#30 四つ巴の空中戦
「し、誘導銀弾……発射!」
龍魔力四姉妹の機体である、空飛ぶ法機蛇女殺し。
そのうち一機から放たれた誘導銀弾は、今幻獣機と凸凹飛行隊との戦場に向かっていた。
空賊との戦いが終わり一か月ほど後。
空戦訓練のため、再び法機母艦に乗艦していた青夢たち凸凹飛行隊だが。
幻獣機リバイヤサンの出現の報により、出撃を余儀なくされていた。
が、幻獣機と凸凹飛行隊の交戦中。
これを離れた場所から見ていた、龍魔力四姉妹の編隊より今、誘導銀弾が放たれたのである。
「!? くっ、9時の方向に弾影ですわ!」
「なっ!」
「俺に任せろ! ……hccps://crowley.wac/、サーチ! アサルト オブ 空飛ぶ法機クロウリー!」
「……セレクト、サッキング ブラッド エグゼキュート!」
「くっ、魔法塔華院の令嬢!」
それを迎え撃つ役目を買って出ようとするソードだが。
マリアナはそんな彼を尻目に、誘導銀弾からエネルギーを奪う。
たちまちエネルギーの尽きた銀弾は、水面に落ちて爆発する。
「ミスタークランプトン。あなたの、アトランダムデッキとやらかしら? それ、時間がかかるのではなくて? だから、わたくしが真っ先に迎撃役を買って出たまでのことよ。」
「くっ、貴様」
「がああ!」
「! マリアナ様! ……セレクト、ゴーイング ハイドロウェイ エグゼキュート!」
ソードはマリアナを攻めるが。
幻獣機リバイヤサンの動きに気づいた法使夏は、直ちにルサールカの力を使い。
水流を纏い、幻獣機に突進していく。
「ふうん、雷魔さん……まあ、そちらはあなたに任せるわ! さあ、魔女木さん。ミスタークランプトン。わたくしが先ほどの弾の主を突き止める間、このカーミラを護衛して!」
「な、なぜ俺が!」
「まっ、私も言い方気に食わないけど……行くわよプランクトン!」
「だ、誰がミドリムシだ! ……しかし、そうだな。今は止むを得ん!」
マリアナからの命令を、青夢とソードは渋々遂行する。
が、その実。
「……hccps://camilla.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機カーミラ! セレクト ファング オブ ザ バンパイヤ エグゼキュート!」
「……hccps://jehannedarc.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機ジャンヌダルク! セレクト オラクル オブ ザ バージン、エグゼキュート!」
「……hccps://crowley.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機クロウリー! セレクト アトランダムデッキ。 節制――波の管理者 エグゼキュート!」
皆アプローチの仕方こそ違うが我先にと、周りの情報を把握し誘導銀弾の発射元を探ろうとしていた。
◆◇
「敵飛行隊機体周辺の電使力に変化あり! こりゃあ姉貴、何かおっぱじめそうだ!」
「ど、どうしよう夢零姉様!」
「ふん、ならば……愛三! 新たな誘導銀弾発射演算開始!」
「え? でもお姉さん。それじゃ、発射元ばれちゃうんじゃ」
「その時はその時よ! 今は、データ収集を優先なさい。」
「はい、りょーかい!」
龍魔力姉妹の機体間では。
凸凹飛行隊の動きを見て、情報共有と次の判断がなされていた。
今回の彼女らの目的は、いわば威力偵察とそれによる敵技術の分析である。
かくしてデータ収集が目標となった姉妹は、次の誘導銀弾発射準備に入っていた。
「システム……電使計賛機起動! 敵機位置把握、弾道計算っと。」
愛三は、長姉の命令通り大人しく演算を開始していた。
そうして。
「演算かんりょー!」
「結構よ。さあ、二手乃! 誘導銀弾一発発射。英乃、誘導銀弾二発発射!」
「ひいっ、は、はい!」
「承知したぜ、姉貴! ……セレクト、ランチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!」
「え、エグゼキュート!」
愛三の演算完了を合図に、夢零が命令し。
英乃と二手乃は、それぞれの誘導銀弾を合わせて三発凸凹飛行隊に向けて放つ。
誘導銀弾は再び、宙を飛ぶ。
しかし無論、それに遅れを取るジャンヌダルクら強力な機体ではなく。
「位置把握、完了しましてよ! 現在、10時から11時の方向にかけて敵機移動中!」
「はん、こっちもそのくらいは把握している!」
「ええ、こっちもよ!」
三機――ひいては、その操縦士らはほぼ同時に敵情報を把握する。
しかし、青夢は。
「(またノイズが……くっ、でも!)」
またもオラクル オブ ザ バージンを使う際のノイズを感じて苦しむ。
が。
さりとて、やはり他の機体に遅れを取る訳にはいかず。
気を取り直し、操縦桿を握り直す。
「さあ……来ましたわよ!」
「よ、よおし! 私が」
「いや、俺が先だ!」
「まったく……わたくしがして差し上げるというのに。もうよくってよ、ならば!」
自身の引き立て役とするつもりだった青夢もソードも、我先にと蛇女殺しから放たれた誘導銀弾を睨んでおりマリアナは憤るが。
結局は。
「……セレクト、サッキングブラッド エグゼキュート!」
「セレクト、ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」
「セレクト、戦車――神速の迎撃 エグゼキュート!」
「っ!? さ、三発とも撃破!」
「! な!」
龍魔力四姉妹が驚いたことに。
凸凹飛行隊は放たれた誘導銀弾を全て、即座に撃破してしまった。
「こ、これは……?」
「あーもう! 二手乃、英乃、あなたたちは下がりなさい! ……愛三、次は私たちよ!」
「やったー! ……あれ、でもお姉さん! 何か来ますよ。」
「え? ……きゃあっ!」
「ね、姉様!」
「姉貴!」
が、その時。
突如現れた影により、四機の蛇女殺しは攻撃を受け散開する。
その影は。
「やっほー! お久しぶりだね、凸凹飛行隊とやら!」
「え?」
「あ、あんたは!」
「だ、誰だお前は?」
幻獣機グレンデルの右肩に乗り颯爽と登場した雪男の騎士団が一人、メアリー・ブランデンである。
◆◇
「おお! さすがですマリアナ様」
「がああ!」
「……っと! もう、あんたしつこい!」
一方。
幻獣機リバイヤサンと戦う、法使夏のルサールカである。
が、ここにも。
「がああ!」
「あんた邪魔なのよ、退きなさい!」
「! あ、あんた……」
「……久しぶり、私の宿敵。」
幻獣機ゴグマゴグ、の分離した右半身ゴグを操って幻獣機リバイヤサンを追い払いつつ。
左半身のマゴグの肩に乗り現れたのは、使魔原ミリア――現ミリア・リベラである。
「み、ミリア!」
「ええ、私はミリア・リベラ! 魔男の12騎士団・雪男の騎士団所属、ゴグマゴグの騎士。……以後、お見知り置き願うわ。」
「み、ミリア・リベラ……?」
ミリアの新たな姿に、法使夏は狼狽する。
かつてのサイドテール――法使夏と『二人で一つ』だった髪型は今や垂らした長いものに変わり。
装いも魔男のそれと同じ、ライダースーツのようなものに変わっている。
「がああ!」
「……チッ! 感動の再会、が台無しだわ! ……セレクト、アセンブリングシザース エグゼキュート!」
「! み、ミリア!」
しかし、やはり幻獣機リバイヤサンは幻獣機ゴグを振り切りミリアと法使夏に迫ろうとし。
それを見たミリアは舌打ちし、術句を詠唱する。
そして幻獣機ゴグとマゴグは再合体に幻獣機リバイヤサンを巻き込み、挟み込む。
「ぐるる……がああ!」
「ふふふ……いい子いい子、逃げちゃダメよ?」
「み、ミリア……?」
法使夏は二つのことに、戸惑う。
一つは、ミリアがサディストとしての一面を今見せていること。
さらにもう一つが、幻獣機リバイヤサンがどうやらミリアの味方ではなさそうであること。
てっきり魔男の差し金かと思ったが、何やら仲間割れということか。
しかし、さらに。
「(……hccps://martha.wac/、サーチ! アサルト オブ 空飛ぶ法機……セレクト! 処女の慈悲 エグゼキュートや!)」
「!? くっ……!」
「! み、ミリア!?」
「がああ……がああ!」
法使夏とミリアには聞こえないが、誰かが唱えた術句により。
ゴグとマゴグに挟まれている幻獣機リバイヤサンが突如勢い付き、暴れ出す。
いや、それだけではなく。
「ゴグ……マゴグ!」
幻獣機ゴグ・マゴグもミリアの意とは無関係にもがき出してしまう。
「くっ……止むを得ないか…… セレクト、アンアセンブライズ 幻獣機! エグゼキュート!」
ミリアは仕方なしに、幻獣機ゴグマゴグを再び分離させる。
そうして解き放たれた幻獣機リバイヤサンは。
先ほどのお返しとばかりに、ミリアの乗る幻獣機マゴグへと向かって行く。
「がああ!」
「くっ!」
「ミリア! ……セレクト、ハイドロディフェンス エグゼキュート!」
「があっ!」
「!? ほ、法使夏……」
が、法使夏が。
そうはさせじと、ルサールカより水流を放つ。
間一髪、幻獣機リバイヤサンの進路は逸れる。
「大丈夫、ミリア!」
「ふ、ふん! 私は敵よ、甘いわ!」
「がああ!」
「み、ミリアまた!」
「本当にしつこいわね……セレクト、ツインストリーム エグゼキュート!」
「ぐああ!」
ミリアの身を案じる法使夏を、彼女は冷たく遇らうが。
急旋回して戻ってきた幻獣機リバイヤサンに、今度はミリアがゴグ・マゴグより竜巻を放つ。
幻獣機リバイヤサンは、それによりまたも引き離される。
「み、ミリアまさか私を助けるために」
「ふ、ふん! か、勘違いしないでよ、これはただ借りを返しただけなんだからね!」
「……うん!」
やや捻くれ気味なミリアのセリフに、法使夏は少し顔を綻ばせる。
が、次には彼女も顔を引き締め。
「ミリア……あんたのこと、引っ叩いてでも連れて帰るから!」
「ええ、そうね……それでこそ、私の宿敵よ!」
ミリアと、互いに改めて宣戦布告する。
と、その時。
「!」
「!? き、機体が……み、身動きも取れない!」
ミリアと法使夏は、何やら自機共々急に動けなくなる事態に見舞われる。
◆◇
「こ、これは!?」
「な、このわたくしが……!」
「くっ……何だこれは!」
「こりゃ……身動きが取れないねえ!」
同じ頃、ジャンヌダルクら三機と龍魔力四姉妹、さらにメアリーの戦場では。
「あ、姉貴……」
「ね、姉様!」
「あーら……お姉さん。」
「セレクト、……! ……ほほほほ! よくも私をコケにしてくれたわねあんたたち……今、我が財団が誇る"目"の力! 思い知らせてあげるわ!」
他の姉妹も戸惑っていることに。
長女夢零が、"システム"の真髄とも呼べる"目"を作動させていた。
それは、凸凹飛行隊と龍魔力四姉妹。
そしてメアリーとミリアの魔男。
さらに。
「(あらまあ……あの法使夏っちゅう姉ちゃんも敵助けるなんてどうかしとる思たけど、あの夢零って姉ちゃんも大概やな!)」
この戦場から離れた所で状況を見つつ、自機たる空飛ぶ法機から幻獣機リバイヤサンを操っていた少女・魔女辺赤音。
この四つ巴の戦場を、今支配しようとしていたのである。