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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第二翔 王魔女生私掠空賊会戦
24/193

#23 最悪の再会

「雷魔さん……あなた、どういうつもりなの?」


 マリアナは深くため息を吐きながら、目の前の二人を見比べる。


 その、二人とは。

 普段彼女がトラッシュと呼んでいる、青夢と。


 そして、これまであまり逆らったことがないはずの側付き(腰巾着)である法使夏である。


 魔男との三度の戦いを経た後。


 正式に魔法塔華院コンツェルンの傘下となった同飛行隊は、正規任務としては初となる空賊からの輸送飛行船(キャリッジエアシップ)護衛任務を受けていた。


 そうして昼間、海上に空賊の拠点がないか探したが見つからず。


 夜、マリアナと法使夏・ミリアは輸送飛行船の護衛にあたっていた所を今、空賊に襲われる。


 しかしその戦闘中に現れた幻獣機グレンデルは、何度でも蘇る幻獣機であり。


 ミリア機はそれにより不意をつかれ撃墜され、マリアナと法使夏も絶対絶命の危機に陥るが。


 その状況を察知した青夢が駆けつけ、事なきを得る。

 しかし、そこに魔男の騎士団長アルカナが現れ。


 少しその威容を見せつけると、ここが青夢ら凸凹飛行隊の死に場所ではないと告げ。


 幻獣機グレンデルを連れてその場を去る。

 そうして、その戦いの翌々日。


 自ら空賊専用飛行船・風隠号(ヒドゥンエアリアル)に座乗して現れた王魔女生グループの若社長・尹乃と凸凹飛行隊は戦闘となるが。


 そこへ現れたのがあの招かれざる客たる、幻獣機グレンデルである。


 そのグレンデルからマリアナを庇い、ミリアは乗機ごと叩き墜とされるが。


 ミリアを案じる法使夏や青夢をマリアナは諫め、戦いに改めて集中させる。


 しかし、グレンデルの特性によりその討伐を試みた空賊――ひいては飛行船に座乗する王魔女生尹乃は大いに苦戦させられる。


 が、そこに現れた矢魔道が乗って来た新機体により。

 カーミラは真の性能に目覚め、幻獣機グレンデルを撃退し。


 更に、空賊の風隠号をも撃墜して戦いを終わらせる。

 が、その後の捜索でミリアは見つからぬまま凸凹飛行隊は法母に戻り。


 ジャンヌダルクの予知を使った青夢は、それによりミリアの行方を突き止め今に至る。


「無論、マリアナ様……ミリアを、私の親友を救うつもりです!」


 法使夏はマリアナに対し、高らかに言う。

 マリアナが戸惑っているのも無理はなく、法使夏がこんな風に彼女に啖呵を切ったことはない。


 一体どういう風の吹き回しか。


「雷魔さん……あなた、どうやら魔女木さんに毒されたようですわね。」

「い、いえそんなことは! ……いえ、そうですね。このトラッシュに感化されてのことというのは間違いありません。しかし……私は! 例え何と言われようとミリアを救いたいんです!」

「……ふう。」


 マリアナは長くため息を吐く。

 今回の法使夏はこれまでになく頑なである。


 これはもはや、これ以上の話合いは無駄かもしれない。


「……できれば、これは先の話にするつもりだったんですが。」

「!? こ、これは」


 観念したかのようにマリアナは、ベッド隣の机より何やら書類を取り出し。


 それを青夢らに向かって投げる。

 そこに書かれていたのは。


「『空賊拠点殲滅計画』……!? ま、マリアナ様!」


 法使夏が、驚きの声を上げた。


「……か、勘違いしないで! ま、前から決まっていたけれどい、今することになっただけのことよ! べ、別に使魔原さんを助けようなんて思った訳じゃなくってよ!」

「……ぷっ!」

「……ぷっ!」

「な……ま、魔女木さんあなたはまた! 雷魔さんまで!」


 マリアナのこの台詞に、青夢のみならず法使夏も吹き出す。


 新手のツンデレか。

 青夢も法使夏も、マリアナの新たな一面を見た気がした。


「お、オッホン! ……直ちに、支度なさい。魔女木さん、先ほどあなたが言った新しい空賊の船とやらに案内していただきますわよ。」

「! ……分かったわ、早く行こう!」


 青夢はそう言うや、マリアナの部屋を出て行く。


「ま、マリアナ様……!」

「……雷魔さん! あなたも早く支度なさい。この法母が港に着いたら、すぐに出発よ!」

「は、はい! マリアナ様!」


 マリアナの言葉に法使夏も俄然活気付き。

 勢いよく、マリアナの部屋を出て行く。


「まったく……本当にお気楽な人たちなんだから!」


 マリアナは、またため息を吐く。


 ◆◇


「……座標、2時5分の方向に修正!」

「ええ、分かったわトラッシュ! マリアナ様!」

「ふん、あなたわたくしに指図なさるの? ……セレクト、空飛ぶ法機 ターン ライト エグゼキュート!」

「も、申し訳ございませんマリアナ様! ……エグゼキュート!」


 そうして。

(またもと言うべきか)ソードを護衛として、法母が寄港した神奈川県縦浜市に残し。


 ジャンヌダルク・カーミラ・法使夏機は空を駆ける。

 すると。


「目標、近く!」

「! あれですわね。」

「み、ミリア……」


 青夢らの前に、見えたのは。


 空賊の新たな拠点となる飛行船・風隠(ヒドゥンエアリアル)II世号(セカンド)


 すると。


「くっ、マリアナ様砲撃が!」

「案じることはなくってよ……セレクト、サッキングブラッド エグゼキュート!」

「は、はい! エグゼキュート!」


 空賊の飛行船より放たれた砲撃を、マリアナはカーミラの能力で吸収していく。


 やはり新機体となったおかげか、エネルギー吸収効率も上がっているようだ。


「なるほど、なかなかやるわね。よし、私も! セレクト、オラクル オブ ザ バージン! ……くっ! の、ノイズ……またか」


 が、青夢がジャンヌダルクによる予知を使おうとした時。


 再びノイズが、走る。


 ◆◇



「ふふふ……やはり来たねえ魔女諸君!」


 そんな戦場の様子を、高空より眺める者が。

 やはりと言うべきか自機たる幻獣機ディアボロスに騎乗する魔男の騎士団長、マージン・アルカナである。


 青夢は無論知らないが、アルカナは彼女の予知を妨害している。


「まあでも……今回は、わざと泳がせてやるさ!」


 アルカナはにやりと笑う。


 ◆◇


「!? ま、待って雷魔法使夏……使魔原ミリアの居場所が見えたわ!」

「! ほ、本当!?」

「ええ!」


 が、青夢はノイズに悩まされながらも。

 ミリアの位置を、把握する。


「待って、今……ビジョンを直接脳内に送るから!」

「……頼むわ、トラッシュ!」


 法使夏は青夢より、居場所のビジョンを受け取る。


「……セレクト、ファング オブ ザ バンパイヤ エグゼキュート!」

「! ま、マリアナ様!」


 更に、マリアナはカーミラの能力により。


 リボルバーのように普段は飛行船体に埋没している法機発射口を、強引に回転させてこじ開ける。


「さあ、早く雷魔さんは中に行きなさい! 魔女木さんは雷魔機を援護して!」

「はいはい! 癪だけど早く行きなさい雷魔法使夏!」

「ありがとうございますマリアナ様! ……今日ばかりは礼を言ってやってもいいわトラッシュ!」


 マリアナらに礼を言い。

 法使夏機は、勢いよく発射口を目指す。


 途中で敵船からの砲撃に遭うが、青夢はジャンヌダルクの技によりそれを防ぐ。


 かくして。


「よし! ……ミリア!」


 法使夏機は発射口より船内に潜入成功し。

 法使夏機は降り、船内を探し始める。


「せいぜい助けて来なさい雷魔法使夏……でも。なんであんなノイズあったのに、使魔原ミリアの居場所は分かったんだろう……?」


 青夢は法使夏機を見送りつつ、その疑問を抱えていた。


 ◆◇


「ミリア、ミリア!」


 法使夏は青夢に送ってもらった脳内ビジョンを辿りながら、船内を隠れつつ探し回る。


 が、ふとおかしなことに気づく。


「何だか、うまく潜入できすぎてる……?」


 あまりにも法使夏は順調に、ミリアの居場所たる部屋の前まで来られていたのだ。


 が、その疑問よりも逸る気持ちが優った。


「ミリア……待ってて!」


 法使夏はそのまま、扉を開ける。

 果たして、そこには。


「……やっと来たんだ、法使夏。」

「み、ミリア!」


 ミリアの姿が。

 法使夏はミリアに、抱きつく。


「ごめんなさいミリア……私が不甲斐ないばっかりに。」


 法使夏はミリアに縋り付き泣く。


「ええ……ようこそ、罠へ!」

「え……? くっ!」


 が、その時。

 ミリアは法使夏の左頬を、思い切り叩く。


「み、ミリア……?」

「悪いわね……かつての私の親友!」

「か、かつて……? 何言ってんの、ミリア……私、あんたのこと本当に心配して」

「へえ? ……悪いけどそれは、ありがたい迷惑って奴よ!」

「くっ、苦しい!」


 ミリアを案じて声をかける法使夏に。

 ミリアは容赦なくその首根っこを掴み持ち上げる。


「まあでも……来てくれて嬉しいわ法使夏。」

「! み、ミリ……ア」


 が、ミリアのこの言葉に。

 法使夏は少し、顔を明るくする。


 今どうしてこんな風に、首根っこを掴まれているかは分からないが。


 ミリアは少し、気が動転しているだけではないか。

 だったら、話せばきっと――


 そんな淡い期待が、法使夏の心には宿る。

 そして。


「み、ミリア! 私も会えて嬉しいから……お願い、帰って来て!」

「ええ、私も会えて嬉しい……まんまと、策に嵌ってくれたようでね!」

「!? み、ミリ……ア……」


 ミリアの説得を試みる法使夏だが。

 ミリアは思いがけぬ言葉を返し、法使夏を尚も戸惑わせる。


「ええ、あんたたちがあのジャンヌダルクの予知能力で私の居場所を知ることは読めてたの……だから、あんたたちをここに引き離して一網打尽にする策よ! はははは!」

「み、ミリア……!」


 法使夏は訳が分からず、戸惑うばかりだ。


 予知能力?

 引き離す?


 それは一体。

 しかし、そんなミリアの言葉を裏付ける出来事が縦浜では起きていた。


 ◆◇


「!? な、何だあれは?」


 縦浜市にて。

 ひとまず空飛ぶ法機・クロウリーにて周辺をパトロールしていたソードだが、突如として牽制用の艦砲を放ちながら()()は現れた。


「さあ空賊共……やっておしまい!」

「イエスマイボオス! ふふ……さあお前たち、浮上したよ! こっからは思う存分暴れな!」

「イエス、マム!」


 海上に浮上した()()

 それは、尹乃やメアリー・ブランデン以下空賊が今座乗している空賊専用潜水艦・水隠号(ヒドゥンアクィアス)


 そう、空賊の海の拠点は海上ではなく、海中拠点だったのだ。


 更に、それだけではない。


「! ま、丸い蓋が開いて……あれは!」


 更にソードが、驚いたことに。

 艦橋前部の丸い蓋が空き。


 中から羽を折りたたまれた状態の水上空賊機が、二機ほど出てくる。


 そのまま二機は、甲板上のカタパルトを。

 羽を伸ばしながら、勢いよく駆け抜け。

 順番に飛び上がって来る。


 そう、これは潜水艦にして法機母艦(ウィッチーズマザー)――潜水法母(シャドーマザー)


 潜水法母の援護射撃を受けながら水上空賊機は、町へと向かおうとする。


「くっ、待て!」

「待てないわ!」

「ええ……手ぬるい元魔男。それはあたしたちを倒して言ってちょうだい!」

「ふん、いいだろう……そうしてやる!」


 魔女のため働くのは癪と思いつつ。

 売られた喧嘩は買うとばかりソードは、二機の水上空賊機を睨む。


 ◆◇


「わ、私たちは罠に嵌ったというの!?」

「ええ、特に法使夏。……あんたは私を追って艦内まで乗り込んでくるだろうって言われてたけどその通りだったわ! キャハハハ!」

「み、ミリア!」


 再び、風隠II世号では。

 ミリアが法使夏に――親友だったはずの彼女に。


 容赦なく現実を突きつけていた。

 尚も彼女の首根っこを掴み、持ち上げつつ。


「み、ミリア……私」

「もう御託は結構よ……私は決めたから! 私を散々コケにしてくれたトラッシュ――魔女木青夢、マリアナ様――いや、魔法塔華院マリアナ! ソード・クランプトン! そして……法使夏あ!! あんたらを残らず、地獄に送る!」

「ミリ……ア……」


 法使夏の意識は、徐々に遠のいて行く。


「ふふふ……そうさミリア・リベラ(リベラ)。さあ我らがダークウェブの王の下にその願い、届けるがよい! ……


 fcp> open ×××1.×××2. ×××3. ×××4


 NAME:> tarantura

 PASSWORD:> ********


 fcp> cd throne」


 アルカナはこの戦場より更に高空にて、コマンドを詠唱する。


「……!? これは……ふん、アルカナ殿かしこまりました……」

「み、ミリア? ……くっ!」


 ミリアは、アルカナのコマンド詠唱の結果自身の頭の中にダークウェブの王とのコンタクトが形成された感覚を味わう。


 しかし。

 ミリアの知らぬ間にその感覚は、法使夏も同様に味わっていた。


 いや、正確には同じではない。


 ――さあ、あなたの望みは?


「(……誰?)」


 何やら女性の声が聞こえる。

 自分の、望み?


 法使夏は戸惑いつつも、すぐに望みを見出す。

 いや、それは問われる前から決まっていたのかもしれない。


「……アベンジング マイセルフ オン マイワーストエネミー(法使夏)

「……ヒッティング マイベストフレンド(ミリア) バック!」


 自身の最大の敵――法使夏に復讐する。

 自身の最大の友――ミリアに殴り返す。


 互いに互いを思う。

 そのこと自体は同じであっても、その思いは真逆であり。


 ミリアと法使夏の心は、すれ違う――


「!?」

「な……こ、これは!?」


 が、その瞬間。

 ミリアと法使夏は、互いに同じ感覚を味わう。


 何やら、未知の感覚を――


 ◆◇


「ん……?」


 法使夏は、ミリアはふと、目を覚ます。

 ここは、どこか。


 共に見れば、真っ暗な空間に。

 光の線で繋がれた網のようなものが下に見える。


 が、それぞれに同じ景色なれど違う所なのか。

 互いの姿は、見えなくなっている。


「み、ミリア……?」

「法使夏……どこに行ったの!?」


 法使夏はミリアを案じて、ミリアは法使夏を案じて互いに叫ぶ。


 しかしやはり、互いの姿は見えない。


 ここは――


「ようこそ……ダークウェブへ。」

「!? ……あ、あなたは?」


 ふと声をかけられ、法使夏は面食らう。

 そこにいたのは。


 何やら闇の中に浮かび上がる、女性の上半身。


「……きれい。」

「……ありがとう。私はアラクネ、あなたの望みをもう一度。」

「……え?」


 その女性――アラクネは優しく微笑む。




「!? こ、この音は……」


 一方ミリアは。

 法使夏と同じ空間でありながら、彼女とは真逆に。


 アラクネの優しさではなく、何やら得体の知れない恐怖を覚える。


 ミリアの背後には、何やらガチン、ガチンと鋭い金属音が響いた後に。


 ギチギチと、軋むような音の中に"声"を聞いた。


「……フリ……ムク……ナ」

「!? ひいっ!」


 ミリアはその恐怖に、身体をビクリと震わせる。

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