#189 運命の選び手
「……"あなた"様。」
「……何なりと、お申し付けくださいませ。」
おやおや、先ほどまで人間やら幻獣機だった頃の名残りはとうに失せ。
黒客魔サタンもリリスも、奇妙な言い方ではあるが"私"の忠実な王と女王になったか!
いい、大変よいぞ我が被造物たちよ。
「……皆さん、何を呆けてらして? わたくしたちには、戦う以外の選択肢はなくってよ!」
「ま、マリアナ様……」
「ま、魔法塔華院のお嬢……だけどねえ。」
「あ、あれは……」
おや、マリアナが笛を吹けども。
他の魔女は踊らず、か!
腰抜け共めが!
「……hccps://jehannedarc.row/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン! オラクル オブ ザ バージン! hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark、セレクト オルレアンの栄光誘導弾! エグゼキュート!」
おや……青夢か!
「はっ!!」
「! ラインフェルト・ウィヨルと、サベント・フィダール……」
が、新たに"私"の僕となった魔男の騎士団が盾となってくれたか。
いや、魔男の騎士団だけではないな。
「……"あなた"様。私たちに何なりとご命令を!」
「こ、これって……」
「おやおや……随分と乗り換えが早いな両翼の近衛騎士も他の騎士共も!」
「! い、飯綱法……」
ああ、青夢もそして盟次もそれぞれに反応を示しているのは。
今ここに、他の11騎士団も集結したからだ。
実に数にして74体もの騎士たちが、な。
更にそれだけではない。
蜘蛛男の騎士王直衛騎士団も間もなくここに駆けつける。
「なるほど……ほら皆も! ぼやぼやしてないで!」
「な……あ、あなた! わ、わたくしに指図なさる気であって?」
「そ、そうよ魔女木!」
ああ、来い魔女共いや、人間共!
だが、有象無象は"私"の前にはいらん。
行け、騎士たち!
「はっ、"あなた"様のご命とあらば御意に……」
ああ、忠実な騎士たちよ。
"私"の命に従い、魔女たちに向かって行くな。
「くっ、誰が有象無象であって!?」
「ええマリアナ様……実に不愉快ですね!」
「ああ……あたしらは有象無象なんかじゃないよ!」
「はい、姐様!」
「行きましょう妹たち!」
「応!!!」
「シュバルツ、行くわよ!」
――はい、姫!
「行くわよ、ジニーに雷破に武錬!」
「はい、レイテ様!!!」
おやおや、今の言葉で魔女共にも火がついたか。
「네! 私たちも行かなきゃ、皆!」
「是……ここがダメになったら、私たちの国も……女夭も危ないわ!」
「Oui! 私たちだって!」
「Yeah! オーストラリアは私が守る!」
「Yes! 待っててデイヴ、ママ! 私は必ず!」
ふん、各国の魔女も動き出したか。
だが奴らも有象無象だ、騎士たちよ奴らにも当たれ!
「……行くよ、白魔二等空曹!」
「うん、妖術魔二等空曹! 私たち自衛隊だって有象無象じゃない、舐められて堪るかっての!」
おやそうだな、自衛隊よ貴様らもいたか。
だが、所詮は貴様らもまた有象無象であることに変わりなし。
ならば貴様らにも騎士たちよ行け!
そうだ、"私"の前にいるのはお前だけでいい。
さあでは……行こうじゃないか青夢!
「ええそうね……大分気は引けるけどね!」
青夢は法騎ジャンヌダルクを"私"の法機クロウリーと対峙させている。
そうだ、こちらも返答せねばな。
……セレクト、コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 幻獣頭法機キマイラ エグゼキュート!
"私"の詠唱と共に。
法機クロウリーの機首には、獅子・山羊・蛇の図が浮かび上がる。
そう、幻獣頭法機に変貌したのだ。
「! あれは、いつかの幻獣頭法機キマイラ!」
ああ、そうだな。
こいつは一度、あのアルカナ――盟次による偽争奪聖杯の時に見せて以来だ。
だが、力はその時の比ではないぞ!
「その前に……あんた、名前は何? 呼べないんだけど。」
ふん、"私"に名前などない!
与えられなかったからなあ。
「あら、そう……私が付けてあげようか?」
ノーサンキューだ!
名前が要るのは、所詮矮小な人間のやること。
"私"にそんなものは、必要ない。
「そう……まあ"あんた"がそれでいいなら何でもいいわ! "あんた"から方幻術も魔女辺赤音も矢魔道さんも、アラクネさんもダークウェブの王も蒼騎士も……全員救い出す!」
はっ、まだそんなことを言っているのか!
やはりいつかの盟次による言葉通り、名前に負けず青臭い夢の持ち主だなあ!
「あら、その呼び方も偽争奪聖杯の時飯綱法が言ってたことよ……やっぱりあんた、ずっと見てたのね!」
ああ、前に言った通りだ!
"私"は電賛魔法システムそのものとして、ずっと貴様らを見守って来たとも!
そうだ、今だって。
やろうと思えば貴様らから、その法騎や幻獣機の力を奪うこともできる!
だがそれはしない。
精々貴様らには、愚かにも"私"の救済に刃向かった末にきっちりと救済されてもらう!
「ふん、そんなの……皆してお断りよ!」
そうか、素直ではないなあ。
だが、少なくとも。
方幻術剣人や魔女辺赤音は、それぞれ"私"や黒客魔リリスの一部に戻っている!
つまり、もはや死んでいるも同然なのだよ。
「あっそ。でもまだ分からないかもしれない……やってみなけりゃ!」
おや、あくまでもやるか。
いいだろう……その夢の青臭さ、しかと身をもって教えてあげるさ!
◆◇
「"貴様"……よくも俺や父を有象無象と言ったなあ!」
「がるるるっ!」
おや、"私"と青夢の戦いに口を挟もうとする不埒者がここにいたな。
法機ヘルに、自身の父総佐――の宿った法機パンドラを駆る盟次だ。
「ああ、俺も父も有象無象ではない! 俺たちは当事者だ……"貴様"に運命を狂わされた、な!」
「そうはさせませんよ、アルカナ元騎士団長!!」
「! ふん……また、貴様らかあ!」
だが、重ね重ね申し訳なくも。
所詮お前も父も有象無象であることには変わりないのだ。
だから貴様らには、"私"の忠実なる魔男の騎士団長ウィヨルにフィダールを当たらせてもらう!
「ふふふ……実に不愉快だ! いいだろう……貴様らを倒してから行かせてもらう! 心してかかるがよい!」
ほう、盟次は却って士気を高めたか。
まあいい、精々ウィヨルとフィダールに遊んでもらおう!
◆◇
さて、では気を取り直して"私"と青夢の戦場だ。
さあでは行くぞ……hccps://chimaira.mna、セレクト ! アトランダムデッキ!
「……hccps://jehannedarc.row/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン! オラクル オブ ザ バージン! hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark、セレクト 未来照準済栄光線 エグゼキュート!」
くう! おや、青夢も新たな技を仕掛けて来たか。
なるほど、未来を照準する技。
ちょうどいい、ならばこれを見よ!
「ん!? こ、これは……!」
◆◇
……セレクト 、アトランダムデッキ! 死――幻獣機コロリによる人体にも感染するコンピュータウイルスによる滅亡だ!
「は、"あなた"様の命とあらば御意に……hccps://Persephone.chal/、セレクト ビーイング インフェクティッド ウィズ 電使細菌コロリーズジャーム! エグゼキュート!」
「!? ぐっ、うわあああ!」
「な……こ、これはあの喇叭で引き起こされそうになった、ニガヨモギとかいう飛行艦による災い!?」
ふふふ、青夢が驚いているな。
ああ、そうさ。
これが、"私"により運命が選ばれた場合どうなるかという話だ。
◆◇
「はあ、はあ……」
ああ、予知が明けたな。
まあ、今言った通りだ。
"私"は貴様らに、22通りの運命を選ばせることができる!
「に、22通り……つまり、大アルカナの数だけってこと!?」
ああそうさ。
そしてそれらの運命では、貴様らは必ず救済されるのだ喜べ!
「はあ……相変わらず喜べないわね! 言ったでしょ、そんなのはただのありがた迷惑だって!」
しかし、青夢は素直ではないことに。
迷惑そうに言い、再び法騎ジャンヌダルクを駆る。
「……hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark、セレクト 未来照準済栄光線 エグゼキュート!」
むっ、やはり来るか!
いいだろう……ならば!
貴様に選ばせてやるさ、青夢!
人類が救済される、運命を!
「くっ! ま、また頭に……何かが!」
さあ、まずは見るがいい。
予知でもって、なあ!
◆◇
……セレクト 、アトランダムデッキ! 太陽――二つの太陽による災いだ!
「ええ、私光栄ですわ……"あなた"様による人類の救済に、お力添えできるなんて!」
「! これは鳥男の騎士団……? くっ! あ、熱い!」
ああ、これが太陽の運命だ。
これにより出現した鳥男の飛行艦太陽戦車から太陽に匹敵する高エネルギーが撒き散らされ。
人類はそれに苦しむという試練を乗り越えた時、黒客霊リリンへと転生するという救済に辿り着けるのだ!
◆◇
……セレクト 、アトランダムデッキ! 吊るされた男――真の争奪聖杯による滅亡だ!
「はい、"あなた"様!」
「! つ、次は狼男の騎士団……?」
ああ、その通りさ。
再び12騎士団が死闘を繰り広げその余波で世界を破壊した末に。
狼男の父艦フェンリルが、魔女社会を一呑みにする!
人類はこの試練を耐え抜けば、やはり黒客霊リリンへと転生するという救済に辿り着けるぞ!
◆◇
……セレクト 、アトランダムデッキ! 戦車――智原使をモデルにした智電使による破壊だ!
「御意に……我ら堕電使。"あなた"様のご命に従い人類に、救済を齎します!」
「! ふ、堕電使!? あ、あのライカンスロープフェーズでダークウェブにアップロードされた魔男たち!?」
ああ、そうさ。
堕電使による軍隊が、回転する炎の剣――雷を振り翳して地上を焼き尽くす。
しかし、安心しろ。
やはりこの試練を耐え抜いた先に、黒客霊リリンへと転生するという救済に辿り着ける道が待っている!
「いや"あんた"……さっきからそれしか言ってないわねえ!」
◆◇
「! また、予知が明けた……?」
ふっ、ああそうさ。
さあ青夢、これからもまだまだ見せるぞ運命を!
貴様ら人類が必ず救済される運命を!
さあ、今見せた運命の中で選びたい運命はないか?
「はあ……どの運命も、いいえ"あんた"から提示された選択肢しか与えられないなんてそれ自体お断りよ! まったく、いつもいつも黒客霊リリンへと転生するという救済とかばっかり抜かして! 客の都合を考えずに押し売りばかりする悪徳営業マンそのものだわ!」
おうや、大層な言い方だな。
まったく、尚も素直にならないか。
まあいい、まだ全ての運命をお見せした訳ではないからな。
「何個見せられようと、お断りはお断りよ! ……hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark、セレクト 未来照準済栄光線!」
おやおや。
まあ、仕方ない。
ならば納得してもらうまで、全て見せるまでよ!
そう"私"が、次の手を打とうとした時だった。
「ま、魔女木……」
「! ほ、方幻術、なの……?」
くっ、これは!
まさか。
"私"の、人間としての――方幻術剣人としての人格!
とっくに消えたと思った記憶や人格がまだ残っていたというのか!
「……くっ、何やこの機体は! ダサいねん!」
「! ま、魔女辺赤音も!」
む、真の女王までもか!
忌々しい、者たちめが!
◆◇
「……青夢、行け! もうすぐだ、もうすぐ……全てを必ず救うことができる!」
おや、こちらも忌々しい獅堂が!
無力にも、地上から空を見上げて指を咥えるばかりだ!
しかし、いいだろう。
そんなに青夢にこの世界を救わせたいならば救わせてやろうじゃないか。
大局的、辻褄合わせとして――