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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第二翔 王魔女生私掠空賊会戦
19/193

#18 二人で一つ

「と、トラッシュ!」

「魔女木さん……何の御用?」


 法使夏とマリアナは、現れたジャンヌダルクに搭乗する青夢に嫌みを言う。


 魔男との三度の戦いを経た後。


 正式に魔法塔華院コンツェルンの傘下となった同飛行隊は、正規任務としては初となる空賊からの輸送飛行船(キャリッジエアシップ)護衛任務を受けていた。


 そうして昼間、海上に空賊の拠点がないか探したが見つからず。


 夜、マリアナと法使夏・ミリアは輸送飛行船の護衛にあたっていた所を今、空賊に襲われている。


 が、空賊との攻防が続いていたさなか。


 突如として幻獣機グレンデルが乱入し、マリアナたちは窮地に陥るが。


「あーもう、命の恩人に向かってその態度は何? 私は!」


 青夢操る、ジャンヌダルクの放った必殺技により。

 幻獣機グレンデルは屠られる。


 しかし。


「と、トラッシュ! 後ろ!」

「っと!」


 幻獣機グレンデルは何度倒されても復活してしまう。

 今もまた、ジャンヌダルク機体後部に出現し。


 そのまま先ほどのミリア機の場合と同様ジャンヌダルクを叩き潰そうとするが。


 青夢はすんでの所で、ジャンヌダルクを退避させて事無きを得る。


「……セレクト、カッタートルネード! エグゼキュート!」

「! おっと! って、魔法塔華院マリアナあ!」


 が、次には。

 マリアナが幻獣機グレンデルに向けて放った攻撃が、ジャンヌダルクを翳め。


 そのまま幻獣機グレンデルを、葬る。


「ボーっとしているのが悪いんじゃなくって? 魔女木さん。」

「くっ! ああもう、本当にあんたは!」


 自分の抗議に事も無げに返すマリアナに。

 青夢は、かなり立腹している。


「ま、マリアナ様! あの幻獣機がまたどこに出て来るか」

「ええ、そんなことわたくしがあなたになど言われなくては分からないと思って?」

「! い、いえ……」


 そこへ話に割り込んで来た法使夏に。

 マリアナは不機嫌な声で返す。


 しかし、その時である。


「ま、マリアナ様!」

「ふん、来ましたわね……セレクト、ファング オブ ザ バンパイヤ! エグゼキュート!」


 次に幻獣機グレンデルが現れたのは、マリアナの駆るカーミラの機体後部であった。


 しかし、法使夏の心配の声もよそに。

 マリアナは気丈にも、即座に技を発動する。


 かつて、幻獣機グレムリンを倒した技である。

 途端に幻獣機グレンデルは苦しむ素振りを見せる。



「こ、これは」

「……セレクト、ビクトリー イン オルレアン! エグゼキュート!」


 が、そこに青夢は。

 ジャンヌダルクを旋回し、熱線を幻獣機グレンデルに浴びせる。


 たちまち幻獣機グレンデルは破壊される。


「な、と、トラッシュ!」

「まったく……わたくしの功績を横取りするおつもり?」


 法使夏とマリアナは、抗議の声を上げる。


「だ・か・ら! せっかく助けに……いや、もうそれはいいから早いとこ次に備えて!」

「な!? と、トラッシュの癖に」

「いえ、雷魔さん。今は、魔女木さんの指示通りに!」

「! は、はいマリアナ様!」


 が、青夢も上げかけた抗議の言葉もそこそこに。

 直ちに警戒を促し、マリアナも法使夏もこれにはやむ無く応じる。


 無論、彼女らが警戒するのは。


「あの幻獣機、やっぱりまた!」


 幻獣機グレンデルの、復活である。

 やはり幻獣機グレンデルは、ジャンヌダルク・カーミラ・法使夏機よりも少し高い高度に再出現する。


「くっ……サーチ、クリティカル アサルト オブ 空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)ジャンヌダルク!」

「サーチ、クリティカル アサルト オブ 空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)カーミラ!」


 青夢とマリアナは、再びこのグレンデルを撃ち落とそうとする。


 が、その時だった。


「ふん!」

「セレクト……ぐっ!」

「ぬっ! こ、これは」

「ま、マリアナ様!」


 突如として突風が、青夢らの三機を襲う。


「ははは……また会えたね、魔女諸君!」

「あ、あんたは!」

「確か、あの痴漢クランプトン氏の弁によれば……アルカナさん、だったかしら?」

「ほう……名前を覚えて下さっていたとは、光栄ですな魔法塔華院コンツェルンのご令嬢!」


 愛機たる幻獣機ディアボロスに騎乗し現れたのは、魔男の騎士団長マージン・アルカナである。


 ゾクっ


「!? くっ!」


 青夢はアルカナの出現と共に、言いようのない恐怖を感じる。


 いや、それは青夢だけではない。


 ゾクっ

 ゾクっ


「! く……このわたくしが、怯えているというの!」

「ま、マリアナ様!」


 前に相対して刷り込まれているためか、マリアナと法使夏も恐怖する。


 青夢も本来ならば、ここで皆に即時撤退を促したい所だが。


 如何せんここには、輸送飛行船があるために即時とは行かなさそうである。


「ふふふ……さあ幻獣機グレンデル。ここは一旦撤退しよう。」

「……え!?」


 が、アルカナの言葉に驚いたのは青夢である。

 明らかに優位なのは幻獣機の方だ。


 しかも、アルカナ本人という戦力としては頼もしい助太刀も得ているというのに。


 実際幻獣機グレンデルも、不満そうに唸るが。


「まあ、応じなくても強制撤退だ! 魔女諸君……君たちとこんな所で決着がついてしまうのは私も望む所じゃないのでね!」

「なっ……わたくしを舐めているとおっしゃって!?」

「ま、マリアナ様!」


 アルカナの余裕を湛えた笑みに、マリアナは怒り心頭となる。


 が、アルカナは笑ったまま。


「まあまあ、諸君安心したまえよ! そちらの方が、諸君もより永く楽しめるというものなんだからねえ!」

「くっ!」

「何ですの!」

「きゃあっ!」


 幻獣機ディアボロスによる羽ばたきを強める。

 それによりジャンヌダルクら三機は突風の渦に巻き込まれる。


 しかし、それもすぐに止む。


「はあはあ……どこにも、いない……」


 青夢がまた、周りを見渡せば。

 この前と同じく、アルカナは乗機ごと姿を消していた。


 無論、幻獣機グレンデルも。


 ◆◇


「……あなた、よくもまあそんなふざけた報告を上げられたものね!」

「いやあまあそりゃ、面目ないねえ。」


 その翌日。

 空賊らの雇主たる王魔女生尹乃は、電話口に空賊の長たるメアリーに怒りをぶつけていた。


「こっちもそこそこ追い詰めたんだけどねえ。そこに化け物が現れて」

「言い訳なんか聞きたくないのよ、蛮族風情が! あんたらの代わりなんて幾らでもいんだから、それを分かってないのね!」


 メアリーの返事に尹乃は、更に怒りを爆発させる。

 所詮彼女にとっては、空賊らなど捨て駒も同然である。


「まあそれは……ご尤もって奴さ。」

「ふん、もういいわあんたたち……私自ら、そっち行くから!」

「……へ?」


 メアリーは思いもよらない雇主の言葉に、一瞬耳を疑う。


 ◆◇


 そして、あの戦いの後。


「……結局、私はまた……」


 一方、法母では。

 幻獣機グレンデルによる撃墜後、例によってパラシュートで脱出し無事だったミリアがシャワーを浴びていた。


 しかし、一度ならず二度までも犯した失態にゆり打ちひしがれている。


「私は、もう」

「ミリア、隣入るね。」

「! ほ、法使夏……」


 と、そこへ。

 法使夏が、左隣のシャワースペースへと入って来た。


 ミリアはシャワーを流しっぱなしにした中で浴び続けながら項垂れており。


 法使夏のシャワーを出す音を聞いた。


「ミリア……その、今回はごめん。」

「……何が?」


 尚も項垂れてシャワーを浴びるミリアに、法使夏は声をかける。


「私がミリアを、ちゃんと守れていれば……」

「……守るって、何よ!」

「! み、ミリア……」


 が、ミリアは。

 法使夏の言葉に怒り、そのまま彼女の方を向き近くにかけていたタオルを振り回す。


 そのタオルは、丈の低い仕切の上の法使夏の肩から上を直撃する。


「私が、そんなに哀れ? そんなに、私を見下すの!? あんたなんて、たまたま私と同じになってないだけでしょうが!」

「ミリア……」

「ああ、そうよ! 私はたまたま、失態続きよ! あのソードとかいう奴さえ現れなければ……あのトラッシュさえ、しゃしゃり出て来なければ!」


 尚もタオルをピシャリ、ピシャリと振り回して法使夏を打ちながら、ミリアは泣き喚く。


「うん、ミリア……そうだよ! 私なんてたまたま落とされなかっただけ……あんたの悲しみは、私の悲しみだから!」

「! ほ、法使夏……」


 が、そんなミリアは。

 仕切を少し背伸びして越えてきた法使夏に、抱きしめられる。


「な、何よこんな」

「うん、私も悔しい……あんなトラッシュやソードとかいう元魔男に出し抜かれたことが! だからミリア……私たちは、私たちのやり方であいつらを出し抜こう! あの時の、約束通り。」

「っ!」


 ――……この心と身体も、マリアナ様に捧げましょう!


 ――ええ……私たち、二人で!


 法使夏の言葉によりミリアは、思い出す。

 そうだ、元を辿れば。


 自身の今の悔しさも、その二人の約束を果たせないことによる怒りから来るものだと。


「……法使夏。」

「! ミリア……」


 ミリアは法使夏を、抱きしめ返す。


「ごめん法使夏……今度こそ、私たち二人でマリアナ様に貢献しよう!」

「うん、ミリア!」


 ◆◇


「こちら、ジャンヌダルク。周りに不明物体なし!」

「こちら使魔原機、周りに異状なし!」

「こちら雷魔機、周りに異状なし!」

「ええ、こちらカーミラ。こちらも、周りに異状なくってよ。」


 空賊との初戦の、翌々日の朝。

 今度は海上の空を飛ぶ輸送飛行船を、青夢・法使夏・ミリア・マリアナで護衛していた。


 法母にはソードの駆るクロウリーが残っている。

 輸送飛行船は前衛をジャンヌダルク、後衛をカーミラ、右翼を法使夏機、左翼をミリア機が担当している。


「さあて……使魔原さん、今回こそは墜とされないようにね?」

「! は、はいマリアナ様!」

「ミリア……」


 通信回線を通して、マリアナはミリアに釘を刺す。

 が、ミリアは前日の、ひいては更に前からの法使夏との約束を胸に刻んで自分を律する。


 私たち、二人で――

 と、その時である。


「……セレクト、オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート! ……総員、防戦用意!」

「なっ! またトラッシュごときが」

「雷魔さん、使魔原さん! ……セレクト、スーペリアウインドディフェンス エグゼキュート!」

「……はい!! エグゼキュート!!」


 青夢の予知による言葉を、止む無くマリアナと法使夏・ミリアは受けて技を発動する。


 果たして、空からは。


「く!」

「む、この強い攻撃は何ですの!」

「きゃあっ!!」


 青夢ら四人全員が手こずるほどの威力を湛えた、砲撃が放たれる。


「あ、あれは!」

「……まあ、これはこれは。」


 青夢や法使夏が驚いたことに。

 空からは、漆黒の飛行船が。


「マイボス……あれが、あたしらの敵だよ!」

「ふうん……さあ、空賊共! あそこに生意気にも鎮座してる魔法塔華院の女を飛行船ごとやっておしまい!」

「イエス、マイボス!」


 漆黒の空賊専用飛行船―― 風隠号(ヒドゥンエアリアル)


 その船内で王魔女生尹乃は同船に乗り込んでいる空賊らに、椅子に踏ん反り返った姿勢にて命じる。

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