#29 龍魔力四姉妹、動く
「……hccps://jehannedarc.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機ジャンヌダルク! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
「……hccps://camilla.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機カーミラ! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
「……hccps://crowley.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機クロウリー! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
「……hccps://rusalka.wac/、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機ルサールカ! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」
魔法塔華院コンツェルン保有の法機母艦・プリンセスオブ魔法塔華院(要するにマリアナなのだがさておき)。
その飛行甲板上で縦一列に並んだ凸凹飛行隊の機体、ジャンヌダルク・カーミラ・クロウリー・ルサールカの操縦士たちは一斉に術句を唱え。
そのまま順番に飛行甲板を滑走路として使い、空へと踏み出して行く。
空賊との戦いが終わり一か月ほど後。
凸凹飛行隊はこうして飛行訓練に、励んでいた。
「……フォーメーション矢印! さあ、行きますわよ!」
「はい、マリアナ様!」
「分かっている!」
「分かってるわよ!」
空へと上がった四機体はすかさず。
マリアナの指示により、矢印型に編隊を組もうとする。
が。
「うおっと! あ、危ないでしょプランクトン!」
「だ、誰がツボワムシだ! 魔女木、お前が」
「ちょっと止めなさいよ、マリアナ様の前で!」
マリアナ以外の三機体は、共に我も我もとガッつき過ぎているためか中々綺麗な編隊を組めずにいる。
「はあ、ダメダメですわね……一機ずつ帰艦、今一度やり直しますわよ!」
「は、はいマリアナ様!」
「ふ、ふん! 分かった!」
「あーあ……」
マリアナはすっかり機嫌を損ねた様子で、カーミラを帰艦させる。
これを見た青夢や法使夏、ソードもそれに倣い自機を帰艦させる。
◆◇
「ええっと、まず……あなたたち! ご自分の機体を操れるのがご自分だけだからといって調子に乗っているのではなくって?」
「も、申し訳ございませんマリアナ様!」
「まあ、連携は取れてなかったわね……ごめん。」
帰艦後、一旦訓練は中止となり。
マリアナは青夢・法使夏・ソードを格納庫内に正座させてお説教モードである。
「い、いや! 俺のせいではなく、こいつらが」
「あらまあミスタークランプトン。……なるほど、文字通り首にされたいんですの?」
「!? や、止めろ! す、すみませんでした!」
が、ソードの言い訳に。
マリアナは、ソードのチョーカーを指差しつつ笑顔で激怒する。
ソードもこれには、すっかり平謝りである。
「あははは、まあまあ! ……しかし、また新たな機体を手に入れるとは驚いたよ。」
「! や、矢魔道さん♡」
「あら、矢魔道さん……」
「あ、お疲れ様です!」
が、そんな空気を変えるべくか。
やって来たのは整備長の矢魔道士だ。
青夢の、想い人でもある。
「ルサールカ……だっけ? 水の中も飛べるとはね、一体どんな技術なんだろうな?」
「あ、はい! ええと、正しくは水のトンネルを」
「お、おほん! や、矢魔道さん……すみませんが、今はこの至らぬ隊員たちのお説教中ですの。」
「あ、すまない魔法塔華院さん。」
が、マリアナは少し顔を赤らめながらも。
矢魔道の言葉を、遮る。
「い、いえ……そうですわ。矢魔道さんからも、何か言っていただかないと!」
「え? ぼ、僕からかい? う、うーんそうだね……」
「や、矢魔道さん?」
「!」
「くっ……」
矢魔道はマリアナの言葉に、青夢・法使夏・ソードを見比べる。
「……魔女木さん。」
「は、はい!」
「……雷魔さん。」
「はいっ!」
「……クランプトン君。」
「な、何だ!」
途端に三人には、緊張が走る。
何を、言われるのか――
が、矢魔道は次には。
「お、お願いがあるんだ! えっと……アラクネさん、だったかな? あ、会える方法を教えてくれないかい?」
「……えええ!!!???」
その言葉には三人共、拍子抜けである。
「ち、ちょっと矢魔道さん!」
「あ、ご、ごめん魔法塔華院さん! ……す、すまないね皆も!」
「い、いえ……」
これにはマリアナも驚き、矢魔道を叱責する。
「(や、矢魔道さんまさか……あのアラクネさんみたいなのが好みなの〜!?)」
が、青夢は。
この事態に、激しく動揺していた。
◆◇
「……では、始めようか。12騎士団長諸氏。」
一方、魔男の円卓では。
いつもの通り、アルカナの呼びかけにより。
それまでは暗かった、円卓の周囲が照らし出されて12騎士団長全てが浮かび上がる。
「ふうむ、アルカナ殿。」
「何の、御用かな。」
騎士団長たちは、怪訝な顔をしている。
「……先刻謹慎となった、メデューサの騎士のことは知っているな?」
「ああ、龍男の騎士団の!」
「またもバーン騎士団長の失態か……まったく!」
アルカナの言葉に、皆がざわめく。
「いやいや、人のことを言っている場合かな? 魚男の騎士団長、牛男の騎士団長。」
「! うっ……」
「くっ……」
が、アルカナの次の言葉には。
魚男の騎士団長、オーブ・ホスピアー
牛男の騎士団長、ジャード・ボーンがビクリと反応する。
何故なら。
「メデューサの騎士は、愛機たる幻獣機メデューサを失った。だが……諸氏も既に、それぞれライカンスロープフェーズに到達している幻獣機を失っているな?」
「うっ、そ、それは……」
「だ、だが! それとこれとは関係ないザンス!」
「そ、そうっしょ! 関係ないっしょ!」
ボーンとホスピアーは、口々に抗議する。
「なるほど、あくまでこの場で責任は負わないというか……ならば分かった。クラブ殿、ブランデンとリベラを派遣し事に当たらせてほしい。」
「ああ……承知しているアルカナ殿。」
「なっ! 何ザンスか、それ!」
「お、俺たちを舐めてるっしょ!」
が、アルカナは事も無げに雪男の騎士団長ギガ・クラブに言う。
「だ、だいたい! この前魔女社会に潜入しておきながら失態を演じたのはブランデンっしょ! 何でそんな所に」
「おいおい、私も――いや、この魔男の円卓とて鬼ではない。素直に失態を埋め合わせると言えば、機会を与えなくもなかったのだがな。」
「くっ……」
「(そうさ……組織で必要なのはまず根回し。損をしたくなくば、その程度はしておくべきなのだが。)」
アルカナはホスピアーたちを尻目に、心の中でほくそ笑む。
そう、既にブランデンとリベラ――メアリーとミリアには根回ししてあったのである。
「何、あたしらに?」
「ああ、これは極秘なのだが。」
「ふうん、龍男の騎士団所属の幻獣機メデューサが、奪われたって?」
メアリーはアルカナから資料を受け取り、読んでいた。
何でも、その幻獣機を奪われたことにより。
メデューサの騎士は、牢での謹慎を言い渡されたのだという。
「しかも……魚男の騎士団所属の幻獣機リバイアサンと、牛男の騎士団所属の幻獣機ボナコン。どちらもライカンスロープフェーズに至っていたが、奪われたって?」
「姐様。奪われた、とは?」
首を傾げるメアリーに、ミリアは問う。
幻獣機を奪える者など、魔女社会にいるのか?
「あたしも聞いたことないねえ……アルカナさんよ、これはどういうことだい?」
「ああ、私にもそれは分からん。だから、奪った者を探し出してほしいのだ。」
「おやおや……中々の無理ゲーだねえ。」
アルカナの言葉に、メアリーは深くため息を吐く。
「まあでも、君たちにとっても悪い話ではないんだがねえ……今回の件を解決すれば、立場をよくできるかも知れんのだがな。」
「!」
「ほう……? その言葉、確かに言ったからねあんた!」
しかし、メアリーとミリアは。
結局はそれを条件に、この任務に当たることにしたのだった。
◆◇
そして龍魔力財団経営者一族・龍魔力家屋敷では。
「お姉さん、これ美味しいですよ!」
「いいわ、愛三! あなたからお菓子など、いただきとうありません。」
長女の夢零は、四女たる妹・愛三を素気無くあしらう。
母から寵愛を受けているこの末妹は、彼女にとって煩わしい存在であることこの上ない。
「でも、お姉さん。お母様は、何をしようとなさっているんでしょう?」
愛三は惚けた顔で、長姉に尋ねる。
「まったく、そんなことも分からないの?」
夢零は、鼻で愛三を笑う。
「恐らく、あれを動かすことになるのでしょう。」
「あ、あれって何!? む、夢零姉様」
「ああもう! あんたはいちいち怯えるのいい加減やめなさい二手乃!」
夢零の言葉に過剰反応したのは、気弱な三女・二手乃だ。
「ああ、あれでしょ? ええっと、確かごる」
「こら、愛三! あんたって娘は……その名は私たちでさえ口に出しちゃいけないの。言う時は、暗号名。」
「ああ、そうだった! ええと……蛇女殺しだよねー?」
「ええ……それ、いちいち確認することじゃないのよ!」
うっかり暗号名ではなく実名を明かそうとした妹を厳しく叱責し、夢零はため息を吐く。
まったく、こんな奴が母・元子の寵愛を受けているとは。
母には、こんな愚妹では龍魔力財団も次代で終わってしまうと知ってもらいたいものだ。
夢零は、そう心中で毒づく。
「まあまあ姉貴、いいだろそんなの? いちいち目くじら立てることじゃねえよ。」
「! まったく英乃……そうね、あなたも目くじら立てられるべき所――女らしさの欠片もない所があったわね!」
次女の英乃の言葉遣いを夢零は、注意する。
とはいえ夢零は、別に直してやる義理はないと思っている。
それは先述の通り、この四姉妹は皆後継者争いの相手だからだ。
だから、口の悪い英乃や意思薄弱な二手乃など、早々に母に見限られてしまえばいい。
しかし、愛三は少し別だ。
こんな天然な風を装っている妹だが、これまた先述の通り母の寵愛を受けている。
中々に、厄介な相手なのである。
◆◇
「どうかしら、魔女木さん?」
「……いた、この先12時の方向!」
その、夜のことである。
幻獣機出現の報を受け、ジャンヌダルク・カーミラ・クロウリー・ルサールカは夜空を駆ける。
そうして。
「がああ!」
「幻獣機! 現れましたわね……」
凸凹飛行隊の前に現れたそれは果たして、魚男の騎士団が保有していた幻獣機リバイアサンだった。
「ふふふ……さあて、敵機位置把握。いくわよ……撃ちなさい、二手乃!」
「は、はい姉様! し、誘導銀弾発射!」
そして、戦場から少し離れた所では。
龍魔力四姉妹が操る空飛ぶ法機、暗号名・蛇女殺し。
そのうち二手乃が操る機体から、特殊誘導弾・誘導銀弾が放たれた。
「ふん、さあて……どこまでやってくれるかな?」
これらの様子を、戦場の更に上空で高みの見物を決め込んでいる機体があった。
何やらフードを被った少女の乗る、空飛ぶ法機である。




