#19 二大企業間戦争
「この砲撃……何か、気高きものを感じますわね!」
マリアナは自機カーミラで敵攻撃を受け止めつつ、その攻撃元である敵飛行船を睨む。
未だマリアナは、知る由もないが。
果たして、敵飛行船――空賊専用飛行船・風隠号には。
魔法塔華院コンツェルンのライバル企業・王魔女生グループのうら若き少女社長・王魔女生尹乃が座乗している。
その尹乃の気高さが、砲撃にも現れたのだろうか。
魔男との三度の戦いを経た後。
正式に魔法塔華院コンツェルンの傘下となった同飛行隊は、正規任務としては初となる空賊からの輸送飛行船護衛任務を受けていた。
そうして昼間、海上に空賊の拠点がないか探したが見つからず。
夜、マリアナと法使夏・ミリアは輸送飛行船の護衛にあたっていた所を今、空賊に襲われる。
しかしその戦闘中に現れた幻獣機グレンデルは、何度でも蘇る幻獣機であり。
ミリア機はそれにより不意をつかれ撃墜され、マリアナと法使夏も絶対絶命の危機に陥るが。
その状況を察知した青夢が駆けつけ、事なきを得る。
しかし、そこに魔男の騎士団長アルカナが現れ。
少しその威容を見せつけると、ここが青夢ら凸凹飛行隊の死に場所ではないと告げ。
幻獣機グレンデルを連れてその場を去る。
そうして、その戦いの翌々日。
「さあ、撃って撃って撃ちまくりなさい! 何が何であろうとこの戦い、負ける訳には行かないの!」
先述の通り風隠号に自ら座乗している王魔女生尹乃は、ひたすら砲撃を指示している。
魔法塔華院コンツェルンの凸凹飛行隊を潰しそびれたとの報告を受けての、社長による親征である。
尤も、それが世間に知れては王魔女生グループのブランドそのものに傷が付きかねない大惨事なのだが。
さておき。
かくして、魔法塔華院コンツェルンと王魔女生グループ。
二大企業間戦争が幕を上げたのである。
「くうっ! もし、この砲撃が防ぎ切れなかったら……」
砲撃を防ぎつつ、ミリアは震える。
既に何度か失態をしていることも、また先ほどマリアナから釘を刺されたこともあり。
後がないとのプレッシャーは、彼女自身が考えている以上のものだった。
「ミリア、頑張って! 約束したでしょ、私たち二人でやるって!」
「! 法使夏……」
が、そこへ。
通信回線を通して法使夏の、励ましの声が聞こえる。
「さあ、ミリア……行こう!」
「……うん、法使夏!」
法使夏の言葉により、ミリアは何とか精神状態を立て直す。
「法使夏……あんたと一緒なら! 私は何も怖くない!」
「うん、ミリア!」
ミリアの言葉に、法使夏も頷く。
「マリアナ様! 相手はどれほど強そうであっても幻獣機ではありません! マリアナ様のカーミラさえあれば負けません。」
「そうです、マリアナ様!」
ミリアと法使夏は、マリアナに言う。
「ふん、当たり前ですわ……わたくしが、あんな蛮族ごときに!」
その言葉にマリアナも、対抗心に火をつけられる。
マリアナ・法使夏・ミリアはこうして、揃って闘志を高め。
風隠号からの砲撃に対して、より防備を強める。
「いや、私もいるんだけど……無視してもらっちゃ困るんだけど!」
青夢もまた、蔑ろにされていた怒りから闘志を燃やす。
こうして魔法塔華院の輸送飛行船の周りは、より強固な防衛網が張り巡らされた。
◆◇
「おや……あの魔女たち、中々やるじゃないか!」
風隠号よりこの有様を見ていたメアリーは、感嘆の声を上げる。
「ええ……そうね! まったく雑魚共が、調子こきやがってえ!」
風隠号下部の船橋からは王魔女生尹乃の怨嗟が聞こえて来る。
その怒りに応じるかのように、風隠号の砲撃はより激しさを増して行く。
「まあ、マイボス。大方、所詮は幻獣機とやらじゃないからとあいつら高括ってんじゃないかい?」
「……ええ、そうね。魔法塔華院め、舐めやがってえ!」
風隠号の格納庫より響いたメアリーの言葉に、尹乃はさらに怒る。
調子付いた挙句、こちらを舐めてくれるとは。
「ふふふ……空賊共! 幻獣機とやらじゃないとはいえこの風隠号の力、そんなものにも引けを取らないものだと教えてやるのよ!」
「ふっ……イエス、マイボオス!」
「イエス、マイボス!!」
尹乃の声が今度は格納庫に伝わり。
それを受けた空賊の、メアリー以下魔女たちは直ちに戦闘配備に就く。
「行くよ……セレクト、コネクティング 空飛ぶ法機!」
「イエスマム! …… セレクト、コネクティング 空飛ぶ法機!」
「エグゼキュート!」
「エグゼキュート!!」
メアリーに続き、空賊の魔女たちは術句を詠唱する。
「……サーチ、アサルト オブ 空飛ぶ法機! セレクト、野人暴食 エグゼキュート!」
「エグゼキュート!!」
「ふふふ……ははは! さあ、覚悟していなさい魔法塔華院の者共お!」
空賊らの術句詠唱が響き渡る船橋で、尹乃はほくそ笑む。
◆◇
「はあ、まあこんな時。あの魔法塔華院マリアナのカーミラが完成していたらなって思うんだけど。」
青夢は風隠号の砲撃を防ぎつつ。
カーミラの能力を、十二分に活かせればと考え始めるが。
次に頭に浮かんだのは。
――うーん、尾翼部分はこんな感じかな? いや、0.02度は傾いている……
――やっぱり機体後部の、プロペラが肝心だよね……おおっと! これももっとこうして……いや、こうするのがいいかな。
メカニックを担当する矢魔道が健気にも、様々な所に工夫を凝らしてしまって作業を長引かせている場面だった。
「ああ、ダメダメ! 矢魔道さんにはもっともっと頑張ってもらいたいから……そうよ青夢! ここで思い人を支えなくてどーするのお!」
青夢は少しばかり、デレデレするが。
「……でも、そういえば。今矢魔道さんがカーミラ改修に使ってるのも……私のジャンヌダルクに使っているのも……」
そこで青夢の脳裏に浮かんだのは、彼女らの空飛ぶ法機の素材となっている幻獣機のこと。
あれは――
「ま、マリアナ様! ほ、砲撃が。」
「ええ……止んだわね。」
「! え?」
が、その時である。
ミリアや法使夏、マリアナの会話に青夢ははっとする。
いけない、ここで呆けてしまうとは。
「セレクト、オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート!」
青夢は、予知の術句を唱える。
ところが。
「くっ! こ、これは……」
青夢自身にも理由は分からないが。
ここ数日ほど、何やらノイズのようなものが走っているのだ。
「これ、何なの……? まあ、いい! ……えい!」
しかし、こんな所で諦める訳には行かない。
青夢はノイズを振り切るようにして、敵の情報を分析し始める。
「くっ……あ、あの技は……なるほど、空賊機を連結させてるのね……ん!?」
「ま、マリアナ様! 敵船がこちらまで」
「そんなことは見れば分かるわ!」
何とか今の敵の技の仕組みを理解した青夢であるが。
その青夢も、マリアナ・法使夏・ミリアも驚いたことに、風隠号は、再び砲撃を始めるでもなく。
次には体当たりとばかり、突っ込んで来る。
何やら船体の周囲には黒いオーラのような物が滾っている。
「回避したい所だけれど……それをすれば、輸送飛行船が」
「ま、マリアナ様! 早くお避けください!」
「……いいえ、ならば!」
「ま、マリアナ様!」
「! ま、魔法塔華院マリアナ!」
マリアナはカーミラにて、飛び出す。
そのまま自分から、風隠号に迫って行く。
「おやおや……ありゃあ、魔法塔華院のお嬢の機体だよマイボオス!」
「ほう……自分から来てくれるとは、それだけは褒めてあげるわ!」
船橋よりこの様を見た尹乃は、マリアナにせめてもの称賛を贈る。
「ふん、このわたくしは一歩も退きませんわ! ……セレクト、ファング オブ ザ バンパイヤ エグゼキュート!」
マリアナはカーミラ単機で、尚も風隠号に向かい。
同船を、ハッキングし始める。
「……くっ、これは!」
が、その時。
何やらマリアナに、違和感が襲い来る。
それはどこかで感じた気がするが。
どこであったのか、思い出せない。
何やら、今繋がっているカーミラと風隠号のネットワーク上に何かいるような――
「マリアナ様、危ない!」
「! なっ!」
しかし、マリアナが戸惑う間にも。
風隠号は、より接近して来る。
「マリアナ様!」
「くっ……セレクト、ファング オブ バンパイヤ エグゼキュート!」
マリアナはそれでも負けじと、術句の詠唱を止めないが。
尚も風隠号は、接近して来ている。
「マリアナ様、お逃げ下さい!!」
「逃げるなんて……わたくしの辞書にはなくってよ!」
「ほほほ、さらば魔法塔華院の跡取り!」
マリアナは法使夏・ミリアの静止も聞かず。
風隠号の進路上から、動こうとしない。
このままでは――
「魔法塔華院、マリアナ! ……セレクト、ビクトリー イン オルレアン! エグゼキュート!」
「! ジャンヌ、ダルク?」
「くっ! 敵後方からの、光線攻撃!?」
「き、キャプテン!」
が、その時。
青夢がジャンヌダルクより放った必殺技が、風隠号船体に命中する。
風隠号は途端に、進路を逸れ。
間一髪、カーミラの脇を通り過ぎて行く。
「くっ……キャプテン!」
「なあに……動じなさんな、お前たちもマイボオスも! 機体は、ダメージが小さいよ。」
空賊らは動揺するが、メアリーは彼女らを落ち着かせる。
「……ふん、誰が動じてるですって? ふざけんじゃないわよ蛮族共! 私を、誰だと思ってんの?」
「おやおや……これは失礼したねえ!」
が、尹乃は。
動揺を押し隠し、メアリーに向かい意気揚々と言い放つ。
マリアナが魔法塔華院コンツェルンの誇りを持つならば、こちらは王魔女生グループの誇りというべきか。
「……蛮族共! 船体急速旋回、獲物を逃すんじゃないわよ!」
「ふふ……はいよ、マイボオス!」
「イエスマム!」
尹乃の言葉に、メアリーらは飛行船に接続している法機の舵を切る。
たちまち船体は旋回を始める。
「ふん、魔女木さん! 手抜きをしたの?」
「ふう、相変わらず助けられた人間の態度じゃないけど! ……それは否定できないけど魔法塔華院マリアナ! 早く避けなさい、敵船は」
「ふうん……ならば、雷魔さん使魔原さん!」
「は、はい、マリアナ様!」
青夢の、敵を船体諸共葬ることを恐れての手加減を見抜き。
マリアナは文句を言いつつ、尚も敵船を迎え討たんとしている。
「もう……人の話聞きなさいよ! ……でも仕方ない、……セレクト! ビクトリー イン オルレアン!」
青夢はすっかり膨れるが。
感情に流されかけるもそこそこに、必殺技準備に入る。
たちまちジャンヌダルクの機体後部には、十字のエネルギーが滾る。
「行きますわよ……セレクト! サッキング ブラッド エグゼキュート!」
「……エグゼキュート!!」
カーミラ以下、子機たるミリア機・法使夏機も技を発動する。
今度は、敵船よりエネルギーを奪おうというのだ。
「! き、機体エネルギーが!」
「くっ……魔法塔華院め!」
「おやおや……こりゃあ厄介だねえ!」
「くう……でもこちらも、一歩も退かないわ! さあ蛮族共、全速前進!」
「あいよ、マイボオス!」
「イエス、マム!!」
空賊らや尹乃も、エネルギーを奪われつつあることに動揺するが。
それでも王魔女生の誇りとばかり、先ほどのマリアナ同様風隠号を突き進ませる。
「ま、マリアナ様!!」
「これしきで動揺していては、わたくしの側付きなんて務まらなくってよ!」
「は、はい!」
マリアナらも一歩も退かない構えである。
が、その時。
「! ま、マリアナ様危ない!」
「えっ? ……くっ!」
「きゃっ! ……! み、ミリア!」
ミリア機が突如、陣形を崩してカーミラ機の前に立ち塞がったかと思えば。
ミリア機は、どこからともなくやってきた攻撃により撃墜される。
「きゃああ!」
「み、ミリアあ!」
「なっ……! あ、あれは」
「! 待った、風隠号面舵いっぱーい!」
「くっ! な、何蛮族共」
「! き、キャプテンあれは!」
青夢やマリアナ、法使夏も。
空賊や尹乃も、戸惑い。
あわや魔法塔華院方と王魔女生方の正面衝突は回避される。
一同の、見上げる視線の先には。
「あ、あれは」
「ま、またあの幻獣機が!」
咆哮する幻獣機グレンデルの、姿があったのだ。




