#186 第七の喇叭
「く……い、いよいよ吹き鳴らされたのであってね!」
「ええ……さあ、行くわよ!」
「言われなくたって!」
「ああ、魔女木!」
東京湾に現れた、蜘蛛男の騎士王直衛騎士団に魔男の騎士団に。
凸凹飛行隊の機体四機が、迎撃に現れる。
「あらあら、あなたたちがお出迎えなのね……」
「お下がりください姫君!」
「ここはあなた様や王御自ら出られるまでもなく。我らで事足ります!」
「あら頼もしいわ……さあ、お行きなさい!」
「はい!!」
前に出るは幻獣機ヴァサゴ騎乗のウィヨルと、幻獣機アガレス騎乗のフィダールである。
「あらあなたたちは、飯綱法さんの腰巾着さん方!」
「ふん、誰たちが誰の腰巾着か! あんな裏切り者など、我ら王の命の元葬り去る! まずは……貴様らからだ!」
マリアナの言葉に、ウィヨルはあからさまに不愉快な顔をする。
「それにしても……いくら私たちが、日本列島の全方位から攻めて来る可能性があると言っても! これは中々に寂しいお出迎えね……」
「誰が、寂しいお出迎えですって!?」
「? あら……これは!」
「ムウ……メザワリナハムシドモガ、ブンブント!」
アリアドネがポツリと呟いたその言葉に。
反応するかのごとく飛び出して来たのは。
「さあ行きましょう!」
「応、姉貴!」
「はい、お姉様!」
「うん、お姉さん!」
「さあ行かなくてはね……私の騎士!」
――はい、姫!
「さあさあ……魔法塔華院や龍魔力だけに手柄をやってはダメよ!」
「はい、レイテ様!!!」
龍魔力四姉妹のギリシアンスフィンクス艦及び、同艦を周回する法機グライアイ三機。
更に尹乃とシュバルツ率いるワイルドハントに、レイテの法機モーガン・ル・フェイ及びその支配下の通常法機たち四機だった。
「俺も忘れるなよ……裏切り者とはご挨拶だなあ!」
「! ふん……まあ来るとは思っていましたよ元騎士団長!」
ウィヨルはまたもやあからさまに、不愉快な顔をする。
「あらあら、寂しいと思ったらこれは中々賑やかじゃない! ですよねえ、私の王?」
「ウ、ウウム……ワレニハ、ジャマナ、ハムシドモダガ……アリアタンガソウイウナラバ、ソウダナ。」
「あら、ありがとうございます私の王!」
アリアドネは魔女たちが、全てではないものの総出とも言えるほどには集まっているこの状況に歓喜する。
そう、魔女たちの作戦として。
懸念事項である東京湾の一点突破阻止か、日本各所への戦力分散による多数箇所防衛かのうち。
一点突破阻止に、賭けたのだった。
「あたしらも、忘れてもろたら!」
「ああ困るよねえ! 騎士団長にミリア!」
「はい、メアリー姐様!」
「あら……あなたたちもいる、ということは!」
「ウウム……イカリガ、キワメテオオキナイカリガ、ワレヲツツンデイルゾ!」
そこへ更に現れた、赤音以下元女男の騎士団たち。
彼女たちが駆る、法機キルケ・メーデイアに法機マルタ。
それを見たアリアドネもタランチュラも、ある予兆を感じ取る。
そしてその予兆通り、それは現れる。
「ええ……お久しぶりね、ダークウェブの王様に姫君!」
「やはり、あなたなのねえ女王様!」
「ウウム……イマイマシサノ、キワミタルジョオウメ!」
「あ、アラクネさん!」
眩き光と共に、アラクネが姿を現したのである。
◆◇
「姫君、王! より後ろへとお下がりください。あの女王は、我らが!」
ウィヨル、フィダール以下新たな魔男の騎士団は、タランチュラとアリアドネの前をより密集するような形態で守る。
「あらあら、随分と手懐けられているじゃないこの騎士たちは!」
アラクネは微笑みつつ、アリアドネとタランチュラに目を向けている。
「ええ、私たちの忠実な僕よ……でもあなたたち、今はいいわ! 心配しなくても、私と私の王の力の前にあんな女王など無力よ!」
「アア……ソノトオリダ! ダレデアロウト、ワレトアリアタンノヒトトキニ、ジャマハサセン!」
「!? く、こ、これって!」
「皆下がって! hccps://arachne.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 王獣の守護 エグゼキュート!」
しかしアリアドネとタランチュラも、負けじとしてか。
アリアドネは啖呵を切り、更にタランチュラの放った言葉は。
以前にも増して甲殻の擦り合う雑音を伴う音として伝わるのみならず。
第六の喇叭による、シャルル以下馬男の騎士団が放った衝撃波のごとく――但し、威力は段違いである――広範囲に炸裂し爆発を無数に生み出して行く。
「あ、アラクネさん!」
「大丈夫よ……うっ!」
「! アラクネさん!」
アラクネはそれらを、市街地や魔女に自衛隊にまで及ばないよう防いでくれたが。
アラクネは何やら、少し苦しんでいる。
いや、アラクネだけではなかった。
「くっ……!」
「! ア、アリアタン!」
「だ、大丈夫ですわ私の王……」
アリアドネも、何やら苦しみ出し。
それに動揺したタランチュラは、技を中止してしまう。
「! 攻撃が」
「……今よ、魔女の皆さん! 私があの王と姫君を止めるから、あなた方は魔男の騎士団を! ……白騎士ヴァイスを、赤騎士レッドラムをお願い!」
「あ、アラクネさん……で、でも!」
「く、あなたには指図されたくなくってよ!」
アラクネはそれを好機とばかり、防御を中止し。
青夢たちへの話もそこそこに、そのまま全速力で空を駆け始める。
「姫君!」
「……ウィヨル、フィダール! あなたたちに私たちと女王の戦いに出る幕はないと言ったでしょう? 行きましょう私の王……あなたたちは雑兵たる、魔女たちを片付けなさい!」
「アア……ソレガアリアタンノ、ノゾミナラバ!」
アリアドネも、心配するウィヨルたちを制し。
そのまま自分も、タランチュラを急かし。
応じたタランチュラの急加速でもって、アラクネに肉薄して行く。
「アラクネさん、そんな……」
「……っしゃあ! 他ならぬあたしらが女王陛下のお言葉やで、こらあ聞かんとあかんわなあ!」
「ああ、その通りさ騎士団長!」
「はい!」
「! 魔女辺赤音……」
青夢や他の魔女たちも戸惑う中。
赤音は魔女たちを鼓舞し、それぞれの乗機を動かす。
「ああ、女王陛下は……アラクネ姐様はあたしらに、戦いが終わたら全部話してくれるや言ってくれたんや! だから……それまであたしらは生きてなあかん!」
「ああ、その通りさ!」
「法使夏、あんたそんな躊躇ってると死んじゃうよ!」
「ま、魔女辺赤音……」
「ミリア……」
法機を急加速させてこちらは魔男の騎士団に肉薄しながら。
赤音ら元女男の騎士団は、この場の魔女全員に告げる。
「よし……俺も行かねばな!」
「! 飯綱法盟次!」
盟次もそれに便乗する形で。
法機パンドラを駆り、こちらも急加速を始める。
「もはや俺には他に何もないが、父だけはいる! だから父までも俺から取り上げようとするアラクネ女王陛下の命令通りそして俺の心が告げる通り! 最後まで戦うまでだ……」
「飯綱法……」
盟次はそのまま、魔男の騎士団へと肉薄して行く。
「……わたくしたちも行きましょう、あんな人たちに遅れはとりたくないでしょう!」
「お、お待ち下さいマリアナ様!」
「待て魔法塔華院!」
「……そうね。私は行くわ、全てを救うために!」
青夢以下凸凹飛行隊も俄然活気付き。
急加速して行く。
「シュバルツ、行きましょう……どこまでも!」
――はっ、姫! 私は何があろうとも、あなたと共に!
「ありがとうシュバルツ……」
尹乃もシュバルツと共に。
ワイルドハントを駆り、前進する。
「私たちも行くわよ、妹たち!」
「応!!!」
「あんな人たちに抜け駆けさせる訳にはいかないわ、行くわよジニーに雷破に武錬!」
「はい、レイテ様!!!」
龍魔力四姉妹もレイテたちも乗機に座乗艦を前進させて敵に向かって行く。
◆◇
「姫君や王には指一本触れさせませんよ……元騎士団長!」
「ええ、この身呈しても引き止めさせていただきます!」
「ああ、かつての我が両翼の近衛騎士たちよ……今はもはや、邪魔臭い存在でしかないがなあ!」
法機パンドラと、幻獣機ヴァサゴにアガレスは対峙する。
かつての魔男の騎士団上層部同士の戦いである。
「さあ行かせていただきます……フィダール!」
「ああ、ウィヨル! ……fcp> get AssemblingScissors.hcml――セレクト、アセンブリングシザース エグゼキュート!」
「むう! なるほど、さすがは両翼の近衛騎士だったなだけはある!」
ウィヨルとフィダールは、互いの乗機を法機パンドラへと接近させ。
そのまま挟み込み、両機から電磁波を流して動きを止める。
「さあこのまま……潰して差し上げましょう!」
「舐めてもらっては困るな……父の前で恥をかく訳には行かない! hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印 エグゼキュート!」
「!? く、これは!」
「退くぞ!」
しかし。
そこで盟次は法機パンドラの力を発動し。
ウィヨルとフィダールを、取り込もうとするが彼らは間合いを取る。
「ふうむ、二対一では少々分が悪いな…… hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 地獄双犬の遠吠え エグゼキュート!」
「む!」
「くっ、小癪な!」
盟次は更に手を打ち。
法機パンドラ周囲の二箇所より、火線でウィヨル及びフィダールを攻撃する。
「どうしたウィヨル、フィダール! 俺から代わった騎士団長の椅子に胡座をかく間に手足が鈍ったか!」
「ふん、威勢だけはよくて結構です!」
「が、我らは煽られて怒るという刷り込みがありませんから無意味ですよ!」
言葉とは裏腹に。
盟次の挑発に乗る形で、彼の法機へ向かって行く。
◆◇
「お父さん……」
「青夢。大きくなったな……」
そして、青夢は。
幻獣頭法機黙示録の仔羊を駆る父獅堂と、対峙する。
「聞かせてもらうから……何でこんなことしてるのか!」
「ああ、私を倒した後なら教えてやる……できればの話だがな! hccps://HermesTrismegistus.wac/、セレクト! 碧玉一閃 エグゼキュート!」
「!? くっ、他にも法機が!?」
しかし獅堂も。
所有する三機の法機が一つ、ヘルメス・トリスメギストスを差し向けてきた。
更に、それだけではなく。
「がああ!」
「!? こっちからも敵が! これは……げ、幻獣機ドラゴン!?」
別の方向からは何と、竜の如き幻獣機メフィストフェレスがやって来た。
「さあ青夢、法機のままで私と戦おうなどといい度胸だな!」
「む……ええ、そうね! なら!」
青夢は父の言葉に、このままでは分が悪いと。
法機ジャンヌダルクを法騎へと、変化させる。
「お父さん……私、諦めないから! 全てを救うことも、お父さんから訳を聞くことも!」
「ああ……来い! 我が愛する娘よ!」
法騎ジャンヌダルクを青夢は、そのまま気持ちのままに父へとぶつけに行く。
◆◇
「マリアナ様! 間もなく、敵軍下部です!」
「ええ、雷魔さん……」
「魔女木……」
一方、マリアナたちは。
法使夏の法機ルサールカが生む水流の中を乗機で進み。
尚もアリアドネ及びタランチュラと、アラクネが戦う場を囲み守る魔男の騎士団へと迫っていた。
が、その時だった。
「! マリアナ様、何か空に光が……っ!? あ、あれって!」
「! な!?」
突如として、戦場の隅でひっそりと発光現象が起こり。
一機の法機が現れる。
「久しぶりね……魔女木青夢!」
「あれは……ペイル・ブルーメ!」
それは遠目に青夢の姿を見つけて微笑んでいる。
専用の法機を駆る、蒼の騎士ペイル・ブルーメである。
「さあ行くわよ女王様……いいえ、ナアマ!」
――ええ蒼騎士……さあ、行くわ!
そのままペイルは空飛ぶ法機イザボー・ド・バヴィエール――もとい、幻獣頭法機ナアマに呼びかける。
「くっ……邪魔をさせるか! hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 魔術師……な、何!?」
剣人は、実父と対峙している青夢の元へペイルが向かうことを察し。
水流を飛び出そうと術句を唱え始めて驚く。
「馬鹿な……アトランダムデッキは一周につき大アルカナそれぞれ一つずつしか出て来ないんだぞ! 今は二周目で、既に魔術師は出ているはずだ……何故?」
剣人は、戸惑うばかりだった。




