#171 新たなる終わりの始まり
「く……なるほど。貴様かアロシグ殿お! 真の争奪聖杯は、これで決してしまったか……」
収まった爆発の中から浮かび上がった、巨男の父艦トール。
それを見て盟次は、歯軋りする。
「何ということであって……」
「そ、そんな!」
「뭣……」
「那个不可能……」
「What hell……」
「Oh、My God!」
「Quel idiot……」
彼や青夢のみならず。
この戦場にいる者たち全員が、忸怩たる思いである。
「よくぞ魔男の12騎士団を統一しましたね、巨男の騎士団長ゴーグ・アロシグ。」
「! あれは!」
そうして父艦トールの、上空には。
ダークウェブの姫君アリアドネの姿が、浮かび上がる。
「おおお、姫君い! 見てくれただかあ俺のことを!」
「ええ……しかと見させていただきました。あなたが私の望み通り、新たな騎士団たちの礎となっていただいた所を!」
「……は? 何だって?」
が、しかし。
アリアドネの思いもよらぬ言葉に、アロシグは困惑する。
どういうことか。
と、その時だった。
「さあ……カイン・レッドラム!」
「はっ……幻獣機サマエル、幻獣機カマエル! 父艦ユミルと化した巨男の父艦トールを、食い尽くし引きちぎるのだ!」
アリアドネの呼びかけにより。
赤い竜型の幻獣機サマエル、赤い豹型の幻獣機カマエルが飛来し。
父艦トール――カイン・レッドラムを名乗る騎士曰く父艦ユミルと化したそれ――へと、喰らいつこうとする。
「な、何だああてめえはあ! 俺たちの父艦を食おうだあ? ふざけるじゃないだよおお!」
アロシグも即応し。
父艦ユミルに空を仰がせ、真上から飛来する二機の幻獣機を睨む。
「hccps://baptism.tarantism/、セレクト 巨人の炎 エグゼキュート!」
そうしてアロシグが、父艦ユミルに命じて全身から獄炎を噴き出させた時だった。
「fcp> get DemonFreeze.hcml――セレクト、魔王の氷獄 エグゼキュート……」
が、カインも即応し。
たちまち幻獣機二機より極大の冷気を放つ。
「ふんんっ! 無駄だよおおそんなんじゃああ! 俺のこの父艦は……ぐうっ!?」
高々幻獣機二機ごときが放った冷気などではこの父艦は止められない。
そう自信に満ちてアロシグは父艦ユミルより攻撃を放たせるが。
そんな彼の自信は、想像以上に強い冷気によって塗りつぶされて行き。
それを表すかのように、父艦ユミルも氷結して行く。
「な! そ、そんな巨男の母艦型幻獣機を一撃で!?」
青夢は驚く。
おおよそ父艦と釣り合えそうにもない二機の幻獣機が、これまでどの騎士団も敵わなかった父艦トール――もとい、父艦ユミルの獄炎を一瞬で鎮める所か氷結させてしまったことに。
何より。
「さようなら巨男の騎士団長ゴーグ・アロシグ……ゆっくりとお休み。」
「! や、やめてえ! もうこれ以上」
今しがた、また騎士団長が目の前で滅ぼされそうになっているこの状況に。
「……ふんっ!」
「……あ、ああ……」
しかし青夢の言葉も虚しく。
カインは、氷結した父艦ユミル諸共アロシグを粉砕してしまった。
「くっ……お、俺が……こ、こんな所でえ!」
薄れゆく意識の中、アロシグはもがく。
やっと魔男の12騎士団の力を全て掌握し騎士団を統一したと思えばこのザマとは。
と、その時だ。
――大丈夫よお、アロシグちゃん……
――ああ、ワシらがいるぞ……
――ワオオン、クソアロシグう! さあこっちへ……
――ああ来るがいいよ、アロシグ殿……
――来るがいいっしょ!
――歓迎するザンスよお!
――アロシグ卿、さあこちらへ……
――来るがよし。あとは自分次第……
――来い、アロシグ!
――来るがいいよゴーグ君。ここは地獄だが悪くはない……
「お、お前らあ……はははは! そうだな、何か物足りない気がしてたと思っただあ……俺は、もっとお前らと戦いたかっただあよおおお!」
アロシグの前に現れた、先に逝った騎士団長たち。
しかし彼が感じたのは、恐怖ではない。
むしろ、歓喜であった――
「そんな……巨男の騎士団まで……?」
「な、何故だ!? この真の争奪聖杯は、生き残った唯一の騎士団を決める戦いではなかったのか!?」
再び、戦場では。
青夢が項垂れ、盟次も驚く。
まさか、生き残りの騎士団長までも処分されるなどと。
「そう、生き残りの騎士団を決める戦いですよ? ……生き残り、新たな12騎士団の礎となる騎士団を決める、ね!」
「あ、あれは!?」
そんな盟次の疑問の声を拾い、答えながら。
幻獣機サマエルに騎乗しつつもう一機の幻獣機カマエルも伴いゆっくりと降りて来るのは。
「や、矢魔道さん!? な、何で!」
なんと、矢魔道だった。
「よくぞ目覚めましたね、赤い騎士――カイン・レッドラム!」
「え!?」
「な!?」
この場にいる全員はまたも驚く。
その中でも、青夢と盟次は更に驚く。
青夢にとっては矢魔道士――想い人である彼が、魔男の騎士であったことに。
そして盟次にとってはカイン・レッドラム――かつて失敗作と自分が切り捨てた騎士が、復活したことに。
「ば、馬鹿な! あんな失敗作が」
「失敗作ではないさマージン・アルカナ――おっと失礼。今はいや、本名は飯綱法盟次君だったね?」
「! こ、この声……?」
そして更に。
盟次への言葉に対して言葉を放ちながら、ゆっくりと降りて来る三機の法機――とは言っても幻獣頭法機――に乗る男性が。
青夢はその男性の声に、聞き覚えがあった。
「! だ、誰だ貴様は! いや……これは、どこかで!?」
いや聞き覚えがあったのは、盟次もだった。
「……そこにいるのか青夢。いや……我が愛娘よ。」
「!? ま、まさか!?」
その男性――騎士レオシュライン・ヴァイスは、青夢たちからは見えないながらも操縦席内で七つの目がついた仮面を徐に外す。
しかし姿が見えずとも。
青夢には、今のヴァイスの言葉により彼が誰か分かった。
それは。
「お、お父さん!」
「ああ、久しぶりだな青夢……」
亡くなったはずの父・魔女木獅堂だった。
◆◇
「あれは……魔女木獅堂! なるほど……ついに貴様が出てきたのか。そうだ、レッドラムも……なるほど、確かに全てあの女の言う通りだったか。」
声に聞き覚えがあったのは、盟次も同様であり。
驚きつつも盟次は、アラクネからかつて聞かされていた話もあって難なく話を受け入れる。
無論実際に目にすれば、それはすぐに受け入れられるという話ではなかったがさておき。
だが、盟次とは違いアラクネから話を聞かされていないことを差し引いても目の前の現実を受け入れられない人物がここにいた。
「や、矢魔道さんが魔男の騎士……それだけじゃなくて、お父さんも魔男の、騎士……?」
青夢は目の前に示された二つの現実に、混迷を極めている。
「ふふふ……さあ目覚めるのです、他の騎士たちも!」
「はっ、ダークウェブの姫君!」
そんな青夢など置き去りにするがごとく、アリアドネは更に話を進める。
カインは彼女の言葉を受け、幻獣機の上で傅く。
そして指を鳴らすや。
「!? な、こ、これは!?」
「まさかこの人たちは……あのフラン星界の!?」
現れたのは、あのフラン星界の王だったシャルル――もとい、幻獣機ベレトに乗る騎士シャルル・ヴィクトリュークスを始めとするその他もフラン星界王家近衛騎士たちが魔男の騎士たちへと変貌した身。
魔男の騎士団所属の騎士たちの姿だった。
「へ、陛下!」
「ほう……懐かしいなあウィヨル、フィダール、ベリット!」
フラン星界の面々のみならず。
かつて盟次の右翼・左翼近衛騎士だったウィヨル・フィダール、さらにスパイとして龍男の騎士団長になっていたベリットらの姿や。
その他これまでに見たことのない騎士たちの姿も見える。
いずれの騎士も皆、自機たる幻獣機に乗っている。
「な、何で……?」
「さあレッドラム……私の王もお願いしますよ。」
「はっ、姫君。心得ております……
fcp> open ×××1.×××2. ×××3. ×××4
NAME:> CainRedrum
PASSWORD:> ********
fcp> get tarantura.edrn……」
「!? あ、あれは!」
「あれはお懐かしや……ダークウェブの王!」
魔女たちが尚も戸惑う中。
アリアドネは更に、カインに命じる。
するとカインが唱えたコマンドにより。
その場に現れた八本の脚――かつてシュバルツにより不完全な実体化を果たしていたダークウェブの王タランチュラ――は。
たちまち完全なる、蜘蛛の形となる。
「アア、ヨウヤクココニワレ、アラワレリ……」
「はい、おめでとうございます私の王! さあ……ささやかですが宴といたしましょう! 蘇りし騎士たちも、新たな騎士たちも! 父艦ユミルを山分けなさい……」
「はっ、姫君!!」
そうして騎士たちは、更なるアリアドネの命により。
氷結・粉砕された父艦ユミルの破片たちに群がり、自機の幻獣機に食わせていく。
「うっ!」
「くっ! な、何ということであって!?」
その光景に魔女たちは。
思わず顔を背ける。
そうして父艦ユミルは、あっという間に食い尽くされてしまった。
「……ありがたき幸せにございます、ダークウェブの王! 姫君!」
そうして食事を終えた幻獣機たちは、王と姫君の周囲に集まり。
そこに騎乗する騎士たちも、再び彼らに傅く。
「ええいいのよ新たなる魔男の12騎士団たち……ここに古き円卓の崩壊と、新たなる円卓の誕生を宣言します! さあ魔女たち……心してかかるといいわ!」
「な……」
アリアドネは満足げに微笑み、高らかに宣言する。
新たなる魔男の13騎士団
真の第十三席争奪聖杯で生き残った巨男の騎士団を礎に新生した、13騎士団。
殆どがソロモン72柱モチーフの幻獣機と仮想知権能VIによる騎士で構成されている。
これにより彼らの計画は、最終段階に入ることとなる。
1.蜘蛛男の騎士王直衛騎士団
節足動物モチーフの幻獣機を擁する。
幻獣機タランチュラが自ら騎士王も務める。
2.龍男の騎士団
龍モチーフの幻獣機を擁する。
ラハブの騎士テグル・ベリットが騎士団長を務める。
アスモデウスの騎士
アスタロトの騎士
ウァラクの騎士
ブネの騎士
ボティスの騎士
バラムの騎士
3.蝙蝠男の騎士団
死霊・妖精モチーフの幻獣機を擁する。
アミーの騎士バルト・レイブンが率いる。
イポスの騎士
アンドラスの騎士
ビフロンスの騎士
カイムの騎士
アンドレアルフスの騎士
4.雪男の騎士団
野人・亜人モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長はグシオンの騎士ホライズ・グランド。
ロノウェの騎士
ヴィネの騎士
ムルムルの騎士
オリアスの騎士
アロケルの騎士
5.牛男の騎士団
牛モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長はフルフルの騎士アベル・レッドラム。
ザガンの騎士
ハーゲンティの騎士
モラクスの騎士
ウヴァルの騎士
パイモンの騎士
6.魚男の騎士団
水棲生物モチーフの幻獣機を擁する。
水の滅びを司る。
騎士団長はフォルネウスの騎士アーク・アビッツ。
ウェパルの騎士
フォカロルの騎士
デカラビアの騎士
サレオスの騎士
アンドレマリウスの騎士
7.巨男の騎士団
巨人モチーフの幻獣機を擁する。
但し、擁するのは大半が幻獣機父艦。
幻獣機サマエル・カマエルの騎士カイン・レッドラムが騎士団長を務める。
フォラスの騎士
バティンの騎士
ダンタリオンの騎士
ゼパルの騎士
セーレの騎士
エリゴスの騎士
8.木男の騎士団
植物モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長はバルバトスの騎士ルート・ラディーナ。
レラジェの騎士
キマリスの騎士
ブエルの騎士
9.虎男の騎士団
猫類モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長は幻獣機コロリの騎士クロエル・ファング。
マルバスの騎士
プルソンの騎士
シトリーの騎士
ヴァプラの騎士
オセの騎士
フラウロスの騎士
10.馬男の騎士団
馬モチーフの幻獣機を擁する。
ベレトの騎士たるシャルルが騎士団長。
アムドゥスキアスの騎士
ウァレフォルの騎士
オロバスの騎士
ガミジンの騎士
サブナックの騎士
ベリトの騎士
フルカスの騎士
11.鳥男の騎士団
鳥モチーフの幻獣機を擁する。
幻獣機フェネクスの騎士ウィンダ・フリップが騎士団長。
シャックスの騎士
ハルファスの騎士
マルファスの騎士
ストラスの騎士
ラウムの騎士
12.狼男の騎士団
犬類モチーフの幻獣機を擁する。
騎士団長は幻獣機マルコシアスの騎士ニック・クロー。
ナベリウスの騎士
アモンの騎士
グラシャラボラスの騎士
グレモリーの騎士
13.魔男の騎士団
悪魔モチーフの幻獣機を擁する。
新騎士団長はラインフェルト・ウィヨル。
ヴァサゴの騎士。
サベント・フィダール
アガレスの騎士。
ガープの騎士
ベリアルの騎士
クロケルの騎士
バアルの騎士




