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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第九翔 七人の吹き手
186/193

#185 喇叭吹き荒れる嵐の前の静けさ

「ダークウェブの、王か……」

「お、お父さん……」


 突如として現れたアリアドネに幻獣機タランチュラ、更に白の騎士ヴァイスに、魔男は跪き魔女は恐れおののく。


「カエスガエスモ、イマワシクオゾマシキマジョドモ! モハヤヒトイキニ、コノバデ……」

「な!」

「ダークウェブの、王! お久しぶりですね!」


 幻獣機タランチュラは、凶悪にも鋭い爪を思わせる脚を広げながら言う。


 それに対し、魔女たちは身構える。

 その中でも盟次は、かつて見せていた忠誠からは想像できないほどに躊躇いなき臨戦体勢だ。


「まあお待ちください、私の王! ……魔女社会の皆さん。既に、七人の吹き手のうち六人が喇叭を吹き鳴らしました! しかし七人目の喇叭は、もう少し――ひと月、待つこととします。」

「ひ、ひと月……!?」


 しかし、タランチュラ騎乗のアリアドネの言葉に魔女たちは拍子抜けする。


 猶予を、与えるということか。


「……よろしいですね、私の王?」

「……ウム、アリアタンガソウイウナラバ。」

「ありがとうございます……蝙蝠男・龍男・巨男に牛男の騎士団! 総員撤退を。もはやあなた方に出ていただく幕はありません!」

「はっ、申し訳ございませんダークウェブの姫君、王よ!」


 アリアドネはタランチュラを宥め。

 更に騎士団長を叱責し、騎士団長たちも素直に応じる。


 前の騎士団長たちであれば、食い下がったであろうこの状況であっても。


 新たな騎士団長たちはよくも悪くも忠実に退がることにしたのだった。


「……魔女木さんにアルカナ騎士団長。決着はまたの機会に、では!」

「ま、待ってください矢魔道さん!」

「待て魔女木! 追うな……ぐっ!」


 アリアドネがそう告げるや。

 偽の争奪聖杯の時と同じく、彼女は右掌より蜘蛛の巣状に展開される光線を放つ。


 この光線は、彼女たちの姿が映し出されている場所全てで炸裂し。


 魔女たちがそれに怯んでいる間に。

 各騎士団長たちは、撤退して行くのだった。


 ◆◇


「まったく、法機戦艦を使い潰すとは……中々やってくれたものねマリアナさん!」

「は、はい申し訳ございませんお母様!」


 第六の喇叭が吹き鳴らされた後の魔男一時撤退より数日後、魔法塔華院コンツェルンの社長室にて。


 マリアナは母より、叱責を受けていた。


「し、社長! お、お言葉ですがその……マリアナ様は、私たちを助けようとしてくれたのです!」

「雷魔さん……」


 法使夏はそれに対し、恐る恐るマリアナ母に言う。


「ええ、それは分かっているわ私も。でも、あなたがこんな作戦を取るなんて。誰かに触発されたのかしら?」

「! お、お母様! そ、そんな魔女木さんに触発など……さ、される訳がありません!」

「ん? あら、魔女木さんに触発されたのね。なるほど、確かに」

「い、いえお母様! わ、わたくしはそんな!」


 マリアナは珍しく、タジタジとなっており。

 法使夏は少し、笑いを堪える。


 しかし、マリアナ母はふと真顔になり。


「さあて……私は記者会見がある身ですから一旦失礼します。私が戻って来るまでに、方幻術さんと魔女木さんをここに集めておくようお願いしますよ。」

「はい、お母様!」


 マリアナ母はいそいそと、社長室を出て行く。


 獅堂がダークウェブの姫君やタランチュラと共に、姿を全世界に晒したことにより。


 当然ながら全世界のマスコミが、大騒ぎになっているのだ。


「……まったく! こんな時にミスター方幻術に魔女木さんはどこにいるのであって!?」

「ほ、方幻術はこの屋上に……ま、魔女木は友達のお見送りなどで寮の方に。」

「……まったく!」


 マリアナは法使夏からの言葉に、呆れた気分になる。

 この非常時だというのに。



 ◆◇


「じゃあね、真白に黒日。」

「うん……何かこのパターンもういつも通りになってるね!」

「う、うんそうね……」


 翻って、寮では。

 アリアドネの宣言を受けて生徒たちが、実家に避難し始めており。


 真白と黒日も同様だったので、青夢は見送りに来ていたのであった。


「前にも言ったけど……私はあなたたち二人に長生きしてほしいから。だから、元気でね。」

「はあ、青夢! そうだよ、それ前にも言った! んで私たちも言ったよ、別れの挨拶みたいだって!」

「……ごめん。」


 青夢の言葉に真白は、敢えてか無意識かは分からないが必要以上と言えるほどに元気に言葉を返している。


 対する黒日は、真白とは対照的にテンションが低い。

 何かを感じてかもしれない。


「……でもさ青夢! 前それ言った時には残念ながら今生の別れにはならなかったでしょ? だったらさあ、今回もならないんじゃない?」

「! ま、魔導香!」


 しかし真白のこの言葉に、青夢ははっとする。

 真白も、何か察するものはあったかもしれない。


 が、それを表に出さないように敢えて明るく振る舞っているのかもしれない。


「あ、間違えた真白!」

「いや間違えてないやろ! ……ふふん、いつもの青夢じゃん!」

「そうだね……青夢! 何があるのか分からないけど……お父さんのことなら大丈夫だよ! 何か事情があるんだって!」

「! い、井使魔……」


 黒日も、敢えて獅堂のことに触れて青夢を励ます。


「あ、間違えた黒日!」

「いや何でよ! 間違えようがないでしょ!」

「まあまあ、真白と間違えられるよりいいでしょ?」

「いや青夢ちゃん、何を間違えるってえ?」

「い、いやそんな意味じゃ!」


 それにより、ようやく三人はいつも通り軽口を叩き合う雰囲気に戻った。


「……じゃあね、真白に黒日!」

「またね、でしょ青夢! 私たちは死なないっつーの!」

「そうそう! またね、青夢!」

「……うん。またね!」


 青夢は寮入り口から、二人を見送りつつ。

 そっと涙を拭う。


「……今泣いてる場合じゃないっつーの私! ……さて。」


 青夢はそうして、寮の中に戻って行く。

 その目的は。


「あら、青夢ちゃん! 元気してる〜?」

「……お母さん。」


 母との、いわゆるリモート面会だった。


 いつぞやの青夢の母・魔女木(あい)

 獅堂とはもともと研究室の師弟関係にあり、卒業直後に結婚している。


 よって青夢ほどの歳の娘をもつ母としては、良くも悪くも身も心も若い。


「えっと、お母さん……その、もう知ってると思うけど……」

「ああ、お父さんのこと? うん、マスコミの取材がたくさん来るだろうから実家に避難して来ちゃってる!」

「……え?」


 今回は、良い意味で藍は身も心も若かった。


 さして気に病んだ素振りも見せず、あっけらかんと彼女はそう言ったのである。


「で、でもお母さん! だってお父さんは」

「青夢ちゃん。今は、素直に生きていてくれたことを喜びましょう! どんな形であれ、生きていてくれればそれだけで儲け物よ!」

「お、お母さん……」


 青夢が尚も続けようとしても。

 藍はその先を知ってか、敢えて言葉を遮る。


 見ようによっては、現実逃避にも見える姿勢。

 しかし今の青夢にとっては。


「……うん! そうだね、本当に死んでたら話もできないけど。生きててくれたら話も聞けるし、儲け物だよね!」

「そっ! そういうことよ!」


 一抹の、救いであった。


 ◆◇


「くっ……何なんだこれは……?」


 一方、魔法塔華院コンツェルン本社屋上にいる剣人は。


 相変わらず、自分にないはずの記憶が湧き出して来ることに思い悩んでいた。


「……まあ、何でもいい! 俺は魔女木の元で、あのダークウェブの王たちと戦うと決めた! その心に、迷いはない!」


 ――……果た、す……大局的辻褄合わせとして、救済を……


「!? くっ、こ、この声は!?」


 しかし剣人が、ようやく意を決した時だった。

 突如としてそんな声が聞こえて来たのだ。


「……こんな所で、こんな時に何をしているのであって?」

「! ま、魔法塔華院に雷魔……」


 と、そこへ。

 今度はマリアナの声が聞こえて振り返れば。


 そこには、怒り仁王立ちするマリアナと側につく法使夏の姿が。


「……魔女木さんも先ほど着いて、あなただけ待っていた所であってよ。早くして!」

「……ああ、すまない。」


 剣人は平謝りしつつ、屋内に入って行く。


 ◆◇


「姐様。そろそろ教えてもらいたいねんけどな。」


 ダークウェブの最深部にて。

 アラクネと赤音、メアリーにミリアがここにいて。


 赤音ら元女男の騎士団メンバーは珍しく、アラクネに詰めよっていた。


「あのアルカナさんには話せて、あたしらに話せんてどゆことなん?」

「ああそうだねえアラクネ姐様! あたしらも知らないと、あの魔法塔華院のお嬢みたくあんたを信じられなくなるよ!」

「アラクネさん、話してください!」


 三人は、アラクネに更に詰め寄る。


「……ごめん、赤音にメアリー、ミリア。必ず話す。でもそれは……第七の喇叭が吹き鳴らされて起こる戦いが終わった後にして。」

「! あんた、やっぱ!」

「まあ待つんや、メアリーさんにミリア!」

「! 騎士団長……」


 が、そこで。


 赤音が、メアリーにミリアを制す。


「……分かったわ、アラクネ姐様。必ず、あたしらに戦い終わたら話してや!」

「ええ……約束するわ、赤音たち!」


 アラクネはにこりと笑う。


 ◆◇


「やはり、七つの人影に動きはありませんね……」

「ええ、あのダークウェブの姫君の言った通り……」

「ああ、そうだな……」


 東京湾に引き続き展開されている自衛艦隊は。


 尚も上空に浮かび続けているローブを纏った七人の電使たちを見上げている。


 うち六人は、喇叭を咥えたまま静止しているが。

 七人目はまだ、俯き立ったままである。


「各国もアラクネさんのおかげで、強力な法機を手にして。軍との連携で、厳戒態勢を敷くみたいです!」


 術里は、嬉しそうに言う。


「ああ、魔法塔華院はあの人にひたすら苦言を呈したいといった雰囲気だったが……私もあのアラクネさんとやらには苦言を呈したいな。」

「! き、教官?」


 しかしそこで。

 巫術山は、ぽつりと呟く。


「このままあのダークウェブの王や姫君との戦いが終わったとしても、今は世界各国に強力な法機群が渡っている。新たな戦いの火種となり得る可能性はあるぞ……」

「そ、そう言えば……」

「……」


 この言葉に力華も術里も、押し黙る。

 確かに、各国に強力な法機が渡るとはそういうことである。


「いい……私たちは引き続き、見張りを続けるぞ! あの王も姫君も律儀ではない可能性があるからな……」

「はい!!」


 しかし巫術山は気を取り直し。

 力華も術里もその言葉に、敬礼する。


 ◆◇


「いよいよか……もはや全てを知る者として、この先を見届ける意味があるのだろうか……」


 そうして、盟次も。

 飯綱法の屋敷から、空を見上げていた。


「……うう、がるる……」

「! 父さん……はい、そうですね。せめて、見届けねば!」


 その時。


 法機パンドラの構成機たる幻獣機ディアボロスより伝わる総佐の意思に、盟次は驚き応える。


 ◆◇


「さあ私の王よ、ウィヨル騎士団長! 遂にこの時が来ましたね……七人目の電使よ! さあ吹き鳴らしなさい!

「こ、この音は!」

「ま、また喇叭の……」


 そうして、ひと月後。


 七人目のローブを纏った巨大な人影が喇叭を取り出し顔を上げて吹き鳴らした音が再び聞こえて来る。


 それと共に。


 東京湾上空に幻獣機タランチュラ騎乗のアリアドネに、幻獣頭法機黙示録の仔羊座乗の騎士ヴァイス。


 更にウィヨル、フィダール以下専用の幻獣機騎乗の騎士たち六人。


 そして蜘蛛男の騎士王直衛騎士団配下の幻獣機たちが、多数現れる。


「さあ魔女たち……始めましょう! この筋書き(スクリプト)の、最終章を!」


 アリアドネはタランチュラの背部より戦場を俯瞰し、高らかに叫ぶ。


 かくして、決戦は始まれり。

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