そのまま、元の一つの艦に戻った幻獣機父艦周囲に直撃炸裂魔弾をいくらか生成する。


「ふふふ……さあこのまま!」

「さあ……お行きなさい、凸凹飛行隊の皆さん!」

「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン! エグゼキュート!」

「!? くっ、左舷に被弾!」

「くう……は、発射元は!?」

「か、海中です!」

「何!?」


 が、その時。

 照準されている連合艦隊の内、ゴルゴン四番艦の夢零が叫ぶや否や。


 法機戦艦近辺の海中より、光線が放たれ幻獣機父艦に被弾する。


「くっ……セレクト、キャンセリング アサルト オブ 幻獣機(エイドローン) エグゼキュート!」


 直撃炸(エクスプロージョン)裂魔弾(マジックブレット)に光線が当たって自爆しては敵わぬと、ブラックマンは魔弾を全て分解し攻撃をキャンセルする。


「凸凹飛行隊とやらか……しかし、いつの間に海中などに?」


 バーンは首を捻る。


「よし、当たったわね魔女木!」

「しかし……これでは、わたくしたちがここにいますと言っているようなものでは?」

「だーかーら、早く移動してって言ってんの雷魔法使夏!」

「指図しないでよ魔女木!」

「バーン騎士団長……今こそあなたと直に戦えます!」


 法使夏操る空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)ルサールカの能力、ゴーイング ハイドロウェイ。


 それにより生成された水流の中――正確にはその中のエアポケット内を飛ぶ凸凹飛行隊は、その水流の大元たるルサールカを先頭に海中を移動する。


「さあ……今度こそ!」


 全てを救う。

 その望みを胸に青夢は、空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)ジャンヌダルクの操縦桿を握りしめる。


 ◆◇


「全てを救う、か……果たして、それができるかな?」


 戦場を見下ろすアルカナは、この有様を笑いながら見ていた。

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