#26 グレンデルの騎士
「なっ……く、空賊長! あんた一体……」
「ははは! すまないねえマイボオス!」
魔男との三度の戦いを経た後。
正式に魔法塔華院コンツェルンの傘下となった同飛行隊は、正規任務としては初となる空賊からの輸送飛行船護衛任務を受けていた。
そうして昼間、海上に空賊の拠点がないか探したが見つからず。
夜、マリアナと法使夏・ミリアは輸送飛行船の護衛にあたっていた所を今、空賊に襲われる。
しかしその戦闘中に現れた幻獣機グレンデルは、何度でも蘇る幻獣機であり。
ミリア機はそれにより不意をつかれ撃墜され、マリアナと法使夏も絶対絶命の危機に陥るが。
その状況を察知した青夢が駆けつけ、事なきを得る。
しかし、そこに魔男の騎士団長アルカナが現れ。
少しその威容を見せつけると、ここが青夢ら凸凹飛行隊の死に場所ではないと告げ。
幻獣機グレンデルを連れてその場を去る。
そうして、その戦いの翌々日。
自ら空賊専用飛行船・風隠号に座乗して現れた王魔女生グループの若社長・尹乃と凸凹飛行隊は戦闘となるが。
そこへ現れたのがあの招かれざる客たる、幻獣機グレンデルである。
そのグレンデルからマリアナを庇い、ミリアは乗機ごと叩き墜とされるが。
ミリアを案じる法使夏や青夢をマリアナは諫め、戦いに改めて集中させる。
しかし、グレンデルの特性によりその討伐を試みた空賊――ひいては飛行船に座乗する王魔女生尹乃は大いに苦戦させられる。
が、そこに現れた矢魔道が乗って来た新機体により。
カーミラは真の性能に目覚め、幻獣機グレンデルを撃退し。
更に、空賊の風隠号をも撃墜して戦いを終わらせる。
が、その後の捜索でミリアは見つからぬまま凸凹飛行隊は法母に戻り。
ジャンヌダルクの予知を使った青夢は、それによりミリアの行方を突き止めて空賊の新たな飛行船へとマリアナ・法使夏共々駆けつける。
しかし、青夢らの計らいでミリアとの再会を果たした法使夏は。
なんと、そのミリアに襲撃されてしまう。
ミリアは青夢や法使夏・マリアナを罠に嵌めるため待っていたと語った。
そのままミリアは自らの望みを唱え。
法使夏もまた、自らの望みを見出して唱えた。
そうして、ミリアは"ダークウェブの王"により。
法使夏は、アラクネの導きによりそれぞれに力を手にしていた。
その一方、魔法塔華院コンツェルンの企業城下町が一つ・縦浜市に。
マリアナらが海上警戒を解いた隙を突いて空賊の潜水法母・水隠号と同艦載の水上法機数機で攻め寄せていた。
しかし、戦いのさなか空賊長たるメアリーは本性を表す。
それは。
「せ、雪男の騎士団……? お、女魔男ですって!?」
尹乃は尚も混乱している。
女でありながら魔男。
そんな者が、いるというのか。
が、メアリーは。
「ああ、全て今言った通りさ……さあて、マイボス! 今からあたしの、人質になってもらうよお!」
「な、何ですって!? きゃあっ!」
混乱する尹乃を他所に、嬉々として返し。
更に、その意思を受けてか水隠号もおかしな動きを始める。
「サーチ、コントローリング 幻獣機! セレクト、セルフ シンキング エグゼキュート!」
「くっ、何で……何で幻獣機への指示なのに、この水隠号が動くの!」
尹乃は尚も混乱する。
が、こんな時でもかろうじて冷静に頭が働くのは女性ならでは――あるいは、若き女社長ならではと言うべきか。
聞き取れたのは明らかに幻獣機に対して向けられた指示であるのに対し、現に水隠号がその指示に従い潜航して行った。
「! な、水隠号が!」
「何だ、何やら分からないが敵艦が潜って行く……今だ!」
メアリーの秘密など知らなかった空賊の魔女たちも混乱している。
しかしソードは、その隙を好機と捉え。
「……セレクト、アトランダムデッキ――運命の輪、八方塞がりの運命! エグゼキュート!」
「くっ!」
「うわっ!」
自機たるクロウリーから能力を発動する。
たちまちクロウリーを中心に、周辺を飛行する水上空賊機二機をも囲むように。
魔法陣のごとくルーレットの幻影が浮かび上がる。
やがて、ルーレットは回り出し。
これまたその上を回るエネルギー球は、続け様に水上空賊機を二機とも撃墜する。
「おやおや……まああれが堕とされることは、計算の内でね!」
が、メアリーはもはやすっかり潜航した水隠号の中でいつもの通り余裕を湛えていた。
「マイボス……まあ、少し大人しくしていてね。」
「くっ……空賊長!」
既に尹乃は、メアリーにより縛られている。
「さあて……セレクト、ハイドロトーペッド エグゼキュート!」
「!? み、水の塊か?」
メアリーの命令を受けた水隠号の発射管から、技が放たれる。
その技は海面より出て上空を狙うが。
それは見たところ、水の塊である。
「ふん、高々水鉄砲などと!」
「ふふふ……それはどうかねえ?」
ソードは技を侮るが。
メアリーは不敵に笑う。
果たして。
「くっ!? ぐあああ!」
ソードが驚いたことに。
水の塊は、突然大爆発を起こす。
「ははは、理科の授業で習わなかったかい? 水は水素と酸素の塊、その二つが結びついて水になる時高エネルギーが生まれるんだよ!」
「なるほど……これは、油断したな!」
メアリーの高笑いが海中より響き。
ソードは驚きつつも、すぐさま体勢を整える。
「そうかい……ならもっと撃ちまくってやろう! セレクト、ハイドロトーペッド エグゼキュート!」
メアリーは再び水隠号から水の魚雷を多数発射する。
たちまち海面より、水の魚雷による弾幕が展開される。
「くっ、hccps://crowley.wac/! サーチ クリティカル アサルト オブ 空飛ぶ法機クロウリー! セレクト アトランダムデッキ――教皇、神の裁き! エグゼキュート!」
ソードも負けじと、技を振るう。
たちまちクロウリーの機体周辺には雷雲が発生し。
雷が続け様に放たれ、水の魚雷を爆発させて行く。
「ははは、中々やるじゃないかい元魔男よお!」
「ふん、空賊風情が! ……しかし、奴は海中か。どうすれば……」
ソードは海中からの攻撃を防ぎながら、歯軋りする。
攻撃を防ぐことこそ出来ても、海中の敵艦に決定打を与えることは難しい。
彼は攻めあぐぬき、防戦一方になってしまっているのである。
◆◇
「……hccps://rusalka.wac/ 、サーチ! アサルト オブ 空飛ぶ法機ルサールカ! ハイドロカーテン エグゼキュート!」
「……hccps://baptism.tarantism/、サーチ。アサルト オブ 幻獣機! セレクト、ダブルトルネード エグゼキュート!」
一方、空賊の飛行船・風隠II世号周辺空域では。
凸凹飛行隊――と言いつつも殆ど法使夏と。
女魔男となったミリアが、各々の自機で攻撃を仕掛け合う。
ミリアがジャンヌダルク・カーミラ・法使夏のルサールカが固まっている所へ攻撃をすれば。
法使夏はルサールカにてその攻撃を防ぐ。
「くっ、ミリア! 私はあんたを連れて帰る!」
「ふん、まだそんな生温いことを! もうあんたにも学校にも未練はないわ、いえ……あるとするならば!」
「ミリア!」
攻撃を仕掛け合いながらも、法使夏はミリアに呼びかけ続けるが。
ミリアは、尚も聞く耳を持たず。
さらに術句を、唱え始める。
「……セレクト、リンク 幻獣機ゴグ・幻獣機マゴグエグゼキュート!」
「なっ! ひ、飛行船が!」
「くっ、セレクト オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート! ……! 皆、早く散開して!」
「えっ?」
ミリアが唱えた術句により。
風隠II世号は、中心より二つに割れた。
これにはマリアナや青夢は戸惑うが。
青夢は予知にてミリアの意図を先読みし、皆に指示する。
しかし、皆が動く前に。
「させないわ! ……セレクト、アセンブリングシザース! エグゼキュート!」
「くっ、これって!」
「は、ハサミ討ちですの!?」
「セレクト、ウインドベール エグゼキュート! そうよ、くう……間に合わなかったか!」
ミリアは素早く、二つに割った風隠II世号の船体を持って。
凸凹飛行隊を、挟み込む。
かろうじて青夢は船体間にエアポケットを作り飛行隊を持ち堪えさせる。
「ははは! さあ、そのまま……押し潰してあげるわ! あんたたちは縦浜に行くまでもなく……ここで潰れるのよ!」
「み、ミリア……」
ミリアの意を受けた船体は、エアポケットごと凸凹飛行隊を押し潰そうとする。
「この、ままじゃ……」
「マリアナ様……今、縦浜はどんな敵に襲われているのですか?」
「! な、何こんな時に……雷魔さん。」
が、法使夏の突然の質問にマリアナは大いに戸惑う。
何の質問か。
しかし、そんなマリアナを他所に。
「お願いします、マリアナ様! 出来る限り詳細に!」
「! 仕方ないわね……」
法使夏にせがまれ、マリアナは根負けして答え始める。
急に空賊らが、潜水艦で現れたこと。
さらにそれはただの潜水艦ではなく、艦橋前部に備えた丸い蓋より水上艦載機を二機発進させることができる"潜水法母"とでも言うべき代物であることなど。
「なるほど、潜水法母ですか……ではそれは、今でも潜水しているんですか?」
「さ、さあわたくしはそこまで最新の情報は」
「……ありがとうございます、マリアナ様!」
「? ら、雷魔さん?」
「雷魔法使夏?」
が、それを聞いた瞬間に法使夏は。
急に覚悟を決めたように高らかに叫ぶ。
そうして。
「マリアナ様、トラッシュ! 私の後ろに一列に、自機を並ばせて下さい!」
「な、ら、雷魔さん?」
「……了解よ、雷魔法使夏!」
法使夏はさらに、青夢とマリアナに指示する。
マリアナは更に戸惑うが青夢は、すんなりと受け入れる。
「な、何か分からないけれど……いいでしょう、雷魔さん!」
「はい、ありがとうございます!」
マリアナの止むを得ずの返事に、法使夏は喜ぶ。
そうして。
「hccps://rusalka.wac/ 、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機ルサールカ! セレクト、ゴーイング ハイドロウェイ エグゼキュート!」
「な、ら、雷魔さん?」
法使夏は、術句を唱える。
すると――
「ははは、法使夏、マリアナ、魔女木青夢! これであんたたちはおしまいね……ん?」
半々に別れた風隠II世号の船体で凸凹飛行隊を挟み込み、勝ち誇るミリアだが。
ふと、異変に気づく。
先ほど、船体間に生成されたエアポケットが。
何やら雨雲のようなものに、変化しつつあるのだ。
そして、次の瞬間。
「! くっ! ……ふう、これで終わりなの?」
ミリアが驚いたことに。
凸凹飛行隊からは、急に手応えがなくなり。
そのまま疑問に思いつつも彼女は、船体を元の通り一つにして押しつぶす。
が、またも次の瞬間である。
「! くっ、あれは!」
ミリアは今度は、腰を抜かすほど驚くことになる。
果たして、目の前には。
「……ミリアあ!」
「ほ、法使夏あ!」
ミリアが肩に乗る幻獣機ゴグに向けて迫り来る、高圧水流。
その中には紛れもなく凸凹飛行隊の三機体――先頭は無論、法使夏のルサールカ――である。
その姿を見咎めたミリアは、幻獣機ゴグと離れている幻獣機マゴグに命じる。
「……hccps://baptism.tarantism/、サーチ。アサルト オブ 幻獣機! セレクト、アセンブリングシザース エグゼキュート!」
「……hccps://rusalka.wac/ 、サーチ! アサルト オブ 空飛ぶ法機ルサールカ! セレクト、ハイドロトルネード エグゼキュート!」
法使夏も負けじと、術句を詠唱する。
たちまち竜巻のごとく回り出した高圧水流を、幻獣機ゴグとマゴグが挟み込む。
「このまま、あんたたちを!」
「そう、ミリア……でもごめん、今はやっぱり縦浜が先だわ!」
「な、何ですって……ぐっ!」
そのまま、押し潰そうとするミリアだが。
幻獣機ゴグとマゴグは、ルサールカの高圧水流に押し負ける。
そのまま、それは縦浜へと向かった。
「くっ、法使夏……いいわ、今回は負けってことにしてあげるわよ!」
ミリアは憎々しげに去りゆく水流を見つめ、吼えるように言う。




