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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第一翔 凸凹飛行隊(バンピーエアフォース)始動
2/193

#1 魔女の前途は多難

「サーチ・コントローリング・ウィッチエアクラフト!

 ……エグゼキュート!」


 魔女木青夢(まめきあおむ)は操縦桿を握りながら、呪文を唱える。


 たちまち、コマンドを受けた空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)――旧日本軍が擁した推進型(機体後部にプロペラ付き)飛行機・震電を思わせる形の魔法の戦闘機だ――の、機体の尾部についたプロペラが花弁のように閉じて回る。


 そのまま法機は、飛んだ。


「やった! これでマニュアル通り!」


 法機のボディ越しではあるが、風を切る感覚が伝わってくる。


 憧れ抜いた空への進出。

 そう、これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては大きな一歩! (逆だと思う。)


 一人前の操縦士になれば、もっと風を切れる。

 もっと、高みまで――


「青夢。さあ、おいで!」


 青夢の瞼の裏に映るのは、あの日の父。

 油臭い使い古しのゴーグルを頭につけ、青夢に――まだ幼かった彼女に、手を差し伸べている。


 そうだ。足りない、もっと高みまで――


「うわっ!」


 浸り出したのも束の間、別の法機が彼女の訓練機を襲う。


「オーッホッホッホ! 魔女木さん、そんなことで満足していますの? そんなんだから出遅れ続けるんですってことよ!」

「もう……魔法塔華院(まほとけいん)マリアナ!」


 天井知らずのプライドに裏打ちされた大財閥(悪役)令嬢の攻撃が炸裂する。


 マリアナは窓越しに見れば、暑苦しくも長い髪をヘルメットに押し込めている。


 それを憎らしげにみる青夢だが。


「ふふふ……サーチ・ティーズ(甚振る)トラッシュ(落ちこぼれ)……セレクト・カラーリングアサルト・エグゼキュート!」

「うわっ! ちょ、これ!」


 青夢は急にマリアナ機から打ち出される着色弾に驚く。

 しかし、回避は不可能だ。


 たちまち青夢機は、着色弾に汚されてしまった。


「おーほほほ! 皆見て、汚い法機ですことよ!」

「あーもう、おのれえ!」


 ◆◇


「まったく……どうしてお前はいつもこうなんだ! 何故いつもこうして、何かしら無くしたり汚したりするんだ!」


 地上に降りるなり、青夢は教官からきついお説教を食らう。


「はい、すみません……」


 青夢は平謝りする。

 本来ならばここで、「いや、違うんですよ! あの魔法塔華何ちゃらっていうお高い女が!」と反論しても良さそうなのだが。


 もはや、それをしても無駄というのは目に見えているのでやらない。


「すみませんばっかりだなお前は! 前まではお前一人が自滅する程度のことで済んだが、今度は実機訓練なんだぞ! 整備士の気持ちも少しは考えたらどうなんだ。そもそも、ようやく実機訓練に入るなんていうのが遅すぎるんだよ」


 この説教は延々と続く。

 そう、これまでもずっとこうだった。


 先述の反論をしようものなら、「何だと、魔法塔(中略)さんがそんなことするものか! くだらない言い訳しおって!」などと言われてしまう。


 これまでもマリアナの授業妨害のせいで、座学を延々と続けることになってしまった。


 だからようやく、実機訓練ができると思えばこのザマだ。


「おい、聞いているのか!」

「まあまあ、先生。こんな汚れぐらい僕がちょこちょこって直しますから。魔女木さんも、心配しないで、ね?」


 教官を宥めるのは、整備長の矢魔道士(やまみちつかさ)だ。


「ああ……矢魔道さん♡」


 青夢は思わず、くらりとする。

 いや、この訓練学校女子生徒ならばくらりとせぬ者はいなかろう。


「ううむ……まあ、整備長がそう言って下さるならば。魔女木、ちゃんとお礼を言え!」

「いや〜ん♡ ありがとうございます!」

「いやいや、そんなそんな。」


 矢魔道はひらひらと手を振る。

 その一挙手一投足が輝いて見えるのは、ひとえに青夢の恋する乙女フィルターによるものである。


 さておき。


「ああ……矢魔道さん♡」

「こら魔女木! ……反省文、書いて来い! 明日までだからな?」

「……はーい……」


 まあ、そうそう自分の世界には浸れまい。

 すぐに現実に引き戻された青夢は、そのまま教官から原稿用紙を分捕ると、そのまま自室に戻った。


 ◆◇


「……はーあーあ。」


 自室に戻った青夢だが、やはり課題は捗りそうもない。

 これからも、あのマリアナの嫌がらせに耐えねばならないのか。


「……何よ何よ! 私なんてこんな短いヘアスタイルにしてるのに、あの女があんな長くしているのをまず怒るべきじゃないの!」


 青夢は八つ当たり気味に叫ぶが、やはり不安しか見えてこない。


 こういう時は。


「……サーチ・ホープ・オブ・マイフューチャー!」


 スマートフォンの、空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)に接続したアプリに呼びかける。


 しかし。


「……ノット・ファウンドですかー、そうですかー!」


 答えは決まっている。

 青夢はスマートフォンを放り出し、激しく床に寝返りを打った。


 まったく、ついていないものだ。



「えっと、スマホに入って来てるニュースは……サイバーテロリスト集団、魔男(まだん)が犯行予告、ね……ま、どうでもいいけど!」


 青夢は退屈しのぎにニュース記事を読もうとするが、それは彼女の興味を引くものではなく。


 より一層退屈に、拍車をかけただけに終わる。


 ◆◇


「……ようこそ、お集まりいただいた。騎士団長諸氏。」


 暗い部屋に置かれた円卓にて、魔男の騎士団長・アルカナが呼びかける。


 そう、魔男(まだん)

 青夢がニュースで見た退()()()()()に乗っていた、サイバーテロリスト集団だ。


 たちまち、円卓を取り囲む他11の騎士団長が照らされる。


 魔男(まだん)円卓(えんたく)

 魔男の12騎士団による、最高諮問機関である。


 円卓という、上座・下座の別がない物を使う辺り。

 無論、()()()()としては、12騎士団長全員が平等なのだが。


「……まずは、アルカナ殿。あなたからご発言を。」

「うむ、いつもすまない。」


 事実上、アルカナが最も発言している。


「……いよいよ、我らが動き出す時だ! さて……バーン騎士団長、作戦についてはどうお考えかな?」

「……うむ。」


 アルカナの言葉に、騎士団長の一人が口を開く。


 ギリス・バーン。

 龍男(りゅうだん)の騎士団、団長である。


「……私の若い騎士に、小手調べをさせたい。」

「……ほう、小手調べ?」


 バーンの言葉に、アルカナは首を傾げる。

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― 新着の感想 ―
[一言] 興味深い作品ですね♩ また読ませていただきます^_^
2020/09/11 07:50 退会済み
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