#17 現れた影
「さあて……魔法塔華院の小娘たちい、さっさとそこ退きな!」
マリアナ・法使夏・ミリアの機体を取り囲み、メアリーは自身の空賊機から煽る。
魔男との三度の戦いを経た後。
正式に魔法塔華院コンツェルンの傘下となった同飛行隊は、正規任務としては初となる空賊からの輸送飛行船護衛任務を受けていた。
そうして昼間、海上に空賊の拠点がないか探したが見つからず。
夜、マリアナと法使夏・ミリアは輸送飛行船の護衛にあたっていた所を今、空賊に襲われている。
「ふん、ならず者さんごときが図に乗ってもらっては困りますわ!」
「はい、マリアナ様!!」
先ほどのメアリーからの煽りに、マリアナと法使夏・ミリアは毅然として返す。
「はっはっは! こりゃあ、威勢だけは良い小娘たちだねえ……いいさ! ならお前たち、輸送飛行船ごとやっちまうよ!」
「イエス、マム!」
メアリーはいい度胸だとばかり、今マリアナ機や法使夏機・ミリア機を取り囲んでいる部下の空賊機らに命じる。
ならば。
「……サーチ、アサルト オブ 空飛ぶ法機! セレクト、野人暴食 エグゼキュート!」
「……エグゼキュート!!!!」
「……サーチ、アサルト オブ 空飛ぶ法機・カーミラ! セレクト、ファング オブ ザ バンパイア エグゼキュ―ト!」
「……エグゼキュート!!」
たちまち空賊機から、そしてそれに対抗してカーミラ・法使夏機・ミリア機からも攻撃がそれぞれに放たれる。
そして。
「くっ! キ、キャプテンこ、コントロールが!」
「おやおや……あたしのもだよ。」
空賊機らの攻撃が届くよりも早く、カーミラや法使夏機・ミリア機のハッキング攻撃が彼女らに届く。
たちまち、空賊の魔女らは自機のコントロールを奪われ混乱させられる。
が、なぜかメアリーは毅然としている。
「マリアナ様! い、今なら奴らを」
「いえ、お待ちなさい使魔原さん。ここは、慎重に行くべきよ。」
「ま、マリアナ様……」
「ミリア……」
功を焦るミリアは、ここで敵の一斉殲滅を進言しようとするが。
マリアナはそこで、彼女を制止する。
「……セレクト、ウインドカッター エグゼキュート!」
「ミリア、行くよ! ……エグゼキュート!」
「う、うん……エグゼキュート!」
しかし、ミリアはやむなく。
マリアナと法使夏に倣い、通常攻撃を放つ。
「キ、キャプテン!」
「なあに、心配すんなって! ……セレクト、影隠 エグゼキュート!」
「い、イエスマム! ……エグゼキュート!」
が、動揺する空賊らをメアリーは宥め。
空賊機によるステルス能力を、発動する。
「な、ま、マリアナ様!」
「や、奴らの姿が!」
「なるほど……ま、報告通りですわね!」
途端に姿が見えなくなった空賊機らを前に、法使夏・ミリアは動揺するが。
マリアナは先ほどのメアリーと同様、落ち着いていた。
「さあて……行くよ、お前たち! セレクト、野人暴食 エグゼキュート!」
「イエスマム! ……エグゼキュート!」
一方、メアリーはこの機を逃さんとばかり。
ステルス状態のまま、技を放ち護衛のカーミラらごと輸送飛行船を叩き潰そうとする。
「……セレクト、ターンレフト 空飛ぶ法機!」
「きゃあっ!」
「ま、マリアナ様!」
が、マリアナの対応もまた素早く。
たちまち法使夏機とミリア機、さらにカーミラは攻撃を避ける。
「!? な、私たちの攻撃を!」
「ほう……だけどありがたいねえ、目標の前から退いてくれて!」
メアリーはそれを、逆に好機と捉え。
今度はがら空きになった輸送飛行船を、一気に狙う。
が、次の瞬間。
「きゃあっ!」
「いやっ!」
「おっと! ……また、あたしらの機体がじゃじゃ馬状態になっちまったかい!」
空賊機らの陣形は再び、各機がコントロールを失ったことにより崩壊し。
攻撃は、明後日の方向へ飛んでいく。
「ま、マリアナ様これは?」
「ふふふ……おーっほっほ! 今もまだ、わたくしのカーミラとあなた方のネットワークはつながっておりましてよ、ならず者さん方!」
「ふふ……まあ、だとは思ってたよ!」
マリアナは先ほどハッキングした空賊機らを、尚もハッキングし。
機体の位置把握をするとともに、陣形を乱していたのである。
しかし、メアリーは相変わらず余裕を湛えている。
「おやおや……どうやら、やられ足りないようですわね!」
「ああ……足りないねえ!」
マリアナは、そんなメアリーが癪に障り。
メアリーの機体に、これまで以上の揺さぶりをかけようとする。
が、その時。
「……! なっ……」
「ま、マリアナ様!」
「ど、どうなさいました?」
「こ、これは……?」
マリアナは自機カーミラによる敵機への干渉を強めようとするが。
その時に何やら、自機の回線に違和感を覚える。
何かが回線に、逆に乗り込んでくるかのような感覚を――
そして、さらに。
「! ……セレクト、ウインドバレット エグゼキュート!」
「ほ、法使夏!」
気配を察した法使夏が、攻撃を放った方向には。
「あ、あれはまさか!」
「ええ……幻獣機。」
その方向には雄たけびを上げ、翼はないながらも宙に浮かぶ野人のごとき外装の幻獣機。
幻獣機グレンデルが。
「おやおや……少し、早かったのでは?」
この様子を遠くから見ていたアルカナは、そう呟く。
◆◇
「な、キ、キャプテン! あれは」
「ああ……あれが、噂に聞く魔男とやらのかい!」
空賊たちも、尚振り回されつつ。
突如現れた幻獣機グレンデルにおびえている。
メアリーのみが、やはり余裕を湛えていた。
「ま、マリアナ様」
「ならば、すべきことはただ一つですわ……セレクト、ファング オブ ザ バンパイヤ! エグゼキュート!」
「は、はい!! エグゼキュート!!」
マリアナも動揺しつつ、この増えた敵を排除すべく動き出す。
たちまち、マリアナらのハッキングにより幻獣機グレンデルは、動きを止める。
「い、今ですマリアナ様! 私が止めを!」
「み、ミリア!」
「まったく、功を焦ってのことね? ……止むを得ないわ、セレクト! ウインドトルネード エグゼキュート!」
「は、はいマリアナ様! エグゼキュート!」
「エグゼキュート!」
またも功を焦り、動きの止まった幻獣機グレンデルに。
ミリア機は我先にと飛び出す。
それを受けてマリアナは、仕方なしとばかりにグレンデルへ攻撃の術句を詠唱する。
たちまち、カーミラの子機でもあるミリア機からは風のドリルが飛び出し。
それはミリアの狙い過たず、一番槍となって幻獣機グレンデルを屠る。
「や、やりました! マリアナ様!」
「や、やったわねミリア!」
ミリアはその様子に、喜び。
法使夏もまた、喜ぶ。
が、マリアナは。
「ううむ……いやにあっさりとしていますわね、これは……」
何やら手応えのなさに不気味さを覚えるが。
次の瞬間だった。
「!? み、ミリア避けて!」
「え、法使夏何を言って……きゃあっ!」
「み、ミリア!」
気が緩んでいたミリアを、嘲笑わんばかりに。
何と先ほど倒したはずの幻獣機グレンデルが、ミリア機の後部に再び現れ。
その屈強な右腕を一閃し、瞬く間に無防備だったミリア機を落としてしまう。
「きゃああ!」
「ミリア!」
「雷魔さん! 今は、目の前の敵に集中なさい。」
「し、しかし……」
ミリア機の撃墜に、動揺する法使夏だが。
マリアナの言葉もごもっともと思い直し、改めて幻獣機グレンデルを睨む。
グレンデルは獲物を叩き落とした後。
次の獲物を探すべく、目を光らせているようだ。
「幻獣機まで出て来るとは……これは、空賊に繋いでいる手綱は緩めざるを得ませんわね。 ……はいっ!」
「!? き、キャプテン! 自機の自由が!」
「おやおや……あたしら所じゃないってかい!」
マリアナの計らいにより、空賊機らへのハッキングは緩められる。
「マリアナ様。」
「ええ、雷魔さん! わたくしは輸送飛行船の前衛をしますわ、だから雷魔さんは後衛を!」
「は、はい!」
マリアナはそう叫び、カーミラを輸送飛行船前部へ持って行く。
法使夏機もマリアナの作戦に従い、飛行船の後部へと行く。
「キャプテン、今こそ奴らを!」
「まあ待ちなお前たち! ……あたしらは、巻き添えを喰うわけにゃいかない! 即、トンヅラだ。」
「な、キ、キャプテン!」
この混乱に乗じようとする空賊らだが。
メアリーはそんな彼女らを宥める。
「あたしらはここで終われない、そうだろ? ……さあ、全機撤収だ!」
「い、イエスマム!」
食い下がる空賊だが、メアリーから有無を言わさぬ勢いで命じられたとあらばやむ無く。
尚もわずかばかりハッキングの影響が残る自機を翻し、戦場を去る。
「ま、マリアナ様! 奴らが」
「ええ、まあこの光景に臆病風に吹かれたという所ですわ……まあ所詮はあんなならず者さんたちは置いておいて! わたくしたちは、あの幻獣機を」
「ま、マリアナ様! 幻獣機が!」
マリアナが叫び終わる前に。
幻獣機グレンデルは動き出し、そのままマリアナが乗るカーミラめがけて襲い来る。
「案ずることはなくってよ……セレクト、カッターボール! エグゼキュート!」
マリアナは動じず。
カーミラより、技を放つ。
たちまち放たれた技は、幻獣機グレンデルを直撃し。
瞬く間に、細切れにしてしまう。
「や、やりましたマリアナ様!」
「待って! 落ち着くのはまだ早くってよ雷魔さん。きっとまた、どこかに」
「! き、きゃあっ!」
が、マリアナは警戒を解かず周囲を見渡す。
すると、案の定というべきか。
幻獣機グレンデルは今度は、法使夏機の後部に出現し。
そのまま、咆哮を上げつつ右腕を振り上げる。
「雷魔さん!」
「……セレクト、ビクトリー イン オルレアン! エグゼキュート!」
「!? な!」
が、マリアナが幻獣機グレンデルに照準したその時。
突如として十字状の熱線が、幻獣機グレンデルを貫いた。
そのまま幻獣機グレンデルは、法使夏機より離れて爆発する。
「お、落ちた!」
「……まったく、あなたなのね魔女木さん!」
熱線の飛んで来た方向を、見れば。
そこにはやはりと言うべきか。
「まったく……何とか間に合った! 感謝しなさいよね魔法塔華院マリアナもその腰巾着も!」
ジャンヌダルクを駆る、青夢がいた。