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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第三翔 龍魔力財団対空システム
32/193

#31 逃れがたき目

「さあ、愛三(めでみ)! 電使計賛機(コンピュータ)起動、"目"を発動するための演算を開始して!」

「はーい! ……電使計賛機起動、演算開始……」

「おほほ! これで終わりよ魔法塔華院共!」


 突如として龍魔力(たちまな)四姉妹の長姉・夢零(むれい)が発動させた彼女らの専用機・蛇女殺し(ハルペー)に備わる"システム"の真髄。


 彼女ら曰く、"目"。


 それがどれほどのものかは底知れないが。

 果たして、その"目"によって。


「う、動かない……?」

「くっ、カーミラ! どうなさったの?」

「くっ、俺のクロウリーも!」

「う、動かない!」

「くう……法使夏! あんたを今なら……って、私も動けない!」


 青夢ら凸凹飛行隊も、ミリアとメアリーの魔男も、夢零以外の姉妹も皆身動きが取れずにいる。


 空賊との戦いが終わり一か月ほど後。

 空戦訓練のため、再び法機母艦(ウィッチーズマザー)に乗艦していた青夢たち凸凹飛行隊だが。


 幻獣機リバイヤサンの出現の報により、出撃を余儀なくされていた。


 が、幻獣機と凸凹飛行隊の交戦中。

 これを離れた場所から見ていた、龍魔力(たちまな)四姉妹の編隊より誘導銀弾が放たれ。


 彼女らとも交戦となる。


 しかし、その最中ミリアとメアリーによる魔男の部隊も攻めて来ており。


 中々に決着のつかぬ膠着状態となっていたのだが。


「おーほほほ! どうよあんたたち。身動きが取れないでしょ? ならば……味わいなさい! 愛三、誘導銀弾(シルバーブレット)発射の照準を我らの敵全てに合わせなさい! さあ行くわよ、このまま!」


 夢零はその膠着状態に痺れを切らし、今こうしてこの戦場にいる敵全てに照準を向けようとしている。


「はい、お姉さん。……01CDG/EYES.exe……USER:administrator、PASS:✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎……エグゼキュート!」

「ほほほほ! そうよ、意外にも素直ね末妹よ……ん!? くっ……な、何故私が!」


 が、その時。

 夢零は激しく動揺する。


 何故か彼女本人も、身動きが取れないのだ。


「お姉さん……だめじゃない。勝手に"目"を作動させちゃ。まあいいけどね……この間に、凸凹飛行隊(奴ら)からデータを解析できるから。」

「な……愛三、あんたが!?」


 夢零はギョッとする。

 先ほど愛三が唱えていた術句は、管理者権限の奪取だったのだ。


 愛三が冷淡にも、"目"で夢零の動きをも止めてしまったのである。


「ば、馬鹿な何故!」

「お母様のおっしゃった通りだった……夢零お姉さんは、割合暴走しがちだからしっかり見張って置くようにって!」

「な……お、お母様が!?」


 夢零は耳を疑う。

 しかし同時に、それはあり得るという冷静な判断も働いていた。


 末妹が、自分を見張る"目"だったというのか。


 愛三。

 やはりこの娘は空恐ろしい。


「まあまあお姉さん、私に任せて。奴らのデータを採集しつつ、ここは……撤退しないと!」

「くっ……あなた、偉そうに私に命令するの!?」


 が、愛三は事も無げに。

 夢零に、撤退を促す。


「……セレクト、ロッキング オン アワ エネミーズ! ……エグゼキュート!」

「くっ……セレクト、オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート! (……ま、魔法塔華院マリアナ!)」

「! な、何ですって?」


 しかし夢零の言葉には答えず。

 愛三はそのまま、全ての照準を完了する。


 これには青夢も、黙ってはおらず。

 土壇場でのオラクル オブ ザ バージンにより得た情報を元に、マリアナに素早く意思を伝える。


 そうして。


「……セレクト、デパーチャー オブ 誘導銀弾(シルバーブレット) エグゼキュート! やっちゃえ!」

「……わたくしを舐めないで! ……エグゼキュート!」


 愛三は素早く、照準した目標全てに誘導銀弾を発射する。


 マリアナは死に物狂いで、カーミラへと術句を唱える。


 そして。


「くっ!」

「きゃっ!」

「くう、この!」

「ぐっ!」

「くう、姐様!」

「ミリア……狼狽んな!」


 誘導銀弾の爆発による衝撃は、辺り一面に水しぶきを巻き起こし。


 それにより戦場は、混乱状態となる。

 しかし。


「ん?」

「わ、私生きてる!」

「ね、姐様!」

「おやおや……これは。」


 ソードや法使夏、さらにミリアとメアリーも戸惑っている。


 誘導銀弾は各個に命中する前に、着水し爆発したのである。


「わ、わたくしの底力見たかしら……?」

「座標……エネミーバレット ディフェンス! ……わ、私の底力もでしょ魔法塔華院マリアナ……」


 誘導銀弾の座標全てを予測しマリアナに、カーミラのサッキング ブラッドによりそれらを撃墜させた青夢は彼女以上にヘトヘトである。


「だ、大丈夫ですかマリアナ様! そして魔女木も!」

「いや、もって何!」

「うむ、俺はガン無視か!」


 法使夏の言葉に青夢やソードは、食ってかかる。


「ミリア……今回は撤退だよ!」

「ね、姐様! でも……」


 幻獣機グレンデルの肩に乗るメアリーの指示が飛ぶ。

 ミリアは法使夏を睨みつつ、渋る。


「ここは一旦撤退さ! さあ。」

「……はい、姐様。」


 幻獣機グレンデルと幻獣機ゴグマゴグは、それぞれの主人たる女魔男の意思を受けてその場より高速で離脱する。


「! み、ミリア!」

「ふう……尻尾を巻いて逃げ出すとは、所詮魔男たちですわね。」

「所詮魔男とは何だ!」


 この有様を見て法使夏・マリアナ・ソードはそれぞれに反応を示す。


「(これって……何か胸騒ぎが。)」


 青夢はそんな彼らをよそに、新たな嫌な予感を湧き上がらせていた。


「……あら? そう言えば、あの幻獣機はどちらに?」

「! そ、そういえば……どこに行ったんでしょう?」


 マリアナと法使夏が、周りを見渡す。

 幻獣機リバイアサンが、どこにもいないのである。


「! ほ、ほんとだ……」

「ううむ、騎士が撤退させたのだろうか……」


 青夢とソードも、首を捻るばかりである。


 ◆◇


「ご苦労やったで、リバイアサン!」

「ぐるっ、ぐるる!」


 赤音は自機のハッチを開け、自分の元に帰還させた幻獣機リバイアサンを愛でる。


 幻獣機リバイアサンは、あたかも飼い猫のごとく喉をゴロゴロ鳴らす。


「それにしてもまったく……急に何するんや思うたけど。あの姉ちゃんたち、かなりぶっ飛んどるなあ!」


 先ほど影から見ていた、龍魔力姉妹の戦い方を思い返して赤音はため息を吐く。


「ま、ええか……さて、次も楽しみにしとるで!」


 赤音は先ほどまで戦場だった空域を仰ぎ、次には微笑む。


 ◆◇


「夢零。これはどういうことかしら?」

「お、お母様! こ、これは……」


 龍魔力家の屋敷にて。

 母の元子が花を生ける横で夢零は、縮こまっていた。


 四つ巴の戦いより、数日後。

 何とか母の元へ帰還した四姉妹だが、独断で"目"を起動させた夢零には容赦なき説教が待っていた。


「お、お母様! お言葉ですが……」

「……あら?」

「! はい……」


 声を上げかけた夢零だが、元子は試すかのように彼女の目を覗き込む。


「ま、魔男の者たちであったり、魔法塔華院コンツェルンの飛行隊であったり……敵が増えて行くことに業を煮やしてしまいまして、ならば短期決戦をと」

「夢零!」

「は、はいお母様!」


 夢零は考えを語るが。

 元子は彼女に鋭い声を向け、思わず夢零は居住まいを正す。


「戦いは、慎重かつ迅速にやるものよ。それを今回は……非常に冷静さを欠いた、精神論ばかり先走っての暴走! やはり、あなたに任せたのは失敗だったわね……」

「も、申し訳ございません……」


 夢零は、意気消沈する。

 母からの失望の言葉。


 何より、()()()という表現。

 それは。


「……愛三(めでみ)、入っていらっしゃい!」

「はーい、お母様!」

「……愛三。」


 元子の言葉と共に入って来た末妹の姿に。

 夢零は、愛三が戦場で言っていたあの言葉を思い出す。


 ――お母様のおっしゃった通りだった……夢零お姉さんは、割合暴走しがちだからしっかり見張って置くようにって!


 この娘は、自分を見張るための"目"だった。

 やはり空恐ろしきは、この妹だったか。


 夢零は改めて、身震いする。


「さて、愛三。対空システムは、どうなっているかしら?」

「はい、お母様! あの戦いで、一応は魔法塔華院コンツェルンの空飛ぶ法機にも"目"は効くことが分かりました! それと全てじゃないですけど、敵の法機のデータも取れました!」

「ええ……ご苦労様。さすが、出来る娘は違うわね〜!」

「えへへ、ありがとうございます!」

「(くっ、愛三い……!)」


 いかにも自分に当て擦っている母の言葉に、夢零の怒りは愛三へと向く。


 おのれ、末っ子の分際で。


「少し時期尚早かもしれませんが……このシステムを、今建造が終わろうとしている艦に搭載します。そうして……自衛隊のシステムコンペティションにて、魔法塔華院コンツェルンと争います!」

「なっ!?」

「わー、すごいですすごいです!」


 母の突然の言葉に。

 夢零は驚き、愛三は笑う。



 ◆◇


「新兵器なんて……そんな話、聞いてないんだけど魔法塔華院マリアナ!」

「ほほほ、今話したわ魔女木さん。」

「そうよ魔女木、マリアナ様は今話したわ!」


 縦浜港の、造船ドックにて。

 口を尖らせる青夢にマリアナ・法使夏は言い返す。


 これについては凸凹飛行隊は預かり知らぬことだが、龍魔力財団が防空システムを開発している中。


 魔法塔華院コンツェルンもまた、これまでに手にした強力な空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)たちの技術をデッドコピーに近い形ではあるが模倣し。


 独自の対空システムを開発していたのだった。

 これぞ(これまた凸凹飛行隊は預かり知らぬことだが)元子の言っていた、魔法塔華院コンツェルンの対空システムである。


「これって……法機母艦(ウィッチーズマザー)? いや、でもなんか……半分だけ……?」


 青夢は目の前の建造中船体を前に、首を傾げる。

 そこには、法機母艦を思わせる巨大な飛行甲板こそあるが。


 それは全船体の半分ほどに過ぎず。

 もう半分には、巨大な砲身を三基備えた砲塔が三つと。


 これまた巨大な艦橋部と、煙突を備えている。


「ほほほ……法機戦艦(アームドマギ)、と呼んでいますわ。対艦用破壊力と、法機や誘導銀弾(シルバーブレット)による対空攻撃力を併せ持つ対空システム搭載艦ですわよ!」

「す、素晴らしいですマリアナ様!」

「おーっ、ほほほ! これで、龍魔力財団とのコンペティションでも勝ってくれるでしょう!」

「なるほどな……ん? 龍魔力財団とのコンペティションだと!?」

「へえ……って、ええ!?」


 が、マリアナのこの言葉には。

 青夢とソードは、驚きの声を上げる。


 無論、龍魔力財団とのコンペティションなど聴いていなかったのだから。


「あら、あなた方聞いていなくて?」

「いや、聞いてないわよ!」


 マリアナは青夢やソードにも自衛隊に納入される防空システムのコンペティションを、龍魔力財団と争うことになったと告げる。


「という訳で! わたくしたちも、護衛飛行隊として行きますわよ!」

「はい、マリアナ様!」

「ふん、まあいい! 乗り掛かった船だからな!」

「まったく……また勝手にい!」


 マリアナの半ば強引な言葉に、法使夏・ソード・青夢はそれぞれの反応を示す。


 何はともあれ。

 これで、再び龍魔力財団とは争うことになった。


 ◆◇


「12騎士団長諸氏。何か私に、御用かな?」


 一方、魔男の円卓では。

 いつもとは違い、アルカナが召集される形にて会議が開かれた。


 それまでは暗かった、円卓の周囲が照らし出されて12騎士団長全てが浮かび上がる。


「分かってるっしょ! アルカナ殿、ブランデンとリベラはしくじったんしょ!」

「そうザンス! またあんたの独断が失敗したザンス!」


 魚男の騎士団長ホスピアーと、牛男の騎士団長ボーンは。


 前回コケにされていた溜飲を下げるかのごとく、アルカナに食ってかかる。


 すると。


「ああ、申し訳ない……では、代理を立てるとしよう。」

「おお! では、うちでやるっしょ!」

「いやいや、うちザンス!」


 ホスピアーとボーンは、これ幸いとばかりに功を焦る。


 が、アルカナは。


「ああすまぬホスピアー殿、ボーン殿。その代わりはな……バーン殿率いる、龍男の騎士団に任せることとした!」

「なっ!?」


 その言葉には、ホスピアーとボーンも驚く。

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