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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第二翔 王魔女生私掠空賊会戦
26/193

#25 一人で二つ

「……ミリア……」

「へえ、法使夏……あんた、空飛ぶ法機を手に入れたんだね!」


 ふと、法使夏とミリアは気づく。

 互いに、ダークウェブから現実に戻っていることに。


 魔男との三度の戦いを経た後。


 正式に魔法塔華院コンツェルンの傘下となった同飛行隊は、正規任務としては初となる空賊からの輸送飛行船(キャリッジエアシップ)護衛任務を受けていた。


 そうして昼間、海上に空賊の拠点がないか探したが見つからず。


 夜、マリアナと法使夏・ミリアは輸送飛行船の護衛にあたっていた所を今、空賊に襲われる。


 しかしその戦闘中に現れた幻獣機グレンデルは、何度でも蘇る幻獣機であり。


 ミリア機はそれにより不意をつかれ撃墜され、マリアナと法使夏も絶対絶命の危機に陥るが。


 その状況を察知した青夢が駆けつけ、事なきを得る。

 しかし、そこに魔男の騎士団長アルカナが現れ。


 少しその威容を見せつけると、ここが青夢ら凸凹飛行隊の死に場所ではないと告げ。


 幻獣機グレンデルを連れてその場を去る。

 そうして、その戦いの翌々日。


 自ら空賊専用飛行船・風隠号(ヒドゥンエアリアル)に座乗して現れた王魔女生グループの若社長・尹乃と凸凹飛行隊は戦闘となるが。


 そこへ現れたのがあの招かれざる客たる、幻獣機グレンデルである。


 そのグレンデルからマリアナを庇い、ミリアは乗機ごと叩き墜とされるが。


 ミリアを案じる法使夏や青夢をマリアナは諫め、戦いに改めて集中させる。


 しかし、グレンデルの特性によりその討伐を試みた空賊――ひいては飛行船に座乗する王魔女生尹乃は大いに苦戦させられる。


 が、そこに現れた矢魔道が乗って来た新機体により。

 カーミラは真の性能に目覚め、幻獣機グレンデルを撃退し。


 更に、空賊の風隠号をも撃墜して戦いを終わらせる。

 が、その後の捜索でミリアは見つからぬまま凸凹飛行隊は法母に戻り。


 ジャンヌダルクの予知を使った青夢は、それによりミリアの行方を突き止めて空賊の新たな飛行船へとマリアナ・法使夏共々駆けつける。


 しかし、青夢らの計らいでミリアとの再会を果たした法使夏は。


 なんと、そのミリアに襲撃されてしまう。

 ミリアは青夢や法使夏・マリアナを罠に嵌めるため待っていたと語った。


 そのままミリアは自らの望みを唱え。

 法使夏もまた、自らの望みを見出して唱えた。


 そうして、ミリアは"ダークウェブの王"により。

 法使夏は、アラクネの導きによりそれぞれに力を手にしていた。


「! くっ、これは」

「ああ、あんたに紹介してあげるわ。……私のかわいい幻獣機、ゴグマゴグよ!」


 そうして風隠II世号の外壁を突き破り現れたのは。

 双頭の巨人のごとき幻獣機(エイドローン)


「あんたもなんか、力を手にしたんでしょ? さあ……見せてご覧なさいよ!」

「くっ!」


 ミリアが吼えるように口にした言葉に、呼応するかのごとく。


 幻獣機ゴグマゴグも、その双頭が吼える。


「ミリア……私は!」

「ふん、まだ生温いこと言うんだ……ならもう沢山よ! ……ゴグマゴグ!」

「! ミリア……」


 しかし、未だ自分が手にした力を出そうとしない法使夏に痺れを切らしたミリアは。


 そのままゴグマゴグに命じ、命令を受けたゴグマゴグも右腕を振り上げる。


 と、そこへ。


「くっ! ……私の機体!」

「ふっ! ……なるほど、やっぱり見た目は変わらないわね。」


 法使夏が命じた訳でもないが、そこには。

 法使夏の機体――新たな空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)・ルサールカをインストールされた機体が。


「さあ法使夏……その力を見せなさい!」

「……分かった、ミリア!」


 法使夏はルサールカに飛び乗る。


「……hccps://rusalka.wac/ 、サーチ! コントローリング 空飛ぶ法機ルサールカ! セレクト デパーチャー オブ 空飛ぶ法機、エグゼキュート!」

「……hccps://baptism.tarantism/、サーチ。アサルト オブ 幻獣機! セレクト、ツインフィーバー エグゼキュート!」


 法使夏は、そしてミリアは。

 それぞれの幻獣機にそして空飛ぶ法機に命じる。


 たちまち、幻獣機ゴグマゴグの口からは熱線が放たれるが。


 ルサールカは素早く起動し、そのまま外へと飛び出す。


「ふん、逃しはしないわ! ……セレクト、デパーチャー オブ 幻獣機! エグゼキュート!」


 ミリアは逃さぬとばかり、ゴグマゴグの右肩に飛び乗る。


 たちまちゴグマゴグも、ルサールカを追い船外に出て行く。


 ◆◇


「! 砲撃が止んだわ!」

「あれはカーミラを得た時の……では、雷魔さんが? いえまさか、使魔原さんが?」


 一方、船外では。

 やはり、幻影として現れたアラクネに驚いていた青夢とマリアナだが。


 今度は戦っていた相手である、風隠II世号から砲撃が来なくなり戸惑う。


 が、次の刹那である。


「! あれは、雷魔さんの機体!」

「あれはまさか……幻獣機と、乗ってるのは使魔原ミリア!」


 風隠II世号の中から空飛ぶ法機と幻獣機が出て来たことにより、またも驚く。


 その上両機の乗り手が片や捕らえられていたミリアと、片やそれを助けに行った法使夏であると来ていれば、尚更驚く。


「ミリア……殴られた痛み忘れないから! 引っ叩き返してでも連れて帰る!」

「ふふ、ええやってみなさい……出来るならねえ!」


 法使夏とミリアは、もはや二人だけの世界だとばかり。


 そんな青夢とマリアナを他所に、睨み合っている。


「そうよ、さあお行きなさい法使夏ちゃん!」

「はい、アラクネさん!」


 法使夏はアラクネに、背中を押される。


 ◆◇


 この様子を見ていて、驚いた者が他にもいた。



「アラクネ……? なるほど、それがお前の名か。……お前は一体何者だ?」


 魔男の騎士団長・アルカナだ。

 アラクネのことは彼にとって、未知の事項だった。


 未知ということは知識の差により他騎士団長らを出し抜いているアルカナにとって、それ自体が屈辱である。


 アルカナにとっては、その屈辱から出た誰に聞かせるつもりでもなかった台詞。


 が、果たしてアラクネは。

 アルカナのいる、自身がいる空より更に高みを見上げて。


「……私はダークウェブの女王、アラクネ! あなた方ダークウェブの王に告げなさい……あんたの思い通りにはさせないと!」

「!? くっ!」


 徐に、上に手を広げて光線を放つ。


「な、アラクネさんに動きが!」

「えっ……? 上に何か?」


 青夢とマリアナはアラクネの言葉に、大きく戸惑う。

 ダークウェブの王?


 どうやらそれが、アラクネの敵対する者らしい。

 さらに、アラクネ自身はダークウェブの女王?であるらしい。


 信じられない情報が氾濫し。

 マリアナも青夢も、すぐには状況を呑み込めないでいた。


「くっ! ……ふん、ここは退いておこうアラクネとやら! ……しかし、ダークウェブの女王だと? 聞き捨てならないな、我らがダークウェブの王と対等を気取るなどと!」


 アルカナはアラクネの攻撃を躱し、彼女に聞こえるはずもないが毒づく。


 ダークウェブの女王。

 そんな自らの知らない存在がいるということや、さらにはあのダークウェブの王と並び立つ存在がいるということ――いずれもその存在自体が彼にとって受け入れられない。


「がああ!」

「おお、幻獣機ディアボロス(我が機)もお怒りですか! しかし、奴は未だ底知れない存在にございます。今日は退きましょう。」

「ぐるる……があああ!」

「さあせいぜいやるんだな……二人目の女魔男よ!」


 恐らくは自らと同じ理由で怒り唸る自機を宥め。

 アルカナは、自機諸共飛び去る。


「さあ、これで邪魔者は消えたわ。法使夏ちゃん、行きなさい……」


 アラクネもアルカナの退避を知るや、法使夏に微笑みかけ。


 そのまま、姿を消す。


 ◆◇


「あ、アラクネさんが消えた!」

「これは……? うん? はい、わたくしよ……な、何ですって縦浜港が!?」

「え?」


 アラクネが消えて戸惑う青夢とマリアナだが。

 その後マリアナの元に飛び込んで来たのは、カーミラの回線への部下からの連絡。


 縦浜が空賊に襲われているというものだった。


「くっ……魔女木さん! 縦浜が今空賊の奇襲を受けているそうですわ! 早くあなたは向かって!」

「な……!? わ、分かったけど……あんたはどうすんのよ!」


 マリアナはすぐさま、青夢にもこのことを伝え。

 青夢は返事するも、ふとマリアナの意図を察して聞き返す。


「決まっているでしょう? ここであの愚かな()――使魔原さんを糾弾しなくてはね!」

「なっ……魔法塔華院マリアナ!」


 マリアナの返事は青夢の予想通りのものだった。


 ―― ……生憎だけれど失態を重ねた使魔原さん一人を、空賊の拠点などから助け出すなんて。そんなリソースも労力も掛かること、このわたくしにさせる気かしら?


 かつて法使夏がミリアを助け出すと言った時、マリアナがそれを咎めて言った言葉だが。


 やはりマリアナも、大概ツンデレであったようだ。


「……そういうことなら、私も行けない!」

「ふう、魔女木さん……相変わらず聞き分けのない娘ね! わたくしがやると行ったらそれは誰であれやり遂げなければならないことなの! たとえ、それがわたくし本人であったとしても!」

「はあ、本当にあんたも……」


 青夢もマリアナも、一歩も退かない。

 青夢も分かっていたことではあるが、どこまでツンデレ――もとい、心と言葉が一致しないのかと文句を言ってやりたくなる。


 が、そこへ。


「マリアナあ、そして魔女木青夢う! ……セレクト、ダブルトルネード! エグゼキュート!」

「ミリア、止めなさい! ……セレクト、ハイドロディフェンス エグゼキュート!」

「! くっ!」

「ら、雷魔さん!」


 ミリアが見舞った幻獣機ゴグマゴグの攻撃は青夢とマリアナに向けて放たれ。


 そこに法使夏がルサールカでやって来て、瞬時に雨雲を生み出しそこより水の防壁を出して防ぐ。


「雷魔さん、その機体は」

「マリアナ様! 私の機体、ルサールカです。」


 戸惑うマリアナに法使夏は、説明する。


「雷魔さん、何故使魔原さんが幻獣機を」

「はい! ……私にも受け入れがたいことなんですが、あのソード・クランプトンの時と同じです。ミリアは、女でありながら幻獣機の適性を。」

「くっ、使魔原ミリア……」


 マリアナの問いにやや食い気味ではあるが、法使夏が返す。


 青夢もミリアが女魔男になるという現実に、歯軋りする。


「ふふふ……お話はそこまでよ! セレクト、アンアセンブライズ 幻獣機! エグゼキュート!」

「!? げ、幻獣機が!」


 が、ミリアは更に。

 幻獣機ゴグマゴグを、何と双頭の間で二等分する。


「ええ、私のかわいい幻獣機ゴグマゴグは……幻獣機ゴグと幻獣機マゴグに分離できるの!」

「くっ……ミリア!」


 果たして、二つに分かれた幻獣機は。

 そのまま、バラバラに動き始める。


「マリアナ様!」

「案じなさらないでよくってよ雷魔さん!」

「……セレクト、オラクル オブ ザ バージン エグゼキュート! ……セレクト、ウインドバレット! エグゼキュート……トルネードバレットワン、座標……エネミーレフトサイド ディフェンス! 座標……エネミーライトサイド ディフェンス!」


 動じる法使夏とマリアナだが。

 青夢がノイズを懸念しながらもオラクル オブ ザ バージンを使い、二機の動きを先読みして攻撃を放つ。


「! くっ、これは……あのジャンヌダルクの予知か!」


 それにより果たして。

 幻獣ゴグ、マゴグ二機とも攻撃を正確に喰らい、ミリアは歯軋りする。


「よし、これであいつの動きは」

「ミリア! あんたそれ……やっぱり、また二人でやりたいって思ってくれてるんじゃないの!?」

「! 何ですって法使夏?」


 が、青夢の言葉を遮り。

 法使夏はミリアに問う。


「その幻獣機が二つに分かれるのがその証拠よ! あんた、やっぱり私と"二人で一つ"って約束」

「ふん……ははは! やっぱりおめでたいわね、あんたは!」

「! ミリア!」


 しかし法使夏のその問いに。

 ミリアは、嘲笑を返す。


「これはむしろ逆よ! あんたなんかに肩入れしていた頃の自分との訣別……"一人で二つ"の姿よ!」

「ミリア……そんな!」


 法使夏の未だ抱く淡い期待を、ミリアは容赦なく打ち砕く。


「さあて……まだまだ遊ばせてもらわないとね!」

「ええ……望む所よ、使魔原さん!」

「マリアナ様!」

「へえ……光栄です、マリアナ()!」


 ミリアは改めて、凸凹飛行隊に宣戦を布告する。

 が、その真意は少し違っていた。


「(そうよ……私が足止めしておきますから存分に暴れてください、メアリー()()!)」


 そう、やはりこれは陽動である。

 そして、まだ凸凹飛行隊の知らないこともあった。


 それは、先ほどアルカナが撤退する時の言葉。

 ―― 二人目の女魔男よ!


 ミリアが二人目の、女魔男。

 ならば、一人目は――


 ◆◇


「!? あ、あれは!」


 その頃、縦浜では。

 一人空賊の奇襲と戦っていたソードだが、そこに現れた乱入者がいた。


 それぞ、幻獣機グレンデルである。


「くっ、あの幻獣機また邪魔を……空賊長! あの幻獣機を早く、この水隠号から狙い撃ちしなさい!」


 それを見咎めた王魔女生尹乃は、空賊長メアリー・ブランデンに命じる。


「イエスボオス! ……と言いたい所だけど、すまないね!」

「なっ、何ですって!?」

「ふふふ……セレクト、リンク 幻獣機グレンデルマザー! エグゼキュート!」

「なっ……げ、幻獣機!? きゃあっ!」


 しかしメアリーは、尹乃の命令を聞かず。

 それどころか、恐ろしい術句を唱える。


 それは、即ち。


「あ、あんた……魔男の仲間!?」

「ははは! ああ、あたしは……人呼んで、女魔男ってね!」


 メアリー・ブランデン。

 彼女こそ魔男の12騎士団が一つ・雪男(せつだん)の騎士団所属。


 魔男が初の女性騎士――グレンデルの騎士であった。

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