#34 難攻不落の巨竜
「あ、あああ……」
目の前で大きく水しぶきと煙を上げた、ゴルゴン二番艦。
姉・英乃が座乗していた艦の無残な最期を前にしてはさしもの愛三も、旗艦の艦長席からずり落ちる。
空賊との戦いが終わり一か月ほど後。
空戦訓練のため、再び法機母艦に乗艦していた青夢たち凸凹飛行隊だが。
幻獣機リバイヤサンの出現の報により、出撃を余儀なくされていた。
が、幻獣機と凸凹飛行隊の交戦中。
これを離れた場所から見ていた、龍魔力四姉妹の編隊より誘導銀弾が放たれ。
彼女らとも交戦となる。
しかし、その最中ミリアとメアリーによる魔男の部隊も攻めて来ており。
中々に決着のつかぬ膠着状態となっていたのだが。
突如として龍魔力四姉妹の長姉・夢零が発動させた彼女らの専用機・蛇女殺しに備わる"システム"の真髄。
彼女ら曰く、"目"。
それがどれほどのものかは底知れないが。
果たしてその"目"によって、夢零以外その戦場にいる者は皆動きを封じられ窮地に落ち入る。
しかし、凸凹飛行隊も魔男も自機の能力により窮地を掻い潜り。
さらに夢零も勝手な判断により"目"を起動させてしまったことを、実は彼女の"目"付け役だった末妹愛三に咎められ撤退し戦いはひとまず終息した。
そうして今回、魔法塔華院コンツェルンと龍魔力財団の新システム搭載艦コンペティションに参加した凸凹飛行隊だが。
そのさなか襲来した超巨大な竜型幻獣機・母艦型幻獣機バハムートを前に一同は、動揺する。
しかし、逆にこれを自社の新システム搭載艦・ゴルゴン艦のいい咬ませ犬になると睨んだ龍魔力四姉妹は。
そのまま艦搭載のゴルゴンシステムを使い、母艦型幻獣機バハムートと交戦するが。
予想外に母艦型幻獣機バハムートの力は強大であり、
それに対し龍魔力姉妹はついに、"目"――ゴルゴニックアイズを使用。
母艦型幻獣機バハムートを照準と同時に足止めし、これにより止めを刺せると龍魔力姉妹は確信。
全艦隊より誘導銀弾を放つが。
「英乃、応答しなさい英乃!」
ゴルゴン四番艦に座乗する姉妹の長女夢零は、もはや海の藻屑と化しつつあるゴルゴン二番艦座乗の長妹に呼びかけ続けるが。
応答はまるでない。
「くっ……魔男!」
夢零は今一度、母艦型幻獣機を睨む。
よくも、妹を――
が、その時である。
「ははは、魔女たちよ! この形態、回避だけが能ではないぞ? …… 神龍の雷、発射用意!」
「! あ、あの幻獣機にエネルギー反応!?」
夢零は、龍の大口型にも柄を欠いた戦鎚にも見える形に変形した母艦型幻獣機の内部に滾る雷を見逃さなかった。
それはどんどん、勢いを増していき――
「……セレクト、ファイヤリング 神龍の雷! エグゼキュート!」
バーン自らの詠唱によりその雷は、幻獣機母艦内で炸裂する。
たちまち収束された光線、それが向かう先は。
夢零の座乗する、ゴルゴン四番艦だ。
「か、回避ー!」
夢零は慌てて、艦長命令を降す。
それに呼応し、慌ただしく回頭を始めるゴルゴン四番艦だが、到底間に合わない。
そのまま光線は、夢零の艦へと――
「そ、総員退艦! ……って、あれ?」
が、ゴルゴン四番艦はまだ無事だった。
何故なら。
「お、姉様……」
「ふ……二手乃ー!」
三女・二手乃の座乗するゴルゴン三番艦が盾となったためであった。
「な、何てことを!」
「仕方ないじゃない……私には、これぐらいしか――」
「二手乃ー!」
そのまま、ゴルゴン三番艦は。
大爆発を起こし、煙や水柱を吹き上げる。
「そ、そんな……」
夢零も、旗艦でへたり込んでいる愛三同様に。
その場に、へたり込んでしまう。
「ほう? ……ふん、美しき姉妹の愛情か! まあ無駄な延命に過ぎなかったがな……砲門、再び四番艦を狙え!」
「はっ!」
バーンは散った三番艦を嘲笑い。
そのまま、雷鎚形態の母艦型幻獣機を再び目標に向けようとする。
「ふふふふ……もはや腰が抜けたか! ならばよい、一瞬で終わらせてやろう! ……セレクト、ファイヤリング 神龍の雷!」
「あ、ああ……」
バーン自らの詠唱を受け。
そのまま母艦型幻獣機バハムートの砲身内には、再び雷が滾る。
と、その時であった。
「!? さ、左舷被弾!」
「くっ! ……何?」
突如として母艦型幻獣機は、鳴動に襲われた。
左舷に、何者かの攻撃を受けたのである。
その何者かとは、無論。
「さあ……行きますわよ皆さん!」
「ええ……主砲、撃って撃ちまくって魔法塔華院マリアナ!」
「待ちなさい魔女木! マリアナ様に向かって」
「バーン騎士団長……ここであなたと戦うことになるとは何とも因果なものでございます!」
凸凹飛行隊が指揮を執る、魔法塔華院コンツェルンが誇る防空システム搭載艦・法機戦艦である。
先ほどの母艦型幻獣機への攻撃は、未だ大艦巨砲主義が主流だった頃の旧戦艦を思わせる主砲から放たれたものである。
「ほう……そうか、まだいたな! 魔法塔華院コンツェルンか!」
バーンは法機戦艦を睨み、叫ぶ。
ということは、あそこにソードが――
しかし、それだけではなかった。
「魔法塔華院コンツェルンさん、艦を下げて! ……全艦隊、誘導銀弾発射用意! 基地より自衛隊法機アマゾネス、順次発進せよ!」
「はっ!」
やはりイージス艦を思わせる形状の自衛隊制式艦・ウィガール艦も数隻、母艦型幻獣機が上空に浮かぶ海域に詰めかけていた。
「で、でもお!」
「了解! 法機戦艦、後退!」
「マリアナ様、止むを得ませんね……」
「バーン騎士団長……」
青夢は少し納得のいかない様子だったが、マリアナは法機戦艦を後退させる。
それとはすれ違いにウィガール艦隊が、前に出る。
「……セレクト、デパーチャー オブ 空飛ぶ法機アマゾネス! エグゼキュート!」
「……エグゼキュート!!」
基地滑走路からも、自衛隊制式法機アマゾネスが多数出動した。
「まったく……目障りだ! 自衛隊の艦も機も同時に破壊しろ! …… 雷雲形態に移行!」
「了解! ……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 雷雲形態 エグゼキュート!」
バーンの指示により、それまで筒のようであった母艦型幻獣機は再び巨竜型になり。
かと思えば、ゴルゴン艦隊艦載機群を一網打尽にした時と同じく細かなパーツ群に分かれ。
やがてそれらはウィガール艦隊とアマゾネス部隊の詰めかけつつある海域上空に、覆うようにして進出してきた。
「か、艦長! 敵艦が本艦隊上空を」
「構うことはないわ! 全艦隊、全アマゾネス部隊、誘導銀弾発射! 立ち込める暗雲など一掃しなさい!」
「り、了解! ……セレクト、デパーチャー オブ
誘導銀弾! エグゼキュート!」
「……エグゼキュート!!」
魔女自衛艦隊に、一瞬動揺が走るが。
背に腹は替えられぬと、全艦隊と全アマゾネス部隊より誘導銀弾が発射される。
それはそのまま、パーツ群に分かれた母艦型幻獣機へと迫る――
が。
「ふふふふ……セレクト! ファイヤリング 雷の雨! エグゼキュート!」
バーンはすかさず、呪文を唱える。
たちまちパーツ一つ一つより雷撃が放たれ、それはパーツ群を守るように包み込みつつ外部にも炸裂し。
放たれた誘導銀弾は全て破壊され。
やがてその雷撃は、ウィガール艦隊とアマゾネス部隊にも命中し破壊していく。
「あああ!」
「ぐああ!」
「うわあああ!」
一瞬の内に、自衛艦隊は壊滅してしまった。
「はははは! 所詮は脆い魔女の、玩具同然の兵器群ごときが! はははは!」
バーンは直下の自衛艦隊の残骸を見て、得意げに笑う。
が、その時であった。
「……セレクト、ビクトリー イン オルレアン! エグゼキュート!」
「!? くっ、群生形態に移行、回避行動!」
「り、了解! ……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 群生形態! アボイディング アサルト、エグゼキュート!」
突如として壊滅したウィガール艦隊の背後より、三本の光線が放たれた。
魔法塔華院コンツェルンの法機戦艦第一砲塔より放たれた、本艦に接続された青夢専用機・ジャンヌダルクの必殺光線である。