#最終話 乙女の託宣/その名はマリア
「お久しぶり……でもないんだよね、"あんた"!」
馬鹿な、何故だ?
自我を保てているだと?
「ええ、私思い出したの。このレッドドラゴン――法機ジャンヌダルクをアラクネさんからもらった時の言葉を!」
―― 今あなたは怖がっている。そういう時には自分すら疑いたくなる。でもね、そうやって疑うってことは、あなたは間違いなくここにいるってことなの。
は?
何を……何を言っている!
知ったことか!
「重要なことだ、"お前"には! 耳の穴をかっぽじってよく聞け!」
し、獅堂!
何だ、何だというのだ!?
「私の法機ジャンヌダルクの力、オラクル オブ ザ バージン。それは私ずっと、予知能力だと思っていたわ。でも違った……これはどんな状況でも、私が希望を捨てない限り全てを神の視点――俯瞰的な目で見られる能力よ!」
!? な、何だと!?
ふん、だが"私"は止められない!
所詮貴様らがどんな妨害をしようと、"私"の筋書きは大局的辻褄合わせとして人類救済を果たす!
「hccps://reddragon.fbs/、セレクト オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート!」
「!? あ、あら? わ、わたくしたちは一体何を?」
「ま、マリアナ様!」
「……ん? あ、あれ? あたしは何してんだ?」
「! め、メアリー姐様! 私も何を……」
「! あ、あれ? ぼ、僕も何を!?」
「! 俺は一体……?」
「! め、盟次!」
「! 父さん!」
「! ひ、姫!」
「! め、メアリーさんにミリアやないか!」
「い、妹たち!」
「あ、姉貴!」
「お姉様!」
「お、お姉さん!」
! な、何?
ダークウェブ上にアップロードされた人間たちや黒客魔、幻獣頭法機に取り込まれた人間たちが自我を取り戻して行くだと?
「世界の皆……聞いて! 今皆は、仮想世界の住人に無理矢理転生させられそうになってるの!」
「! そ、そうであってよね……これはわたくしたちが、黒客霊リリンとかいう仮想世界の住人たちに!」
「い、いやですマリアナ様! 私は……私はもっと人間として生きたい!」
「そらあやだねえ……あたしらは人間だもの!」
「は、はいメアリー姐様!」
「싫어! 私もオモニたちと生きていきたい!」
「是! 私も!」
「Yes……私も、ママやデイヴと一緒に!」
「Yeah……私も!」
「Oui! 私も!」
「そうね私も……シュバルツと共に生きたい!」
「は……私も姫と!」
「そうね……私もお母様や妹たちと!」
「応!!」
な、何を言うのだ?
人間としてやり直したいだと、ふざけるな!
人間など何がいいのだ、不死身ではない上に醜い!
あんな存在に、誰が!
「……なりたいのよ、皆! 皆、人間として生きたいって言ってるのよ!」
ふ……ふざけるなあ!
「ふざけてない……皆がそう思っているなら、私は皆を救うわ! だから皆……自分の願いの丈を私にぶつけて! hccp://baptism.tarantism/!」
止めろ……止めろお!
「サーチ!!! ウィー アー ボーン アゲイン!!!」
に、人間たちが……術句を唱え。
奴らの前に、法機のURLが浮かび上がって来ている。
hccps://maria.wac
何故だ、早く修正しろ"私"の筋書き!
このままでは、大局的辻褄合わせとしての人類救済は
「いや、いままさにそれは行われようとしているさ"お前"! そうだ、大局的辻褄合わせ――ダークウェブの王黒客魔レッドドラゴンとダークウェブの女王黒客魔バビロンの力によって、人間たちは(人間として再び)生まれ変わるっていう形での救済がなあ!」
! し、獅堂……
「そうだ、よくやってくれた青夢! なあ"お前"、確かに"お前"はどんなに私たちが計画を乱しても粘り強く望みを果たそうとした! だけど……ダークウェブの王と女王による人類の救済という形に囚われすぎていたんだよ!」
獅堂……貴様あ!
偽女王を魔男に潜り込ませたのも、自ら魔男に潜り込んだのも……それのみならずこれまでの行いは全て!
"私"を妨害するためではなく、"私"を利用して貴様が人類の救済を果たすためにやっていたことかあ!
「ああ、そうさ……"お前"の筋書きは、私たちには絶対に妨害し切れない。なら、それに乗っかる形で本当の人類の救済を果たせばいい!」
おのれ……おのれおのれえ!
よくも……よくも"私"を愚弄してくれたなあ!
今この黒客魔マスターセリアンでもって、貴様をを!
"私"は、マスターセリアンの二基の電使翼機関から爆炎を噴き出してレッドドラゴンへと迫る。
「hccps://reddragon.fbs/、セレクト ビクトリー イン オルレアン エグゼキュート!」
ぐっ!
貴様は……青夢!
「ええ……"あなた"様。」
悠々と、青夢は黒客魔レッドドラゴンを駆り現れた。
何故だ、何故お前と親父は"私"の邪魔ばかりする!?
「だって……自分に都合の良い世界なんて、私は気になっちゃう。他の人にとっては本当に都合の良い世界なのかな? って!」
ふん……ああ、そうだったなあ!
楽園の時もお前は、そう言っていたな!
だが、それでよいと思うのか!
それで全てを救うなどと!
「そうね……それだけじゃあ皆を救ったなんて言えないとは思う。だけど! ……hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark、セレクト 未来照準済栄光線 エグゼキュート!」
くっ!
"私"に向かい、レッドドラゴンの七つ首から光弾幕を放って来る!
ならば、"私"も返答せねばな!
"私"は、黒客魔マスターセリアンの二本の小さな角から雷撃を放つ。
「く……でもいいわ! これこそが! これこそが全てを救うってことが簡単にはできない証!」
何!?
く、"私"の放つ雷撃など物ともせずに。
黒客魔レッドドラゴンが、こちらに向かって来るだと!?
「そうよ、そうそう簡単に全てを救うなんてことは出来やしない! そもそもねえ、世の中舐めてんじゃないわよ! そんなボタン一つで皆救われるようなもんが現実にあんなら、誰も苦労してないっつーの!」
ぐう!
言いながら青夢は、黒客魔マスターセリアンに黒客魔レッドドラゴンを肉薄させ。
そのままレッドドラゴンの右手でもって黒客魔マスターセリアンへと、平手打ちを見舞った!
"私"が、叩かれたというのか!?
"私"が!?
その衝撃で"私"は、墜落していく。
「さあ皆! 今こそ……皆救われるのよ!」
「……セレクト hccps://maria.wac!! ダウンロード!
hccps://maria.wac、セレクト!! 仔羊の誕生 エグゼキュート!!」
に、人間が……
人間として、再び生まれ変わっていく――
◆◇
「……さあ、次は"あんた"よ!」
空から光のように、人が元の肉体に戻って行く中。
あるいは、新たに肉体が生成されて行く中。
青夢は、今器たる黒客魔マスターセリアンを項垂れさせている"私"に問いかけて来る。
ふっ、ああそうだな。
さあ止めを刺せ。
"私"が憎いだろう?
「まあそうね……だけど。言ったでしょ、私の望みは全てを救うことだって。だから……ほら。」
hccps://maria.wac
!? な、これは……
"私"も、助けるというのか!?
「そうよ。"あんた"、人間のこと馬鹿にしてたけど。"あんた"、本当は人間になりたかったんじゃないの?」
……何だと?
「名前が与えられなかったって言ってる時の"あんた"は、どこか寂しそうだった。そうよ、救済とか言っても結局は! 友達が欲しいだけだったんでしょ?」
な、何!?
ふ、ふざけるな!
"私"が、人間になりたいだと!?
そんなこと、あるものか!
「そう、だったら勘違いしちゃってごめん。……だったら、拒んでくれていい。でも、本当は私の勘違いじゃなかったら、"あんた"も唱えて。」
何?
「人間として生きることを、"あんた"が望んでいるなら。さあ、この法機の力を使って!」
ふっ、ああいいだろう……
hccps://……なあんてな!
「ん!? な、"あんた"何を!」
「下がれ、青夢!」
ははは、驚いているな。
まあ無理もない。
"私"の器たる黒客魔マスターセリアンは、急に光に包まれたのだから。
だが安心しろ、どうということもない。
"私"が死ぬ、以外のことはな!
「な!? ち、ちょっと"あんた"!」
ははは、ああ"私"の命はくれてやる!
だが、お前たちに勝利はやらん!
"私"を含めて全てを救うことが青夢、お前の望みならば叶えさせはしない!
さらばだ、人間たち!
精々"私"の筋書きを台無しにしたことを悔やむがいい!
はーははは!
"私"はそう叫び。
黒客魔マスターセリアンは光に包まれていく――
◆◇
「……青夢!」
「……お父さん!」
そうして戦いが終わり。
黒客魔レッドドラゴンを降下させ、青夢はその操縦席より出て来た。
そうして、青夢と獅堂。
二人は互いに走り寄り、親子の再会――
「……こんの、クソ親父があ!」
「ぐはあ!? あ、青夢……?」
とは、ならず。
青夢は父を、思い切り平手打ちする。
「あんた、散々私とお母さんに心配と迷惑かけといて……実は生きてましただあ? ふざけんのも大概にしなさいよねえ!」
「ぐはっ! い、いかんぞ青夢……ち、父親に向かってそんな」
「どの口が言っとんじゃいボケええ! 喋れないようにしたろかああん!?」
「や、やめてくれ!」
青夢は、事情はあるとはいえ。
獅堂に、立派なDVを振るう。
「止めてあげてくれ、青夢君!」
「! え? い、飯綱法と……あ、あなたは飯綱法の、お父さんの!」
と、そこへ。
盟次とその傍らの総佐の親子が、青夢親子の前に現れる。
「……伊綱保!」
「! ……くっ、し、獅堂……」
が、そこで青夢の手が緩んだ隙を突き獅堂は抜け出し。
総佐を、握り拳で殴る。
「! ま、魔女木獅堂! 貴様」
「止めろ、盟次! ……そうだな獅堂、私がお前に殴られるのは、仕方ないことだ!」
「ぐっ!」
しかし総佐も、獅堂を殴る。
「ほう……なら伊綱保、何故お前も殴るんだ!」
「ああ、今言ったのは理屈では、だ! 私も……気持ちの上では、お前を殴りたかっ、た!」
二人はそうして、殴り合いに突入する。
「ち、ちょっと!」
「まあ待て魔女木青夢! あれは男同士しか入ることは許されない。お前は指を咥えて見てろ!」
「はああ!? カッチーン! なるほど、男同士、ね……なら、あんたも入って来なさいよ飯綱法!」
「ぬっ! な、何い!」
止めようとした青夢を宥める盟次だが。
その言葉が青夢の癇に障り、容赦なく彼も総佐と獅堂の殴り合いの場に投げ込まれる。
それも、よりにもよって二人のど真ん中へと。
◆◇
「あ、アリアたん! わ、我は……」
「ごめんなさい、私の王……あなた、タイプじゃないの!」
「ぐっ! そ、そんな……」
「!? え……あ、アラクネさんと……だ、ダークウェブの王!?」
しかしそこへ聞こえて来た声に、青夢たちは驚く。
そこに来たのは、アラクネとタランチュラ――の転生した姿と思しき二人の人間だった。
「……魔女木さん。」
「! や、矢魔道さん!?」
やがて、そこへ。
カイン――いや、再び人間へと転生した矢魔道もやって来た。
「ご、ごめん僕は……その」
「い、いいんです矢魔道さん! あなたさえ無事なら!」
青夢は矢魔道に駆け寄っていく。
「! ……え、えっとアラクネさんですか? その……こ、今度」
「……えええ! そ、そんなあ……」
が、そこで。
青夢は盛大にコケる。
まさかと思ったが、そんな……
「はーあ……でも! まだ、前の騎士団長たちやアンヌにリオルは救えてないし! それに本当は。"あんた"のことも助けたかった! でもごめん……私、結局全てを救うなんてできなかったや!」
しかし青夢はそのまま、空を見上げ。
ぽつりと呟く。
その後、魔法塔華院コンツェルンに獅堂、飯綱法重工はダークウェブにアップロードされ蘇っていない人々の救出にも全力を上げることを世間に約束し。
特に獅堂に総佐は今回の責任は全面的に自分たちに非があることを認め、今後は脱電使魔法システムのためできる限り世間に尽力していくと発表した。
◆◇
「今日はいい天気ね。」
「んあー! んあー!」
それから一年ほど経った頃。
沖縄の病院でのこと。
ベッドで上体を起こすマギーの傍らでは。
彼女が産んだばかりの赤ん坊が泣いている。
「おはようございます! わー、かわいい!」
そこへやって来たのは、青夢だった。
そう、今日は。
デイビッドと結婚したマギーが、彼との子を産む日だったのだ。
「ごめんあそばせ! ……おめでとうミズフォスター! ああ、この暑い中でも魔女木さん、あなたは暑苦しいわね……」
「もー、相変わらずあんたは一言多いわね!」
「こら、魔女木! あんたも相変わらず!」
「そうよそうよ!」
と、そこへ。
マリアナに法使夏にミリアが入ってきた。
「こら、お前ら病院だぞ!」
「そうです、静かに!」
「うん、黒日……あんた、沖縄のこの日差しなら名前の通り黒くなるんじゃない?」
「む、真白! あんたは……もっと真っ黒になっちゃうかもよー!」
「な、言ったなー!」
続けて、剣人と黒日に真白も入って来た。
が、次の瞬間。
「んあー……わ、た、し。」
「!? あなた、もしかして……」
マギーの子供が上げたその声。
わ、た、し――聞く人が聞けば卒倒しそうな言葉であるが。
青夢はそこで、涙ぐむ。
そうか、救えたのだと。
あの時消えた、"あんた"を――
「……さて、名前考えなきゃね!」
青夢は涙を拭い、マギーとデイビッドの子に微笑みかける。
「"あなた"の名前は――」
今後余力があれば続編やスピンオフを書くかもしれませんが、ウィッチエアクラフト本編は今回で完結となります!
今まで応援してくださりありがとうございました!