#2 忍びよる影
「おはようございます、教官!」
「おはようございます、教官!」
「ああ、おはよう! いいぞいいぞ朝から元気で! 関心感心……おや?」
朝。
教室に入って来た生徒たちを、優しく見つめる教官だが。
めざとくも青夢の姿を見咎める。
「何だ何だ? 一人だけ、感心じゃない奴がいるな〜! ……起きろ、魔女木!」
「……はっ! はいっ!」
鼻に提灯を作ってしまうほど、机に座りながら寝入りかけていた青夢は、教官の言葉に飛び起きる。
「まったく! 本当になっとらん奴だなお前は! ……今日は掃除をしてから、実機訓練に入れ!」
「はっ、はい! ……え? ち、ちょっと! 教官、それはあんまりです!」
「じゃあ、実機訓練もなしでいいんだぞ? 私はな。」
「……はい。」
教官の言葉に青夢は、従うしかなかった。
後ろの席からはマリアナたちの、笑い声が聞こえる。
◆◇
「まったく……ここ、なんでこんなに汚れてんのよお!」
青夢は悪態をつきながら掃除する。
掃除を命じられた場所は、明らかに汚れすぎていた。
まるで、さっき汚されたかのような――
「おやおや、これはこれは魔女木さん! 何ですの? この汚い部屋は!」
甲斐甲斐しくもマリアナが取り巻き二人を連れて青夢を見に来た。
「雷魔さん、どう思います?」
「まあ……魔女木さんにはお似合いな気がしますわね〜!」
雷魔法使夏は尋ねられ、答える。
「使魔原さんは?」
「いえ、もっと汚い方がお似合いかもしれませんわ!」
使魔原ミリアは尋ねられると、ゴミ箱の中をぶちまける。
「ち、ちょっと! それは」
「ほら、散らかっちゃったじゃない! 片付けなさい。」
ミリアは自分で荒らしておいて抜け抜けと、青夢に命じる。
法使夏とミリア。
どちらもサイドテールの少女。
右サイドのテールが法使夏。
左サイドのテールがミリアである。
もっとも、これは今日の話。
日によって逆だったりするのでややこしい。
さらに顔立ちも似ていて制服を着ている時は、もはや双子だ。
「さあて、そろそろ実機訓練の時間ね! 遅れてしまっては何だから、早く行きましょう。」
「はっ! マリアナ様!」
そこは取り巻きらしく、統率の取れた動きをする。
「さようでございますね。このままではあのトラッシュと、同じになってしまいます。」
「最も掃除すべきは、あのトラッシュかもしれませんね!」
「トラッシュに掃除させるとは! されろよという話ですよね!」
はははと、女三人の甲高い嗤いが響く。
「……! おのれえ!」
青夢は悔しくて、物につい当たってしまう。
◆◇
「遅いぞ! 掃除に時間をかけ過ぎだろう?」
「あ、はい……すみません。」
ようやくやって来た飛行場にて、青夢は教官から責められてしまう。
また例によって、マリアナの話を持ち出すと怒られるのでやめた。
「おや、魔女木さん! 遅かったね?」
「や、矢魔道さん♡ い、いえ〜、そんなあ!」
自身の訓練機の所へやって来た青夢は、矢魔道の出迎えに感激する。
「よおし……さあ、サーチ・コントローリング・ウィッチエアクラフト! ……エグゼキュート!」
俄然活気づいた青夢は、早速訓練機に乗り発進魔法を実行する。
機尾の花状プロペラが回転し、青夢機は飛び立つ。
◆◇
「サーチ・メイキング・トラッシュ・フィール・リアリティ……エグゼキュート・ダーティー(泥)・バレット(玉)!」
「うわっ! くっ、また!」
「エグゼキュート・ダーティー・バレット!」
「エグゼキュート・カラーリング・アサルト!」
「うわっ! ……くっ、あんたたちまで!」
しかし青夢は、早々に出鼻を挫かれる。
この前のマリアナに加え、法使夏とミリアまで参戦して来たのである。
「くっ……このお! 大体何よ、その魔法!」
青夢は激しく抗議する。
本来、法機に積まれている魔法検索エンジンに『落ちこぼれを嬲るやり方』だの、『落ちこぼれに現実を見せるやり方』だのという魔法は登録されていない。
そもそも魔法検索エンジンはこのような、某グー○ル先生のようなやり方は想定されていない。あくまで、魔法を検索するためのものだ。
それで使えているということはつまり、改造がされてしまっている可能性が高い。
「改造なんて、だめじゃない! ……ぐっ!」
「口だけは減らないトラッシュね! マリアナ様に逆らうことは許さない!」
「トラッシュ教育のためには手段なんて、選んでられる訳がないでしょう?」
「こ、このお! ……ぐっ!」
青夢の抗議も、法使夏とミリアは更なる攻撃により文字通り塗り潰してしまう。
「くっ……もう! あんたたちのやってることが違法でしょ! あんたたちこそ教育されなさいよ!」
「うるさいって言ってるでしょ? また食らわせないとね!」
更に青夢の抗議を、法使夏は塗り潰そうとし――
「くっ! ……なっ、翼がやられて……きゃああー!」
「ら、雷魔さん!」
「な、何? ど、どこからか火が……きゃあっ!」
「使魔原さん!」
法使夏とミリアはその時、機体を何者かに撃ち落とされてしまう。
「な、何あれは?」
マリアナは火が飛んで来た方向を見て、絶句する。
そこに、いたのは。
「ド、ドラゴン!?」
◆◇
「ふう……目障りなハエが今日も飛んで来ているぜ! ……魔女共めが。空を我ら魔男から奪いやがって……!」
先ほどの青夢機とマリアナ機、法使夏機とミリア機の戦いを苦々しく見つめる男がいた。
「……サーチ・デパーチャー・オブ・幻獣機、エグゼキュート!」
男の命を受けた幻獣機が、吠える。
「……幻獣機・ドラゴン。魔女共を、ハエ叩きのごとく懲らしめろ!」




