#183 第六の喇叭と赤い騎士
「こ、これは! また喇叭が……? く、相変わらず耳障りであってよね!」
マリアナは新たに聞こえて来た第六の喇叭の音に、耳を塞ぐ。
地上の幻獣機アバドンを倒し。
更に宇宙でも青夢たちの活躍により闇を撒き散らしていた鳥男・狼男が共倒れしたことにより少しずつ闇が晴れつつあった時にまたこの二の矢である。
「!? さ、先ほどまでの母艦型幻獣機の爆煙の中で何か動くものが!」
「な、何ですって?」
二の矢に続けとばかりに三の矢と、まさに矢継ぎ早に事態は転がって行く。
「ああ、随分なご挨拶だな民たちよ! まあ苦しゅうない、鎮まれ!」
新たなる馬男の騎士団長シャルル・ヴィクトリュークス。
その声が響き渡るや否やなんと、幻獣機アバドンの爆発の中から。
幻獣機たちが無数に、飛び出して来たのである。
「あ、あれは……う、馬型の幻獣機……?」
マリアナや法使夏たちはその幻獣機たちを見て驚く。
それは確かに、一見すれば馬そのものである姿だが。
その顔は馬というより、獅子のごとくだった。
「……今に貴様たちは、我らが王の前に跪くこととなろう!」
「……ひざま、ずくですって?」
「ま、マリアナ様!」
しかし、シャルルのその言葉に。
マリアナは眉根を寄せる。
◆◇
「! 西王母の魔女씨、これって!」
「是……これは!」
「Yeah……これって!?」
朝鮮半島方面でもオーストラリア方面でも。
一度は停止していた龍男・蝙蝠男それぞれの騎士団による父艦が動き出す。
なんとその周囲に展開されていた幻獣機アバドンズローカスト一体一体の背中が、ガバリと裂け開いた。
かと思えば、中から。
東京湾方面でも見られたような獅子頭の馬型幻獣機が出て来たのである。
「おお……これは!」
「な、何が起きたんだ!?」
驚いていたのは陽玄や鬼苺、更にミシェルだが。
魔女たちだけではなく、ベリットやレイブンたちも驚いていた。
「これからは馬男の騎士団が当たる……諸君らは馬男の騎士団を支えよとのダークウェブの王や姫君からのご命令だ。」
「! あ、アベル殿か……」
そこに響いたのは、新たな牛男の騎士団長にしてカイン・レッドラム――矢魔道士の弟たるアベル・レッドラムの声である。
◆◇
「矢魔道さんに、シャルル陛下……」
翻って、宇宙では。
目の前に赤い騎士――幻獣頭法機レッドサーペントを駆る騎士カイン・レッドラムもとい、矢魔道士がいるという状況に。
青夢は驚く。
「わ、私にはまだ信じられません! 矢魔道さんが魔男だなんて!」
「ああ、魔女木さんには余計な心労をおかけしたね……改めてよろしく、僕の名前はカイン・レッドラム!」
「や、矢魔道さん……」
しかし矢魔道は事も無げににこやかに返す。
「おやおや、久しぶりだなあレッドラム! 私の期待を裏切ってくれた騎士よ!」
「アルカナ殿、いや飯綱法盟次さんだったね? ……悪いが、僕は元からあなたなんかの期待に応えようとしていた訳じゃない! だからその言葉は、あまりピンと来ないかな。」
「……何い?」
そうして、盟次も。
「な……飯綱法、あんた矢魔道さんのことを前から!?」
「ああ、言っておくが。奴がカイン・レッドラムだと知ったのはあの女王陛下に知らされてからさ! だが……前に言っただろう。11騎士団を抱えなくてはならなくなったのは、ある事件がきっかけだったと。」
「え、ええ……」
盟次の言葉に、青夢はそんなこともあったことを思い出す。
あれは確か、偽の争奪聖杯の時だったか。
―― 元々この円卓は我が王のもの。あとは私だけがお仕えすればよいものを……ある事件により、他の連中も抱えねばならなくなったのだ!
「ああ、そうだよ。魔女木さんたちがいる前でその話はしたくなかったが……僕はそこの飯綱法盟次さんがマージン・アルカナだった時に人工知能VIによる機械兵として生み出された。弟としての存在たるアベル・レッドラムと共にね!」
「や、矢魔道さんが……」
矢魔道は更に続ける。
そう、先述のアベル・レッドラム共々彼らは生み出されていた。
ダークウェブの王を実体化させるための、"アイアコスの鍵"として。
「ああ、だが貴様はそれに応えなかったばかりか! 俺たちへの叛意に目覚め、弟アベルを殺し! その罪でダークウェブの王により処刑されたのだ!」
「や、矢魔道さんが、処刑……?」
盟次のその言葉は、青夢に更に動揺を与える。
「そうさ、僕はその後でダークウェブの女王アラクネに拾われ。人間として再び、生を受けることができた!」
「や、矢魔道さんはじゃあ……」
そう、かつて矢魔道がアンヌと接触した時に思い出したアラクネとの邂逅時の記憶。
アラクネの瞳に映った彼の姿は全く幼くない姿だったが、それは彼がカイン・レッドラムから矢魔道士へと転生する時の記憶そのものだったからだ。
「で、でも! 何でそれが11騎士団を抱えなくちゃいけなくなったきっかけなの?」
「ふん、処刑されたカイン・レッドラムの身体から生じたからさ! 魔女たちも自らの法機の機体に使っている、11騎士団にそれぞれ対応した幻獣機たちがな!」
「!? え!?」
盟次の言葉に、青夢は動転する。
矢魔道――カインの身体から、幻獣機たちが?
「ああ、僕も一度死んだ後のことは後から知ったね。まあいずれにせよ……この戦いは僕が、赤い騎士として齎したものだ! だから終わらせないとね……この僕が!」
「そ、そんな……」
矢魔道はこれまでの穏やかな様子から一転し、高らかに叫ぶ。
少し悲しみのような感情が滲みつつ、しかし好戦的な心も垣間見える声で。
「……さあて。では動こうか、空宙列車砲たち!」
矢魔道の命と共に。
空宙列車砲群は加速を始める。
「Oui……ここは私たちがやらないと!」
「ふん……言われるまでもない!」
法機パンドラと法機アンドロメダは動き出す。
「Yes……ジャンヌダルクの魔女さん、私たちも!」
「え、ええそうね……」
「!? どうしたの、ジャンヌダルクの魔女さん!」
後ろの法機シルフより、マギーが青夢を促すが。
青夢は矢魔道を慮ってか、法騎ジャンヌダルクを動かせずにいた。
◆◇
「冗談ではなくってよ……わたくしは他人を跪かせるもの! あなた方ごときに、わたくしを跪かせられるものですか!」
「ま、マリアナ様……」
再び、東京湾では。
先ほどのシャルルの言葉に、マリアナが怒りの言葉を捲し立てて返していた。
「ははは、では我らが王には跪かないと? それはそれは残念だ……ならば、仕方ないなあ!」
「! あれは、飛行艦!?」
それに対して、再びシャルルの声が響き。
と同時に、幻獣機アバドンの爆煙の中から。
かつての真の争奪聖杯で馬男の騎士団が使っていた幻獣機飛行艦月戦車が躍り出て来たのである。
「ああ、さあ行くぞ皆! 王の命のもとに、この地上を硫黄と炎で焼き尽くす!」
シャルルは飛行艦に命じる。
たちまち艦体は蠢き、パーツ群に分かれる。
見ればそのパーツは、やはりと言うべきか獅子頭の馬型幻獣機であり。
その口々より炎弾が無数に放たれ火の雨と成し襲いかかって来た。
「01CDG/、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート! やっちゃえー!」
「! 愛三さん……」
愛三はすかさず、ギリシアンスフィンクス艦に命じ。
誘導銀弾群で迎撃する。
「カーミラちゃん、もう電使戦気にしなくていいんでしょ!?」
「そ、そうであってよね……わたくしたちもよ雷魔さんにミスター方幻術!」
「はい、マリアナ様!」
「承知した!」
マリアナも、すかさず法使夏や剣人に命じ。
「hccps://rusalka.wac/、セレクト 儚き泡 エグゼキュート!」
「hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 世界――熱元素操作 エグゼキュート!」
剣人や法使夏も、自機より泡水流や熱線を放ち。
それらと火球群はぶつかり合う。
「私たちも返答しないとね、シュバルツ!」
――はっ、姫!
「hccps://hekate.wac/WildHunt.fs?assault=true――セレクト、王神の槍! エグゼキュート!」
尹乃も、シュバルツ及び法機ヘカテーひいては再構築されたワイルドハントに命じ。
誘導銀弾群で、火球を迎え撃つ。
「レイテ様、僕たちも!」
「そうね……hccps://MorganLeFay.wac/、セレクト 楽園への道!
hccps://MorganLeFay.wac/GrimoreMark、セレクト! 楽園最速火線、エグゼキュート!」
「はい!!! 楽園最速火線、エグゼキュート!!!」
レイテ以下ジニーたちも、法機モーガン・ル・フェイ及びその影響下にある法機たちから火線を放つ。
「騎士団長閣下! 魔女たちの反撃、甚だしく!」
「うむ、攻撃を続けよ! ……しかし、閣下か。そうだな、我々の陛下は、あくまで王陛下だ……」
シャルルは飛行艦内司令室から指揮を出しつつも。
かつてのフラン星界時代の記憶が残っていてか懐かしむかのようにも取れる発言をする。
が、そうであったとしても。
今シャルルが、アリアドネやタランチュラの忠実な僕であるという事実に変わりはない。
「これは我らが王陛下のための戦いである! 邪魔はさせぬぞ、魔女たちよ……!」
シャルルは司令室より、前方の法機群やギリシアンスフィンクス艦にワイルドハントを睨む。
◆◇
「邪魔しないでくれるかな、魔女の皆さん!」
「申し訳ないが、俺は魔女ではないがなレッドラム!」
再び、宇宙では。
矢魔道もといカインの駆る幻獣頭法機レッドサーペントと盟次の駆る法機パンドラが激突し。
空宙列車砲は衛星軌道上を行き、法機アンドロメダに追い立てられる。
「Hurry! ジャンヌダルクの魔女さん!」
「う、うん……」
しかし青夢は。
続けてマギーより急かされつつも、未だに動けずにいたのだった。




