#32 "目"のお披露"目"
「ふう……なんとか着いたわね。」
青夢は自機たるジャンヌダルクの窓から、下を見る。
そこには、船体全てに幌が被せられ前の船に曳航されている法機戦艦の姿が。
空賊との戦いが終わり一か月ほど後。
空戦訓練のため、再び法機母艦に乗艦していた青夢たち凸凹飛行隊だが。
幻獣機リバイヤサンの出現の報により、出撃を余儀なくされていた。
が、幻獣機と凸凹飛行隊の交戦中。
これを離れた場所から見ていた、龍魔力四姉妹の編隊より誘導銀弾が放たれ。
彼女らとも交戦となる。
しかし、その最中ミリアとメアリーによる魔男の部隊も攻めて来ており。
中々に決着のつかぬ膠着状態となっていたのだが。
突如として龍魔力四姉妹の長姉・夢零が発動させた彼女らの専用機・蛇女殺しに備わる"システム"の真髄。
彼女ら曰く、"目"。
それがどれほどのものかは底知れないが。
果たしてその"目"によって、夢零以外その戦場にいる者は皆動きを封じられ窮地に落ち入る。
しかし、凸凹飛行隊も魔男も自機の能力により窮地を掻い潜り。
さらに夢零も勝手な判断により"目"を起動させてしまったことを、実は彼女の"目"付け役だった末妹愛三に咎められ撤退し戦いはひとまず終息した。
しかし次に凸凹飛行隊に舞い込んで来た仕事は。
「傷はないですわね……さあさあ、これには魚の一匹も傷を付けることは許されなくってよ! オーホホホ!」
法機戦艦――法機による機動力を持つ 法機母艦に、更に対艦用攻撃力と対空攻撃力を持たせた代物であり魔法塔華院コンツェルンの新兵器である。
今回は、これを先導して自衛隊の港まで護衛し。
その後、龍魔力財団の新システム搭載艦とのコンペティションに参加することが仕事だ。
そうして今、自衛隊基地に着いた所である。
「さて……どうやら、お相手も着いたようよ。」
基地内の滑走路に降り立った青夢たちは、停泊場に新たに多くの艦影が入って来る様を見る。
それは、同じく龍魔力財団の新システム搭載艦である。
「あー、あそこに魔法塔華院がいる!」
「おー、こりゃ腕が鳴るな!」
「ど、どうすればいいのお姉様!」
「ふん、このシステム艦を使えばイチコロよ!」
凸凹飛行隊と同じく、龍魔力姉妹も自機を滑走路に入れ着陸し。
四者四様に、凸凹飛行隊を見て声を上げる。
が、その中でも。
「(見ていなさい愛三……あなたに手柄は取らせやしない、隙を見て妨害工作を施すまでよ!)」
夢零は長姉の意地というべきか、末妹を陥れようと画策していた。
◆◇
「ではまず……龍魔力財団による防空システム艦、"ゴルゴン艦"の登場でございます!」
「はい!」
かくして、コンペティションは開始された。
まず龍魔力財団のお披露目が行われる中、魔法塔華院ひいては凸凹飛行隊は出番がないため。
査定役を務める魔女自衛官らと、基地内会議室にて待機となる。
龍魔力財団の法機は、そのシステム艦四隻にかけられていた布を吊り上げ。
そのまま剥がすと、その全貌が露わになった。
「な!」
「あれは少し前の……イージス、艦?」
この有様をひとまず見学していた凸凹飛行隊は、驚く。
青夢はその姿に、覚えがあった。
艦の見た目は、さながらひと昔前の防空システム・イージスシステム搭載艦に酷似していたのである。
「こ、これは素晴らしい姿ですね……何というのですか?」
「はーい! こ・れ・は……"ゴルゴン艦"、って言いまーす!」
「ご、ゴルゴン艦!?」
旗艦に当たるゴルゴン艦に座乗する愛三が、屈託なく明かしたそのシステム艦名に。
見ていた魔女自衛官たちも凸凹飛行隊も、驚く。
「ど、どういった艦なのでしょうか?」
「はーい! それはげ」
「まあそれは、百聞は一見に如かずということで! さあさ愛三、皆様にまず実演しないと駄目じゃない。」
「はーい、お姉さん!」
「(まったく、なってないわ愛三。まあ、早速あなたの失態ができていい気味なのだけどね!) では……無人法機、発進!」
夢零は、ほくそ笑む。
ちゃっかりと、愛三に代わる説明の主導権を得たのだった。
そうして無人の法機群は、姉妹がそれぞれ艦長を務める旗艦含む四隻のゴルゴン艦より順次発進した。
「ま、マリアナ様!」
「ええ、始まりましたわね。さあ龍魔力財団、どんな手様を用いて来られて?」
「ふん、大したものではなかろう!」
「うーん、何か嫌な予感……」
会議室の凸凹飛行隊も、固唾を呑んで見守る。
やがて。
「無人法機群……散開! 我らがゴルゴン艦に向け、攻撃開始!」
「はっ! ……セレクト、ジェネレーティング ランダム ナンバーズ! コントローリング 無人法機 イン アコーダンス ウィズ ザ ナンバーズ、エグゼキュート!」
夢零の指示に従い、全艦隊の艦内オペレーターが無人法機に命じる。
たちまち命令を受けた無人法機群は散開、各個に正しくランダムな動きで迫り来る。
「さあ! 次は」
「よーし! 全艦隊、"目"発動しちゃえー!」
「はっ! ……セレクト、ブーティング "目"! エグゼキュート!」
「よーし、いいよいいよー!」
「くっ、愛三い!」
そのままシステムの真髄たる、先の空中戦でも使用した"目"の発動を指示しようとする夢零だが愛三に取られてしまい。
たちまちその顔は、嫉妬に塗れるが。
果たして無人法機群は、その動きを一斉に止める。
「な、ま、マリアナ様!」
「な、何ですのあれは……まさか!」
「こ、この前の!?」
「う、嘘!?」
これに驚いたのは、凸凹飛行隊だ。
明らかにこれは既視感というレベルにも収まらぬ、一種の"トラウマ"。
あの、先の空中戦で全機動きを止められた出来事そのものだ。
しかし、愛三は事も無げに。
「よーし! ……セレクト、ロッキング オン アワ エネミーズ! ……エグゼキュート!」
「り、了解! ……エグゼキュート!」
更に無人法機群に向けて照準する術句をシステムにも、オペレーターにも命じる。
たちまち命令を受けたゴルゴン艦四隻は、各個に全艦誘導銀弾射出口を開き。
今まさに動きを止められている無人法機群に狙いを定める。
「……セレクト、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート! やっちゃえ!」
この愛三の一言により、全艦隊は一斉に誘導銀弾をありったけ発射する。
放たれた誘導銀弾はたちまち、全無人法機を一瞬の内に破壊してしまった。
「おお!」
「す、素晴らしい!」
これには魔女自衛官から、歓声が上がる。
「見ていただけましたかー、皆さん! このゴルゴンシステムはー、敵機の動きを止めて一網打尽にできる優れ物なのでーす!」
「おお……」
旗艦から響く愛三の声に、更に魔女自衛官らは感嘆の声が漏れる。
「(そうね……まあ実際には、魔男の技術を奪って造ったものだけれど。)」
夢零はすっかり面白くない思いとなり。
旗艦に搭載されている魔男の技術――すなわち、幻獣機に思いを馳せる。
「ま、待ってください!」
「? 魔法塔華院コンツェルンの魔女木さん?」
「あ、はい……魔女木青夢です。」
と、その時。
青夢が徐に、手を上げ立ち上がる。
無論、意見したい内容とは。
「あのシステムは」
「ね、姉様方! い、一時の方向から何か接近して来るって!」
「!? た、龍魔力財団さん? どうしました?」
が、そこへゴルゴン艦より声が響く。
二手乃が相変わらず取り乱した状態で、報告を上げたのである。
レーダーに機影艦影が映ったのではなく、映像を介しての目視らしい。
「な、何ですって!?」
「ふーん……ねえ二手乃お姉さん、映像出せる?」
「え、ええ……お、送ります!」
愛三から要請された二手乃は、旗艦を含め姉妹艦に映像を送る。
果たして、この姿は。
「これは……幻獣機?」
「何だよ二手乃……人騒がせだな! こんなの、ゴルゴニックアイを使えばイチコロじゃんか!」
「え、ええ!?」
「ええ、そうね英乃……愛三、ゴルゴンシステム起動よ!」
「はーい、りょーかい!」
何やら竜の如き幻獣機。
が、幻獣機が何だというのか。
むしろ、格好のゴルゴニックアイの咬ませ犬だ。
龍魔力姉妹はこの時、その程度の認識だった。
が、愛三は何故か何も発射しない。
「どうしたの愛三、早く撃ちなさい! まったく、私をイライラさせて」
「ううんお姉さん、あの幻獣機まだ射程圏外みたい♪」
「ふん、そんな見え透いた言い訳を……何ですって!?」
旗艦の愛三より報告を受けた夢零の顔が、強張る。
ゴルゴンシステムの射程外から見たその姿は、これまでに見た幻獣機の大きさとほぼ同じだったので最初は冗談かと思ったが。
レーダーが目標位置が射程外であることを告げるや夢零も末妹の言葉を飲み込まざるを得なくなる。
改めて見てみればこれは、これまでには見たことのない超大型の幻獣機だ。
「前方、敵艦隊捕捉いたしました!」
「ああ、ご苦労。……来たか、雪辱の日が!」
バーンは配下騎士の報告を受け、敵艦隊を睨みつける。
◆◇
「ど、どういうことザンスか!」
「そ、そうっしょ! い、一度は見限った筈の龍男の騎士団が、何でしゃしゃり出てくるんしょ!?」
少し時は遡り、魔男の円卓にて。
牛男の騎士団長ボーンと、魚男の騎士団長ホスピアーは揃って抗議の声を上げていた。
両騎士団から、(これは魔男たちの預かり知らぬことだが)魔女辺赤音によりそれぞれ一機ずつ幻獣機が強奪され。
その奪還へと向かった雪男の騎士団所属のメアリー、ミリアがしくじったことにより、同騎士団から別の騎士団に奪還任務が移管されることになったのだが。
いよいよ自分たちにも汚名返上の機会が与えられたかと、ボーンとホスピアーが思ったも束の間。
移管された騎士団は牛男の騎士団でも、魚男の騎士団でもなく龍男の騎士団だったのである。
「おほん! 静粛にしてくれないか諸氏よ。ああ、諸氏らの気持ちも分からぬでもない。バーン殿率いる龍男の騎士団は、所属騎士の寝返りとその尻拭いの失敗! さらには此度の幻獣機メデューサ奪取の件も含めて、もはや後のない状態である!」
「あ、ああ……」
「わ、分かってるじゃないっしょ!」
が、アルカナはすかさず二の句を継ぎ。
それにはボーンらも、少し押し黙る。
「……だからこそ宣言するが、これは龍男の騎士団長バーン殿に突きつけられた"最終宣告"である!」
「!? さ、最終宣告?」
これにより他騎士団長らは、更に驚く。
「そう。この任務での失敗は、もはやバーン殿には許されない! だからこそ、バーン殿には新兵器を使いゼロか百かの戦いに身を投じて頂こうではないか!」
「……うむ。諸氏よ、今アルカナ殿が言った通りだ。」
アルカナの言葉に続けて、バーンはいっそ胸を張り高らかに宣言する。
「我が騎士団の立場は、ご存じの通りかなり危うい! しかし……いや、であればこそ! 今アルカナ殿が言った通り賭をしたいのだ!」
「ば、バーン殿……」
その言葉にはさしものボーンにホスピアーも、他の騎士団長らも口を噤む。
「……では、決定事項ということで。よろしいですな、12騎士団長諸氏?」
「……異議なし!!」
もはや反論の余地なしと見たか、12騎士団長は揃って追従の意向を示す。
「(ふふふ……まったく、つくづく根回しという物をしろというのだボーンにホスピアー! まあ、何が分からぬかも分からない者共には発想すら難しいことか……)」
アルカナはこれを見て、内心ほくそ笑む。
◆◇
「……見つけたぞ、魔女共の艦隊よ。ソード、お前という汚点と我ら魔男を阻む最大の障壁たる凸凹飛行隊とやらに目に物見せてくれる!」
バーンは怒りを胸に、今一度目の前のゴルゴン艦隊を睨みつけた。