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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第三翔 龍魔力財団対空システム
34/193

#33 母艦型幻獣機

「あれが……幻獣機(エイドローン)だっていうの!?」


 青夢は驚き、戦慄する。

 目の前に現れたのは、超大型の竜の如き姿の幻獣機・バハムート。


 ゴルゴンシステムの射程外から見たその姿は、これまでに見た大きさとほぼ同じだったのだが。


 レーダーが目標位置が射程外であることを告げるや状況が一変する。


 改めて見てみればこれは、これまでには見たことのない超大型の幻獣機だ。


「た、ただちに応戦を!」

「り、了解!」


 途端に会議室は慌しくなり。

 魔女自衛官らは、出て行こうとする。


 しかし。


「お待ち下さい、自衛官の皆様! ここは……我らゴルゴン艦隊にお任せを。」

「! た、龍魔力財団さん!」


 ゴルゴン艦内部より夢零が、魔女自衛官らに告げる。


「大丈夫ですわ、自衛官方! これぞむしろ、我が防空システム艦の威力を見せつける絶好の機会です。目に物見せてくれますわ!」

「た、龍魔力財団さん……」


 夢零の言葉に魔女自衛官らも、動きを止める。

 しかし、その間にも。


「よし……これより全艦、群生(フォーメーショ)形態(ンクラスター)へ移行! 敵艦隊への攻撃に移れ!」

「了解!」


 艦内司令室からのバーンの命令と共に、母艦型幻獣機・バハムートは動き出す。


 たちまちその身はしなり、ゴルゴン艦隊へと向かってくるのである。


「くっ、愛三!」

「あーらら、でも大丈夫ー! ゴルゴンシステム再起動、敵艦捕捉! 誘導銀弾(シルバーブレット)を撃ちまくってやっちゃえー!」

「り、了解!」


 無論旗艦の愛三も、他夢零ら姉妹もこれには黙っておらず。


 たちまちゴルゴン艦は、各個に母艦型幻獣機を照準し。


「…… 01CDG/、デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット)! エグゼキュート!」

「…… 02CDG/、デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット)! エグゼキュート!」

「…… 03CDG/、デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット)! エグゼキュート!」

「…… 04CDG/、デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット)! エグゼキュート!」


 それぞれ、誘導銀弾を多数発射する。

 敵艦である母艦型幻獣機はたちまち、誘導銀弾群に囲まれ四面楚歌である。


「ふふふ……所詮大型の幻獣機など、ただの的でしかないのよ!」


 夢零は勝利を確信する。


 所詮は大きいと言っても、これしきか――

 が、次の瞬間母艦型幻獣機は予想されなかった動きを見せる。


群生(フォーメーショ)形態(ンクラスター)、回避行動!」

「了解! ……アボイディング アサルト、エグゼキュート!」


 バーンの指示と共に。

 たちまち母艦型幻獣機は、"回避行動"に移る。


 何と自身の長大な身体を蜥蜴の尻尾の如く分離し、向かい来る大量の誘導銀弾群を回避したのである。


「なっ!?」

「う、嘘だろ! 何で」

「め、愛三い!」

「うーん、こうなったら……艦載機ゴルゴニックヘアー発進!」


 愛三は、旗艦より次の命令を下す。

 たちまち艦載機は各艦カタパルトより、順次発進していく。


 艦載機ゴルゴニックヘアー。

 それはあの戦場で蛇女殺し(ハルペー)と呼ばれていた機体である。


 蛇女殺しがよりにもよって蛇女の髪(ゴルゴニックヘアー)だったとは皮肉だが、凸凹飛行隊は直接その姿を見ていないため知る由もない。


「敵艦載機、発進しました!」

「よし……幻獣機スパルトイ、発進準備!」

「はっ! ……騎士、幻獣機スパルトイ発進準備!」

「了解!!」


 が、魔男の動きはまたも素早く。

 たちまち騎士たちは命令通り、艦の表面に取り付くような形で係留されている量産型幻獣機スパルトイを遠隔操作で動かし始める。


 それは、骨だけの竜のような外観を持つ幻獣機である。


 バハムート表面の幻獣機スパルトイ部隊は、たちまち剥がれるようにして発進しゴルゴン艦隊へと向かって行く。


「あっちゃー!」

「くっ……姉貴!」

「え、幻獣機(エイドローン)があんなにたくさん!」

「くっ……あれは奴ら、魔男の母艦という訳ね!」


 二大勢力の空中戦を見て龍魔力四姉妹は、歯軋りする。


 数の上では、ゴルゴニックヘアー部隊が不利だ。


「こうなったら……誘導銀弾(シルバーブレット)、たくさん発射ー! ゴルゴニックヘアーを援護してあげて!」

「り、了解! ……セレクト、ロッキング オン アワ エネミーズ! デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット) エグゼキュート!」

「くっ、私が言おうとしたのに!」


 しかし愛三はそこまで動じず。

 むしろ切り替え早く、誘導銀弾による援護を命じる。


 たちまち命令を受けた全ゴルゴン艦隊は敵機を全て照準し。


 そこから、誘導銀弾が多数発射される。


 それにより幻獣機スパルトイの部隊は、次々と撃墜されていく。


「おりゃあ! おお姉貴、二手乃、愛三、こいつはすごいぜ!」

「や、やった! 敵機がどんどん、打ち落とされていくわ!」

「えへへん、すごいでしょ!」

「ええ……()()()()()()()()がね。」


 やや調子に乗っている妹たちを前に夢零は、敢えて皮肉混じりに言う。


「素晴らしい……これが、龍魔力財団の力か。」


 魔女自衛官らは、ただただ感心するばかりだ。


「ううん……悔しいけど、龍魔力財団も中々やるじゃなくってよ!」

「ええ、マリアナ様……」


 マリアナや法使夏も悔しがりつつも、その力を認める。


 しかし。


「う、うーむ……あれは形状からして、龍男の騎士団……バーン騎士団長か? 団長が、そうそう負ける戦い方をするとは……」

「団長については知らないけど……そうね、なんかあっさりしすぎてる。」


 ソードと青夢は、母艦型幻獣機をまだ警戒していた。


「幻獣機スパルトイ、壊滅!」

「ああ……予定通りだ。」


 が、母艦型幻獣機バハムートでは。

 バーンは部下の報告にも、未だ涼しい顔をしていた。


 艦載機群がほぼ壊滅したというのに、である。


「よおし、ゴルゴニックヘアー部隊やっちゃえー!」

「ええ……ただし、敵艦の分離に気をつけて! 先ほど分かれたパーツ一つ一つに当てれば、仕留められるわ!」

「り、了解!」


 愛三が煽り、夢零が冷静に付け加え。

 たちまちゴルゴニックヘアー部隊は、突撃を仕掛ける。


「全機、散開! 艦載機無き法母など、もはや大きな的でしかない!」

「了解!」


 部隊長の魔女が檄を飛ばし。

 それを受けたゴルゴニックヘアーたちは散開する。


 そのまま敵艦たる、母艦型幻獣機バハムートを取り囲み。

 再び、突撃を仕掛ける。


「各機、各個に敵法母照準! 誘導銀弾発射用意!」

「了解! ……セレクト、ロッキング オン アワ エネミーズ! デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット)!」


 ゴルゴニックヘアーは突撃しつつ、母艦型幻獣機を照準する。


 たちまち機体下部に備え付けられた誘導銀弾の先が、母艦型幻獣機を狙い――


 と、その時。


「……雷雲(フォーメーショ)形態(ンクラウド)に移行! 敵艦載機を一網打尽にせよ!」

「了解! ……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 雷雲(フォーメーショ)形態(ンクラウド) エグゼキュート!」


 バーンはすかさず、配下騎士たちに命じる。

 たちまち母艦型幻獣機は、そのパーツを分離させていく。


 が、それは先ほど攻撃回避のために蜥蜴の尻尾を切るがごとく分離した時とは訳が違っていた。


 なんと。


「!? な……敵法母が、細分化された!?」

「ややや!?」

「なっ、何だありゃ!?」

「お、お姉様!」

「な、何ですって!?」

「な、何ですのあれは!?」

「ま、マリアナ様!」

「な……やはり、まだ力が!」

「なっ……!?」


 ゴルゴニックヘアーの魔女たちも、龍魔力四姉妹も、凸凹飛行隊の面々も魔女自衛官たちも驚いたことに。


 母艦型幻獣機バハムートは、ゴルゴニックヘアー大と思われるパーツごとに自身を分解し。


 そのまま却って、自身に突撃を仕掛けて来たゴルゴニックヘアーをパーツ群の中へと取り込んでいく。


「ぶ、部隊長!」

「あ、慌てないで! ……エグゼキュート!」

「え、エグゼキュート!!」


 が、ゴルゴニックヘアーの魔女たちも諦めず。

 先ほど発射準備を整えた誘導銀弾を、発射する。


 しかし、それは先ほどと同様。


 パーツ群が隙間を開けて回避してしまう。


「……セレクト、ファイヤリング 雷の罠(ケラウノスネット)! エグゼキュート!」

「う……うわあああ!!」

「な……!」


 そして、次には艦長たるバーン自ら術句を唱え。

 命令を受けた母艦型幻獣機のパーツ群から、雷状のエネルギーが放たれ。


 それにより結ばれた雷の網によりゴルゴニックヘアー部隊は、一瞬で破壊された。


「お、応答なさいゴルゴニックヘアー部隊! 応答なさい!」


 夢零は動揺し、ゴルゴニックヘアー部隊に呼びかけるが。


 無論、反応なし。


「か、艦載機群が全滅……?」

「ま、マリアナ様!」

「くっ……バーン騎士団長!」

「ひ、人が……?」


 凸凹飛行隊の動揺も、無論激しかった。

 敵艦の戦法もさることながら、何より多数の人命が一度に失われたという事実。


「し、至急自衛隊機を!」

「くっ!」

「! ち、ちょっとどこへ行くの魔女木さん!」


 魔女自衛官たちもこれには、自分たちが動こうとするが。


 青夢は徐に、会議室を飛び出す。

 マリアナ・法使夏・ソードも慌てて後を追う。


「あいつは私が……私が!」

「お前だけで何ができるというんだ!」

「そうよ魔女木さん、あなたごときには」

「それでもやんなきゃいけないの!」

「!? ま、魔女木……」


 マリアナらの説得の言葉を聞いた青夢は、ふと立ち止まり振り返る。


 その目には、涙が溜まっていた。


「な……龍魔力財団さん! もうあなたたちはいいから!」

「! な……あの愚かな財団、また何かやらかされて?」


 が、その時。

 会議室から聞こえて来た魔女自衛官の言葉に、マリアナ・法使夏・ソードは引き返す。


「え……?」


 青夢も涙を拭い、会議室に戻る。

 そこには。


「鬼さん、こちら! 手の鳴る方へえ!」

「英乃お姉さん、いいよそのままあ!」


 英乃が指揮を取るゴルゴン二番艦が、母艦型幻獣機の前を突き進んでいた。


 未だに龍魔力四姉妹は、自分たちだけで母艦型幻獣機を狩ろうとしていたのだ。


「おやおや……無駄な足掻きを!」


 バーンは再びパーツ群が合わさり一つになった母艦型幻獣機を、より高速にし。


 そのままゴルゴン二番艦を、追い立てる。


「今よ、愛三!」

「はーい! …… 01CDG/、セレクト、ブーティング "(ゴルゴニックアイズ)"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート!」

「!? ほう……なるほど、これが先ほど見た"目"か!」


 夢零の言葉と共に、愛三が自ら座乗する旗艦の"目"を起動する。


 たちまち照準された母艦型幻獣機は、動きをゴルゴン二番艦の前で封じられてしまう。


「で、でもお姉様! また分離して」

「相変わらずトロいわね二手乃……この"(ゴルゴニックアイズ)"の前には、分離などできないわ!」


 回線を通じて伝えられた二手乃の懸念を、夢零は一蹴する。


 目標の動きを完全に封じるのだ、また分離などされるものか。


 夢零は怒りを込めて、鋼鉄の竜とも言うべき敵法母を睨みつけていた。


「くっ……か、艦が動きません!」

「ふふふふ……なるほど。だがな魔女共、その力は完全に見切っているぞ!」


 が、騎士らが動揺する中。

 バーンはむしろ、嬉々としていた。


「さあ、これで終わりよ敵法母! ……愛三!」

「りょーかい! …… デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット)! エグゼキュート!」

「……エグゼキュート!!!」


 たちまち勝利を確信した全ゴルゴン艦隊から、誘導銀弾がありったけ放たれる。


 そのまま誘導銀弾は無情にも、動きをすっかり封じられた母艦型幻獣機へと一直線に向かった。


「さあ……我が龍魔力の怒り、しかと受けなさい!」


 夢零は叫ぶ。

 これで――


「ふふふふ……セレクト、ビーイング トランスフォームド イントゥ 雷鎚(フォーメーショ)形態(ンミョルニル) エグゼキュート!」

「!?」

「えええ!?」

「な、そんな!?」


 ところが、何と。

 バーン自らが唱えた術句を受けた母艦型幻獣機は、たちまちその形を。


 さながら龍の口を模した大砲のようにも柄のない鎚のようにも見えるものへと変え、その筒の中を撃たれた誘導銀弾はすり抜けて行く。


 そして。


「!? え、英乃!」

「か、回避しろ!」


 素通りした誘導銀弾群はそのまま、母艦型幻獣機の前にいた英乃の座乗するゴルゴン二番艦へと向かう。


 慌てて回避を試みる英乃だが、それは虚しく。

 全弾、ゴルゴン二番艦へと命中し。


 艦は巨大な水しぶきと煙を吹き上げた。


「英乃ー!」

「あ、ああ……」

「そ、そんな……」

「嘘……」

「ば、バーン騎士団長……」

「い、いやー!」


 龍魔力姉妹も青夢たちも、これには泣き叫ぶ。


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