#175 墜ちる山と赤い海
「さあ父艦バーサーカーズマーチ……何としても我らの務め、燃え盛る山の投下を果たす!」
「はっ!」
グランドが命じ、青夢たちへと襲い来る父艦バーサーカーズマーチの構成機群。
それは先ほどまでとは比べ物にならぬ程の数であるがそれもそのはず、父艦バーサーカーズマーチはその艦体を全て構成機群に分かれさせたのだ。
「hccps://sylph.wac/、Select 風元素!」
「hccps://jehannedarc.wac/GrimoreMark、セレクト! 大気摩擦熱波 エグゼキュート!」
青夢とマギーは、またも攻撃を放つ。
その熱波は構成機群を、またも焼いて行く。
「Yes! ジャンヌダルクの魔女さん、これなら」
「待ってシルフの魔女さん! 何かおかしいわ……」
青夢は尚も攻撃を続けつつ、周りを見渡す。
明らかにこれは、無策の攻撃に見える。
だが、それは。
「!? あ、あれは!」
やはりと言うべきか、青夢は見た。
自分たちに向かい来る父艦バーサーカーズマーチの構成機群。
その中で明らかに一つ、異なる方向に向かうものがあることを。
「陽動は成功したな……さあ! 地上へ行くぞ!」
「はっ、グランド騎士団長!」
それは艦長にして騎士団長たるグランドと、彼以下六人の騎士たちが座乗する輸送型幻獣機を核とする怪物型構成機群だった。
「しまった! く……hccps://jehannedarc.row/、セレクト オラクル オブ ザ バージン! エグゼキュート!」
「Shit……大丈夫! また私が」
「! だめ、シルフの魔女さん! 今は群がる幻獣機たちで精一杯!」
「! じ、ジャンヌダルクの魔女さん……」
青夢は予知を使い先を見るが。
今はこの場で戦うしかないことをマギーにも告げる。
「ふう……こうなったら! 魔法塔華院マリアナたち、頼んだわ!」
◆◇
「まったく……まったく不甲斐なくってよ魔女木さん! 飛行隊員たちに尻拭いをさせるなんて。」
その頃、地上では。
青夢から苦渋の決断とばかりに頼まれたことにマリアナは、やや怒っていた。
「さあ魔女たちい、どうしたあ!? 先ほどまで我々を追い詰めていた余裕はどこへいったあ!?」
「くっ……英乃、二手乃、再び照準を!」
「だ、駄目だぜ姉貴!」
「は、早すぎて照準不可能です!」
「く……悔しいけどあの騎士の言う通りね。一度は照準できたというのに!」
夢零ら龍魔力四姉妹は歯軋りする。
そう、一度は新たな木男の騎士団の騎士とその乗機全てを照準し動きを止めたかに見えた彼女たちだったが。
「ははは、キマリスの騎士よ大儀だ! この加速能力に加えて我がバルバトスの放った矢たちを騎士たちの姿に似させるなど! さすがだな!」
「は、お褒めに与り光栄ですラディーナ騎士団長……」
今ラディーナが言った通り。
幻獣機キマリスの能力により、ラディーナの幻獣機バルバトスが放った矢たちを木男の騎士およびその乗機に擬装しており。
それを夢零たちにわざと照準させただけだった。
「このままじゃ……」
「……行こう、ギリシアンスフィンクス艦ちゃん!」
「え? ……め、愛三!?」
が、その時。
愛三がふと、ギリシアンスフィンクス艦を飛行させる。
「01CDG/、デパーチャー オブ 誘導銀弾 エグゼキュート! ……さあ、貫いちゃえ王神の槍!」
「ふん、そんな攻撃など! ……セレクト、矢の雨 エグゼキュート!」
そのまま愛三は、座乗艦に命じて誘導銀弾群――王神の槍を放ち。
それに対し、ラディーナが再び幻獣機バルバトスに命じて矢を放たせる。
たちまち空中で、王神の槍と矢の群れが激突する。
「愛三!」
「! 今がチャンスよ…… hccps://graiae.wac/edrn/fs/stheno.fs?eyes_booting=true――セレクト ブーティング "目"! ロッキング オン アワ エネミー エグゼキュート!」
「! く、これは!」
しかし、その隙を突き。
夢零はラディーナ以下木男の騎士団を照準し、動きを止める。
「今よ、早く」
「あ、姉貴! あれは」
「え……ん!? あ、あれって!」
と、その時だった。
妹たちに止めの指示を出そうとする夢零を、英乃が止め。
彼女に言われるがままに、夢零が空を見れば。
「ははは! さあ海は近い……この燃え盛る山たる父艦バーサーカーズマーチが、海を穢す!」
「あれは、火球……?」
「龍魔力の姉妹方は木男の騎士団に集中なさい! わたくしたちはあの火球――雪男の騎士団を撃ちますわ!」
空から落ちて来たのは無論、宇宙から逃げ延びた木男の騎士団座乗の父艦バーサーカーズマーチ中枢部であり。
マリアナたちは先ほど青夢から受けていた報告もあり、迎撃体勢をとっている。
「! ま、マリアナさん……え? あ、あれが雪男の騎士団!?」
「さあ行きましてよ、雷魔さんにミスター方幻術!」
「はい、マリアナ様! hccps://rusalka.wac/、セレクト 儚き泡 エグゼキュート!」
「承知している! hccps://crowley.wac/、セレクト アトランダムデッキ! 女帝――女帝の鉄鎚 エグゼキュート!」
そうして戸惑う夢零たちをよそに。
マリアナの指示により、法機戦艦から法使夏と剣人による艦砲射撃が放たれる。
「グランド騎士団長!」
「ぐっ! ……ああ案ずるな! このまま強行突入する!」
その砲撃に当てられ、父艦バーサーカーズマーチ中枢部は爆発する。
「や、やりましたマリアナ様!」
「いいえ、待つのであってよ……主砲、角度下げて!」
「え? ま、マリアナ様?」
マリアナはしかし、次に。
爆発のあった空中のすぐ下の海面に目を、狙いを移す。
「! み、水が……赤く!?」
剣人が驚きの声を上げる。
今彼が言った通り、海面は赤く染まっていたのである。
やがてそこに。
ゴボゴボと、泡の固まりが生じ。
かと思えば、そこから鎌首をもたげながら水飛沫を撒き散らしながら出てくるものがあった。
「ま、マリアナ様あれは!?」
「ええ、前にアメリカに現れたという大蛇型の母艦型幻獣機……またお目にかかるとは驚きであってよ。」
現れたのは、父艦ヨルムンガンドである。
「ここからが本番だよ……我ら新たなる魚男の騎士団が、姫君や王の力を振るい第二の喇叭による災いを齎す!」
父艦ヨルムンガンドからは、新たな魚男の騎士団長の声も聞こえ。
かと思えば、父艦ヨルムンガンドはみるみる姿を変えていく。
それは、大蛇というよりも竜のような姿である。
「父艦ヨルムンガンド改め父艦レヴィアタン! ちょうどいい余興だ、こいつらと遊んでやろうじゃないか!」
父艦レヴィアタンからは、再び魚男の騎士団長の声が響き渡る。
「ふん……ようやくお出ましか、魚男の騎士団!」
ラディーナは、鼻を鳴らしながら言う。
「さあて……あの竜をどうすればよろしくて」
「hccps://rusalka.wac/、セレクト ゴーイング ハイドロウェイ エグゼキュート! マリアナ様、ここは私が!」
マリアナが思案するが。
そんな中法機戦艦後部甲板より飛び立った法機ルサールカが、海に潜って行く。
「雷魔さん、フライングしすぎであってよ!」
「も、申し訳ございません!」
「まあよくってよ……あの母艦型幻獣機のことは、あなたに任せてよ!」
「はい、ありがとうございますマリアナ様!」
マリアナからはやや戸惑われつつも法使夏は。
法機ルサールカを駆り、父艦レヴィアタンへと突撃して行く。
◆◇
「why……ジャンヌダルクの魔女さん、なんでこんな方向に?」
翻って、再び宇宙では。
法騎ジャンヌダルクは後部に法機シルフを接続したまま進み続けている。
「ごめんシルフの魔女さん……っ! 見えて来たわ、お目当てが……」
青夢はマギーに問われつつ法騎を尚も進め続け。
そうして目の前には、宇宙で待機中の双猫の戦車が見えて来た。
が、その時だった。
「さあて……三人目の喇叭吹きよ、吹き鳴らしなさい! この音が嚆矢となるわ……」
「! こ、これってダークウェブの姫君の声……? くっ! ま、また耳触りな喇叭の音が! う、宇宙にまで聞こえてくるなんて……」
「Why!? く、空気のない宇宙まで……何で?」
突如としてアリアドネの声が聞こえ。
かと思えば、なんとこの宇宙にまで喇叭の音が響き渡った。
あの東京湾上空の七人の電使のうち、三人目が吹いた喇叭である。
「御意に、姫君! さあて……幻獣機コロリ! 双猫の戦車! コーレシング トゥギャザー トゥー フォーム 幻獣機飛行艦ニガヨモギ エグゼキュート!」
たちまち幻獣機コロリは双猫の戦車に接続し。
その艦体はみるみる、暗い紫の靄がかかったような状態へと変化する。
それは。
「幻獣機飛行艦ニガヨモギ……さあ、この幻獣機コロリによる滅びが我らが王、姫君のご意思ならば!」
幻獣機コロリにより牽引される宇宙用飛行艦。
そこに座乗する新たな虎男の騎士団長クロエル・ファングは高らかに、そう告げる。




