#27 法機対艦 水宙戦
「さあさあ……どうするんだい元魔男さんよ!」
「ああ……どうしたものかな!」
魔法塔華院コンツェルンの企業城下町・縦浜市にて。
空賊の潜水法母・水隠号から聞こえる女魔男・メアリーの声にソードは、考えあぐぬいていた。
ソードから見て敵艦は、水中にある。
攻撃は防げても、こちらから決定打を与えるのは容易ではないからだ。
魔男との三度の戦いを経た後。
正式に魔法塔華院コンツェルンの傘下となった同飛行隊は、正規任務としては初となる空賊からの輸送飛行船護衛任務を受けていた。
そうして昼間、海上に空賊の拠点がないか探したが見つからず。
夜、マリアナと法使夏・ミリアは輸送飛行船の護衛にあたっていた所を今、空賊に襲われる。
しかしその戦闘中に現れた幻獣機グレンデルは、何度でも蘇る幻獣機であり。
ミリア機はそれにより不意をつかれ撃墜され、マリアナと法使夏も絶対絶命の危機に陥るが。
その状況を察知した青夢が駆けつけ、事なきを得る。
しかし、そこに魔男の騎士団長アルカナが現れ。
少しその威容を見せつけると、ここが青夢ら凸凹飛行隊の死に場所ではないと告げ。
幻獣機グレンデルを連れてその場を去る。
そうして、その戦いの翌々日。
自ら空賊専用飛行船・風隠号に座乗して現れた王魔女生グループの若社長・尹乃と凸凹飛行隊は戦闘となるが。
そこへ現れたのがあの招かれざる客たる、幻獣機グレンデルである。
そのグレンデルからマリアナを庇い、ミリアは乗機ごと叩き墜とされるが。
ミリアを案じる法使夏や青夢をマリアナは諫め、戦いに改めて集中させる。
しかし、グレンデルの特性によりその討伐を試みた空賊――ひいては飛行船に座乗する王魔女生尹乃は大いに苦戦させられる。
が、そこに現れた矢魔道が乗って来た新機体により。
カーミラは真の性能に目覚め、幻獣機グレンデルを撃退し。
更に、空賊の風隠号をも撃墜して戦いを終わらせる。
が、その後の捜索でミリアは見つからぬまま凸凹飛行隊は法母に戻り。
ジャンヌダルクの予知を使った青夢は、それによりミリアの行方を突き止めて空賊の新たな飛行船へとマリアナ・法使夏共々駆けつける。
しかし、青夢らの計らいでミリアとの再会を果たした法使夏は。
なんと、そのミリアに襲撃されてしまう。
ミリアは青夢や法使夏・マリアナを罠に嵌めるため待っていたと語った。
そのままミリアは自らの望みを唱え。
法使夏もまた、自らの望みを見出して唱えた。
そうして、ミリアは"ダークウェブの王"により。
法使夏は、アラクネの導きによりそれぞれに力を手にしていた。
その一方、魔法塔華院コンツェルンの企業城下町が一つ・縦浜市に。
マリアナらが海上警戒を解いた隙を突いて水隠号と同艦載の水上法機数機で攻め寄せていた。
しかし、戦いのさなか空賊長たるメアリーは潜入していた女魔男としての本性を表して水隠号を乗っ取り縦浜港を襲っている。
「さあて、どうするか……ん?」
「おや? 空から竜巻かい?」
が、その時。
どこからともなく飛んで来た水流に、ソードもメアリーも首を傾げる。
無論、その水流は。
「さあ……マリアナ様、トラッシュ! 行きますよ!」
「ええ、雷魔法使夏!」
「ええ、よろしくってよ! ……けれど雷魔さん。あなたが仕切るのは」
「あ、す……すみませんマリアナ様!」
法使夏がダークウェブの女王・アラクネより授かった新たな空飛ぶ法機ルサールカを先頭に、縦一列に並んだ凸凹飛行隊の三機体である。
「と、ともかく! ……これより、海中に入ります!」
「か、海中に!? だ、大丈夫なの雷魔さ」
「よおし! やっちゃえ雷魔法使夏!」
「ああ、もう……仕方なくってよ!」
戸惑うマリアナを他所に、青夢は対照的に嬉々としていることもあり法使夏はそのまま水流を海に入らせる。
「ほう……何か知らないが、こりゃあ味方ではなさそうだねえ! セレクト、ハイドロトーペッド! エグゼキュート!」
「セレクト、オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート! ……雷魔法使夏! 敵弾はまず11時の方向からよ!」
「ええ、了解よトラッシュ! ……セレクト、カッターテイル エグゼキュート!」
事情は読み切れてはいないものの、目の前の水流が少なくとも敵性飛行物体であることを察したメアリーは。
水隠号より、海中に水の魚雷による弾幕を展開する。
が、青夢はジャンヌダルクの予知能力を使い。
「次は3時! 次は……6時!」
「分かったっつーの!」
水魚雷の位置を正確に把握し、それに従い法使夏はルサールカを操り。
水流を縦横無尽に畝らせて弾幕を掻い潜り尾を引く水流で水魚雷を切り裂いて行く。
「ほう……? なるほど、少しは遊べるみたいだねえ!」
メアリーはこの様を見て。
ならばと。
「……セレクト、影隠 エグゼキュート!」
水隠号を、ステルスモードに移行する。
◆◇
「! あれは」
「ええ、敵のステルスモード……かつて輸送飛行船が襲われた時と同じく、こせこせと逃げ隠れするための能力ね!」
マリアナが声を上げる。
水隠号が、視認できなくなったのである。
「ははは! さあて…… セレクト、ハイドロトーペッド! エグゼキュート!」
メアリーは勝ち誇ったように笑い、再び水魚雷の弾幕を展開する。
「! 今度は全方位から水魚雷が!」
「くっ、分かってるわよトラッシュ! ……っ!?」
「! ら、雷魔法使夏!」
迫り来る弾幕に、再び闘志を燃やす法使夏だが。
ルサールカ――ひいてはそのベース機体である一般機体が、急に不調となり慌てる。
「あんたの機体の電使力が」
「……セレクト、ファング オブ ザ バンパイヤ エグゼキュート! ……サーチ、コントローリング 空飛ぶ法機カーミラ! セレクト、コネクティング 空飛ぶ法機 エグゼキュート! ……セレクト、サッキング ブラッド エグゼキュート!」
「ま、マリアナ様!? ……きゃっ! あ、あれ?」
しかしその時。
徐に術句を唱え出したマリアナに驚く法使夏だが、すぐに別の異変に気づき落ち着く。
先ほどまで低下していた機体の電使力――魔力が回復してきたのである。
「雷魔さん、早く弾幕を掻い潜っておしまい! 魔女木さんも早く、敵弾の動きを指示して!」
「は、はいマリアナ様!」
「今やるわよ!」
一旦は揺らいだルサールカの水流だが、次には先ほどと同じく弾幕を掻い潜り持ち直す。
「雷魔さん、あなたの機体はジャンヌダルクやわたくしのカーミラとは違って一般のものだからそのままでは力を引き出せなくってよ!」
「は、はいマリアナ様! そ、そうでしたか……」
マリアナの言葉に、法使夏は先ほどの不調の意味をようやく理解する。
「だから、わたくしがルサールカとカーミラ、二機の電使力を共有して上げますわ! さあお行きなさい、雷魔さん!」
「はい、マリアナ様!」
マリアナの更なる言葉に、法使夏は俄然活気付く。
そうしてルサールカの水流は、海中を駆け巡る。
やがて、敵弾幕が少し途切れた頃。
「(うーん、魔法塔華院マリアナに美味しい所だけ持って行かれてる気がするけど……ここは仕方ない、だったら私は敵艦の位置を! ……セレクト、オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート!)」
青夢は、マリアナの出しゃばりに少し気を悪くするが。
予知能力の不調が一因にあってミリアを助けられなかったこともあり、その引目をせめてどうにかしようと敵艦の位置把握に努め始める。
が、その時。
「……! 雷魔法使夏、敵弾12時の方向と6時の方向……いや、それだけじゃない! 3時の方向から幻獣機が!」
「え!? な、何ですって……くう!」
「とにかく、避けますわよ……きゃっ!」
「ぐわ!」
ルサールカ・カーミラ・ジャンヌダルクの縦一列の水流は再び展開された弾幕を躱すが。
そこに水魚雷と共に向かって来たのが明らかにそれ自体意思を持った、幻獣機である。
「くっ……雷魔法使夏も魔法塔華院マリアナも、まだくたばってないわよね?」
「当たり前ですわ、誰に向かって!」
「くっ! ……でも、幻獣機ってまさか、ミリアの!?」
青夢の言葉に対しマリアナ・法使夏は無事を方向するが。
幻獣機という言葉に法使夏は、ミリア率いるゴグマゴグを連想して戸惑う。
が。
「また来るわ! 敵弾3時、7時、10時! 幻獣機グレンデル、6時!」
「くっ! きゃっ! ……なるほど、ゴグマゴグじゃないのねトラッシュ!」
青夢の言葉に従い敵攻撃を躱しつつ法使夏は、少し安心する。
なるほど、幻獣機はグレンデルであったか。
しかし待て。
「って! 何で幻獣機がこんな所に?」
「ああ、そう言えば話してなかったわね……けど! また敵弾1時、3時、4時、5時、9時の方向!」
「くっ、了解!」
予知により空賊長メアリーが女魔男だと把握している青夢は、戸惑うマリアナや法使夏に説明しようとしつつも出来ず。
尚も指示を出し続ける。
「ははは! こりゃあ中々苦戦してくれてると見えるねえ? マイボオス!」
「……っ! っ……」
この有様を水隠号の艦内より見ているメアリーは笑いを上げ、後ろの縛り上げられている尹乃に呼びかける。
尹乃は怯えつつも声は出せずにいた。
「ふふふ……まあまだ遊んでいたい所だけどそろそろ片してやらないとねえ! って、おや?」
が、その時。
メアリーはふと、あり得ない光景を目にする。
何と、海中に空飛ぶ法機が。
無論、それが今水流の中にいる凸凹飛行隊の三機体ならば有り得なくない。
が、それは明らかに水流の中ではなく。
確実に、そのまま海中を浮かび――いや、なんと飛んでいる。
「何だ何だ……何か知らないけどあいつらまだあんな隠し球してやがったかい! ……サーチ、コントローリング 幻獣機!」
メアリーはやや面食らいつつ、脅威は排除すべきとして幻獣機グレンデルを向かわせる。
「さあ、喰らい尽くしちまいなグレンデル! セレクト、野人暴食 エグゼキュート!」
そのままグレンデルは、大口を開けて水中の空飛ぶ法機に喰らいつこうとする。
これで――
が、その時。
すんでの所で空飛ぶ法機は、海面へと飛び出して避ける。
「くっ……セレクト、幻獣機 ランチャリング! エグゼキュート!」
ならばとメアリーも、グレンデルを海面より飛び出させる。
しかし、またもおかしなことが起こる。
「なっ……法機が消えた!?」
メアリーが驚いたことに。
なんと法機は、海中から出た所で消えてしまったのだ。
と、その時。
「セレクト、アトランダムデッキ――月、水月 ……すなわち"水に映った月"のごとく、水に映る空飛ぶ法機だ!」
「!? ま、まさか!」
「……エグゼキュート!」
それは、ソードの空飛ぶ法機クロウリーの能力。
先ほどの水中法機は、ただの幻影だったのである。
ひいては、幻獣機グレンデルを釣るための餌である。
果たして、再び海中には空飛ぶ法機の影が。
そして。
「セレクト、アトランダムデッキ――力、天圧 エグゼキュート!」
「くっ! グレンデル!」
ソードは続け様に、術句を唱える。
そうして、グレンデルの上空には空気の槌が生成され。
それはグレンデルへと振り下ろされ、グレンデルは海面と空気の槌に挟まれて破壊される。
「さらに、それだけではない!」
「なっ……ひ、水隠号が!」
しかしソードが仕掛けていたのは、彼の言う通りそれだけではなかった。
水月は、まだ続いている。
空中の空飛ぶ法機が、海中に映ったのならば。
海中の潜水法母も、また空中に映ったのである。
「あれは!」
「雷魔法使夏、敵はあの真下の海中よ! でも」
「ようし……hccps://rusalka.wac/ 、サーチ! クリティカル アサルト オブ 空飛ぶ法機ルサールカ! セレクト 儚き泡 エグゼキュート!」
「ま、待って!」
それを見た青夢は、法使夏に呼びかけるが。
あの水隠号には、王魔女生グループ社長たる尹乃が乗っている。
そう告げる前に法使夏はルサールカに命じ。
無数の泡でできた水流を放つ。
たちまち泡の水流は、水隠号に瞬く間に迫り――
「くっ、ぐう!」
「んんんん!?」
水隠号をこれまた瞬く間に包み込み、爆発させてしまうのだった。




