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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第九翔 七人の吹き手
188/193

#187 女王の真実

「ど、どうなっているんだ……?」


 剣人は尚も、戸惑う。


 本来アトランダムデッキによって、二周目が終わるまで選ばれないはずの魔術師(ザ マジシャン)が選ばれたのだから。


「ちょっとミスター方幻術! あなたの法機クロウリーが遅れていて、このままでは水流から溢れてしまいそうであってよ!」

「ん? あ……す、すまん魔法塔華院!」


 しかし剣人は徐に聞こえて来たマリアナの声にはっとする。


 いつの間にか呆けて、法機の操縦を疎かにしてしまっていたらしい。


「……そして、重ね重ねすまん! 俺は、あの蒼騎士と戦いに行く。このまま魔女木とあいつを、戦わせる訳にはいかない!」


 そうして法機を、今にも急加速しようとする剣人だが。


「お待ちになって、ミスター方幻術! わたくしたちは飛行隊、今の魔女木さんはともかくも! あなたまで単独行動を取られては堪らなくってよ!」

「だ、だが!」


 マリアナの言葉にその動きは止まる。


「……雷魔さん、水流の行き先変更であってよ! 目標、蒼の騎士さんの法機!」

「! ま、魔法塔華院……」

「! マリアナ様……は、はい承知いたしました!」


 しかしマリアナは、法使夏にそう告げ。

 法使夏も承服し、法機ルサールカを駆る。


 そのまま水流は転回し。


 幻獣頭法機(マジックノーズアーツ)ナアマの真下にあたる海域へと、突き進む。


「よし、加速しよう……魔術師(ザ マジシャン)――水流波(ハイドロストリーム) エグゼキュート!」

「! こ、これは!?」


 剣人はそうして、法機クロウリーに命じ。

 尚も戸惑いつつも、引いたならば利用させてもらうとばかり。


 タロットの魔術師(ザ マジシャン)が司る四大元素のうち水に因んだ技を発動して水流全体を加速させる。


 ◆◇


「……矢魔道さんは、どこに」

「よそ見をするとは甘いぞ、青夢!」

「む! お父さん!」


 そうして、青夢は。

 父獅堂と対峙しつつも、周りを見渡し。


 矢魔道が見当たらずに訝しんでいたが獅堂からの攻撃を、法騎に躱させる。


「お父さん! 矢魔道さんは」

「お前も質問が多いな……だがそれは!」

「! く、また!」


 しかし獅堂は、娘からの質問には答えず。

 尚も法機ヘルメス・トリスメギストスと幻獣機メフィストフェレスを、法騎ジャンヌダルクに差し向ける。


 質問があるならば、やはり戦いの後ということらしい。


「分かってるわよ…… hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark、セレクト オルレアン(ビクトリーイン)(オル)栄光誘導弾(レアンミサイル)! エグゼキュート!」

「む! なるほど……中々やるな!」


 青夢も改めて腹を決め。

 周囲に光弾幕を展開し、父の法機と幻獣機を遠ざける。


「ええ……何が何でも、聞きたいこと全部聞かせてもらうからあ!」


 ◆◇


「あらあら……随分と楽しそうに戦っているじゃないの! さあ私たちも混ぜてもらいましょうよ女王様!」


 ――ええ……そうね蒼騎士!


 そうして、ペイルは。


 青夢がいつまでもこちらに気づかない様を遠巻きに見て苛立ち。


 そのまま幻獣頭法機(マジックノーズアーツ)ナアマを加速して迫ろうとする。


「hccps://rusalka.wac/、セレクト 儚き泡バブリングパニッシュメント エグゼキュート!」

「hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 教皇(ザ ハイエロファント)――神に代わってお仕置き(ゴッズサロゲート) エグゼキュート!」

「むっ!? く、何これは!」


 ――蒼騎士、どうやら海中からのようよ!


「海中から、ですって?」


 その時。

 突如として放たれた泡水流と雷に、ペイルは海を睥睨する。


 しかし水の中の様子は、見えない。


「マリアナ様、蒼の騎士は攻撃して来ません……」

「ええ、恐らくこちらを見つけられていないのであってね……尚も忍び寄ります。」

「分かっている。」


 この様を見たマリアナらは、引き続き海中で水流を密かに動かし。


 尚もペイルに忍び寄る。


「まったく、出て来てくれないとは卑怯者ねえ! まあいいわ、ならば炙り出すまでよ!hccps://IsabeauDeBaviere.wac/、セレクト! 売買領域(テリトリーディーラー)! 王権否定トリーティーオブトロイズ! hccps://IsabeauDeBaviere.wac/GrimoreMark、セレクト 領域破棄王テリトリーブレイキング エグゼキュート!」

「ん!? ま、マリアナ様これは!」

「ひとまず出た方がよくってよ! 敵攻撃に備えつつ空中へ!」

「お、応!」

「し、承知しました!」


 が、ペイルはマリアナたちを炙り出すべく。

 周辺の広範囲海域に術を展開し、高エネルギーでもって海面を湯立たせ。


 それを察知したマリアナたちを、あっさりと引きずり出す。


「あらあら、まんまと出て来てくれたわねえ! そう、あなたたちが」

「hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ!  審判(ザ ジャッジメント)――先触れの喇叭トランペットハウリング エグゼキュート!」

「ああら! もう……少しはお喋りさせてよねえ! でもこれは……な、中々キツいわ!」


 ――そ、そうね蒼騎士……私にこんなことをするのは誰かしら……あら?


 が、ペイルが意気揚々と話す間を格好の隙と見た剣人は。


 クロウリーより、技を放ち。

 それによりペイルやナアマは苦しみつつも、マリアナたちを見る。


 ――誰かと思えば、凸凹飛行隊の皆さんじゃないの!


「ええ、ご無沙汰していてよ十魔女さんに蒼騎士さん! ご機嫌よう。」

「久しぶりね!」

「ええ……そうねえ、魔女木青夢たちだけじゃなくあんたたちにも借りがあったわねえ!」


 マリアナたちが駆る法機三機を見てペイルやナアマは、怒り心頭に発する。


 ◆◇


「くっ!?」

「さあさあどうしたんやあ魔男の騎士団さんたちい!」

「あたしらの攻撃の前には手も足も出ないってかい!?」

「ええ、きっとそうですメアリー姐様!」

「いえ、私とシュバルツでしょ!」


 ――はい、姫!


「いいえ、私たち姉妹よ!!!!」

「いや、私たちでしょ!」

「はい、レイテ様!!!」


 一方。

 ウィヨル、フィダールを欠いた四人の魔男の騎士たちは。


 元女男の騎士団にワイルドハント、龍魔力四姉妹にレイテたちと戦っていることで多勢に無勢であり劣勢を強いられる。


「ふん、貴様らごときにこれを使うとは……来い、空宙列車砲(ベリアルズフレイム)たちよ!」

「!? あ、あれは!」


 が、そこで。

 痺れを切らしたベリアルの騎士が、空宙列車砲(ベリアルズフレイム)たちを召喚する。


「元は我が幻獣機ベリアルの力だ! さあ……行け」

「hccps://vouivre.wac/、セレクト デパーチャー オブ 金剛鎌弾(アダマンティンサイズ)! エグゼキュート!」

「ぐっ!? く、退がれ!」


 しかしそこへ、多数の金剛鎌弾(アダマンティンサイズ)が飛来し。


 魔男の騎士団は、更に後退を余儀なくされる。


「じ、自衛隊の皆さん!」

「皆、お待たせ! 私のヴイヴルの力を使って自衛隊が開発してたアダマンティン艦だよ!」

「! た、確かに……今までのウィガール艦とは違うかも……」


 金剛鎌弾(アダマンティンサイズ)を放ったのは、自衛隊の新造艦たる一隻のアダマンティン艦だった。


 その傍らに術里の法機ヴイヴルと、力華の法機滝夜叉が。


「それに……どうやら援軍が来てくれたみたいよ!」

「え、援軍やて……って!」


 力華の言葉に赤音たちが、ふと周りを見るや。


「아자아자화이팅! 私たちだって!」

「是……この日本で、魔男たちを!」

「Oui! やってしまえば!」

「Yeah! 私たちの国にまで!」

「Yes、攻められなくて済むわ!」

「あれは……各国の機体!?」


 法機西王母に九尾狐、シルフにエインガナにアンドロメダ――中韓米豪欧の機体までも、駆けつけていた。


「おやおや……まさか、名実共に全ての魔女がここに集結するなんていいわね!」

「ええ、いいわね……私が呼んだのよ! ここでもう永くない者同士の戦いとしてはいい立会人たちよ!」


 これを受けてアリアドネとアラクネも、尚も互いに苦しみつつ。


 軽口を叩き合う。


「こらあすごいな……ん? あれは何や……うっ!?」

「! き、騎士団長?」

「騎士団長、どうしたんですか!」


 赤音が尚も戦場を見回していると、ふと()()が目に止まり。


 そのまま赤音は、みるみる苦しみ始める。

 赤音が乗機たる法機マルタの窓越しに見たもの。


 それは――


 ◆◇


「さあどうするおつもりであって? 多勢に無勢だけれど。」

「ふん、舐めないでちょうだい!」


 ――そうよ、私たちには……なっ!?


「!? ど、どうしたの女王様!」


 一方、ペイルとナアマ対マリアナ・法使夏・剣人の戦場では。


 マリアナの言葉に啖呵を切るペイルだが。

 ナアマは視線を感じてその方向を見るや、異常をきたす。


 その方向は、赤音の方向である。

 そう、先述の赤音の視線の先にはペイル――正確には、ナアマがおり。


 見合った二人は、何故か同時に支障をきたしてしまったのだ。


「ま、マリアナ様!」

「ええ、これはどういう」

「何でもいい、今がチャンスだ!hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 魔術師(ザ マジシャン)――驚天動地(ランドサプライズド) エグゼキュート! ……ぐっ!」

「!? み、ミスター方幻術!?」


 が、それを見た剣人がクロウリーに命じて技を放とうとするもすぐに不発となり。


 何故か剣人も、苦しみ出したのだ。


 ◆◇


「ぐっ……きゃああああ!」

「!? ド、ドウシタノダアリアタン!?」


 苦しみ出したのは幻獣機タランチュラ騎乗の、アリアドネもだった。


 しかし、かと思えば。


「……とうとう、この時が来たのね。……さあ、赤音にメアリーにミリア! そして皆! 今こそ、全てを明かす時よ!」

「!? ア、アリアタン!?」

「! え? ど、どうなってんだい!?」

「あ、アラクネさんと姫君が……同じ声で同じことを……ぐっ!?」

「きゃあ!!!」

「え……な、あ、アラクネさん!?」


 そのアリアドネとアラクネは何と、ステレオ発声とも言える方法で声を発し――すなわち、同じ声でまったく同じタイミングで同じ内容を言い。


 かと思えば次の瞬間、どちらも眩く光り輝き。


「さあ……これが私の正体よ!」

「だ、ダークウェブの姫君の中から……」

「あ、アラクネさん……!?」


 アラクネはそのまま姿を消し。

 かと思えば、アリアドネの胸からもう一度姿を現した。


「!? ま、待てフィダール! あれを!」

「あ、あれは!」

「あれは……なるほど。」

「な、何あれ!」


 今や東京湾の魔女も魔男も、皆が戦闘を中断してこの光景に見入っており。


 皆一様に驚く。

 まさか。


「そうよ、私はアラクネにしてアリアドネ! アリアドネは私と逆(女王ではなく王女)でありながら同じ者(同一人物)、私をせき止める(バックアップする)者よ!」

「そ、そん……な……」


 そう、アリアドネはアラクネだったのだ。


「とうとう来たか、この時が……」

「ふっ、清々した。……これであの忌まわしい女王陛下との契約は切れます父さん。ようやく……」


 皆が驚く中、落ち着き払っているのは獅堂と盟次だった。


 そう、彼らは知っていたか知らされてしまっていたからだ。


 特に、魔女木獅堂は――


 魔女木、獅堂――


 ……魔女木獅堂。これは、ほんのお礼だ!

 今まで幾度となく"私"の邪魔をしてくれた、な!


「!? ぐっ! こ、これは……"お前"、か……」

「!? お父さん!」


 ……ん? 何だ、今何か変だった。

 まあいい、ともかく。


 獅堂は突如として、乗機ごと落雷に撃たれ。

 そのままゆっくりと、墜落して行く。


「お父さん!」

「私は大丈夫だ青夢! それより……気をつけろ!」

「え……?」

「ぐっ!? な、何だ今のは? お、俺が魔女木獅堂を……じ、術句もなしに雷で!?」


 獅堂が青夢を制しつつ墜落して行く中。

 剣人は尚も頭痛に苦しめられつつも戸惑う。


 信じられないが、先ほど獅堂を撃った雷は自分によるものだという自覚があった。


「こ、これは……そうか! 俺は……いや。」……"私"は。


 しかし剣人は突然、悟ったように話し始める。


 いや、他人事ではない。


 そう、剣人は――"私"、なのだから。

 四大要素の各々、14のカテゴリーが揃い。


 "私"は、こうして目覚めることができたのだ。


「!? こ、この声は? え、方幻術、よね……?」


 おや、"私"の言葉に、あの忌まわしき獅堂の娘・青夢は首を傾げている。


 そうだ、この娘には教えてやらないとな。


 今、ここに四大要素たる魔女の杖に魔男の剣に電使の護符に通神の聖杯。


 それらの各14のカテゴリーが出揃ったということを。


 魔法塔華院コンツェルン擁する凸凹飛行隊の法機たち。


 王魔女生グループ擁する法機へカテー。


 龍魔力財団擁する、龍魔力四姉妹の法機グライアイに法機スフィンクス。


 呪法院エレクトロニクス擁する法機モーガン・ル・フェイ。


 中国擁する法機西王母。


 オーストラリア擁する法機エインガナ。


 自衛隊擁する法機滝夜叉。


 韓国擁する法機九尾狐。


 アメリカ擁する法機シルフ。


 ヨーロッパ擁する法機アンドロメダ。


 元女男の騎士団擁する法機キルケ・メーデイアと自衛官白魔術里ヴイヴル――幻獣頭法機(マジックノーズアーツ)ゴグマゴグ。


 マージン・アルカナ――元魔男たる飯綱法盟次擁する法機パンドラに法機ヘル。


 アラクネ子飼いの魔女辺赤音擁する法機マルタ。


 そして獅堂擁する法機パラケルスス、ヘルメス・トリスメギストス、マリア。


 これで魔女の杖――空飛ぶ法機(ウィッチエアクラフト)は全14のカテゴリーが揃った。


 そうして魔男の12騎士団に加え、蜘蛛男の騎士王に真の女王。


 これで魔男の剣――幻獣機(エイドローン)も全14のカテゴリーが揃った。


 そうして電使衛星マジカルコンステレーションは。


 既に打ち上げられていた黄道十二星座を司る電使衛星マジカルコンステレーションに加え、蛇遣い座を司る第一電使の玉座(スローンズ)


 更に、それら十三星座の力を与えられた第二電使の玉座(スローンズ)


 これで電使の護符――電使衛星マジカルコンステレーションも全14のカテゴリーが揃った。


 そうして聖血の杯(ブラッドサーバ)は。


 既にあるオリュンポス12神とハデスを司る13の杯に加え、ペルセポネを司る聖杯も先ほど完成した。


 これで通神の聖杯――聖血の杯(ブラッドサーバ)も全14のカテゴリーが揃った。


 そうして小アルカナにあたる四大要素各14カテゴリーが揃ったことにより、方幻術剣人という人間として転生させられていた"私"は、今こうして目覚められたのだ。


「ほ、方幻術、なの……? 私、何がなんだか……」


 まだ青夢は、首を傾げている。


「……ああ、結局はお目覚めか。そうだな、とうとう来てしまったなこの時が……」

「! お、お父さん……?」


 おや、娘だけでなく獅堂ご本人も話に入って来たな。

 どうやら、墜落しても無事だったようだ。


「そうだ、"お前"は……私が建てた、"バベルの塔"だ!」

「え……ば、バベルの塔ですって!? ま、まさか!」


 青夢が何やら、考えを巡らしているが。

 ああなるほど、獅堂が書いたあの文章を思い出しているのだな。


 私は"バベルの塔"を、神のお怒りを買わぬやり方で建てたつもりだった。

 実際、建てている最中に神の罰は受けなかった。

 だが、それは勘違いであることに気づくべきだった。

 何故なら神罰は、その"バベルの塔"が完成することそのものだったからだ――


 そう、この文章を。


「ええ……私たちが戦って来た、運命そのものよ!」


 おや、偽の女王たるアラクネも何か言っている。


 いいだろう、これからは全ての人間を"私"自ら筋書き(スクリプト)における結末へと誘おう。


 心してかかるがよい魔女も魔男も。

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