#182 魔女の騎行と天晴れ
「hccps://graiae.wac/pemphredo/edrn/fs/stheno.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート!」
幻獣機アバドンの尾がパーツ群に分かれた時。
これ幸いと、夢零は尾のパーツ群全てを照準する。
――何事、か?
「ええ、こうするのであってよ……さあ愛三さんに"姫"さん!」
「了解よ……行くわシュバルツ!」
――はっ、姫!
「うん、行っくよー!」
縦に連結し、幻獣機アバドンへと迫るヘロディアス艦とギリシアンスフィンクス艦。
そこに座乗するマリアナや愛三と。
更に艦隊を周回する法機たちとで今、幻獣機アバドンへと格闘戦を挑んでいる。
◆◇
「改めて確認しますわ……あの母艦型幻獣機に、電使戦を挑むのは自殺行為であってよね?」
時は、少し前に遡る。
尚も幻獣機アバドンに攻撃をヘロディアス艦からの砲撃を加えて時間稼ぎをしながら。
マリアナはヘロディアス艦に尚も座乗しつつ。
通信にて映像と声を送り各自法機に乗っている法使夏や剣人に尹乃とシュバルツにレイテたち、さらにギリシアンスフィンクス艦や法機グライアイ座乗の龍魔力四姉妹を相手に作戦を検討していた。
「ええ、その通り。ただ…… "目"やグライアイズアイは相手を照準するだけの技。だから、一応は使えると思うわ。」
夢零が考えを明かす。
「そうであってよね……なら、あの母艦型幻獣機の尻尾さえどうにかできればいいかもしれなくってよ。」
マリアナも考える。
しかしそうしつつも、ちらりと横目で幻獣機アバドンを見る。
アバドンは尚続いている砲撃に顔を歪めているが、この状況も長くは続くまい。
ならば、迂遠に対策を論じ続けるのも時間の無駄というものか。
マリアナは、腹を決める。
「……単刀直入に言いまして、あの母艦型幻獣機に電使戦が通じないとなれば方法は一つしかなくってよ。物理的な格闘戦を挑み、一撃離脱で決する方法しかね!」
「! い、一撃離脱!?」
その言葉に、皆息を呑む。
一か八か、ということか。
「しかしその為には、まずあの尻尾の動きを止めます。そうして砲撃を加えながら接近し……渾身の一撃を加えて離脱しますわ!」
「ま、マリアナ様。渾身の一撃とは?」
「ええ雷魔さん、その説明については後で。」
マリアナは次に何やら意味深な言葉を言いつつ。
話を続ける。
「……尻尾の動きを止めるには、あれがパーツ毎に分割してくれる必要があります。そのために……呪法院さん! あなたたちの法機には、高速であの母艦型幻獣機の尻尾周辺を飛び回っていただく他なくってよ!」
「な!? わ、私たちを囮にするというのマリアナさん!」
今度はレイテたちが驚く。
「ふ、ふざけるな! 僕たちはともかく、レイテ様はこんな泥仕事をなさるお立場じゃないぞ!」
「そーよそーよ!!」
ジニーに雷破・武錬も猛抗議する。
「……この通りお願いしてよ、呪法院さんたち! わたくしたちの中でそれを為し得るはあなたたちだけであってよ! お願いしてよ!」
「! な!?」
「ま、マリアナ様!」
しかし次に皆が、驚いたことに。
なんとマリアナは、ヘロディアス艦指揮所内で土下座をし出したのだ。
プライドの高い彼女ならば、考えられないことであった。
「な……もう、顔を上げなさい! 今そんなことをやられても困るだけよ!」
レイテは大いに困惑する。
他の場合ならばさぞや、優越感に浸れただろうが。
皆の前で自分たちにこんなことをされては、逆にこちらが悪者だ。
「ええ、あなた方がしてくれるならば今すぐにでも顔を上げたくってよ、でも!」
「……分かったわよ、やればいいんでしょ! さあ行くわよジニーに雷破に武錬!」
「れ、レイテ様……はい! 僕たちはどこまでもあなたについて行きます!」
「はい、レイテ様!!」
マリアナの渾身の懇願に、レイテはついに折れる。
レイテは逆に恥をかかされた気分であり、面白くない顔をしている。
「……決まりであってね。」
マリアナは密かに、尚も土下座したままほくそ笑む。
◆◇
――ふん……さあ来るがよい。このまま……諸共に葬り去ってやろう……
そうして、今に至る。
「さあ"姫"さん、愛三さん! お願い!」
「ええ、分かってるわ!」
「行っくよー!」
ほくそ笑む幻獣機アバドンに、突撃をかまし掛けているヘロディアス艦とギリシアンスフィンクス艦である。
「hccps://hekate.wac/WildHunt.fs?assault=true――セレクト、王神の槍! エグゼキュート!」
ギリシアンスフィンクス艦は後部で加速し。
更に尹乃はヘロディアス艦に命じる。
――ははは……また誘導銀弾を使った戦法か? もはや見切っているぞ……
幻獣機アバドンは尹乃の術句を聞き嘲笑う。
「ええ、知っていてよ……今であってよ! わたくしを含めて総員退艦! セレクト、ビーイング フォームド イントゥ 群集形態!」
――!? な……何、だ……?
が、ここに来て幻獣機アバドンが初めて動揺したことに。
何とヘロディアス艦は、パーツ群に分離したのだ。
それは一瞬パーツ群に分離し数の暴力を持ってアバドンを攻めるのかと思いきやさにあらず。
「さあヘロディアス艦いいえ、法機戦艦! せめて、王神の槍として華と散りなさい!」
そのままマリアナも法機カーミラにて抜け出し。
乗艦員たちも、既にパーツ群に撤退しており。
それらは離脱して行く。
突っ込んで来たのはただ一つ、ヘロディアス艦中枢部にして今は無人の法機戦艦のみ。
――ぐうっ!? ぐ、お、おのれええ!
幻獣機アバドンはここに来て作戦に気づくが時既に遅く。
そのまま幻獣機アバドンの懐に突っ込んで来た法機戦艦はあらかじめ仕込まれたプログラムのままに見境なく艦砲射撃を放ち。
たちまち幻獣機アバドンの機体は、爆炎に包まれて行く――
「ま、マリアナ様がこんな作戦を取られるなんて……」
「ま、まるで魔女木のようだ……」
その様子を見て法機ルサールカやクロウリーに乗る法使夏たちは呆気に取られる。
この無茶苦茶なやり口はまさに、青夢のようなやり方である。
「hccps://takiyasya.wac/、セレクト! 髑髏剣 エグゼキュート!」
「hccps://vouivre.wac/、セレクト デパーチャー オブ 金剛鎌弾! エグゼキュート!」
「! え?」
と、その時。
突如として思いもせぬ方向から弾幕が飛来し、マリアナたちは驚く。
しかしそれは、敵の新手ではない。
「! 自衛隊……」
「遅れてすまない! よくぞやってくれた!」
それは、ようやく到着した自衛艦隊だった。
そのまま擁される法機滝夜叉、法機ヴイヴルの力による弾幕は追い討ちとばかりに。
今しがた法機戦艦が特攻した幻獣機アバドンの爆煙の中へ、食らわされて行く。
◆◇
「! そう、分かったわ……魔法塔華院マリアナが東京湾の母艦型幻獣機を倒したら朝鮮半島とオーストラリアの幻獣機たちも止まった……地上は大丈夫なのね?」
一方、宇宙では。
尚も闇を撒き散らし続ける太陽戦車を周回し攻めている法騎ジャンヌダルクで、青夢は地上からの報告を聞き安堵していた。
「まったく、うるさいわねえブンブンとハエみたいに! 私の闇をお食べなさいな!」
「! くう、hccps://jehannedarc.row/、セレクト! ビクトリー イン オルレアン!hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark、セレクト オルレアンの栄光弾 エグゼキュート!」
「ぐっ! またちょこまかと!」
またも闇を撒き散らして来た太陽戦車に対し、法騎ジャンヌダルクが光弾を無数に放ち対抗し続ける。
「さあさあ! 今度こそ食べてしまうよ!」
父艦フェンリルも尚、盟次の法機パンドラや初花の法機アンドロメダと対決していた。
「聞こえる、飯綱法? 私、今鳥男の飛行艦と狼男の母艦型幻獣機を同時に無効化する方法を思い浮かべてるんだけど!」
「ほう? 奇遇だな……俺もだ!」
青夢はそんな中、盟次と通信する。
「まったく、しぶといな! いいよ、ここは一撃で決め……ん?」
クローも痺れを切らして来たその時。
法機パンドラがこちらに向かって来たことに驚く。
「ほう、まずは食われたいか元騎士団長! いいだろう、がぶりと行ってあげるよ!」
クローはやや戸惑いつつも。
父艦フェンリルの艦体を、法機パンドラへと差し向ける。
「まさか、貴様に食われる趣味はない!hccps://pandora.wac/、セレクト 匣封印! hccps://pandora.wac/GrimoreMark、セレクト! 双匣 エグゼキュート!」
「!? な、何い!?」
が、それに応えて盟次は。
父艦フェンリルが飛び込んでくる先に亜空間の出入り口を広げ。
そこに父艦フェンリルを呑み込んで行く。
「おや……ふん、脅かしてくれるじゃないか! 出口があるなんてなあ!」
クローは一瞬肝を冷やすが、すぐにほくそ笑む。
何と、法機パンドラの亜空間には出口が開いており。
まったく、間抜けだなあと。
「hccps://baptism.tarantism/、セレクト! 月喰 エグゼキュート! さあ飛び出した暁には、食い尽くしてあげるよお!」
そのままクローは出口から、父艦フェンリルを飛び出させ。
大口を開けたフェンリルに、すぐ外にいるはずの法機部隊を食い尽くさせ――
「ぐうあ! な、何してんのよクロー殿!」
「ははは……って!? ば、バカな! 何故ここに太陽戦車が!?」
――たはずだったが。
なんと父艦フェンリルが食らいついたのはこともあろうに、味方の太陽戦車だったのだ。
「今よ、皆!」
「Yes、ジャンヌダルクの魔女さん! hccps://sylph.wac/、Select 風元素!」
「hccps://jehannedarc.row/GrimoreMark、セレクト! 大気摩擦熱波 エグゼキュート!」
「hccps://hel.wac/、セレクト 地獄誘い! エグゼキュート!」
「hccps://andromeda.wac/、セレクト 流星弾 エグゼキュート!」
「ぐっ! は、早く離れなさいよクロー殿! このままじゃ共倒れに」
「わ、分かっている! は、早く……ぐああ!」
そのまま法機群が仕掛けた追い討ちにより。
太陽戦車に噛み付いた父艦フェンリルは諸共に、爆炎に包まれていく。
これにより闇が徐々にだが、晴れて行く。
青夢が思いついていた鳥男と狼男を同時に無効化するやり方とはこのことだったのだ。
「待って、全機そのぐらいで攻撃停止して! さもないと中の騎士団長たちが」
「ふん、相変わらず甘いな魔女木! まったくこれだから!」
「Well、Mr.飯綱法! あなたこそThis is why you ain't defeated!」
「ま、まあ落ち着きなさいなMademoiselle初花!」
青夢たちの気がそうして緩み始めた、その時だった。
「んんっ!? こ、この音って!」
「さあお行きなさいな……馬男の騎士団!」
もはや何度目か分からぬ耳障りな音と共に、それに負けじとばかりのアリアドネの声が地上のみならず宇宙にまで伝わる。
第六の喇叭が、吹き鳴らされたのだ。
「ああ、よくぞ戦った戦った魔女たち! しかし、次はどうかな?」
「! こ、この声はシャルル殿下……?」
青夢は続けて聞こえて来た声にはっとする。
それはかつてのフラン星界王にして、幻獣機ベレトの騎士として実体化したシャルルの声だった。
だが、青夢は次にそれ以上にはっとさせられることになる。
「これからは私たちが相手しよう……我らが王や、白騎士の前座だ!」
「や、矢魔道さん!?」
衛星軌道を行く、空宙列車砲の部隊。
その上を行く幻獣頭法機レッドサーペント――幻獣機サマエルにカマエル、ヴァイスから貸し出された法機パラケルススの融合体である――から響き渡る声の主は、同機座乗の騎士カイン・レッドラム。
矢魔道その人であった。
「ああ、そこにいるんだね魔女木さんにマージン・アルカナも……いいねえ、話をしようか。」
「! や、矢魔道さん……」
「ほう……?」
カインはしかし、次には。
青夢たちが目の前にいると知り、穏やかな矢魔道の口調で話しかけて来たのだった。