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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第二翔 王魔女生私掠空賊会戦
21/193

#20 船機入り乱れる

「また、あいつが……」

「ほほう……またも幻獣機とやらの、お出ましかいい!」


 青夢たちが不安げに、対してメアリーは気丈に見つめる高空には幻獣機グレンデルの姿が。


 魔男との三度の戦いを経た後。


 正式に魔法塔華院コンツェルンの傘下となった同飛行隊は、正規任務としては初となる空賊からの輸送飛行船(キャリッジエアシップ)護衛任務を受けていた。


 そうして昼間、海上に空賊の拠点がないか探したが見つからず。


 夜、マリアナと法使夏・ミリアは輸送飛行船の護衛にあたっていた所を今、空賊に襲われる。


 しかしその戦闘中に現れた幻獣機グレンデルは、何度でも蘇る幻獣機であり。


 ミリア機はそれにより不意をつかれ撃墜され、マリアナと法使夏も絶対絶命の危機に陥るが。


 その状況を察知した青夢が駆けつけ、事なきを得る。

 しかし、そこに魔男の騎士団長アルカナが現れ。


 少しその威容を見せつけると、ここが青夢ら凸凹飛行隊の死に場所ではないと告げ。


 幻獣機グレンデルを連れてその場を去る。

 そうして、その戦いの翌々日。


 自ら空賊専用飛行船・風隠号(ヒドゥンエアリアル)に座乗して現れた王魔女生グループの若社長・尹乃と凸凹飛行隊は戦闘となるが。


 そこへ現れたのがあの招かれざる客たる、幻獣機グレンデルである。


「み、ミリア!」


 そして、今法使夏が呟きつつ眺めている下には。

 先ほどそのグレンデルにより乗機諸共墜落した、ミリアがいるのである。


「さあ雷魔さん! 早く臨戦態勢を整えなさい!」

「! ま、マリアナ様……」


 が、そんな法使夏に。

 マリアナは感傷に浸る暇はないとばかり、諫めの言葉をかける。


「し、しかしミリアが!」

「雷魔さん、わたくしに同じことを言わせるおつもり? ……わたくしの側付きに、そうそう幾度も墜とされる者がいては困るの。今はあんな人のことなど忘れなさい!」

「! ま、マリアナ様……」


 法使夏はマリアナの、非情とも言える言葉に呆気に取られる。


「くっ、使魔原ミリア……」


 青夢もマリアナのその言葉を聞きつつ、ミリアの墜ちた方を見ながら歯軋りする。


 セイビング、エブリワン。

 それが、青夢の望みである。


 が、これまでにもそれが果たせない場面は多々あり。

 そうして今しがた、マリアナを庇って墜とされたミリア。


 彼女も、救えなかった。

 これでは――


「……さあ、雷魔さんも魔女木さんも! 今は、あの幻獣機に集中するべきではなくって?」

「は、はいマリアナ様!」

「ふん、分かっているわよ魔法塔華院マリアナ!」


 マリアナの言葉に、法使夏・青夢はひとまず気を取り直す。

 何はともあれ、マリアナの言っていることは事実である。


 今、この戦場における最大の敵は幻獣機グレンデルなのだから。


「……セレクト、オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート!」

「さあ雷魔さん! ……セレクト、ファング オブ バンパイア! エグゼキュート!」

「は、はいマリアナ様! ……エグゼキュート!」


 凸凹飛行隊のジャンヌダルク・カーミラ・法使夏機は一斉に技を発動する。

 しかし。


「! くっ、これは」

「くう、またこのノイズですの!?」

「うっ! ま、マリアナ様これは……」


 青夢・マリアナ・法使夏は苦しみ始める。

 青夢は、ここ最近オラクル オブ ザ バージンの発動時に感じられるノイズにより。


 そしてマリアナは幻獣機グレンデルをクラッキングしようとして感じられるノイズにより、また法使夏は乗機がカーミラの子機と化していることにより煽りを受けてそれぞれに苦しんでいる。



「fcp> get LaplacesDemon.hcml……全知之悪魔(ラプラシーズデモン)。 悪いなあ魔女木君とやら。まだ、幻獣機グレンデルについて多くを知られたくないのでね。」


 戦場より少し離れたところには、自機たる幻獣機ディアボロスに騎乗した魔男の騎士団長アルカナの姿が。

 少なくとも青夢が感じるノイズの原因は、アルカナによる妨害のようである。


 ◇◇


「き、キャプテン!」

「まあお前たち、騒ぐんじゃないよ!」


 空賊専用飛行船・風隠号でも混乱は広がっていた。

 空賊の魔女らは大いに騒ぐが、相変わらずメアリーは冷静にその場を収める。


「そ、そうよ蛮族共! あ、あんなこの船より矮小な化け物におびえていてどうするのよ!」


 船橋から格納庫の空賊らへ伝えられたのは、尹乃の檄であった。


「ほう、マイボスう。その割には、あんたの声も震えてるねえ?」

「だ、黙りなさい蛮族共!」


 メアリーの指摘に、尹乃は彼女からは見えないが顔を赤くして怒り出す。

 実のところ尹乃も、目の前の初めて見る幻獣機にはおびえているだが。


 前回はそれにより尻尾を巻いて逃げてきた空賊らを、情けないと一喝し。

 それにより今回の社長自らによる親征という形になっている手前、ここで引くわけには行かないのだ。


「……全船、全砲門を幻獣機とやらに照準! 何としても、あいつを殲滅しなさい!」

「イエス、マイボオス! さあお前たち行くよ!」

「い、イエスマム!」


 風隠号の中で尹乃は、指令を飛ばす。

 それを受けたメアリーや空賊らは、動き出す。


 たちまち風隠号の空対空砲は、幻獣機グレンデルを狙い撃ちする。


 ◇◇


「ま、マリアナ様! 空賊の飛行船から幻獣機へ砲撃が!」

「あらまあ……わたくしを差し置いてあれを殲滅するつもりですの?」


 未だノイズに苦しみつつも、法使夏の報告にマリアナは歯ぎしりする。


 所詮は空賊風情が。

 更にマリアナは知る由もないが、もしあれが王魔女生グループ社長の座乗船だと知っていたならばこうも思っただろう。


 所詮は、王魔女生風情が。

 まあ、それはさておき。


「……セレクト、ファング オブ バンパイア! エグゼキュート!」

「ま、マリアナ様! ……エグゼキュート!」


 マリアナはそれにより闘志に火をつけられたのか、ノイズに苦しみつつも。

 再び技の術句詠唱を続ける。


「ま、魔法塔華院マリアナ! ……そうね、こんなんじゃ皆を救うことなんかできない! ……セレクト、オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート!」


 更にそれによって、青夢も闘志に火をつけられ。

 尚も術句を、唱える。


「くっ……本調子じゃないけどとりあえずは見えてきた……ん? そ、そうか!」


 青夢は苦しみつつも、見えてきた情報をマリアナらに伝え始める。


「……魔法塔華院マリアナ、雷魔法使夏! あんたたちはそのまま幻獣機へのクラッキングに専念して!」

「ふん、魔女木さん! またわたくしに指図なさるの?」

「そうよ、いつもいつもトラッシュのくせに!」


 青夢の回線を通じての言葉に、やはりというべきかマリアナと法使夏は文句を垂れる。

 が、青夢はめげず。


「いいから! とにかく、私が必殺技をあいつにお見舞いして一時的に倒した直後を狙ってそのファング オブ ザ バンパイアとやらを強めて!」

「くっ、だからわたくしに指図しないでと」

「……セレクト、ビクトリー イン オルレアン!」

「ち、ちょっと! マリアナ様を無視してんじゃないわよトラッシュ!」


 そのまま問答無用とばかり、マリアナらの抗議を無視して必殺技のエネルギーチャージを行い始める。

 ジャンヌダルクの機体後部にはそれにより、十字架状のエネルギーが生成される。


「ほほう……あのノイズ下でもそこまで調べ出すとは。いいだろう……グレンデルの騎士よ! どうやらあの魔女木君はグレンデルの弱点に気づいたようだ。ならば、こうしてくれ……」


 戦場より離れたところのアルカナも、青夢の策略に気づき。

 グレンデルを操っている騎士に、命じる。


 ◇◇


「くっ! 二番砲塔大破、つ、続けて三番砲塔大破!」

「くっ……砲撃を絶やさないで! まったくあの化け物……撃っても撃っても破壊できないなんて!」


 一方、グレンデルを砲撃し続ける風隠号だがこちらも苦戦していた。

 まだ空賊たちは知らないようであるが、幻獣機グレンデルはその即時再生の能力を生かし。


 実際には砲撃により何度も殲滅されつつも、そのたびに再生しては風隠号の戦力をそいでいるのである。


「こりゃあ厄介だねえ……だけど! ……セレクト、バースト フォースキャノン! エグゼキュート!」


 メアリーもさすがに、これには眉根を寄せるが。

 それでも尚、砲撃を続ける。


 そしてその砲撃は、幻獣機グレンデルをまたも殲滅するが。

 その次の瞬間である。


「きゃあ!」

「! マイボス、どうした?」


 船橋より尹乃の悲鳴が聞こえ、メアリーは彼女に呼び掛けるが。


「せ、船橋の窓に! あ、あの化け物が!」

「何!?」


 尹乃も空賊らも驚いたことに。

 四番砲塔による攻撃でいったん殲滅された幻獣機グレンデルは、なんと船橋近くに復活して張り付いてきたのである。


「! くっ、そう来たか!」

「!? 何があったの魔女木さん! 早く、ビクトリー何とかとやらを放つんじゃなくって?」

「そ、そうよトラッシュ! 何してんの!」


 これには青夢も、グレンデルへの攻撃を躊躇し。

 それによりマリアナと法使夏の、非難を受ける。


「でも! 今幻獣機を撃ったら、空賊の船に」

「構わなくってよ! 相手はわたくしたちを一方的に襲って来た賊ですもの。それともあなた……まさかあんな賊に、情けをかけるとかおっしゃるんじゃないわよね?」

「そ、そうよトラッシュ! どうせあんな船撃墜する予定だったんだから、別にいいでしょ?」

「そ、それは」


 青夢は躊躇う。

 確かにあの船は、いずれは撃墜する予定だったが。


 それはあくまで、船だけを破壊して乗組員は助かるやり方のつもりだったのだ。


 だが、今あの幻獣機を貫けば。

 間違いなく、船橋に乗る者も一緒に葬ることになる。


 ――全ての人を、お前が救え。


 その父の言葉に、反することにもなる。

 いや、実はその言葉には既に反しているのだが。


「そうね……まったく、私も覚悟が足りてないってことかな!」


 青夢は自嘲気味に笑いつつ言う。

 かつて幻獣機タラスク、そして幻獣機グレムリンや幻獣機バンパイヤの時が父の言葉に反する時だったのだが。


 その時は半ば流されるようではあったが、結局は覚悟を決められた。


 しかし、今回は。

 あの船橋に間違いなくいるであろう人間を、葬りかねない恐怖。


 それでは――


「でも……どうすれば!」


 青夢は思い悩む。


「き、きゃああ!」


 風隠号内部では尹乃が、怯え切っている。

 このままでは――


 と、その時である。


「くっ!? ……え?」


 尹乃が、驚いたことに。

 どこからともなく飛んで来た火球により、幻獣機グレンデルは風隠号船橋より引き剥がされる。


「な、何だいこれは?」

「何ですのこれは?」

「ま、マリアナ様!」

「こ、このパターン……まさか!」


 その場の一同が全員戸惑う中、青夢はただ一人合点する。


 この、危機的状況に幻獣機に向けて放たれる火球というパターンは、まさに幻獣機バンパイヤと同じ。


 そう、即ち。


「矢魔道さん!」


 果たして、青夢の振り向いた先には。


「すまない、皆! 機体の調整が何とか終わったよ!」


 矢魔道が乗り、魔女に操縦させている新たな機体の姿が。


 ◆◇


「わたくしの側付きに、幾度も墜とされる者がいては困る……あんな人……私のことなんて忘れなさい、か……」


 その頃、ミリアは。

 墜落した際乗機より脱出するが、その間。


 未だ生きていた通信回線を通じて先ほどのマリアナの言葉が聞こえていた。

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