#190 救出の好機
「ま、魔女木……! 俺は、まだここにいる!」
ふん、まったく忌々しい!
まさか、"私"が"私"自身をそう思う日が来るとはな。
"私"が人間として転生させられた時の人格、方幻術剣人。
更には。
「こっから出してえな、"あなた"様とやら! 暑苦しくてしゃあないんや!」
ダークウェブの真の女王が人間に転生させられていた時の人格、魔女辺赤音までも目覚めてしまったとは!
彼女は今、黒客魔リリスの胸部操縦席で暴れている。
どうやら"私"としたことが計算外であることに、こいつらは偽りの人間だった頃に未練が湧いていたらしい。
だが、忘れるな。
お前たちはあくまで、"私"の一部か被造物だ!
生意気にも、表に出て来ていい者たちではない!
……hccps://chimaira.mna、セレクト ! アトランダムデッキ!
「! hccps://jehannedarc.row/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン! オラクル オブ ザ バージン! hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark、セレクト 未来照準済栄光線 エグゼキュート!」
くっ、目敏くも!
青夢は"私"に、攻撃を仕掛けて来るか。
間一髪、"私"は自身の制御が効かなくなりつつある方幻術剣人を――ひいては、幻獣頭法機キマイラを駆り。
何とか青夢の法騎ジャンヌダルクを、躱したのだ。
「どうやら"あんた"の言ったこと、ちょっと違うのかも! 方幻術や魔女辺赤音も、救えなくもないみたいよ!」
青夢め、勝ち誇ったようなことを。
く、しかし法騎ジャンヌダルクから放たれた光弾は、"私"が駆る幻獣頭法機の背後で次々と炸裂してしまっている。
こうなれば、やむ無し!
出し惜しむ間もなし!
……hccps://chimaira.mna/GrimoreMark、セレクト ダブルスプレディング! 女帝、悪魔――黒客魔リリスによる滅亡、黒客魔サタンによる滅亡だ!
「……はっ! "あなた様"のご命令であれば。」
「くっ、な、何や! この、言うこと聞かんかい!」
「この、話せ!」
行け、ダークウェブの王に女王!
そして方幻術剣人よ、貴様も忘れるな!
あくまで貴様は、"私"の器なのだ。
器は大人しく、"私"の文字通り手足となり働いていればそれでよい!
「はっ、我が"あなた"様!」
「くっ、魔女木!」
「くっ、"あんた"様あ……このお!」
"私"は、器たる剣人にもダークウェブの王と女王にも命じた。
するとどうだ。
忠実にも黒客魔サタンとリリスは、身体に備えた二基の電使翼機関から爆炎を噴き。
とてつもない加速でもって、法機の倍はある騎体を柔軟にしならせながら有象無象の所へと向かい始めた。
「こ、これは予知じゃない……? ちょっと! 私に選ばせてやるとか言っといて何自分が選んでんのよ!」
ふん、貴様こそ"私"の求めを素気無く拒んでおきながらいけしゃあしゃあと。
言っただろう、もはや出し惜しむ間もないのだ。
「く、この……魔法塔華院に雷魔、使魔原! アルカナ殿! 気をつけて!」
「く、止まるんや! この……メアリーさん、ミリア! 危ないから避けるんや!」
「! み、ミスター方幻術であって!?」
「う、嘘! 大丈夫なの?」
「き、騎士団長!」
「や、やったメアリー姐様! 騎士団長はまだ生きてたのね!」
おやおや、そんな二体の黒客魔が行く先では。
状況を理解していないのか魔女たちは、かつての仲間の無事を喜ぶなどという呑気なことをしている。
よし黒客魔サタンにリリス、やってしまえ!
「はっ……我が、"あなた"様……」
「くっ! セレクト、サッキングブラッド エグゼキュート!」
「セレクト、儚き泡 エグゼキュート!」
おやおや、黒客魔サタンが口から吐いた炎に。
マリアナと法使夏が、エネルギー吸収波と泡水流で対抗して来たか。
しかし、そんなものでは通じんぞ。
何せ黒客魔サタンには、七つの頭があるのだからなあ!
「くっ! と、とても押し切れる力ではなくってよ!」
「は、はいマリアナ様!」
ははは、このザマか!
「! ダークウェブの王!」
「! 隙ありよ妹たち!」
「応!!!! ……セレクト、グライアイズアイ、グライアイズファング、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート!!!」
「くっ、おのれ!」
おや、龍魔力四姉妹までもが参戦してきたか!
騎士たちが、黒客魔サタン自ら出て来たことに驚いた隙に。
「ふ、二人とも……ぐっ、私の"あなた"様に、手出しはさせない!」
「おうりやああ、騎士団長!」
「騎士団長を、アラクネ姐様を返しなさいい!」
おや、黒客魔リリスには元女男の騎士団の双胴機・法機キルケ・メーデイアが当たるか。
良かろう、相手してやるがいい真の女王よ!
「はっ、他ならぬ"あなた"様のご命令ですもの!」
「くっ、騎士団長う! もう取り込まれちまったかいい!」
「……セレクト ツインストリーム エグゼキュート!」
「"あなた"様の邪魔をする者たちよ……もはや、容赦はしません!」
真の女王たる黒客魔リリスの放つ、無数の火球群と法機キルケ・メーデイアから放たれる二つの火線がぶつかり合って空中に巨大な爆発を生み出すか!
「ちょっと……よそ見して実況中継してる暇ないんだけど!」
おっと、そうだったな!
"私"の相手は、あくまで貴様だ青夢!
「く、ま、魔女木……!」
「大丈夫だよ方幻術……すぐに助けるから!」
ふん、そんな約束をしてしまっていいのか?
"私"に、勝てると思ってか!
「くっ! これは……お父さんを墜とした雷ね!」
「や、止めろ! 魔女木を、攻撃するな!」
おやおや、やはりこれは聞くか!
"私"が生み出す無数の雷撃に、青夢は困り果てているようだ。
いいや、青夢だけではないか。
「くっ! これは雷であって?」
「ま、マリアナ様! ミリア!」
「くっ、何だいこれは!」
「め、メアリー姐様! 一度下がらないと!」
「ひ、引くわよ妹たち!」
「お、応!!!」
魔女たちも、順当に引き始めている。
さあ、好機を作ったぞ騎士たちに黒客魔たち!
「はっ、ありがたき幸せ!」
「"あなた"様の、ご意志の元に!」
「魔女共お!」
俄然騎士たちも黒客魔サタンとリリスも活気付き。
魔女たちに、またも向かって行く――
「まったく、腰抜けたちねえ! でも私たちは違うわよシュバルツ!」
――はっ、姫!
ん? 何だ。
生意気にも打ちつける雷をものともせずに向かって来るあの巨影は。
王魔女生尹乃と黒騎士の、ワイルドハントか!
「! え……わ、ワイルドハント――ほ、法機ヘカテーに乗る姫さんて、王魔女生の社長なの!?」
「な、ほ、本当であって!?」
「ま、マリアナ様……」
ああ、そういえば君たちは気がつかなかったな。
まあ、そういうことなんだが。
相変わらずワイルドハントは、雷の攻撃をものともせずに突撃を仕掛けて来ているな。
「止まれ……止まらねば……」
黒客魔サタンは七つの口を開けて、今にも火を放たんとしている。
そうだサタン、思い知らせてやれ!
「セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「ぐっ!? こ、これは!」
む、ワイルドハントを盾に。
同艦下部から火線が出て、騎士やサタンを襲ったか!
「も、申し訳ございません"あなた"様!」
「あ、あのアルカナめに巻かれてしまいまして!」
まったく、情け無いことに。
ウィヨルとフィダールが、"私"に告げている。
「……よく、やってくれたわ皆!」
「!? あ、アラクネさん!」
「ア、アリアタン……」
! な、まさか!
黒客魔サタンまでもか!
あのアラクネとタランチュラの人格が、自我を取り戻してしまったということか!
「……セレクト、楽園への道 エグゼキュート!!!!」
何だ!?
「ぐう!」
「があ!」
「やったわジニーたち! マリアナさんたちを差し置いて私たちが敵陣に一番乗りよ!」
「はい、レイテ様!!!」
レイテ以下四機の法機か!
速さを活かし、"私"と黒客魔たちを守るように取り囲む騎士たちの幻獣機の防御網を突破して来たか!
「hccps://takiyasya.wac/、セレクト! 髑髏剣 エグゼキュート!」
「hccps://vouivre.wac/、セレクト デパーチャー オブ 金剛鎌弾! エグゼキュート!」
ぐっ、自衛隊か!
アダマント艦と法機滝夜叉から放たれる弾幕が、先ほどこじ開けられた防御網の隙間からこちらに炸裂している!
「hccps://sylph.wac/、Select 風元素! Execute!」
「hccps://kumiho.wac/、セレクト! 九尾――傾城の美女 エグゼキュート!」
「hccps://andromeda.wac/、セレクト 流星弾 エグゼキュート!」
「hccps://eingana.wac/、Select! 虹の彼方 Execute!」
「hccps://xiwangmu.wac/、セレクト! 死鎌爪 エグゼキュート!」
く、各国の法機までも!
「わたくしたちも……躊躇っている暇はなくってよ!」
「ええマリアナ様! 行こう、ミリア!」
「指図しないでよ法使夏!」
「そうさ、あたしらは騎士団長を助ける!」
「私たちも行くわよ妹たち!」
「応!!!!」
く、どいつもこいつも!
もはやこちらが崩れ始めているからと、調子に乗りおって!
「だーから言ってんでしょ……よそ見するなっつーの!」
!? ぐ、青夢か!
"私"の駆る法機キマイラへと、法騎ジャンヌダルクを突撃させて来るか!
「突撃だけじゃないわ……hccps://jehannedarc.row/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン! オラクル オブ ザ バージン!hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark、セレクト オルレアンの電磁雷撃 エグゼキュート!」
ぐう!?
青夢は法騎ジャンヌダルクから、無数に伸びる光線を"私"の法機キマイラや黒客魔サタンにリリスへと放って来たか!
「今よ……方幻術! 魔女辺赤音にアラクネさん!」
「ああ! ……hccps://dragon.edrn、セレクト! ライカンスロープフェーズ エグゼキュート!」
「よっしゃあたしも……っしゃあ! さあもうおさらばやでえこんなとこ!」
「ええ、私もよ!」
「あ、アリアタン!」
今度は、その隙に!
法機キマイラから"私"の器たる方幻術剣人が、元の自機であり今はジャンヌダルクの一部になっている幻獣機ドラゴンに意識を融合し。
黒客魔サタンからは幻獣頭法機ルシファー――ひいては、アラクネとタランチュラが分離し!
黒客魔リリスからは法機デモニックリヴァイヤサン諸共、赤音が分離したか!
「!? あ、"あなた"様!」
「よそ見をしている暇は、貴様らにもないぞ!」
「ぐう!」
「く……皆、一旦後退せよ!」
騎士たちも、押し入って来る魔女たちに押し切られ。
散り散りに!
ふふふ……あーははは!
なるほど……これは、"私"が不利だなあ!
◆◇
――よし、やったな魔女木!
「ええ、よくやったわ!」
「ようやったでえ魔女木の姉ちゃん!」
「さあ……救い、出したわ! 矢魔道さんは……まだ見つからないけど!」
青夢の法騎ジャンヌダルクと赤音の法機デモニックリヴァイヤサンに法機ルシファーは並び立ち。
ふらふらと飛んでいる"私"の法機キマイラや、法機ナアマと対峙している。
青夢はどうやら戦場を見渡して、黒客魔サタンから分離した法機レッドサーペントを探しているようだがな。
「く……何か分からないけど魔女木青夢! あんた、だけは……」
おや、ペイルはこの状況でも闘志を失っていないか。
しかし……くくく、あはは!
これは、ぷっ、状況がまるで不利だな!
ふん……おのれえ!
よくも……ぷっ、私の……ぷっ、計画を!
「……え?」
おや、青夢は戸惑っているか。
ああ、まあ無理もない。
"私"は場違いにも、笑いを堪えきれていないからなあ!
「な……何がおかしいのよ"あんた"!」
ああおかしいさ……結局は親子共々変わらない、愚鈍さがなあ!
「な……何ですって! ……ぐっ!」
――ま、魔女木!
「く、魔女木の、姉ちゃん!」
「ほ、方幻術! 魔女辺赤音!」
ははは、青夢も赤音も、それだけではない。
この場にいる全ての法機や艦が、動けなくなっているぞ!
まずは……真の女王と偽の女王に続く、新たなる女王グレンデルマザーだ!
「な……ぐ、グレンデルマザーだって!? ぐっ!」
「! め、メアリー姐様! ……き、きゃあ!」
――な……め、メアリーさんにミリア!
「み、ミリア!」
"私"がそう唱えた瞬間。
法機キルケ・メーデイアは、鳴動を起こした。
メアリーは自分が保有する幻獣機二体のうち一体の名前を呼ばれて驚いたようだが。
グレンデルマザーは偽女王アラクネと同じく、幻獣機にして法機なんだよ!
「な、何だって!? ……ぐっ!?」
「き、きゃあ!」
メアリーが驚く間に。
キルケ・メーデイアから幻獣機グレンデルと幻獣機――兼法機グレンデルマザーが分離して行く。
いや、それだけじゃない。
「! きゃあ!」
「! し、白魔二等空曹!?」
法機ヴイヴルごと、乗っていた白魔術里も引き寄せられて来る。
ああ、お前のヴイヴルもさ白魔術里。
あの偽女王からその法機を授かった時にこう聞いただろう?
――その内あなたや赤音たちには、特に迷惑をかけることになると思うけど……どうか、戦い抜いて!
「!? あ、あれは一体……」
ああ、それはな。
お前のヴイヴルも、法機にして幻獣機だったんだよ!
「! な、何ですって!?」
くくく、驚いたか。
だが、今さらもう遅い。
さあ、新たなるダークウェブの女王の誕生だ!
法機グレンデルマザー、幻獣機グレンデル、幻獣機ヴイヴル! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 幻獣頭法機グレンデルマザー!
「く……ぐうっ!」
「! し、白魔さん!」
ああ、青夢も叫ぶか。
だが、今のお前には何もできん。
指を咥えて見ていろ。
ほうら、たちまち三機の幻獣機と法機は合体し。
幻獣頭法機を、作り上げたぞ?
「し、白魔二等空曹!」
ははは……しかし、まだ終わらない!
幻獣頭法機キマイラ! 幻獣頭法機グレンデルマザー! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 黒客魔バビロン エグゼキュート!
幻獣頭法機ルシファー! 幻獣頭法機ナアマ! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 黒客魔マスターセリアン エグゼキュート!
幻獣頭法機レッドドラゴン! 幻獣頭法機デモニックリヴァイヤサン! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 黒客魔レッドドラゴン エグゼキュート!
「くっ、きゃああ!」
――ぐああ!
――く、この!
「きゃあ!」
――く、み、皆!
――あ、アリア、タン!
"私"が今、次々と命じたままに。
合体した幻獣頭法機二機同士はやはり双胴機型となり。
かと思えば、より上半身や足を生やした形となった。
そして……法機キルケ・メーデイアも生まれ変われ!
幻獣機ゴグ、マゴグ、法機キルケ・メーデイア!
コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 宙飛ぶ魔人艦ゴグ・マゴグ エグゼキュート!
「な、何てことであって!?」
「そ、そんな……」
さあどうだ人間たちよ!
"私"の筋書きは、どう妨害されようとも最終的に人類救済という目的までのルートを再計算し大局的辻褄合わせとしてそれを果たそうとする。
そうして今ここに、またルートは再計算され新たな三つのVIが生まれた!
青夢という新たなダークウェブの王たる黒客魔レッドドラゴン!
そして新たなダークウェブの女王たる黒客魔バビロン!
更に"私"の新たな器たる、黒客魔マスターセリアン!
また、VIではないが黒客魔レッドドラゴンの忠実なる僕たる宙飛ぶ魔人艦ゴグ・マゴグも用意した!
さあ……今度こそ真の救済を果たせるというもの!
◆◇
「くっ、青夢……」
おうや獅堂か。
ちょうどよい、お前に見せてやるさ。
自分の娘が、全てを救うその瞬間をなあ!