#35 巨竜vs凸凹飛行隊
「くっ……おのれ!」
龍男の騎士団長バーンは艦内司令室で、歯軋りする。
空賊との戦いが終わり一か月ほど後。
空戦訓練のため、再び法機母艦に乗艦していた青夢たち凸凹飛行隊だが。
幻獣機リバイヤサンの出現の報により、出撃を余儀なくされていた。
が、幻獣機と凸凹飛行隊の交戦中。
これを離れた場所から見ていた、龍魔力四姉妹の編隊より誘導銀弾が放たれ。
彼女らとも交戦となる。
しかし、その最中ミリアとメアリーによる魔男の部隊も攻めて来ており。
中々に決着のつかぬ膠着状態となっていたのだが。
突如として龍魔力四姉妹の長姉・夢零が発動させた彼女らの専用機・蛇女殺しに備わる"システム"の真髄。
彼女ら曰く、"目"。
それがどれほどのものかは底知れないが。
果たしてその"目"によって、夢零以外その戦場にいる者は皆動きを封じられ窮地に落ち入る。
しかし、凸凹飛行隊も魔男も自機の能力により窮地を掻い潜り。
さらに夢零も勝手な判断により"目"を起動させてしまったことを、実は彼女の"目"付け役だった末妹愛三に咎められ撤退し戦いはひとまず終息した。
そうして今回、魔法塔華院コンツェルンと龍魔力財団の新システム搭載艦コンペティションに参加した凸凹飛行隊だが。
そのさなか襲来した超巨大な竜型幻獣機・母艦型幻獣機バハムートを前に一同は、動揺する。
しかし、逆にこれを自社の新システム搭載艦・ゴルゴン艦のいい咬ませ犬になると睨んだ龍魔力四姉妹は。
そのまま艦搭載のゴルゴンシステムを使い、母艦型幻獣機バハムートと交戦するが。
予想外に母艦型幻獣機バハムートの力は強大であり、
それに対し龍魔力姉妹はついに、"目"――ゴルゴニックアイズを使用。
母艦型幻獣機バハムートを照準と同時に足止めし、これにより止めを刺せると龍魔力姉妹は確信。
全艦隊より誘導銀弾を放つが。
母艦型幻獣機バハムートは、何と不可能なはずの変形を行なって誘導銀弾を全て回避。
英乃の座乗するゴルゴン二番艦を自滅に近いやり方で葬ったことを皮切りに、二手乃のゴルゴン三番艦をも敗る。
そのまま事態を重く見た自衛艦隊も出撃するが、これもあっさりと返り討ちにしてしまった。
が、その直後に青夢ら凸凹飛行隊擁する法機戦艦の主砲からの攻撃を受ける。
それにより法機戦艦射線上のパーツ群のいくらかをやられた母艦型幻獣機は、慌てて再度変形する。
たちまちパーツ群は螺旋状に纏まり、光線を中に素通りさせるが。
「……主砲身、角度修正ですわ! 右砲身……中砲身、左砲身!」
マリアナはこれを見て、今ビクトリー イン オルレアンを放っている三連装の主砲角度を調節する。
たちまち三連装砲身は各々に動き、螺旋状に変形している母艦型幻獣機のパーツ群をいくらか破壊して行く。
「ぐああ!」
「くっ、回頭! 一旦離脱せよ!」
これではさしもの母艦型幻獣機も敵わぬと、空域を離脱する。
「……おのれ、凸凹飛行隊とやらめ!」
母艦型幻獣機にとっては、初めて土をつけられた思いだ。
砲弾による攻撃ではない、光線であるが故に射程距離がそのまま被害範囲にもなり得るが故の強みである。
「くっ……おのれ! …… 雷鎚形態に移行! 神龍の雷で焼き尽くしてくれるわ!」
「り、了解! セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 雷鎚形態 エグゼキュート! セレクト ファイヤリング 神龍の雷!」
体勢を立て直した母艦型幻獣機は、再び雷鎚形態に移行し。
その艦そのものが砲身と化した内部に、再び雷撃が光る。
「……さあ行くよ、皆!」
「あなたに仕切られたくはなくってよ、でも……ええ、よくってよ!」
「ええ、マリアナ様さえよろしければ!」
「バーン騎士団長……せめて、これをあなたへの手向けに!」
凸凹飛行隊もまた、法機戦艦に接続している各々の自機に命じ始める。
「……hccps://jehannedarc.wac/……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」
「……hccps://camilla.wac/……セレクト サッキング ブラッド!」
「……hccps://crowley.wac/…… セレクト アトランダムデッキ! 塔――雷の塔!」
「……hccps://rusalka.wac/…… セレクト ゴーイング ハイドロウェイ!」
それにより、法機戦艦の第一砲塔、第二砲塔に雷撃の光が灯る。
そして――
「……エグゼキュート!」
「……エグゼキュート!!!!」
母艦型幻獣機バハムートと、法機戦艦とで必殺砲撃が放たれたタイミングは、ほぼ同じだった。
やがて法機戦艦第一砲塔から放たれた、三本の水に包まれた光線と。
第二砲塔の、同じく三連装の砲身から放たれた雷撃は収束し。
母艦型幻獣機から放たれた 神龍の雷と、空中でぶつかり合う。
「ふぐぐ!」
「くっ……あっちの方が、パワーでは勝るみたいよ魔法塔華院マリアナ!」
「ええ……でも、わたくしのカーミラによるサッキング ブラッドで敵の攻撃を吸収しつつ攻めて行けば!」
「ええ、マリアナ様! 電気を通しやすい水が、マリアナ様のエネルギー吸収のお手伝いができるなんて光栄です!」
「バーン騎士団長……せめて、安らかに!」
「はああああ!!!!」
凸凹飛行隊の力は、上記の力により高まり。
法機戦艦から放たれる砲撃は、勢いを増して行く。
「くっ……おのれ魔法塔華院コンツェルンめ、ソードめ! やはり、真に警戒すべきはお前たちだったか!」
バーンも手を緩めていないものの、母艦型幻獣機の砲撃はどんどん押されて行く。
やがて。
「!? うわあああ!」
「くっ!」
たちまち、やや拮抗しつつあった二つの砲撃は対消滅を起こし。
その時に撒き散らされた膨大なエネルギーが、強烈な熱波となって法機戦艦と母艦型幻獣機に降り注いだ。
「あ……ま、魔法塔華院……」
夢零はその様子を、ゴルゴン四番艦でただただ見ていた。
そうしてしばらくした後、光は止む。
◆◇
「くっ……な、何とか助かった?」
「あ、当たり前じゃない! ま、魔法塔華院コンツェルンの技術力を舐めないで!」
「ま、マリアナ様ご無事ですか?」
「くっ……バーン騎士団長……」
青夢・マリアナ・法使夏・ソードは眩んでいた目を覚ます。
法機戦艦はマリアナの言う通り原形は止めているが。
全ての砲は、焼けてしまい使用不能になっていた。
「くっ、でも……あの母艦型幻獣機だとて、無事ではすまないはずよ……!」
そんなマリアナの言葉を、聞きつけた訳でもあるまいが。
徐々に慣れてきた凸凹飛行隊の視界には、巨竜の姿が浮かび上がった。
「ふふふ……ははは! このバハムートはあれしきではやられまい……しかし、見たところお前たちの戦艦は満身創痍だな!」
母艦型幻獣機バハムートは、多少のダメージはありつつもこれまた多少は余力を残しており。
未だ健在であった。
「な……!?」
「くっ、あのデカブツ!」
「バーン騎士団長、やはり……」
「くっ……だったら、私がこのジャンヌダルクで!」
「お待ちなさい、魔女木さん!」
今にも法機戦艦後部の飛行甲板にエレベーターで自機ごと上がろうとする青夢をマリアナは、諫める。
「ふふふ……しかし、先ほどの痛手でもはや 神龍の雷 は撃てまい。ならば、雷雲形態に移行! 敵戦艦上空を取り、雷の雨で止めを刺してくれる!」
「り、了解」
「まあ待ちたまえ、バーン殿。」
「! アルカナ殿か!」
が、バーンが次こそ凸凹飛行隊を乗艦ごと叩こうとした時。
突如として、アルカナからの入電が。
「撤退せよ、バーン殿。」
「何!? 今こそ好機なのだぞ、邪魔を」
「くっ! ば、バーン騎士団長!」
「くっ! な、何だ!」
バーンがアルカナに抗議をしていると。
それは、突如としてやって来た。
「お楽しみの所失礼するでえ……リバイヤさん! ボナコンさん! 合体や! ……セレクト、コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 空飛ぶ法機マルタ! エグゼキュートやねんで!」
「がう!」
「ぐう!」
魔女辺赤音は、遠隔で幻獣機リバイヤサンとボナコンを操り、合体させる。
たちまち二機は、一機の空飛ぶ法機を形作る。
「くっ……アルカナ殿、こいつは一体」
「…… fcp> get demonwing.hcml……魔王旋風!」
「おやっ! こりゃあ……近づけんなあ!」
そのまま法機は、母艦型幻獣機に近づこうとするが。
実はこの戦場に来ていたアルカナは、乗機ディアボロスを操り赤音の遠隔操作法機を妨害する。
「これぞ、三機の幻獣機を我ら魔男より奪った魔女! こいつの能力では、その幻 獣 機 父艦も危ういかもしれぬ……撤退だ!」
「くっ……分かった。」
バーンもこのアルカナの言葉には、不承不承としながらも頷く。
「幻 獣 機 父艦バハムート、これより帰還する!」
そのまま艦は、巨竜の姿のまま。
戦場より撤退していく。
ちなみに、散々母艦型幻獣機、母艦型幻獣機と呼んでいたが。
それはあくまで魔女側の呼称であり、魔男側の呼び名は幻 獣 機 父艦なのである。
さしづめ略称は、獣父とでも言うべきか。
さておき。
かくして戦いは、何とか終わりを告げた。
◆◇
「て、撤退した……のかしら?」
「ま、マリアナ様ご無事で?」
「バーン騎士団長……」
「……くっ!」
凸凹飛行隊の面々は、それぞれに安心した様子だが。
青夢は、そのまま飛行甲板に出て。
艦や法機の残骸が散る海面を見渡す。
「ごめんお父さん……また、救えなかった。」
―― 全ての人を、お前が救え。
青夢の心は、父のその言葉を守れなかったことによる無力感に苛まれていた。




