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ウィッチエアクラフト 〜魔女は空飛ぶ法機に乗る〜  作者: 朱坂卿
第九翔 七人の吹き手
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#179 二連続の喇叭

「こ、この音……喇叭の音であって!? な、何故こんな……」


 東京湾で魚男の騎士団と対峙するヘロディアス艦。

 そこに座乗するマリアナは、またも聞こえて来た喇叭の音に苦しむ。


「こ、これは……?」


 一方、剣人は。

 喇叭の音ではなく、違うものに苦しめられていた。


 それは――


 ――……どうだ獅堂、何か分かったかい例の腕輪について。

 ――ああ……これには! 私が光霊使(こうりょうし)と名づけた光が入っているが。これが我々が、魔力と呼ぶものの正体だ! 早い話が、自然の量子コンピュータだよ!

 ――な、なるほどな……


「(これは……昔のアルカナ殿の父上と、魔女木獅堂か?)」


 やはりまだ彼に見え続けている、他者の記憶。


 それもこの現象は、前よりもずっと強く感じられるようになっているのである。


 しかし、そうこうする内に。


「! そ、空が暗くなって……っ!? ま、また喇叭の音が!?」


 やはり空は暗くなり、第四に続けて第五の喇叭も吹き鳴らされる。


「ぐっ、かなり耳障りだけど! 私たちは負けないわジニー、雷破に武錬!」

「はい、レイテ様!!! ……セレクト 、楽園への道ロードトゥーアヴァロン エグゼキュート!!!」

「ぐうっ! このお!」


 しかしそんな喇叭の音が耳障りに響き渡る中においても。


 龍魔力四姉妹を翻弄した木男の騎士団をも超える速さで、逆にレイテたちは彼らを追い詰めていた。


「hccps://rusalka.wac/、セレクト 儚き泡バブリングパニッシュメント エグゼキュート!」

「ぐうっ! こりゃあ厄介だねえ!」


 そして、魚男及び雪男の騎士団が同乗する父艦レヴィアタンも。


 やはり鳴り響く喇叭の音に負けぬ勢いで周回しつつ攻撃を仕掛ける法使夏のルサールカによって、海面へと追い立てられていた。


「くう……ふん、あなたにしてはよくやってくれてよ雷魔さん! 法機戦……いえ、ヘロディアス艦! 砲撃を!」


 マリアナもまた、ヘロディアス艦の主砲塔を海面に向け。

 そのまま艦砲射撃を、父艦レヴィアタンが顔を出したところへ食らわせて行く。


「く……調子に乗るんじゃあないよ!」


 アビッツが吼える。


「ああ、そうだなアビッツ殿! こんな所で」


 グランドも歯ぎしりする。


「ああ、こんな所で魔女ごときに!」


 ラディーナもまた、吼える。

 と、その時である。


 ——お待ちなさい、騎士団長たち!


「!? は、姫君!!!」


 突如として騎士団長たちにも魔女たちにも、アリアドネの声がその脳内へと響き渡る。


 ――これより宇宙では第四の、地上では第五の災いが起こるのです。第五の災いは蜘蛛男の騎士王直々に幻獣機アバドン以下配下を派遣なさるのですから、既に終わった第一・第二の災いを齎す騎士団は撤退なさい。


「! は、姫君!」

「かしこまりました!」


 アリアドネの言葉を鶴の一声とばかりに木男の騎士団に、魚男及び雪男の騎士団は恭順し。


 そのまま乗機たる幻獣機や父艦を、撤退させて行く。


「あらあら……妙に新しい騎士団長たちはあの姫君さんとやらに従順ね! なんかつまらないわ。」


 ――いえ姫、恐れながら……どうやら、まだまだ我らの出番はあるものかと。


「! 何ですって……あ、あれは!」


 尹乃は、突如として撤退する騎士団たちに退屈さを露にするが。


 すぐにシュバルツの言葉を理解し、臨戦態勢に入る。


 それは。


「あ、あれは一体!」


 突如として、東京湾の水平線より湧き出すように現れる無数の影が。


 ——ええ、私の王直々に繰り出された幻獣機アバドンとその配下たる幻獣機アバドンズローカストたち! 世界に散らばり、我らに恭順しない者に毒の裁きを!


 アリアドネが高らかに叫ぶ。


 ◇◆


「第四、第五の喇叭……立て続けに吹き鳴らされるなんて!」


 一方、青夢たちにもアリアドネの声は聞こえ。

 その内容に彼女たちは、歯ぎしりする。


「……hccps://jehannedarc.wac/、セレクト オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート! ……地上は、他の魔女たちに任せましょう! 私たちは宇宙の魔男たちをやらないと!」

「Well……そうね、私も宇宙から、祖国を救うわ!」


 しかし青夢は、予知により情報を把握しすぐに次の行動に移り始める。

 そう、今は戸惑っている暇はないのだ。


「よし……俺も行こう。」

「待った飯綱法! あんたは地上で。敵は地上にかなりの兵力を割いてるみたいだから。」


 ついて行こうとする盟次を、青夢はそう言って止めようとする。


 が、盟次は。


「お前に指図される筋合いなどない! そもそもお前たちだけで宇宙に行ってそのまま戦えるとも思えんからなあ。俺も行ってやると言っているんだ!」

「な……まったく! 相変わらずモラハラ的な言い方!」


 あくまでも、宇宙に行く気である。


「Yes……Mr.飯綱法! You ain't good at Ladies First! So You must be hated by women! This is why Japanese guy is said to be tainted by male domination of women……」

「! し、シルフの魔女さん……?」


 マギーはそんな盟次の言動に耐えかね。


 レディーファーストがなっていない、これだから日本の男は男尊女卑に毒されているというのよと英語で捲し立てる。


「ははは、ご忠告感謝するよ! Thank you for your o()v()e()r()k()i()n()d()n()e()s()s()!」

「W……What's your word!?」

「お、落ち着いてシルフの魔女さん! 飯綱法盟次! あんたも一応は騎士団長の端くれなら分かると思うけど、戦いじゃあ仲間割れが一番致命的なの! 分かるでしょ!?」


 それに対して大人気なく皮肉を返す盟次に対し、青夢はマギーを宥めつつ窘める。


「ふん、元よりお前たちの仲間になどなった覚えはない! もういい……それよりも、今は先に行くぞ!」

「ち、ちょっと! 待ちなさい飯綱法!」


 盟次はまたも大人気なく、自身の法機パンドラを宙飛ぶ法騎スペースライドオブワルキューレパンドラへと変え。


 そのまま電使翼機関(ジェットエンジェン)を噴射し、意気揚々と大気圏外に飛び出してしまった。


「もう……ごめんなさい、シルフの魔女さん。」

「N、No! ジャンヌダルクの魔女さんが謝ることじゃ……彼、いつもあんななの?」


 青夢はマギーに謝罪し。

 マギーは青夢を宥めつつ、そんなことを聞いて来る。


「う、うーん……うん、そうね。元魔男だったからまあ……しょうがないのかな。」


 青夢はそれほど盟次を知っているかと言われれば違うため、返答に困るが。


 基本的に男尊女卑の魔男がレディーファーストなどまずないだろうという結論に落ち着く。


 それに約一点、彼の言葉には正しい所もあるのだ。


 ――ふん、元よりお前たちの仲間になどなった覚えはない!


「確かにそうなんだけど……はーあ。一応は敵じゃないんだから、ひとまずは波風立てないとかそういう発想ないのかな……もういいわ.私たちも行きましょうシルフの魔女さん。早く行かないと、飯綱法がまた勝手やらかすわ!」

「e、Exactly! そうね……hccps://sylph.wac/、Select 風元素(エレメンタルウインド) Execute!」


 青夢はしかし、すぐに気持ちを切り替え。

 そのままマギーを促して騎体内の大気を調整し。


 そのまま法機シルフと連結している法騎ジャンヌダルクを、宇宙へと飛び上がらせる。


 ◆◇


「マリアナ様!」

「雷魔さん、それからミスター方幻術も! そのままこのヘロディアス艦護衛を任せてよ。」

「はい!」

「あ、ああ……任せろ!」

「? ミスター方幻術?」


 一方、東京湾では。


 尚も宙に浮くヘロディアス艦と、同艦を周回する法機ルサールカと法機クロウリーら凸凹飛行隊は水平線上から湧き出して徐々に迫りつつある幻獣機アバドンの部隊を睨んでいた。


「い、いや何でもない!」

「そう、まあよくってよ……さあそこの"姫"さんも! わたくしの艦の護衛を」

「へえ……誰が護衛ですってえ!?」

「!? な、何なさるの!」


 マリアナはついで、同じくヘロディアス艦を周回する法機ヘカテーを駆る尹乃に言うが。


 尹乃はマリアナの言葉が癪に触り、わざとヘロディアス艦を傾ける。


「ま、マリアナ様!」

「な、何をする"姫"!」

「ああごめんなさい……ただちょっと、その艦がもう誰のものなのか忘れてるみたいだったから思い知らせてやっただけよ!」


 ――は、まったくです姫! 貴様、何たる口の利き方を!


 シュバルツもマリアナに抗議して来た。


「ち、ちょっと! よくもマリアナ様を!」

「よくってよ、雷魔さん! ……申し訳ないわ、"姫"さん。」

「あら? 随分と素直ね……いいわ、許してあげる!」


 しかしマリアナの謝罪を受けて尹乃は、ヘロディアス艦を元の角度に戻す。


「(まあいいわ……さあて、これからじっくりと私の艦を使わせてあげるわよ! マ・リ・ア・ナさん!)」


 尹乃はそんなマリアナを、心中で嘲笑う。


 彼女も中々根に持つ方であり、かつて空賊をしてやられたことが屈辱として残っていたのだった。


「中々来たわね、皆……」

「ああ……でも、あたしらなら何とかできるさ!」

「そ、そうですよ!」

「うん、大丈夫!」


 龍魔力四姉妹もそれぞれの座乗艦や法機から、迫り来る敵を見て口々に言い合う。


「待った! 私たちも忘れてないかしら? 大丈夫よ、あなたたち龍魔力四姉妹が撃ち漏らしても、私たちが捉え切ってあげるから!」

「はい、レイテ様!!!」

「あら……え、ええあなたたちもいたわね……」


 そんな四姉妹に、レイテら法機モーガン・ル・フェイの力を擁する飛行隊四機から呼びかけがあった。


「さあて……かかって来なさい!」


 ――こちら魔女木! 皆応答してください!


「! ま、魔女木さん……何なのであって?」


 と、そこへ。

 東京湾で構えている上記のメンバー全員に、青夢からの通信が。


 ――ごめん、意気込んでる所水差しちゃって。でも大変なの! 今日本海から中国大陸にも、魔男が向かってる! オーストラリアにも、アメリカにもヨーロッパにも……


「! な、何ですって!?」


 しかし青夢のこの言葉は、マリアナたちを驚愕させた。


 ◆◇


「オオ、ソウカンダナアリアタン!」

「恐れ入りますわ私の王……さあご覧ください! これで宇宙も地上も、王の軍勢が向かう所は全て見えますわ!」


 ダークウェブの最深部でも、タランチュラとアリアドネたちが。


 宇宙から宙空も、地上も見渡す大パノラマのごとき映像を見て歓喜していた。


「さあて……あなたたちの出番も近いですよ馬男に巨男、牛男の騎士団! さあ支度なさい……」

「はっ、姫君!!」


 そうしてアリアドネが、また指示を出したのは。

 傍らにいる、シャルルにカインにアベルだった。


 ◆◇


「さあて……私たちはここを戦わないと!」

「Yes、ジャンヌダルクの魔女さん!」

「ふっ! 言われるまでもない……」


 そうして宇宙で青夢やマギーに盟次が対峙するのは。


「おやおや……これはこれは、こんな所には不釣り合いな見すぼらしい騎体たちではないですか!」

「あらあら、何てことかしら!」


 新たなる、狼男・鳥男両騎士団だった。

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